※オフ本のサンプル
※ぽんこつサキュバスちゃんな守護天使14歳(♂)をひたすら聖ソルがいてこますソルカイアホエロ短編集です。
※以下の要素を含みます。
 淫紋 / アナニー / 視姦 / 想像妊娠 / ボテ腹 / 授乳プレイ
 他にも特殊性癖寄りの内容が含まれる可能性があります。
※自分の性癖にしか配慮していない感じの本なので何でも大丈夫じゃない人にはお勧めできません。
※いつもよりきもちエロ描写が露骨なのでサンプルに短編4本のうち1本まるまる載せています 判断の目安にしていただければ幸いです。
※高校生含む18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。


















01


 カイはパリに住んでいる十五歳の男の子。天涯孤独なので両親はわからないけれど、十歳の頃に戦場で拾われ、聖騎士団で大切に育てられていました。もともと戦いの才能が豊かだったカイはめきめきと頭角を現し、今では一個小隊のリーダーを務め、守護天使の役で呼ばれています。
 生まれこそちょっぴり変わっているものの、カイはごくふつうに育てられ、ごくふつうに修練を積み、ごくふつうに成長していました。近頃では思春期にさしかかり、目つきの悪い男の人と、なにかと反発し合ったり張り合ったりして大人の階段を昇り始めていましたが、ちょっとばかり滅びかけの世界の中で、それでも健気に生きているふつうの男の子でした。
 でも、ただ一つ、違っていたのは……。
 カイという男の子は、先天性の淫魔だったのです。


 その日はからりと晴れて気持ちの良い青空が広がっており、カイはひどく上機嫌だった。だから廊下もスキップしながら進んでしまう。なにしろ近頃はギアの襲撃も少ないし、お天気が続いているから洗濯物もよく乾くし、「あいつ」とも会っていないし。確か彼はエチオピアくんだりまで遠征で飛ばされていたはずだ。出掛けていったのが大分前だから、そろそろ帰ってきてもいい頃ではあるけれど……。
 あんまり長く会っていないので「おつとめ」の方もご無沙汰だ。でも、今のところそれで困ったこともあんまりない。だいたい「おつとめ」はきもちいいけどすごく疲れるので、あいつが団にいる時みたいに頻繁にやられると、肝心の戦いの時にへろへろになってしまいそうで大変なのだ。あいつといったら加減を知らないし。普段は口を尖らせて「ガキのくせに」とかバカにしてくるのに、「おつとめ」の時は全然優しくしてくれない。なんのための子供扱いなのだ。むかつく。
 というか、そもそも、「おつとめ」が必要になってしまった自分が良くないのだ。
 彼がいない間、身体が甘く疼く度にカイはそうやって自分を戒めた。十四歳になって目覚めるまでは全然そんなことなんかなかったのに! あいつと出会い、目覚めてしまった自分の本能を、何度恨めしいと思ったかわからない。
 まるで弱みを握られているみたい。
 それを思うと、急激に、スキップはとぼとぼのろのろした歩の進みになってゆく。カイはいつの間にかがっくりと項垂れていた。本当、あの日の「目覚め」さえなければ。いや、「目覚め」だけならばともかく、その勢いのままあいつと契約なんかしてしまわなければ……。
「はあ……」
 さんさんと降り注ぐお日様の陽気は変わらないのに、カイの気持ちだけがどんどん沈み込んでいく。おまけにじくりと下腹部が疼いて、カイはますます沈鬱な気分になる。
 はあ、もう、帰って寝ようかな。
 そんなことを考えて物思いに耽っていると、不意に何かがカイを後ろから持ち上げた。
「――おい、ガキ」
 ふわりと身体が浮かび上がり、ぶらぶらと背中から宙づりにされる。カイは驚き、同時に腹が立って、がばりと後ろへ振り返った。こんな乱暴なまねをするやつは団の中に一人しかいない。あいつだ。……あいつがエチオピア遠征から帰ってきたのだ。
「ガキじゃありません! 失礼なことを言うな! ……一体何の用ですか、ソル=バッドガイ」
 じっとりした目で見上げた先には、最近ご無沙汰していた男の顔がある。長い間激戦区へ放り込まれた帰りだとは思えないほどすっきりした精悍な顔立ちは、悔しいけれど、今日もやたらと格好がいい。
 きゃんきゃん吠えたカイに対し、ソルは非常に胡乱な顔つきをして、は、と小さく笑った。それから彼はカイを宙ぶらりんにしているのとは別の方の手でカイの身体をまさぐり、あるものを手に取る。
「坊や、本部待機で暇をもてあましてるくせに鏡も見てねえのか。どうした、この尾っぽは」
 それから、勝ち誇ったような嫌味な目つきをしてにやにやとカイに向かって笑いかけた。
「……え。あ。う、うそ!!」
 なんたる失態! カイは顔を真っ青にして、ソルが気安くつまみあげた尻尾を服の中に押し込んだ。ソルの嫌味が頭の中を駆け巡る。鏡は確かに見ていなかった。本部にいて、お天気もよくて平和で、気が緩んで……でもまさか、しっぽが出てしまっていたなんて。それも昼間から。カレンダーにつけていた予定日より三日も前に!
