※オフ本のサンプル
※シンエルラムが全寮制寄宿学校に潜入して捜査をしていたりその裏でソルとカイが色々調べてたり、なシン中心オールキャラです。カップリング要素はないです。
※若干シリアスな流れもありますが基本的にのんびり。
※時系列はレベレーター後になります。サインとレベレのネタバレが若干含まれていますが、この本の中核にはあまり関係ないです。
01
『で……調子はどんなもんだ。今日でおおよそ一ヶ月になるが』
通信先から聞こえてくる声は、ずっと近くで聞いていたそれより、何故か心配性に思えた。「オヤジでもそんな声出すのかよ」なんて思う反面、「でもそれもしょうがないのかな」とも思い、シンは耳元に展開された通信機をくるくると指先で弄ぶ。
「心配ないって。ホント。『調査』の方はぼちぼち……だけど、とりあえず学校生活に溶け込めってのは、大丈夫。最近行ける場所も増えてきた。監督生権限とかいうのがないと出入り出来ないようなところ以外は、結構地図、埋まってきたぜ。『噂集め』は上々。ま、女子の方がそういうのって好きみてえだし、ラムとエルが結構うまくやってる」
『本当ならいいんだがな。テメェは俺に似て、そういう集団での暮らしが不得手だろう。何しろ英国名門私立寄宿校なんていう場所には、お行儀よくルールさえ守ればいいと思ってらっしゃったあの青臭い坊やみたいなのがうようよしてやがる……』
「そりゃカイほど真面目じゃないけど、オレだって他人に調子合わせとくくらいは出来るよ。愛想笑いとかさ……ともかく、友達もいっぱい出来たしクラスメートとも関係良好だし、殆ど問題ないって。ルームメイトの監督生だけ、時々何考えてるのかわかんない感じがしてて、まだ気がかりだけど」
通信先で養い親が出している声のトーンがどんどん下がっていき、「お行儀よくルールさえ」のあたりでべとりと地についたような声音になる。この倦怠感で形作られたような声の出し方にはちょっと覚えがあり、シンは指先の動きをぴとりと止めてははあ、と苦笑いを漏らした。彼がこういう声を出すのは、大抵、カイが絡んだ昔の話をする時、だ。規則も法律もクソ喰らえみたいな、アウトローの体現者である彼には、こういった細々とした制約の中での集団生活に随分とトラウマがあるらしい。詳しい話は、全然してくれないんだけれど。
そんなことに思い耽っていると、通信の向こうがやにわにざわつき、衣擦れと靴音がざらざらと響いて、通信機のそばへ寄ってきた第三者が会話に割り込んでくる。
『――なるほど、殆ど問題ない、と。ではテストの点数はいくつでしたか、シン』
「げっ、カイ!」
次いで聞こえてきたのは実の父親であるカイの声だ。話が横に逸れだしていたのをやや咎めるような鋭い調子で尋ねてきたカイに、思わずシンの口から素っ頓狂な声が漏れる。通信先の父親はそれに深い溜め息を吐き、「親に向かってなんですかその齧歯類みたいな鳴き声は」とちょっと拗ねたふうに言って言及を重ねた。
『テストの点数は、シン。母さんも随分気に掛かっているみたいですよ、それについては……今日は確か神学とラテン語、法術基礎理論の小テストがあったはずでしょう』
「な、なんでそれ、知って……」
『知っていることは知っています。何しろ先ほどラムレザルさんとエルフェルトさんが自己申告してくださいましたからね。さあ白状なさい、一体何点を取ったんです』
そういえば自分より先に、女子寮で生活しているラムレザルとエルフェルトが報告を入れていたのだったか。今回の件を指揮する直接の上官はカイなので二人がカイに報告を入れること自体は当たり前なのだが、それにしたって、テストのことまで告げる必要はないだろう。シンは今日返却された答案の点数を思い返して苦虫を噛み潰した。どれも惨憺たる結果だったことは言うまでもない。
「神学が……三十五点。ラテン語は十八点。法術基礎理論は四十二点……」
『…………。ソル。もうこれを聞くのが何度目かもわからないが、どうしてシンにもっと丁寧に読み書きと基礎理論を教えておかなかったんだ』
