※オフ本のサンプル
※カムイ(男)中心きょうだいオールキャラ本。後半ちょっとまじめなシーンも含みつつほのぼの。
※一部に覚醒(特に絆の夏)の内容を含みますが、カムイとクロムが同じ時空に存在するシーンはありません。雰囲気はサンプルの後半参照。
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幕間(覚醒ネタを強く含む部分)
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空が青い。
見渡す限り一面に広がる晴れ空、ゆるやかな風に揺れる木々は肥えた実をつけ、白い砂浜が広がっていく。地平線の向こうからやってくるさざ波は音を立てて浜辺に打ち付け、海辺の生物たちがちょこまかと往来を行き来していた。その様を背景に両腕を大きく広げ、赤いフードを被った女商人が快活に笑う。商人特有の気質を感じさせる明朗な笑みだ。
「ようこそ、南の島へ! こんなにたくさんの人をこの『異界の南国リゾート』へ招待したのは久しぶりだわ。それでは皆様、心ゆくまでこの島での休暇を楽しんでくださいね!」
「ありがとう、アンナさん。この前は結局争奪戦みたいな形になってしまったみたいだから、きょうだいみんなでこうしてここに来られて本当に嬉しいよ」
「あら、そう言って貰えるなら頑張った甲斐があったわ。今後ともアンナ商会をご贔屓にね」
アンナ商会の敏腕商人アンナ――聞くところによると彼女には同じ風貌の姉妹がいるらしいが、今目の前に立っているのがそのうちの何番目なのかはわからない――が景品を提供していた星界に建つくじ引き屋で、先日カムイが特等を引き当てた。そしてその特等景品というのが他でもない「南国への招待券」、ただし一名様限定ご招待……という代物だったのだ。
アクアは自分は行かないと言って譲らず、カムイも自分一人で赴くような気にはとてもなれない。せっかくなのだから、自分を信じて見えざる王国まで付いてきてくれた、大好きなきょうだいたちの誰かにこの券を使って欲しい。しかしきょうだいたちは八人だ。それなのに南国リゾートで骨休めが出来るのはたった一人……そのため、カムイは上手く取りなしてくれそうなマークスとレオンに「行きたい人に使って欲しい」と言って券を譲り渡したのだ。
だが、事はそう上手く行かないもの。すったもんだの遣り取りがあった末、(何故かきょうだいたちは頑なにカムイに詳細を教えてはくれなかった)招待券を巡っての争奪戦になってしまった――らしい。
「きょうだいの仲がいいのは素敵なことね! 最初に相談されたときはどうしようかと思ったけど……他ならぬお得意様の頼みだし、それにちょっと気になっていたこともあったから……」
「うん? どうしたんだい?」
「ええ、こちらの話よ。とりあえず、今回は十名様で二泊三日のスペシャルツアーということでよろしいかしら? ごめんなさいね、臣下の皆さんの分までご用意出来なくて」
「いや、構わない。それは臣下たちも了承していることだ。自分たちに任せてゆっくり羽を伸ばしてきてほしい……と言われている」
「いい話ね……。最終日にはそんなご主人想いの皆さんのために、アンナ商会の秘密の魔法で皆さんが楽しんでいる様子を紙に焼き写してお渡ししますから……ぜひぜひ、羽目を外してエンジョイして貰えると私も嬉しいわ。それじゃ最後にコテージの説明だけさせてちょうだいね!」
「わかった。あ、みんなは先に着替えててくれないかな。僕も話が終わったらすぐに行くから!」
カムイに促され、きょうだいたちが先にコテージの横に隣接している更衣棟へ入っていく。カムイは部屋割り詳細や備品の説明、諸注意事項などの説明をアンナから受けながら、今日のために探しておいた水着のことをぼんやりと思い浮かべた。水着調達はアクアと二人で相当悩んで、一体どんな水着が相応しいのか考え、フェリシアやフローラ、ジョーカーなども参加しての難しい戦いとなった。フェリシアが裁縫に失敗したり、ジョーカーが候補から上手く一着を絞りきれず苦悶したり、フローラがフェリシアのリカバリーに当たったり……色々あったのだが、結局水着はアンナが特別に仕立てた一着で二人とも決まったのだ。