 確かに、近頃はご無沙汰していた。でもこれまでは、予定日より早く「あれ」が来てしまうなんてことはなかったはずだ。ああ、どうしよう。どうしよう! しっぽが出ている以上、毎月の「あれ」が迫っているのは事実。カイは「あれ」が来る頃が一ヶ月で一番憂鬱だった。だって「あれ」の時期は、まるで自分が自分でなくなってしまうような瞬間が多々あって、夢見心地でふわふわ浮ついて、へんになってしまうのだ。
「もう近いんだろ、発情期」
「そっ、そんな直接的な言い方、やめろ!」
 なんてもごもご考え込んでいると、ソルの無遠慮な声が容赦なく背中に降ってくる。カイは唇を噛みしめて、廊下の床と対面している顔をかあっと赤く染めた。
 そう、「あれ」とは、淫魔の発情周期のことだ。月に一度巡ってくる、必ず「おつとめ」しなければいけない時期。淫魔とは切っても切り離せない、因果な生理現象。これをちゃんとしないとものすごい飢餓感が襲ってきて、頭の中が精液のことでいっぱいになって、他の物事がろくに手につかなくなってしまうという、最悪の時期だ。一回やったので知っている。
 あの後はひどかった。まだ淫魔のさがに目覚めて三ヶ月ぐらいの時だ。思い出すだけでも恐ろしい話だが――カイは自分が自分だと信じられなくなるような勢いでソルの精液をおねだりした。そして搾り尽くした。後になってソルは「無理がたたって反動がものすごいことになってしまったのだろう」とか言っていたが、それを伝えてくるソルの方も一度に精気を絞られすぎてぐったりしていた。
 だからなのだろう、それ以降ソルは、月に一度と言わず、定期的にカイを拉致って「おつとめ」をするよう言い渡すようになったのだが……。
「それ以外になんて言やいいんだよ。大体なあ、尾だけならまだ隠す方法もあるが、この調子じゃ、今に角やら翼やら、出てきちまうんじゃないか。早いとこ引っ込めた方がいいだろ」
「わ、わかってます……。でもほんとは、ものすごく、いやなんですよ!」
「俺だって付き合わされてる身だぞ」
「勝手に契約したのはソルでしょう!? ……いえ、まあ。手間を取らせているのは事実です。部屋……いいですか」
 押し問答に負け、がくりと項垂れてカイが訊ねる。するとソルは「ああ」と緩慢に頷き、つまみ上げていたカイを肩に担いだ。その持ち運び方はどうなんだと正直思うのだが、発情周期が来たカイを運ぶ時、ソルはいつもこうする。肩に担ぐ方が色々なものが安定するんだと彼は言うが、何が安定するのかはよく知らない。




 生まれてこの方十数年間、敬虔な基督教の信徒として生きてきたカイの平穏な生活は、数ヶ月前唐突に終わりを告げた。
 その日以降、カイは十字架に触れられなくなった。聖なるものに突如身体が拒否反応を示し、無理矢理触ろうとすると焼け付くような痛みに襲われ、どうして、何故、と覗き込んだ鏡の中には、およそ人にあらざるべき生体部位を持つ己の姿が映り込んでいた。
 角と翼、それからしっぽ。聖書に描かれる悪魔が備えているそれが、自分の身体から生えている!! カイは混乱し、深く考える余裕もなく向かいの部屋へ駆け込む。そうしてソルの布団に潜り込んだ。
 しばらくして部屋にソルが戻って来る。そして当然のように膨れた布団をひっぺがし、その中にカイを見つける。カイは覚悟したが、その日ばかりは、いつもなら一言目に出てくる「帰れ」「出てけ」という罵りをソルも噤んだようだった。それから彼は、ハロウィンはまだ先だぞという言葉を呑み込んだような顔で、「冗談とかじゃねえんだな?」とカイへ訊ねた。
 その後一悶着があり、すったもんだの末判明したのは、十五の誕生日を切っ掛けとしてカイに眠っていた淫魔のさがが目覚めたということであった。
 にわかには信じがたいが――というかカイは今でもまだ信じ切れていない――カイの中には淫魔の因子が眠っていて、それが中途半端なかたちで覚醒してしまったらしい、というのが、二人が行き着いた結論だった。いきなり生えてきた角やら翼やらは淫魔としての身体が「空腹」になってしまったことを示すサインで、淫魔の主食である精液をたらふく摂取することでしばらくは消えてなくなる。でも「おなかがすく」とまたにょきにょき出てくる。その間の周期が大体一ヶ月。
 だからカイは月に一度、必ずソルに助けを請わねばならない。だって「精液をください」なんてお願いごとが出来る相手はソルだけなのだ。レオにも、ベルナルドにも、クリフ様にも、絶対にこのことは知られたくない。だから仕方なくソル相手に「おつとめ」をしている。仕方なく!