『こういう機会があるかもしれないという想定をしていなかった。聖戦を生き抜くための教育は完璧だ』
『聖戦並の有事が再発するなんていう想定に基づいて育てるな』
「あっでも、実技はいっつも最優なんだぜ、ホント! あとクリケットも今度の寮対抗のやつに出してもらえることになってて!」
どうも向こうで険悪な空気が流れ出したことを察知し、シンは強引に話題を切り替えようとする。実技が優秀なのは本当だ。体育系の科目は言うに及ばず、乗馬や法術応用試験の結果はどれも文句なしの評価をもらっている。
しかしそれを告げてもカイの溜め息は止まず、彼がふるりと首を振ったであろうことは、通信越しでもシンの肌に感じられた。
『それは確かに素晴らしいことですが、けれどシン、あなたの雷はですね、そもそも……』
「……母さんの資質で強引に使ってる、だろ。わかってるって……オレだってオヤジみたくかっこよく炎出したいから、ちゃんと理論も頑張ってるんだからさ……」
『ソルの炎は演算処理が大雑把すぎてアテになりませんから、あれはあまり目指さないように。……でも、元気そうですね。よかった。実を言うと、いつも一番心配なのはそこなんですよ。親元から完全に離すのはなんだかんだ言って初めてのことですから』
「大丈夫だって。カイって心配性だよな、オレもうそんなに子供じゃないよ」
『ええ。けれどいくつになっても、親は子を心配してしまうんです。特に今回は何があるか、予測がつかないところがありますから。決して無理はしないで。貴方がたの無事を祈っていますよ』
「わかってる。……おやすみ、カイ、オヤジ」
カイの柔らかい声を聞いてから通信を落とすと、寄宿舎の裏庭にまたしんとした夜の静寂が戻ってくる。ふくろうの鳴き声を星明かりのもとで聞きながらシンは小さく息を一つ吐いた。時刻は既に九時を回って消灯時間が迫ってきているが、見上げた寄宿舎の三階、シンがこれから戻るべき監督生室にはまだこうこうと明かりが灯っている。今日のところは、これで一度戻った方がいいだろう。あまりルームメイトに怪しまれたくないし、それにここから女子寄宿舎までは結構な距離があって、その上夜間の行き来は規則で禁じられている。ここでもまた、規則、だ。
規則、規則、規則、規則……とかくこの場での生活にはそれがつきもので、雁字搦めに縛り付けてくるので嫌になることがあるのは確かだったが、弱音を吐くわけにはいかない。ここには、カイに依頼された「仕事」で来ているのだ。半分はシンに学力を付けてほしいというのがカイの本音なのもわかっているが、賞金稼ぎとしてはじめてソルに頼らず単独で請けた仕事だ。出来る限りいい結果を出したい。
◇◆◇◆◇
「神隠し? それって、えーっと、あのなんだっけ、昔話とかに出てくる妖精の人さらいみたいな」
母の焼いたレモンパイを頬張りながらシンが尋ねると、子供達の対面に座っているカイは書類を捲りながら、おおまかに言えばそうです、と小さく頷いた。びっしりと報告が記されているらしい分厚い書類に端正な顔を歪ませ、困ったふうな声を出してううん、と唸っている。
「それもここ数ヶ月のことではなく、過去十年以上にわたって繰り返されていることが明るみになってきたんです。どうやらずっと隠蔽されていたようなのですが、聖戦終結直後の混沌期からも随分経って、人の噂に戸を立てきれなくなってきたようで、最近ようやく発覚しました。そこで事務局が賞金稼ぎ向きに調査依頼を出したのですが、なんとあちら方が事務局からの介入を拒否してきまして」
「事務局、というのは……つまり国際警察機構の直轄組織のこと、だよね。そんな機関を相手して、拒否権なんてあるの?」
「公にはありませんね。けれど相手は過去に数多の貴族子弟達を輩出し、また現在もその徒弟を抱えている超名門パブリックスクールです。国際警察機構にもその関係者が多くて、学校側からの圧力がまかり通ってしまったんですよ。私の部下達にもあのあたりの卒業生は少なくない。ですから事務局は対外的にはその手配を取り下げなければいけなくなってしまった。けれど、だからといって放置しておけるような軽い案件でもありません」