「……という感じで、長かった諸注意もおしまいよ。もし備品なんかに損傷が出たら、修理代とか出ちゃうから気を付けてね。あ、あと……そうね、最後に一つだけいいかしら」
「な……なんだい?」
「もしもの話なんだけど……」
書類を一枚一枚捲って確認をしていたアンナが、急に声を潜めて眉間に皺を寄せ、険しい顔つきになる。そのただならぬ様子にカムイも自然と身構えてしまい、声の調子が低くなる。
「もし、この島で怪奇現象や不可思議なことが起こった場合……その解決は、皆様にお願いしたいの。実は今回のプラン、それも込みでの特別価格なのよ……」
人差し指を唇に当て、内緒話をするようなポーズを取ったアンナがやはり厳しい声音のままそう言った。
「怪奇現象?」
「その通り。あ、でも絶対にあるってわけじゃないはずなの! たぶん……三割……いえ四割……五割……とにかく、万が一! 何かあったらその時は宜しくお願いね。このお願いはアンナ商会の姉妹一同からよ。あなたたちの力を見込んでね」
「つまり……恐らく何かが現れるんだね? それで僕たちに、その解決を依頼したくて……僕のお願いを請けてくれた、と」
「ま、まあそういうことになるかしら……。でもでも、その代わり出血大サービスのポッキリ価格にしておいたわ。大丈夫。きっときょうだい全員の力で、この島の謎に勝ってみせて!」
そこまで言い終わるとぱっと顔色を明るいものに変えて、アンナはそそくさと去っていく。書類を手に持ったカムイは一人コテージの中にぽつりと取り残され、心に一抹の不安を覚えはじめていた。行商人アンナの言う、「島に起こるかもしれない怪奇現象」とは一体何なのだろう? いつも明るい調子で話すアンナがああいう顔をしたところをカムイは初めて見た。もしかして……怪奇現象は彼女にあの険しい顔をさせるほどの大事の可能性があるのか。きょうだいたちに羽を休めてもらうつもりで企画したのに、何か命の危機に関わるような出来事に発展してしまったり、しないだろうか……?
不穏なものを感じながら確認のためにもう一度渡された書類を捲った。最後のページに、契約上の注意とカムイのサインの写し、それからアンナのサインがしてある。その最後の一文を読み、カムイはほっと肩を撫で下ろし、抱え始めたばかりの不安が霧散していくのを感じた。そうだ……きっと大丈夫だ。あの見えざる王国との戦いにさえ勝利した自分たちだ。きょうだいみんなでなら、どんな困難だって乗り越えていける。
◇◆◇◆◇
「遅かったわね、カムイ。みんなもう着替え終わって海へ行ってしまったわ。まあ……一人だけ、木陰から動こうとしない人もいるみたいだけど……」
更衣棟で水着に着替え、ビーチへ走って行くとパラソルを差して待っていたアクアが出迎えてくれた。彼女は普段着ている歌姫の衣装と似たデザインの水着を着ている。腹部がやや露出され、腰にロングスカートのように布を巻いた姿だ。この水着には実はカムイのものと揃いで透魔王国のシンボルが入っている。仕立てる際にアンナが「王族の水着なんだから、やっぱり家紋みたいなのは入れなきゃね!」と譲らなかったためだ。
アクアの視線がちらりと向いた方を見てみると、木陰の下にシートを敷いて体育座りをしているレオンの姿が確認出来た。一応水着には着替えているようだが、その上から法衣と同じ色のマントをかぶっている。なにやら変わった花が挿してあるジュースを持っているが、多分アンナから買ったものだろう。
レオンはカムイに注視されていることに気が付くと急に慌てたようになり、ふいと視線を逸らした。
