ねぇ、愛してるって誰に言ったの? もしも僕に向けて言ったのなら、 どうして? どうしてそんなことを言うの。 僕はこんなに、 みにくいのに。 お前に愛される資格など、 持ち合わせていないのに―― 慟哭 一緒に寝た。実に16年ぶりのことだ。この前といえば茎子の腹の中だったのだし。 感情がとめどなく流れてくる。 葉の心は思っていたより強かった。でもやはり、もろくもあった。 だけどなにより、美しかったのだ。 澄みきって透きとおって、濁りなど欠片も見当たらない。 赤子のように純真な心。 同じからだを持って生まれてきた筈なのに。どこで違ってしまったのだろう。……いや、やっぱり生まれた時から違っていたのかもしれない。 穢れなき精神は強い力を生む。まったくその通りだ。偽りはない。現に葉は、こんなにも強くなった。 だからこそ、欲しい。 そうとしか思えない自分は嘆くべきなのかもしれない。だけど嘆く気は微塵も沸き上がってこなかった。なんて、愚かで醜い。 いつかこの手にかける時が来るだろう。それでも葉は笑っているのだろうか。もしかしたら、泣いてくれるだろうか。 僕の為に。 酷い話だ。泣き顔が見たいだなんて。それも、自分の為だけに泣いて欲しいとまで思う。でもそれは事実なのだ。真実、僕はエゴイストなのだと。 たぶん巫力の強さとか、シャーマンキングだとか、G.Sだとか、そういうのとまるっきり離れたところで僕は葉を愛していたのだ。 それは歪んだ愛なのかもしれないけれど。 そういえば、僕らは双子の兄弟だった。 ◇◆◇◆◇ 落ち着かない。 当たり前だ。四六時中自分の心が垂れ流しだと思うと、もう何を考えていいのかわからなくなってくる。……考えていいことなんか、ないのかもしれないけど。 霊視ってどういうものなのかな、と不意に思った。何故他人の心が読めるの。何故読もうとするの。 ひとの考えていることがわかったって、いいことなんかひとつもないに決まっているのに。 現にあの時、アンナだってあんなに苦しんでいた。 馬鹿みたいだ。そんな力を望むなんて。 ◇◆◇◆◇ 「眠れないのかい」 反射的にびくっ、としてしまう。やっぱりハオは苦手だ。 「僕もだよ。ずっとお前の心の声が届いてくるからね」 「………すまん」 うじうじ考えていたことが全部筒抜けだったのか……わかってはいたんだけどな。 「そんなに知りたいのなら教えてやろうか。心を読む力の秘密を」 そういえば今日のハオ、妙にキレイだな。 「多かれ少なかれ、誰にでもある……か」 「そうさ。お前だって他人の顔色を窺ったことはそう少なくないだろう?」 「否定は、できんけど」 「けど?」 ……けど。 「確かに誰しも、なんとなくそういうふうに考えるけとはある。けどよ、」 だけどな、 「みんながみんな、お前みたいに寂しいわけじゃないんよ」 「……」 「お前が強いからみんなお前を怖がる。お前がなにも信じないから、愛そうとしないから、みんなお前を嫌がる。だからお前は独りなんだ。オイラにはそう見える。わかれよ……」 気がついた時には、透明な液体が頬を伝っていた。それは少しあたたかかった。 それが涙だとわかるのには、幾分か時間が必要だった。 自分のものじゃない手が涙をぬぐってくれた。手から伝わる温度は心地よいあたたかさだ。なんだ、やっぱりお前もひとりの人間なんじゃないか。ちゃんと、生きてるんじゃないか。 あとは他人を信じることだけだ。愛することだけだ。 「葉、お前はね、ひとつ大きな勘違いをしている」 「……勘違い?」 「僕にだって、信じられるもの、愛するものはいるんだ。……昔は、」 「マタムネ?」 「そう。彼は唯一僕の友達といえるかもしれない存在だったからね。そして今はお前だ、僕の血肉を分かち合った唯一の兄弟」 背中にハオの手がまわって、抱きすくめられた。 「僕はお前のことだけは、信じている。愛している。何故? という顔をしているね。ふふ、だけどそれに理由なんてないんだよ」 「お前だって、無条件にアンナを愛しているじゃないか」。そう言ってハオはポンポン、と背中を叩いた。ああ、なんだか母ちゃんみたいだな。 「だから今ぐらいは傍にいておくれよ。ね?」 それには無言で答えた。だって、この体勢、状況で「いや、やっぱそれはちょっと」とか言ったら殺されてしまいそうだ。 ぎゅうっと身を寄せると、やっぱりあたたかい。むしろ熱いくらいだ。体温高いのかもしれない。でもまあ、それはただの憶測にすぎない。 「……なあ、」 「なんだい?」 「昔、お前言っただろ。いつかオイラのことを迎えにくるって」 あの時の衝撃といったら凄かった。いきなり出てきてあのセリフ。傍若無人も極まれりといった感じだ。なんだこいつ。シルバにちょっと似てる。でもオイラにも似てないか? かなり…… 錯綜した思考回路はまさにショート寸前だった。