※せだごえ家族パロ、全世代のキャラが同じ街に住んでて区画がちょっと別れてるかんじ
※遊矢中心に話が進んで行きます
※表遊戯多め。他ユート、やや素良、零児やらカイトやら
※ほのぼのちょっとシリアス
「遊矢さあ、最近な〜んか変だよな。なあ、そう思わないか?」
「はあ……」
「あっ、なんだよそのあからさまに『興味ありません』みたいな顔! お前はかわいい弟の様子が気にならないのか?!」
「いえ、というか俺には遊矢の何が変なのかわからないのですが」
帰宅して台所に立つ次兄がリビングルームでモデルの組み立てをしている遊星に脈絡なくそんな話題を投げかけてきた。宿題ではなく、趣味に興じている様子なので邪魔してもいいと判断したのだろう。遊星が全く聞く気がないという感じで取り合っていないのに、彼はすっかりそれを無視して勝手にどんどん話を進めていく。
「何がって、おいおい遊星、お前のその目は節穴か? ありゃ俺が思うに……」
「はあ」
「なーんか後ろめたい隠し事をしているやつの顔だ。俺達兄弟にも、決して言えないような……そんな大それたやつだ」
「違うんじゃないですかね」
チャーハンが入った鉄鍋にカンカンとおたまを打ち付けて力説する十代に対して遊星の受け答えはあくまでもドライだった。目を合わせてやる素振りもなく、パーツとパーツをつなぎ合わせ、机に載せたノートパソコンのモニタと睨めっこをしている。家族で一番器用な男である遊星の特技はメカニック関係の作業だったが、その次に得意なのはもしかしたら十代の話を右から左に聞き流して適当に返事をしつつ自分の作業に集中力を割くことなのかもしれなかった。何しろこの兄の遊星に対する作業妨害の頻度と言ったら半端なものではない。
十代も十代で、遊星がまともに取り合っていないことをさほど気にした様子はなく、朗々と好き勝手に演説を続けている。やれ、禁断の恋かもしれないだの、もしかしたら何かヤバイことに手を染めてしまったのかもしれないだの。根拠もなく適当なことを言っているということはよくよく分かりきっていて、普段からそれに一々大仰に驚いたり反応したりしてくれるのは遊馬ただ一人だけだった。
とはいえその遊馬も今はまだ家に帰ってきていない。そういえば、遊馬は放課後に友達とカード・ショップへ寄ると今朝言っていた。つまり遊星はこのあとまだしばらくは兄の演説に一人で付き合わされるということか。
溜息が自然と零れ出る。遊星に対しては押せ押せで引きどころなんてなさそうな顔をしている十代だが、長兄の遊戯に対しては畏敬の念を持って接しているため、長話とか無駄話は彼は振らないのだった。だからお鉢は大概遊星に回ってきてそこで止まるのだ。
「うちの遊矢に限ってまさか万引きとか……ひったくりとか……そういう警察のお縄になるようなショボイことはやってないと思うんだけど」
「ないでしょうね。それだったら、もう俺に連絡が回ってきてますよ。あなたがこの前うっかりで器物損害をしてしまった時みたいに」
「ああ遊星セキュリティに身内いるもんな。あの時は……悪かったよ……」
「いえ、いいんですよ。自分のことを棚に上げて話を進めているのでなければ、まったく」
「お前結構根に持つタイプだよな? それはともかくとして、だからお兄ちゃんとしてはだな、こりゃ好きなやつでも出来たかなと……そう思うわけだ」
「それだったら尚更詮索は野暮じゃないんですか」
遊星の反応はにべもない。とりつく島もなくあしらわれ、十代がとうとう「ゆーせい冷たい」と子供っぽく拗ねてみせた。しかしその拗ねたような動作さえポーズであるということを遊星は既に知っている。それにより無言の返答を受け、十代は更に落胆してわざとらしく溜め息を吐いた。
そこで見かねた遊戯が、今までずっと黙ってデッキを調整していた手を止めて「まあまあ」と仲裁に入る。
「二人とも、そういう遣り取り飽きないよねえ……。でもそうだね、遊矢が何かこそこそやってるかもしれないなあっていうのは実はボクも思っていたことなんだ。危ないことじゃなければ止めなくてもいいかなって、黙ってたんだけど」
「ほら! ほら遊星、遊戯さんもそう言ってる!」
「え、そうなんですか? それは……意外ですね」
「遊戯さんの言うことは疑わない、そんな遊星の俺に対してだけ異様に冷たいところも俺は兄として愛していけるよう努力したいよ」
「まあ、信用の差というやつですね」
コントじみた遣り取りを手短に済ませて、「それで、何が?」「遊戯さん続き続き!」と二人で遊戯に先を急かした。遊戯に何かせがむときの息の合わせ方は実はぴったりなのだが、本人達にその自覚は多分ない。
