※五つの召喚方法のぶん並行世界があって、それぞれの世界に遊矢と同等の存在(ドッペルゲンガー)がいるという仮定に基づいて遊矢が他の四人を吸収せざるを得なくなったらという感じの妄想
※考察をベースにしていますが、体感として九割ぐらい捏造です
※ユートとユーゴに「遊斗」「遊悟」と漢字を当てている他、融合の遊矢がいるとして「遊里」、儀式の遊矢もいるとして「遊志」と勝手に名前を付けています。特に遊里は作中結構喋る場面があるのでオリキャラに近い扱いが苦手な方はご注意ください。
※赤遊は遊矢が人間をやめる前に一線を越えている前提になっているので、零児が遊矢に執着していたり何の脈絡もなく同衾しているシーンが出て来たりします。
※割とユート多め
※ちょっとだけカッコイイシンゴあり
ライフが減っていく音。オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのダイレクトアタックががら空きのフィールドに綺麗に決まり、表示される数値がゼロになる。
「何故勝者がそんな顔をしているんだ……」
少年が言った。デュエルダメージが現実に全てフィードバックされるこのデュエルに敗北することは事実上の死を意味する。しかし少年の顔には、未練も後悔も、見て取ることは出来なかった。
このデュエルは彼が望み、仕掛けたものだ。遊矢はデュエルをすることを酷く嫌がった。もう三人もの「前例」を手に掛けてきた後だったから、結果は全て見えていた。遊矢には、わかりきっていた末路にただ落ちていくだけの勝負を受けたがるような酔狂な考えはない。
紫色の少年は、自らを泣きながら下した紅の少年が泣くのを見て苦笑する。怖いのだろう。わかる。嫌だったろう。知っている。哀しくてたまらないだろう。理解している。だが、もう、許されない。
榊遊矢に逃げ道はないのだ。
最期までデュエルを拒み切れなかったし、ダイレクト・アタックという最高の形で――或いは彼にとってそれは最悪の形だったのかもしれないが――対戦相手の運命に最期の断罪を下してしまった。
「笑えとは言わない。だが泣くな。お前は、独りではない……」
「でも……そんな」
「俺は、お前の中へ、還る。さだめを選び取ったにすぎないんだ。悲しむことなど……何も」
俺が選んだ運命は、同時にお前が選んだ運命でもあるのだ、と暗に仄めかして言うと遊矢が堪えきれなくなったように目をぎゅうと瞑った。せめてもの抵抗だろうか。最早、目を閉じたところで何の意味もないのに。遊斗がそれを知っているのだから、遊矢だって知っているはずなのに。
ばかだな、と思う。けれど愛おしい。彼がばかなのであれば、遊斗もまたばかなのだ。ああ愚かなおれたち。誰かがデザインした運命予想図に翻弄されるまま、ここまで来て、この先へレールを辿って……
「だけど、遊斗!!」
「俺で最後だ。四人目。全てを還元され、『榊遊矢』は完成される。これでいいんだ。これで……世界は」
――きっと世界を滅ぼすのだ。
遊斗が小さな声でそれを告げると、遊矢は今度は目を見開いてその深紅で真っ直ぐに遊斗の灰ねずみを見据えた。「お前までそんなことを言うのか」と瞳が雄弁に語っている。遊里にも遊志にも同じ事を言われたのだろうな、とすぐに察しが付いた。その真偽は、遊斗が遊矢の中へ完全に同化したあとでわかるだろう。
「何言ってるの……」
「この後に俺達が辿る未来を、告げているに過ぎない」
「俺は、俺は、世界なんてどうだっていいのに」
「だがもう逃れられない。俺達はそのために生まれてしまった」
遊斗の身体はずたずたのぼろぼろで、酷い有様だった。全て遊矢がつけた傷だ。遊矢がその身に負わせた傷。「デュエルなんかしたくなかったよ」遊矢がだだをこねる赤子の顔をして首を振る。「やだ、やだ、いやだ、俺だって、もう誰も傷つけたくなかったのに!」