「う、うるさいな。僕は日に焼けるのが本当にいやなんだ……ってちょっと、カムイ兄さん!!」
「でもレオン、せっかくこうしてみんなで来られたんだ。ずっととは言わないから、少しあっちに混ざって行こう? 日焼けに関してはさっき日焼け止め用の香油みたいなものを貰ったから、それを塗ってからでいいし」
「だからってそんなふうに腕を引っ張らなくたって……ああもう、わかった! このトロピカルジュースとやらを飲み終わったら、行くから! でも本当に少しだけだよ。僕、皮膚弱い気がするからさ……」
「よかった。それじゃ、レオンが飲んでる間に先に塗っておいてあげるね」
「ごめんカムイ兄さん。それは飲み終わってからにして、本当、絶対ジュース噴き零す……」
カムイが善意で差し出した手をやんわりとはね除け、レオンが気持ち急ぎ目にストローからジュースをすする。オレンジ色のジュースに挿された花は真っ赤で、大きく開いて目にも鮮やかだ。「ハイビスカスって言うらしいよ」ジュースを飲み終わって口を拭ったレオンがそう教えてくれた。
「僕も初めて見た。こんな花、暗夜には咲いてないし……白夜にもないんじゃないか。さっきサクラ王女が珍しがっていたから」
「そっか。サクラが知らないのなら、本当に僕たちの世界にはない花なのかもしれないな。それはそうとレオン、もう飲み終わったみたいだし塗ってもいいかな?」
「カムイ兄さんってさ、こういう時は駄目って言っても絶対に引かないよね」
「だって背中とか、自分一人じゃ塗れないだろう。ねえレオン、あとで僕の背中も塗ってくれるかな」
「ああ、もう、好きにして……」
手に瓶を持ってにこにこしているカムイの顔を見て、レオンが根負けして息を吐く。アクアが横からレオンのマントを素早く剥ぎ取り、彼の素肌が露わになった。肌は女性も羨むような色白で(尤も、暗夜の民はみんな基本的に白夜の民に比べるとやや白めだ)、目立った汚れもない。
カムイの視線はそのまま、それなりに鍛えられてはいるがマークスやリョウマと比べると多少控え目な胸筋にいった。普段は厚く鎧と法衣を着込んでいるのであまり気にすることはないのだが、どうにもこのぐらいの体格には見覚えがある。そうだ。確か前温泉に入った時……タクミもこのぐらいの体格だったような気がしたのだ。
二人は次男坊同士境遇が似ているということがあってか、透魔王国との戦いをしている中でどんどんと仲が良くなっていっていてカムイはそれがとても嬉しかった。それも聞いた話によると、二人とも趣味嗜好がよく似通っていて……それだけではない、なんとなく色々なものが、そこはかとなく、同じらしい。だからもしかして身体の鍛え具合も……などと思っているうちにレオンの胸筋に魅入ってしまったのだが、鼻がレオンの胸板に付きそうになったぐらいで「カムイ兄さん! どこ見てるんだよ!!」とやたら焦ったような声と共に押しのけられてしまう。
「も……もう! 背中以外、塗れるところは自分で塗るから!! そんなにじろじろ見ないでくれる?! 大体カムイ兄さん、男の僕の身体なんか見て一体何が楽し……あっ?! もしかして僕の身体がマークス兄さんに比べると貧相なことを面白がって……?! ちょっと酷いんじゃないカムイ兄さん、今回ばかりは兄さんのこと、卑劣と言わせてもらうよ!!」
「ごめんレオン! こんなにレオンを恥ずかしがらせてしまうなんて思ってなかった。それに面白がるとか、そんなつもりは全然ないんだ。だいいちマークス兄さんより貧相なのは僕も一緒だし……ただ、タクミも同じぐらいの体格だったかなと思って」
「え? タクミ王子も?」
タクミの名を出すと、レオンが食いつく。声音もどことなく落ち着き始めているようだ。この二人は親友同士でもあるが、しかしやはりお互いに「カムイの弟」であるため、その辺はまだ若干意識するところがあるらしい、……というのをアクアは知っている。