ラムレザルの質問にカイが答えた。そして彼は書類をめくり、ある一ページを開くと子供達に見えるようにテーブルの上に広げてみせる。
「調査の結果、学園敷地内にギアがいるのではないかという疑惑が掛かっています。それも複数です。司令塔が機能喪失をしてから十年以上が経っていますから、今更説得不能レベルの凶暴性が高いギアが出てくるとは思えませんが、神隠しが現在まで続いていて更に隠蔽工作までされていることと無関係だとは考え難いでしょう。そこで貴方がた三人には、生徒としてここに潜入し調査にあたっていただきたいんです。無論正規の依頼として事務局からきちんと手当は出します」
「あ、それでオヤジはカイの方にいるんだ……」
レモンパイを胃袋に収め終わったシンが、得心したとばかりに頷いた。貴族の徒弟達が通う学校へ潜入させる人材としては、確かにソルは不適格だろう。彼は頭はいいが教師という職業――それも伝統と格式を重んじて、品位を重視するような教育施設の――には壊滅的に向いていない。生徒としてシン達を送り込む方が遙かに簡単だ。
しかし納得したシンの隣では、いまひとつうまく呑み込めていない調子のエルフェルトが首を捻っていた。
「あの、カイさん、私達にそういう依頼が来ているのはわかったんですけど、どうしてカイさんが説明してくれてるんですか? 王様の仕事って、そこまでたくさんありましたっけ」
妹の疑問にラムレザルもそういえば……というようにカイの顔を見上げてくる。姉妹はカイが元聖騎士団の所属で現イリュリア連王国の第一連王であることは知っているが、しかしであるからこそ、彼がこのような仕事を振ってくるのがおかしなことに感じられたのだ。こんなものは、王の管轄を大きく外れている。日々政務に追われているカイがわざわざ時間を割いてまで説明するような事柄にはとても思えない。
その疑問に答えたのは、当事者のカイではなく彼の隣で茶を啜っていたソルだった。
「カイは国際警察機構のギア対策本部出身だ、そのあたりのツテでな。それに名門私立校にガキを送り込むような権力を備えていてなおかつ簡単にはくたばらねえような人材を用意出来る人間ってのは限られてくる。たらい回しで結局一番上までお鉢が回って来ちまったってのが実態だ」
ソルの言葉に頷き、カイがそれに、と言葉を続ける。
「とてもいい機会だと思ったんです。学校に通ってもらうのにも」
「だそうで、カイ自ら喜んで案件を取り上げてきたってわけだな。しかし……俺はまだ不安だぞ、カイ。ヴァレンタイン二人はともかく、シンに本当にやってけるのか、んな場所で……」
「大丈夫だ。何せ私と母さんの子だからな」
「いや、テメェは大丈夫かもしれねえがな、」
「大丈夫だ。……出来るな、シン」
「よっしゃ。任せとけ!!」
出来るな、と聞かれて出来ませんなんて口にするシンではない。自信満々に胸を張って頷いたシンに、ソルはやれやれと溜め息を吐いて最後の説得を放棄する。その自信が何の根拠もなく口に出されているのだということをソルは知っているし、当然、息子に「出来る」と言わせたカイだってそんなことは分かりきっているのだ。
「ではシン、いい成果を期待していますよ」
シンの手を取り、カイがにこやかに微笑む。全世界の父親の見本にして博覧してもいいぐらいの笑顔だったが、これが同時に、まるっきり、悪魔の微笑みであることは明白だった。しかしシンをここまである方面では甘やかして育ててしまった負い目のあるソルには、助け船を出してやることも出来ない。こいつは一本取られたな、シン。父親に袋小路まで追い詰められている養い子に内心で同情し、ソルはカップをソーサーに戻した。
何しろシンは見た目こそ成熟してきているが、まだ五歳。この子は学校へ行ったことがなく、学校という施設が何を行っているのかをぼんやりとしか知らない。「名門私立校に潜入する」というのがどういう役回りを意味しているのかについては尚のことだ。