ちょっと待ってね、と遊戯が首から提げていたパズルに手を添えた。中でうたた寝をしていたもう一人の遊戯――名もなきファラオが呼び出されてパズルの外にその幽体を現す。彼は眠たそうにあくびをすると、『どうしたんだ』と首を傾げ、遊戯の隣に収まった。
「ねえもう一人のボク、この前ボクたち、海馬くんに会いに海馬コーポレーション本社まで行ったでしょう」
『ああ……そういえば。例の試作機がどうので海馬に呼ばれていった日のことだな』
「そうそれ。その時さ、偶然ロビーに遊矢くんっぽい子がいなかった?」
『……言われてみればいたような……』
「ボク、なんでこんなとこにいるんだろう、って声を掛けようとしたんだけどすぐに海馬くんが迎えに来てくれたじゃない。それでもしかしたら見間違えかもしれないしってことで確認する前に上に行っちゃったんだけど」
「海馬社長自らの出迎えとか遊戯さん流石のVIP対応ですね……」
「どうだったのかなあ。もう一人のボクはボクより目が利くでしょ? あれ、やっぱり遊矢くんだったのかな」
『どうかな……』
もう一人の遊戯が大分困ったように首を傾げた。あまり気にして周囲を見ていなかったので、そんなに覚えていないらしい。
彼はしばし首を捻って唸り、そうして『わからないな』と首を振って見せた。
『まあ、遊矢にも隠し事の一つや二つぐらいならあるんじゃないかとは思うが』
「それほど気にするべきことではないですよね。KCが絡んでいないのなら、ですが」
『そうだ。たまたまKCのロビーで待ち合わせをしていただけ……なら、俺達が首を突っ込むのは野暮だぜ。だが……』
「どういう相手となら、KCのロビーで待ち合わせをすることになるのかは未知数ですね……」
勿体付けたような言い方で十代がそう添えた。
KCはこの街一番の大企業で、ごく普通に生活している上ではその施設そのものに関わりを持つことはない。確かに兄弟達は遊戯を通じて海馬瀬人と繋がりをもってはいたが、しかし個人的に用事が発生するのは基本的に遊戯ぐらいのものだ。あとは稀に、遊星がKC主催のコンテストか何かで入賞した時か。
随分と悩む仕草を見せ、ややあって遊戯が「そうだなあ」と口を開く。この街で遊戯のもとに生活している限り、世界が終わりそうになったり異世界とのゲートが開いたり未来から歴史を修正するためにアンドロイドがやって来たり三つの世界が融合されて終末が訪れたりそういうことは起こらないようになってはいるが、万が一のことが起きてからでは後手にしか回れない。
「この世界に生きている限り」彼らの安全は保証されなければならず、それはまた武藤遊戯にとっての義務でもある。そのことは遊戯ともう一人の遊戯しか知らないことだ。遊戯が目配せをすると、もう一人の遊戯が頷いた。
「何かあってからじゃ遅いしね。一応、海馬くんに聞いてみようか」
『そうだな。強請る時のための弱みのストックがまだいくらか残っているし、いいと思うぜ』
「もう、そういう物騒なこと言わないの。海馬くんだって普通に聞けば普通のことは答えてくれるよ。……十代くん、そんな期待に満ちた顔で見られても、ボク普通のことしかしないからね?」
あと十代くん、チャーハン焦げそうだよ。火が付いているのによそ見をし通しだった十代にそう言ってやると、十代は大慌てで鉄鍋に箸を突っ込んでかき混ぜ始める。キッチンにはまだギリギリ香ばしい匂いが漂っていて、なんとかチャーハンが黒こげになる事態は回避出来そうだ。
そんなタイミングで、玄関が空いて遊馬と遊矢が帰ってくる。話題の中心だった遊矢が帰宅したことで話は自然とそこで一度終わり、十代もその日は話を蒸し返すことなく夕飯の配膳を始めたのだった。
◇◆◇◆◇
クラスが違う兄(あんまり認めたくないんだけど)が、自分の教室からわざわざこちらに出てくるのは非常に珍しい。兄……遊馬は、隣のクラスのムードメーカーで大体いつも人に囲まれているからだ。クラスメートだけじゃなくて、上級生とかも寄ってきて遊馬のそばで何か色々やっている。人徳とか、多分そういうものがあるんだと思う。遊馬は年上に可愛がられやすい、そういう特質を持っているからだ。我が家の中で一番上手に兄弟に甘えることが出来るのは、間違いなく遊馬だった。
そんな遊馬だが、実は今日は用件があって出向いてくる、というのを事前に聞いていたから俺にはさほど驚きもなかった。驚いていたのは、むしろ柚子とか権現坂だったと思う。あと素良だ。素良はなんか……遊馬の使う召喚方法が、嫌いみたいだった。見ると不機嫌になる。
「遊矢これ、頼まれてたやつ」
「ありがとう」
「それから、今日の放課後だったよな? 一緒に来てくれって言ってたの」
