※オフ本のサンプル
※長官時代ソルカイ
※ドラマCD RED&BLACKのネタを多く含むほか、他捏造設定も少々
※サンプルには載せていませんが、washiさんによる挿絵が四ページ入っています(うち二枚R18シーン)
※高校生含む18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください

サンプル1
サンプル2(R-18)





サンプル1




01


「おい坊や。なんでテメェと俺が同じベッドで寝てる」
 目覚めて第一声がそれだった。その日、パリの肌寒い朝は、本当の意味で肌寒さをカイに与えて始まる。カイ=キスクは同衾している男をまじまじと見――その見事に鍛え上げられ、惜しげもなく露出されている上半身だとかを、だ――それからおずおずと彼の両目に視線を合わせた。赤茶色の瞳。特に興奮していない時の、彼の目の色。
「なんでって、そりゃ昨晩同衾したからじゃ……」
「俺と坊やが? このベッドに?」
「他に何があるって言うんだ。ここは私の寝室で、おまえは昨日私が帰宅したら、屋根裏の窓を破壊してリビングに居座ってた。私ははじめ散々怒ったが……防犯ガラスは安くないんだ……おまえはもうまったく聞く耳を持たないし、そうしているうちに何故か丸め込まれて食事もそぞろのうちにおまえにベッドに連れ込まれた。ソファじゃなかっただけ、まあ、今日は感謝しているけれど」
「きょうは」
「三回に一回は二階のベッドまで行くのが面倒だからと居間のソファで始めようとする。あれにはとても困っているんだ。なあ、だからソル……」
 説明をしながら、どうも変だな、という気持ちが拭えなかった。対面のソルはカイの言葉を聞きながら、自らの身体の調子を確かめている。普段なら、こんなことを長々と喋っているうちに寝起きから覚醒したソルがまた仕掛けてきてもおかしくない頃だというのに、彼は今眉間に皺を寄せて自分の下半身を見、そして首を傾げているのだ。そのうち、「ふざけてるってわけじゃねえのか」ソルが呟いた。カイは首を振る。それを聞きたいのはこちらの方だ。
「それこそ、私の台詞だ、ソル。おまえが連れ込んで、おまえがはじめて、だから私たちは今素っ裸でベッドに寝込んでいたわけなんだが? 今日なんか特にそうだ。ソルが……その、言い出したんだぞ。したいって!」
 半ばふてくされるようにそう言ってやると、いよいよソルは怪訝な顔をして「熱でもあんのか坊や」とカイの額をさすってくる。その動作が妙に優しく(しかしそれはどちらかと言えば子供を慮るような調子だった)、それがまたカイをむっとさせた。カイは自分でもそれなりに心が広い方だと自負をしていたが、これにはむっとせざるを得なかった。月に一度は窓ガラスを壊され、防犯結界を新しくする度侵入者に構築式を書き直され、貯蔵しておいたワインや食料を勝手に貪られてもさほど怒らないカイにしてはこれは珍しいことだった。
「熱なんかない。平熱だ。どうして今朝はそう訝しむんだ? 私たちがこんな状態で朝を迎えるのも、別段初めてのことじゃないだろう。それとも、何か、おまえは言うのか。私はおまえのことを恋人だと思っていたのに、おまえは――」
「待て、坊や」
「なにを、」
「俺には坊やみたいなガキとセックスをした記憶は一切合切ない。俺の記憶にある限り過去数年間を遡った中に微塵も、だ。だから聞かせろ。今日の日付は」
「……は?」
 振り上げかけた拳を力なくおろしてカイは間の抜けた声を漏らす。どうやら何か決定的な見解の相違に気がついたらしいソルは、カイの林檎色の頬を赤子を宥めるのに似た手つきでくすぐると再度今日の日付を求めた。テンプレートな質問に今度はカイの方が怪訝な眼差しになる。こういった質問をされる場合、相手が陥っている状況は大別すると二種類に分けられる。一つが、アクセル=ロウのような時間渡航者があちこちの時代を彷徨っている場合。