損傷の激しい身体を気に留めることもなく、遊斗はそんな遊矢の元に寄り添う。立ち尽くしてわがままを言う遊矢に、「泣くな」もう一度繰り返して、その手を握った。遊矢の手はまだ僅かに暖かかった。まだ人の温もりを持っていた。だけど遊斗で最後だったから、その温度もそのうち消えてなくなってしまうだろう。
或いは、暖かいはずなのにちっとも温もりを感じられない、偽物みたいなものに成り果ててしまうのだ。
「俺達はその目的のために五つに分けられた。俺はエクシーズ。遊悟がシンクロ。遊里が融合……遊志が儀式。そしてペンデュラムの遊矢。最後はお前に皆還るということを、誰もが承知していた。本能的に……最早それは逃れられないさだめなのだと」
「でも、俺は、そんなのちっとも納得してないのに」
「お前は核だからな。……だが、仕方ないことだ。決められた事には、俺達は従わなければならない。俺のダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン、ちゃんと使ってくれ。悪くないカードのはずだ。それから、隼によろしく。あいつはLDSが大嫌いだから、お前に賛同してくれるかもしれないぞ」
「遊斗……!」
握りしめている遊斗の手のひらの方がよほど暖かく、熱く、人らしかった。遊斗が困り顔で儚そうに笑う。昔……もう随分と大昔のような気がしたけれど、黒咲隼に向かって苦笑いをしている時の遊斗も確かこんな顔をしていた。
遊斗はいつもそうだ。損な役回りも多いし、生い立ちは悲惨だし、大事なものをいくつも奪われて、失って、その上で生きて来た。それに遊斗だって納得してはいなかったはずだ。甘んじることを憎んだから彼は復讐者であり、自らのエース・モンスターに「リベリオン」の名を課していた。
「遊斗はどうして、そんな平気な顔が出来るの? 他の三人もそうだった。遊里も、遊志も、遊悟でさえ、最後にはみんな同じ顔をして同じことを俺に言う。『お前は一人じゃない』だとか、『後は頼んだ』だとか、嘘つきだ。嘘ばっかりだ……だって俺はこんなにもひとりぼっちなのに、みんな、どこかへ行ってしまったのに」
「どこへでもない。俺達は皆お前という核に惹かれ、還元され、お前と共にある。そのことが……もう、すぐにわかる。遊矢……」
「なに……」
「お願いだ。俺を……俺達を、拒絶しないでくれ。俺を受け入れてくれ。そうじゃなければ俺は、諦めることになってしまうから」
遊斗の手が、遊矢の手から離される。そして粒子に溶け出して輪郭のぼやけ始めた自らの身体を確かめ、遊斗は遊矢に向けて笑った。まなじりが下がってあまり幸せそうな顔には見えなかったし、悲しそうだったけれど、彼は満たされていた。
遊斗が遊矢を抱き締める。とうとう膝から崩れ落ちてしまった遊矢に、「だいじょうぶ、もうこわくないよ」と内緒話をする誰かのように、彼をあやす。
遊斗はこの先ずっと榊遊矢の哀しみを抱いていく。喜怒哀楽の哀が、エクシーズと共に遊斗が司るべきシンボル。遊矢の代わりに嘆き、哀しみ、そうしてまた榊遊矢は《完成》していくのだ。
正直言ってその事実を哀しいと遊斗は思っている。遊矢からこうやって人間らしさが剥離していって、その原因の一端を担わなければいけないことがとても哀しい。しかし彼はどこまでも、役割に忠実な歯車でなければならない。だから泣き言は言わない。遊矢をこれ以上迷わせたくない。
「俺の大切なものを守って……」
最期の言葉を遊斗が囁いた。
それは遊矢をもう後戻り出来なくさせるための、まるで迷い子を崖から突き落とすような残酷な言葉だ。「ああ」遊矢はかぶりを振る。「いやなのに……本当に……なんで……」贈られた今際の言葉の、逃れようのない残酷さにうちひしがれ、遊斗の身体を抱き締め返す。
「わかったよ……」
今にも消え入ってしまいそうなか細い声でそう答えると遊斗は静かに頷いた。
それっきり、遊斗は、もう、この世界のどこにもいなくなってしまった。
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