冗談じゃなくて。 「ああ、確かにそんなことも言ったかな。ごめんごめん。それだけ動揺してくれたのならこちらとしては作戦成功、って感じなんだけどね」 けらけら笑っている。コーヒー代踏み倒した時も思ったけど、ハオめ、なんて悪いやつだ。 でも、自然と自分も笑顔になった。 このままでいいのにな、と思う。 なにも世界を敵にまわす必要なんかないのだ。そうまでして独りになって、得るものなんか結局のところあるわけがない。 そもそも敵とか味方とか、へんな境界線を作るからいけないんだ。そりゃあ多少は線引きだって必要だろう。家族とか、恋人とか、そういう場所に土足で入ってこられては困るし。 みんなが楽に暮らせればいいのにな。家に来てくれたら歓迎する。まあ、アンナはちょっと嫌がるだろうけど…… 筒抜けのはずだけれど、心の声への反応は一切無かった。あえて言うのであれば、胸のあたりをさっきより少し強く抱き締められた。 「なあ、言っときたいことがあるんよ」 「なんだい?」 「お前は、明日の戦いが終わったら……行くんだろ」 「そうだよ」 「迎えに行ってやる」 「……うん?」 「迎えに行ってやる、お前を」 ハオにしてみたらとんだお笑い草だろう。だけど構うものか。 「本当に独りになる前に。お前が、最大の間違いを犯す前に」 「出来るのかい? お前にそんなことが」 「やるさ。オイラはお前を、助けたいんよ。だから」 救いたくないと思う方が無理なのだ。 さんざんみんなを苦しめて、殺して、だけど一番苦しいのはハオなんだと。そんなことを知ってしまったら、何としてでも助けたいと思うのが筋だろうに。 それになにより、兄なのだ。そうだろ、挑発するように思った。口に出さずとも、伝わるはずだから。 「じゃあ、待ってる」 「出来るだけ早くね、退屈しちゃうから」そう言いながら頬に軽くキスをして、ハオは布団にもぐった。 布団の中から、「いいじゃん兄弟なんだし。おやすみのキスぐらい」って聞こえる頃にはアンナに怒られることばっかり考えていた。 ◇◆◇◆◇ 目が覚めたら隣の布団は空っぽだった。畳んだジャージの上に「要らないからあげる☆」と書いてあったがとりあえず一式ごみ箱に投げておいた。 「早いな……」 言ったところでなにかあるわけでもない。 ふたり分の布団をあげて、階段を降る。たまおはもう台所にいるみたいだ。 これからまん太の父と戦うのだと思うと多少気が引けたがしょうのないことだ。科学と霊媒とはもともと相容れない関係にある。 とりあえずアンナの様子でも見ていくか、と葉はふすまを開けた。 END あとがき あとがきを書いていると充実感か喪失感のどちらかが得られると思うんですけど、いかがでしょう。ちなみに今回は明らかに喪失してます。 なんでかって……まあ、二次だし……相も変わらずイタイし……最初と最後が明らかに別作品だし……繋がってねえじゃんチクショウ!みたいな。 もともと短編が好きであんまりだらだら書けないタイプなので長さ的にはこのぐらいがちょうどいいんですけど。だから要約とか好きなんだろうな。 心の声、がなんとなくキーワードです。嘘です。神様家族読んだあとだってだけです。うぉぉテンコ、泣けるー! しかし冒頭の数行なんのためにあったんだろう。計画的にプロットの段階でオチまで決めないからこうなるんだな。 ◇◆◇◆◇ 書きたかったのは妄想……じゃなくて脳内補完……でもなくて、兄弟愛です!嘘じゃない!これは嘘じゃない! くよくよ(よくよくの意)考えると旦那と嫁は既に熟年夫婦レベルに到達しているので(なんと恐ろしい、)今回兄弟らしくない兄弟の双子を書こうかと。 うちは女姉妹なんで兄弟らしい兄弟ってよくわからないんだけど、知り合いに双子の兄弟(二卵性)がいるのでそいつらをビミョーに思いだそうとしましたが無意味でした。 いつかのテレビで見た話では、一卵性双生児って離れて育った方がよく似るんだそうです。 ずっと傍にいると、互いとの差異を見いだそうとして趣向とか嗜好とか意識して変えてしまうんだとか。「まあ、好みも似てるのね」とか言われるのが嫌だからだそうです。 ただ、これは双子に限った話じゃないと思うんですけど。私にもなんとなく妹と違う方を選ぼうという意識はあるので。 だから、逆にまったく違った家庭環境で育つと嗜好とか本当に似るらしいんですね。これはAHOと旦那にもよく当てはまるなぁ、と。武井先生が意識したかどうかはわかりませんけど。 全然関係無い話なんですが、2001年時点で葉さんがヅラつけたら多分顔だけじゃ見分けがつかないような気がします。体見たらほら、傷の量と筋肉の量で多分お兄ちゃんぼろ負けするので。 とりあえず結論。嫁が出なかった。以上。あとアメリカではキスが挨拶だってルキアが言ってた。変換候補ルギアだった。 あと兄弟姉妹でぎゅーって、やんないっけ? |