「うん。話、付けてくれた?」
「大丈夫。今日は暇だって」
遊馬が了承の合図をすると、彼にひっついて来ていたオレンジ頭の少年が滅茶苦茶わざとらしく「ええ〜遊馬くん今日どこか行っちゃうんですかぁ」としょんぼりしたふうな態度を取る。それを隣から、遊馬の幼馴染みの少女が「しょうがないでしょ」と慣れた手付きでたしなめていた。別に着いてこられても特に困ることはなかったような気がしたけど……まあ必要でもないので、「遊馬、あれさ」「ん。わかった」と手短に意思疎通を図って上手い具合に対処してもらう。
次の日の放課後をまるまるそいつに費やす、というような約束を交わして着いてきた二人をクラスに帰すと、遊馬は俺の方を今一度見て「それじゃ、行こうぜ」とにっこり笑った。遊馬は素直な笑顔を形作るのが得意だ。十代に「遊矢の笑顔ってさあ、なんかたまにぺらいよな」と言われて以来実は密かに羨んでいる部分だった。
「あんまり兄さん達には心配掛けたくないからさ」
「別に俺、相談したっていいように思うけどなあ」
「気持ちの問題……かな。それに今回は俺だけでなんとかなりそうだったから……」
「ふうん。もっと頼ってくれた方が兄ちゃん達喜ぶと思うけど」
「でも俺は遊馬とは違うから」
「そんなもんかな」
自分のカバンを手にとって、じゃあまた明日と軽く挨拶をして教室を出る。放課後、まだ帰宅前の生徒が多くてざわついた校内。そこを遊馬と二人で歩くと少し視線を引いているような気がするのは多分気のせいでも自意識過剰でもない。
色んな意味で、俺達は有名人なのだ。それは高等部に在籍している兄達の残していった武勇伝が原因であったり、既に卒業している長兄が残していった「難攻不落の記録」「伝説」が原因であったりする。とにかく、俺達は入学早々自己紹介をする前から、担任に「君達があの……」と言われてしまうようなそういう星の元に生まれついてしまったらしい。
思うに、一番やばかったのはやっぱり十代兄さんの一斉ボイコット事件じゃないかと思うのだが、聞いてみたところで、あの兄は何も教えてはくれないだろう。そういう人なのだ。
「でも……よく協力してくれたよなあ。赤馬……ええと」
「零児」
「そうそれ。赤馬零児って、あの超有名人のあいつだろ? しかも滅茶苦茶よくしてもらってるって前言ってたじゃん」
「まあ、便宜は図って貰ってるけど……友達、みたいなものなんだ。友達。それにさ、それ言ったら海馬瀬人と個人的なコネクションを持ってる遊戯兄さんなんか何者なんだって話だよ。遊馬だってよくわかんない知り合いいっぱいいるじゃん」
「よくわかんなくなんかないぜ。みんないいやつだよ」
「遊馬は誰に対してでもそう言うからなあ」
「だって本当のことだぜ」
「どうだか……」
遊馬にひっついていたオレンジ頭の少年のことを思い返して言葉端がよどんだが、本人にそのことまでは告げなかった。彼が遊馬を見る時、度々邪な目をしているような気が遊矢はしているのだが、遊馬本人が気にしていないのであればきっと実害はないのだ。
その後も他愛のない会話が続いた。世間話をしながら、遊矢にとっては既に慣れ親しんだ寄り道の一つとなりつつある海馬コーポレーション本社への道を二人で歩く。しかし正確には海馬コーポレーションの誰かに用事があるわけではない。単に、そこを待ち合わせ場所にして遊矢は赤馬零児との面会その他諸々をしている、というわけなのである。
上の三人の兄に隠れてこそこそしているような形になっているのには遊矢としても少し思うところがあるのだが、今やっていることを彼らに話したら止められてしまうような気がして、なんとなく秘密にしてほしいと周りにも頼んでいた。特に長兄の遊戯には絶対に知られてはならないと遊矢は本能的にそう感じている。
「多分今日は、あいつに会えると思うんだ……」
だだっ広い吹き抜けのロビーに入り、待ち人を視線で捜す。尋ね人はすぐに見つかった。彼はいつもやたらと長く赤いマフラーを身に着けているのでよく目立つのだ。
その隣に、今日は遊矢のあまりよく知らない男がいる。白衣を着てネームプレートを提げた男は、遊馬の姿を認めると「少し遅いな」と苦笑した。
「カイト! ごめん、今日俺掃除当番だったんだ」
「いや、いい。彼と有意義な話も出来た……さて、時間も押しているところだし、手早く行こう。なんとか頼まれごとも達成出来た。案外、手間は掛からなかったな」
白衣の男が言った。零児は無言で頷き、立ち上がると遊矢の手を取り歩き出した。
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