 そしてもう一つの可能性は……。
 まさか。カイはみるみるうちに自らの顔色が青ざめていくのを感じた。もしかしたら昨晩に関する自分の記憶こそが間違っているのではないかと一瞬疑ったが、しかし腰を中心に発生しているある種の倦怠感は確かな事実だ。自分は昨晩にこの男と寝たはずなのだ。そのことは多分、目の前の男も、身体の調子としてわかっているはず。だからあんなに自分の下半身を見ていたのでは?
「二一八一年の……二月十三日、だが」
 半ば祈るような心地で今日の日付を告げた。この日付に間違いはない。昨晩は職場で部下達と「明日から謝肉祭ですね」といった話題で盛り上がった。今年の謝肉祭は十四日の土曜からだ。それに一昨日は聖皇庁のパーティに来賓として参加した。聖皇庁の発足を記念した式典で、今年で一七三周年になるらしい。発足記念日は二月十一日。間違っているはずはない。
 だが。
「今日から謝肉祭が始まる。この日付でまず間違いない」
「二一八一年……?」
 ソルはまったく覚えがないというふうに頭を掻きむしってより一層おかしな顔つきになった。絶望的だ。ソルの肉体は昨日も一ヶ月前も半年前も同じ感触をもってカイに甘やかに触れ、今も隣にその身体が寝そべっているはずなのに、まるで彼岸の向こうにでも彼がいるようだった。
「では逆に聞くが……おまえの中では、その、どうなっているんだ。今日の日付は」
「わかんねえ」
「わからないって、じゃあ」
「だが二一八一年でないのだけは間違いない。そしてこの部屋も。この肌にささるような寒さからしてパリにいるはずだという直感だけは間違っていないはずだが」
 ソルの指先がカイの身体を撫でる。昨晩あれほどカイに悪戯をしてくれたはずの手のひらに今はまったくいやらしさがなく、確かめるような手つきで、ふわふわして曖昧だ。浮ついたカイの皮膚を滑るように移動する無骨な手は、カイの肉ではなく骨を見ているように何の意図も孕んでいなかった。骨格を確かめていた。記憶の中の像と一致する箇所を探そうとするかのようにだ。
「記憶喪失なのか、おまえ」
 だから恐る恐る尋ねた。出来ればそうではないと言って欲しかったが、望みはあっという間に絶たれた。
「多分な。坊やの様子と俺の身体を鑑みるに、『昨晩セックスした』という話は、あー、ほらじゃねえんだろ? テメェは馬鹿正直だし、嘘だけは吐かねえ。少なくとも俺の記憶の中では……その記憶自体の信憑性が今ひとつなわけだが……ともかく、そんな自信満々な顔でありもしなかったことを捏造出来る性格じゃない。が、俺の方はまったくそんな覚えはない。坊や、さっき俺のことを恋人だと言ったが、俺は坊やみたいな子供に手を出すほどいつか突き詰めて飢えるのか」
「……っ!」
 カイは一瞬何も言えなくなって、小さく呻く。 ソルの言葉に他意はないし、彼なりに気遣っている部分があるのも、短い付き合いではない、わかっている。だけれども、どうしようもなくひどい気分だった。恋人に「テメェみたいなガキに手を出すほど飢えるのか」と尋ねられるのは耐え難い屈辱に近かった。それならいっそ「テメェは誰だ」と最初に尋ねられた方がましだとさえ思った。その方が、「ああ彼は記憶喪失になってしまったのだ」と素直に納得出来たかもしれないのに。
「『このパリ』は、聖戦が終わってるんだな。謝肉祭なんか呑気にやるぐらいだ。終わってるんだろ? なら、ジャスティスは。あの破壊神は」
「ジャスティスは……もう死んだ、だってお前がそうしたじゃないか!」
 それでとうとう、カイはどうしようもなくなって叫んだ。こんなに感情的な叫び声を上げたのは、一体いつ以来だ?