「おう。……で、具体的には何をすりゃいいわけ?」
「そりゃあ、勿論。勉強に決まっているじゃないですか」
「……へ?」
ほれ見たことか。
調子よく胸を叩いていたシンの顔色が、次のカイの一言でみるみる急降下していくさまは、ちょっとかわいそうなくらいだった。
「勉強って……オレ達、事件の調査に行くんだろ? ギアが出てきたら荒事になるかもしれねえし、戦闘とかは、わかるんだけど、なんで勉強」
「何を言っているんですかシン、学生の本分は勉強ですよ。貴方がたにこれから通っていただく学校は特に法術の基礎と実戦応用に力を入れていることで有名ですが、勿論一通りの座学も手抜かりなく指導しているとの評判です。シン、違和感なく学生の集団に溶け込むには、あなた自身も一般的な学生と同じように生活することがとても大事なんです。丁度いいでしょう、基礎からみっちり叩き込んでいただいてきなさい」
「え? え、ええ、お、オヤジぃ、」
「そんな子犬みてえな目で俺を見ても無駄だ。こいつはテメェをサバイバル一辺倒に育てちまった俺の責でもある。編入は来月頭からだが、そこまでの二週間、三人まとめて俺が最低限は見てやる『契約』だ。テメェがこの仕事を請けた時点でこの契約は成立する。……読み書き計算ぐらいは、マスターしてから行ってもらうぞ」
俺の飲酒喫煙のためにな。縋り付いてきたシンをそれで一蹴してやると、シンはいよいよ絶望的な顔になり、しかし、ほんの数秒で立ち直った。ソルまでもカイの手に籠絡されていた以上、この状況でどう粘っても二人の父に対して勝ち目などないということを、シンは早々に悟っていた。
「……わかったよ。で、オレはいいとして、ラムと……エルは」
「私は、構わない。学生生活を送るのに不自由ない程度の知識は、お母さんに与えられている。いざとなったら、シンの宿題も見てあげられると思う。……多分」
「私は……えっと、花嫁修業に関係ないお勉強はちょっと不安なんですけど、でも大丈夫です! 頑張ります!」
姉妹が承諾したのを確かめ、では改めて、とカイが横の椅子から新しい書類を三束取り出す。なるべく早く目を通しておいてくださいね、と渡されたその書面の頭には、簡潔に「失踪事件調査についての申し送り事項」との旨が記されていた。
曰く――事件を整理すると、今のところ、以下のようなことがわかっているのだという。
半年前、とあるパブリックスクールに子息を通わせる警察機構関係者の保護者から失踪事件捜査の依頼が入り、機構は少なくない人員を投入してその調査に当たっていた。名門パブリックスクールである同校ははじめのうち調査協力を拒んでいたが、被害者少年の親が持つ各種コネクションからのにらみもあり完全な拒絶が出来ず、少しずつだが調べが進み、どうもこれが単発の事件ではなさそうなこと、そのうえ、似たような事件が度々起こっており、生徒達の中には一種の噂話として浸透してさえいる、れっきとした「事実」であることが発覚する。
「半年前に起きた失踪事件の被害者少年は、品行方正で真面目そのものの、素行不良とは無縁の模範的な生徒だったそうです。教師陣や牧師、寮母などからの信頼もあつく、脱走事件を起こすような生徒だったとは考えづらい。まず何者かに拉致された――と考えて差し支えないでしょう。場合によっては既に殺害されている可能性もあります。半年経っていますから、生きている可能性の方が低い。これは彼以外の過去の被害者にも共通して言えることです。わかりやすい死体が残っているかはわかりませんが」
「死人が出てるかもしれないってことか。それで犯人はギアかもしれないって?」
「いいえ、まさかそんなことでギアを犯人扱いしたりはしませんよ。司令塔の強制命令がない場合、大半のギアは争いを好みませんからね。ただ、同時に、このスクールにはギアかそれに関連する何かを匿っているという疑惑も掛かっていたんです。それもただギアを隠しているだけではなく、生産技術を隠匿していたのではないか、という極めて重大な疑惑が」