「うん。そうしたら、なんだかちょっと嬉しくなってきてしまったんだ。二人の仲の良さは、僕も見ている以上によく聞いて知っているから。エリーゼやサクラもそうだけど、時々マークス兄さんやリョウマ兄さんも教えてくれてね」
「マークス兄さんたちにもっていうのが多少気になるけど……まあいいよ。まったく、やっぱりカムイ兄さんは卑怯だな」
「え……なぜだい?」
溜め息混じりにそんなふうに言われ、カムイはきょとんと首を傾げた。マークスやリョウマも自分たちの弟が仲睦まじく交友を深めているのを微笑ましく思っているのは本当のことだし、どうして「やっぱり卑怯だな」なんて言われるのか、うまく見当が付かない。
それに、そう言いつつもレオンの表情は屈託なく笑っていて……少しばかり頬が赤い気がしたけど、この暑さじゃそれも仕方ないことだろう……恨み言を言っているふうでもないのだ。レオンの背に香油をしっかりと塗り込め終えて尋ねると、レオンが香油の瓶をカムイの手から抜き取って「内緒」と呟いた。そのまま手に香油を取り、黙々とカムイの背中に塗り始めてしまう。
「レオン、教えてくれたっていいじゃないか。僕たちきょうだいなんだから……」
「いやだね。タクミ王子だって、きっとそう言うさ。僕らはよく似ているらしいし?」
「それは……確かに。ねえアクア、君はどう思う?」
「そうね。レオンは、カムイのそういう嬉しそうな顔が好きだから……そうされるとついつい心を許してしまうのよ。そうでしょう、レオン」
カムイに助け船を求められてアクアがなんでもないふうにそう言うと、レオンの顔がかっと染まった。
アクアの考えは、どうやらレオンの意図とそっくりそのまま的中していたらしい。彼の顔色はみるみるうちに陽差しでは説明しきれないぐらいに赤く染まり、振り絞るように「アクア姉さん!」と稀に見る必死そうな形相でアクアの名を叫ぶ。
けれど対するアクアはそれに動じた素振りもなく実に涼やかな表情だ。彼女は「だけど本当のことでしょう?」とレオンの肩に触れると、美しく笑んだ。確信犯の顔だ。
「だ、だけど……」
「そうなんだ! とても嬉しいな」
「カムイ兄さん、でもね、」
「僕もレオンの嬉しそうな顔が好きだよ。きょうだいたちの嬉しそうな顔が……大好きだ。やっぱりみんなでここに来られてよかった。さあ、それじゃ向こうに行こう」
「…………わ、わかったよ……」
カムイが心からの喜びを表して香油を塗り終わったばかりのレオンの身体に飛びつくと、レオンが諦めたように笑ってカムイの背を撫でる。まだ馴染みきっていない油が少しぬめったが、この兄に何を言おうと今更なので口には出さなかった。アクアが立ち上がって「行きましょう。彼らも待ちくたびれているわ」とパラソルを差しだしてくるのでカムイが離れた後立ち上がって有り難く借り受ける。女性用の日傘だ。黒地に白で暗夜の紋章が染め抜かれている。
「アクア姉さん、これは」
「サービスでもらったのよ。試作品ですって……白夜と透魔のものもあったから、向こうへ行ったらサクラやエリーゼに渡すわ」
「そ、そうなんだ」
トロピカルジュースを製作販売していたかと思えば傘の試作までしているとは、一体あの行商人は何を主にして販売しているんだ? レオンは少しだけその謎に頭を捻ったが、カムイが意気揚々と手を引いていくのでそこで考える事をやめてしまった。
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幕間
「それより、お言葉に甘えてちょっと羽目を外させてもらうね。さっきから波打ち際にいる変な生き物が気になってたんだ。見に行ってくる!」
そう言って波打ち際へ飛び出していった軍師を追って男はゆるゆると浜辺を歩いていた。
異界にある南国リゾート、ここに故あって訪れた男は、彼が半身と思っている相手の思わぬはしゃぎぶりに思索を巡らせていた。普段は戦闘中ずっと気を張り詰めている軍師がここまで羽目を外すなんて、滅多にないことだ。確かに、海へ遊びに行くなど平素なら考えられないことだが……それを差し引いてもこの喜びよう。流石に「異界屈指の南国リゾート」の名は伊達ではない。