・・・・・・・・・・・・・・



サンプル2(R-18)



 指先があつい。身体じゅうが暴走列車になったみたいだ。心臓がばくばくいっている。触れられた先から、自分が違うものに生まれ変わっていくような気がした。
「坊や」
 呼ぶ声も、どこか熱っぽくて浮ついている。下半身から生まれる痛みはどうしようもないくらい現実的だったけれど、それを上回って、覆い尽くすように、言葉に出来ないぐらいの喜びとか衝撃、好奇心と期待、それらがカイの全身を駆け巡って夢心地にさせていた。

 ソルが聖騎士団に所属していた短い年月のうちに巡ってきた降誕祭の夜が二人の「はじめて」の日だった。ワインをしこたま飲まされて見事に酔っぱらったカイはソルに搬送されて彼の自室にあるベッドに投げ出された。綺麗だが飾りっ気のない部屋にはその年頃の少年らしい私物は全然なくて、ベッドと机、最低限の家具、それから山積みの書類と書物ばかりが目に付いた。
 カイは申し開きが出来ないほど完全に酔っぱらっていたが、ソルの方も、酒にはかなり強い方だというのに、その日は珍しく少し酔っていた――のだと思う。頬を真っ赤に染めた少年の願いに応えたのにはきっとそういう背景もあったのだ。ソルはクリスマスパーティの続きを誰かが夜通しホールでしている裏で、カイを抱いた。彼の部屋に留まったまま。
 ソルは丁寧に時間を掛けてカイの無知で慎ましく、欲を知らなかった身体を割り開いた。カイは生娘のような少年で、まだ本当に何も全然知らなくって、全てはソルの手に委ねられていた。自慰も覚束ないような十四歳の体躯に他者の手で与えられる快楽は自慰のそれとはまったくの別種であることを知らしめた挙げ句、柔らかな少年の尻たぶを鷲掴みにして揉み開き、その奥に閉ざされた場所で男を受け入れることが出来るのだということを教え込んだ。たった数時間で彼を根底から改革しようとするみたいに振る舞い、また、きっかりとそのようにカイの意識を書き換えた。
 幸か不幸か、カイは何事においても呑み込みが早い性質で、ソルからもたらされる背徳と汚涜、不徳と悪徳、それらを必死になって受け止めようとした。それも相まってソルの優れた手腕は最高最良の成果を叩き出すことに成功したのだが、教師として見れば最低最悪であることに疑う余地はなかった。彼はまだ人間のなんたるかも知らないような、一昨日までぼんやりとコウノトリを信じていたような子供に、男に抱かれる悦びを覚えさせたのだ。
「痛かったら、ちゃんと言えよ」
 何度そう言ってもカイは「だいじょうぶ」、と切れ切れに繰り返すだけで、頑なに「痛い」とは言いたがらなかった。痛みを告げることがこの行為への拒絶に繋がると盲信しているきらいがあった。子供の身体は確かに柔らかく柔軟性があり呑み込みは早い、けれどそれは翻って未発達で脆いということでもある。どんなに段階を踏んで丁寧に段取りを運んだところで、痛くないはずがないのだ。ましてやソルの人並み以上に立派な(自分でそう例えるのも妙なものだが)雄を、最初から全て受け入れるなんてことは出来っこない。
「だいじょうぶだから、ソル、おねがい、……です」
 挿しこんでいた指を全て引き抜くと喉が跳ねたような甲高い声があがる。浅く息を繰り返す広がった後口にとうに勃起しきっていた男根を宛がうと、びくりとカイの身体も跳ねて、僅かに身を竦ませる。
「やめるか」
 一応最後の確認として問うた。ここまで来て中断するなんて生殺しもいいところだったが、本当に無理だというのなら、無理強いは出来なかった。この子供に無体はしたくない。出来れば健やかに生きて大人になって欲しい。聖戦を超えてずっと生きて欲しい。自分が関わりのないところで――大きくなって、いつかはソル=バッドガイという男を忘れたとしても、生きてくれるのならそれでも構わない。
「やめません」
 しかし問われた子供は、おずおずと両腕を己の下肢へ向かって伸ばし、これからこの肉体を切り拓かんと待ちわびている男根に愛おしげに触れて忠告をはね除ける。「痛くてもいいんです」。彼が言う。「ソルなら、ぜんぶ、だいじょうぶ」どちらともなく言い聞かせるみたいに。
「だから……最後まで、ぜんぶ、わたしにおしえて」
 見上げてきたエメラルド・ブルーの瞳は抗いがたい色をソルに投げかけて絡め取り、その先を促した。それが合図だった。我慢ならなくなってソルはとうとうその先へ身を進ませた。幼い肉壁を強引に掘り進んで奥へ入っていこうとすると、とうとう、カイの口から痛みを噛みしめる声が堪えきれなくなって漏れる。言葉になっていない鋭い母音は常の大人びようと背伸びばかりしているカイからは想像もつかないぐらいに幼く聞こえて、それがまた一層ソルを煽り立てた。聖騎士団の偶像、崇拝と信仰を一手に集めるカイ=キスクがこんな声を上げることを、ソルの他には誰も知り得ないのだ。