生体兵器「GEAR」は人の作りし兵器。はじめに生物をギアに改造したのが人であった通り、人はギア細胞を投与することで一部の生命体を己の兵器としてきた。勿論、現在生息している全てのギアが人間に直接改造されたものだなんてことはない。聖戦初期からにおいて、人間を滅ぼすべしという司令塔の指示に従い、自然生殖可能になるまでの適応進化を進める時間を惜しみ、ギア達はいわゆる「プラント」を利用した増殖手段を採用している。
けれど同時に、人がギアを生み出したり、制御を試みたりする愚行を捨てられずにいたのもまた事実だ。聖戦の最中で騎士団がギアを討ち取る一方で、人間を安定してギアへ改造する実験を押し進めている団体が存在していた。それらは聖戦終結から数年が経った後になってなお、「ギア狩り」ソル=バッドガイの力を持ってしても容易には追い切れない厄介な存在だった。
「そんな非合法組織が、ある一定の期間、この学園を根城にしていたことがあったようなんです。その首謀者達は既に何年も前に探し出されており、今はもう関与することの出来ない場所に捕らえられていますが、その際ギアにされてしまった何者かが、今もこの学園内に留まっている可能性はゼロではありません。非常に慎重な接触が求められます」
「それって……やっぱ、結構危ないヤマ、ってことだよな。なあカイ、大丈夫なのかよ。オレはともかくさ、エルやラムは女の子なんだぜ」
「ええ。ですから、今回貴方がたに依頼するのは、事件の最終解決ではなくあくまで調査です。学生身分を利用して警察機構の人間では立ち入れなかった場所の調査を行ってもらうのがメインであり、戦闘による解決はむしろ極力避けていただきたい。言い逃れできないところまで証拠を押さえられれば、その時点で強制捜査に踏み切ることが出来ます。そうすれば、そのための人員をこちらで送り込むことが出来る」
「では武器の携行は出来ないということ?」
「学生らしい振る舞いをしていただくことになりますから、堂々と持ち込むのはまずいですね。ある程度は考慮しますが、たとえば、常に身の丈ほどもある旗を持っている学生は怪しまれてしまうでしょう? お二方の武器に関しても同様です。どうしても、隠し持てる程度のものに留めていただく必要があるでしょう。もっと言えば、それを必要とするような展開にならないのが一番ですね」
「ま……それもそうだな」
「まあ、無闇に接触を焦ることがなければそうそう有事には遭遇しないと思いますよ。同校に子息を通わせているご両親方何人かにお話を伺ったのですが、勉学に集中して励める環境だと誰も彼も鼻高々でした。ですからシン、安心して授業を受けてきてください。内部の生徒として信用されるのが、まず必要な第一歩です」
カイがちょっと熱っぽく力説する。こうなってくると、ますますカイは「事件の調査」を建前にシンを学校へ通わせたがっているだけなのではないかと誰もが思い始めていたが、水をさせる人間は誰もいない。何しろ建前が完璧すぎる。シン達三人が潜入に最も適していることには疑いようもない。
「現段階で必要な説明はこのくらいでしょう。あと、急ぎは……採寸かな。制服は学校指定の仕立て屋に注文しないといけないので、ちょっと時間がかかるんです。明日、イリュリア城下の仕立て屋へ向かってください。ディズィーが一緒に行きたいと言っていましたから。そうしたら、残りの時間は就学準備にあてましょう。私も公務の後でなるべく見られるようにしますが、おおよそは、ソルやディズィー、ドクターを頼ってください。三人とも、いいですか?」
自分が勉強一辺倒の空間に放り込まれることに関してはとりあえず諦め、シンはてきぱきと話を進めていくカイの姿をぼんやりと眺めながら考える。シン達三人を学校へ通わせるにあたって一番盛り上がってるのがカイなのではないかということと、カイ自身は一度も学校へ通ったことがないということは、もしかしたら何か関係があるのかな、という何の益体もないことについてだ。
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