せっかくだ。いつも世話になっている礼に、もっと楽しませてやりたい。けれどすぐには上手い案が思い浮かばず、男は苦悩した。人を楽しませるとは、具体的には一体何をすればいいのだろうか? 見当も付かない。自分の従者がそうしてくれているように世話を焼けばいいのか……例えば軍師の足下に落ちている貝殻を拾うとか……。しかしよく見なくても砂浜に落ちている貝殻の数は尋常な量ではない。もしこれを全て拾い集める、となると結構な労力が伴ううえに、たぶん、不審に思われるだろう。正直男やその妹の行く手に落ちている全ての小石を可能な限り取り除くべしと奮闘する従者の姿は結構不審だ。
「見てくれよ! 変な生き物を捕まえたんだ! いやー、それにしてもこの生き物、本当に変だな。何かの戦略に使えるかも……」
「……」
「……あれ、どうしたんだい? この生き物が嫌なのか? 確かに見た目は最初ちょっとアレに感じるかもしれないけど……慣れるとかわいいよ」
「あ、いや……そうじゃない。ちょっと考え事をしていただけだ。お前は何も気にせず、その変な生き物と思う存分戯れていてくれ」
「……え、うん。そう言われても……あ、こら!」
「どうした?」
軍師の「こら」という叱り声に何か落ち度でもあったのかと思わず顔を上げる。だがお叱りの先は男ではなく、軍師が捕まえた変な生き物だったようだ。見ると、軍師が手に持っているそれ……赤くてぶよぶよした足の多い生き物が、そのぷるぷるぶくぶくした足を軍師の腕に巻き付けているではないか。「大丈夫か」と問うと、彼は困ったように首を振って「まあ一応」と答えた。しかしその直後に「あいてっ」という声を洩らし、しかめっ面になる。
「……本当に大丈夫なのか?」
「うん……吸盤みたいなのに皮膚を吸い取られてるだけかと思ったんだけど、なんか血も出た気がする……」
「……その変な生き物、危険なんじゃないのか?」
「いや、よく見るとかわいいし、構造からして血を吸う感じの生き物じゃないと思うんだけども」
巻き付いていた足の一本をつまみ上げ、指で固定してまじまじと観察し始める。びっしりと吸盤が並ぶばかりで、吸血可能な部位はやはり見あたらない。そのままべりべりと一本ずつ足をはがしていくものの、構造はどの足も同じのようだ。ただ、最後にはがした足に血が少量付いていたのも事実。
「うーん、新しく傷が付けられたというかかさぶたが吸い取られたみたいだな」
軍師が唸った。
「こんなところにかさぶたなんか出来てたんだ。気が付いてなかった。忘れてただけかもしれないけど」
「そうか。それならまあ、よかった。それでその変な生き物、何に使えそうか思い浮かんだか?」
「うーん、まだかな。でも何か、こいつはこのままで終わる変な生き物ではないような気がするんだ。直感なんだけどね」
「なるほどな。……なあおい、すまん、ふと疑問に思ったので一つ聞きたいことが」
「うん。なんだい?」
男が尋ねているうちに、軍師は再び腕に巻き付こうと動き出した変な生き物を丁寧にはがしきって波打ち際に戻す。すると変な生き物は海水に触れた途端高速で沖に向かって泳ぎ出し、あっという間に二人の視界から姿を消してしまった。
「結果として、お前の血……吸ったんだよな、あの変な生き物」
「そうだな。……なんで?」
「いや……今なんとなく虫の知らせが……まあ、いいか。行こう」
まあ、自分には直接関係なさそうだし、今はそれより軍師を楽しませる方法を考えよう。男はそう考え直し、軍師を誘って仲間たちのいる方へ向かう。
軍師の血を吸った変な生き物がその後どこで何をしているのか、それを知るものはどこにもいない。
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