 誰にも教えるものか、と強く思った。ろれつが回らなくなって断続的に上げられる舌っ足らずな喘ぎ声も、涙を目尻に浮かべながらも全身で抱きついてきて羞恥と覚えたての悦楽で顔を染める様も、なにもかも、自分一人の秘密にして閉じ込めてしまいたい。手ひどい所有欲と独占欲。手のつけようのない支配欲。それらがソルの意識を埋め尽くして罪悪感を置き去りにし、カイを堕落させようとしている自分を肯定する。
 緩急を付けて幾度か緩い抜き挿しを繰り返しているうちに次第に肉が解け、腕がソルの背中を離そうとしないのと同じようにソルの雄を引き留めようとし始める。こんなところまで、全身くまなく覚えが早いのは、ソルに焦がれているからなのだとうぬぼれてもいいのだろうか。淫欲に飲み込まれて沈みかけている少年を愚かだとか、汚れてしまったなどとは、ソルにはとても思えなかった。男に抱かれることを知ってなお、カイは高潔だった。だから死ぬまでその性質が損なわれることはないのだ。
「――ひぁっ?!」
 それからそう間を置かずに、カイはこれまでになく甲高い嬌声をあげた。うわずった声音は少女めいていて、一瞬、カイはそれがどこから出た音なのか分からないようだった。けれどそんな声がソルのあの立派なのど仏から果たして出てくるものだろうか、それもこんな場面で、という思索が僅かに残っていた理性の中で行われて、彼はすぐにその答えに思い至り、はくはくと息を呑んだ。
「い、いま、の、わたし、が、」
「ああ」
「うそ、そんな……ひぁっ?! へん……なにこれ、おかしくなりそう……!!」
 探り当てた前立腺へ擦りつけるように雄を押し込む。カイのまだ少し皮を被っている陰茎は挿入されたはじめのうちこそ痛みに萎えかけていたものの、ことここまで至る頃にはぴんと上向きに跳ね上がって直に腹へ張り付くのではないかという勢いだった。透明な先走りが零れ出てカイの限界が近いことを示している。このまま前立腺を刺激され続ければ、ソルよりも早く先に果ててしまうだろう。だからといって加減する気は微塵もないけれど。
「我慢すんじゃねえよ。おかしくなりそうだったら、おかしくなっちまえ」
「でも、ぁん……あっ、ァ、だめ、そんなの……ッ」
「俺しか見てねえ。俺以外誰も、テメェでさえ、知り得ない。だから見せろ。浅ましかろうが恥ずかしがろうが、もう今更どこにも逃げられない、わかるだろう、……カイ」
 首筋に噛み付き、それから顔を近づけて耳の中に落とし込むようにカイの名前を呼んだ。低く欲情を隠し切れていない、雄の本能を剥き出しにしたような声音でだ。
「ずるい」
 するとうわずったままの喘ぎの中で抗議の声をしっかりと上げ、カイはソルを頑張って睨もうとした。けれど表情はもうぐちゃぐちゃに蕩けていて迫力も威圧感もあったものじゃない。「ひでぇ顔」と思わずぼやくとお返しとばかりにきつく締め付けられる。熱い肉に包まれる快感に背を駆け上がっていくものを感じ、楽しげな舌打ちになってそれが口から零れる。
「ソルだって……ひどい顔、してる」
「どんな」
「獰猛で、野蛮で、あらっぽくて、わたしのことを今にも……食べようとしてるみたいな……」
「もう喰ってる」
 ピストン運動が加速する。じゅ、ぐぶ、ぶちゅ、という液体が掻き出されて結合部で僅かに泡立つ音がどんどん激しくなって淫猥に耳を打つ。カイの思考は既に真っ白に吹き飛ばされていて、こんな音は聞いたことがないだとか、自分の喉からひっきりなしに何か出ているようだとか、そんなことを考える余力がもう残っていない。ただ目の前に映る欲望をあらん限り自分に打ち付けてくる征服者の顔と与えられる感覚、自分が自分でなくなっていくような焦燥感、勝手に身体が上り詰めていってそれに引きずられていく心、それしかもう残されていない。
「ぅ、あ、ああ、ぁ、ソル……おねがい、ソル……」
「……舌噛むなよ」
「わかんない、も、うまく考えられな……はやく……!」
 性急な手つきでソルに抱きついてねだり、カイの穴が搾り取ろうとするようにひくつき蠢く。請われるままに突き上げると、カイがぐっと息をつめて吐精した。精液が弾け飛んでカイとソルの腹部に飛沫する。身体を折り重ねるように押しつけるとそれが更に二人の肌越しに触れあって混ざり、染みつく。
 射精に合わせてびくびくと痙攣した肉壁に引き絞られ、追いかけるようにソルもカイの直腸めがけて精を吐き出した。カイと比べものにならないような量をどぼどぼ奥へ流し込み、入りきらなかったぶんが皮膚を伝ってちょろちょろとシーツに落ちていく。
 絶頂を迎えたカイのどろどろになった顔をじっくり眺めてからずるりと陰茎を取り出すと、堰を切ったように白濁が流れ落ちた。指を抜いた時よりも更に広く押し広げられた穴は口を閉じたり開いたりするようにぱくぱくひくついていて、ぐったりした四肢とは正反対に物足りないと訴えているようにソルの目に映った。


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