「というか、契約しちゃうと、契約相手の精気しかエネルギーに出来なくなるんですけどね……」
 ソルの部屋に連れ込まれ、ベッドに腰掛けた彼の前に傅くように位置取ってカイがぼやくと、ソルはベルトを外して前を寛げさせていた手を一度止めた。彼は怪訝な顔つきになり、「返答次第ではただじゃおかない」という目つきでカイを睨んだ。
「なんだ。まさか試したのか」
「いーえ。親切な吸血鬼のおじさまが教えてくれたんです。最近は淫魔もめっきり数を減らして、というか実は絶滅してたらしくて、幽霊でも保護するように手取り足取り教えてくれましたよ」
「何やってんだあのジジイ……」
 インナーをたくしあげ、丁度へそのあたりに浮かび上がった印をカイが手慰みにさする。カイの返答に緊迫していたソルの目つきは和らぎ、代わりにげんなりした声を出した。口ぶりから察するに、吸血鬼のおじさまとソルは知り合いらしかった。あれだけ淫魔の生態に詳しい人と旧知の仲だというのなら、こんな印をカイに付けてしまう前に、このあたりのことも勉強してきて欲しかったものだが。ついてしまったものはもう消せない。後の祭りだ。
 腹部に刻まれたピンクの紋は、数ある「淫魔の証」の中で唯一、精気をたくさん吸っても消したりしまったりすることが出来ない困りものの印だった。どうもこの紋様、正確には、特定の人間との契約が成立した淫魔に刻まれる契約の刻印なのだという。
 子宮を象った濃いピンクの紋様は「スケベの証明みたいなもんだろ」と何故かソルには好評だが、カイにとっては恥ずかしい以外の何物でもない。なにしろ欲求不満になるとじくじく疼くし……ソルの精液が貰えると思った途端にずくんと衝動がくるし、中にソルのものが入ってる時は頭がおかしくなるぐらいお腹の奥があつくなって、赤ちゃんが出来ちゃうんじゃないかという気分になって仕方がなくて……。
「そ、そんなことよりですね! 早く始めて、さっさと終わらせてしまいましょうよ!!」
 そこまで考えが及んだところではっとして、カイはぶるぶると首を横へ振るとソルの手を握り取った。再びベルトを外す作業に戻ったソルの手が豪快にズボンやら下着やらを脱ぎ捨て去り、ほどなくソルの中央で存在を主張するいちもつが姿を現す。
「……あ……」
 それを見た瞬間、ごくりと生唾に喉を濡らしてしまい、カイは自己嫌悪で胸がいっぱいになった。勃起しはじめているそれが目に入っただけでお腹の奥がきゅんと締め付けられるような心地になり、期待に胸が高鳴る。つらい。自分の身体がなにより憎たらしい。
 ああ、もう、やだなあ! カイは内心で独りごちた。なんてはしたないんだろう。現金というか。我慢がきかないというか。なにより、ソルの大きくてかたくて熱くてごりごりしてすごいあれに夢中になる自分を知っているから……ほとほと、嫌になるのだ。
「……あー、濡らすもん切らしてるな。まあ……淫魔はそのへんどうとでもなるし、平気か」
「……実際なんとかなるのが悲しい……」
「なんて顔しやがる。オナニーもろくに出来ねえテメェのためにこれから一肌脱いでやろうって言うんだぞ、俺は」
「あなた勝手に契約したぐらいですし嫌々というより楽しんでやってるんでしょう!? 知ってるんですよ!!」
「……。ちんちくりんの坊やが感度だけはいっちょまえにしてセックスねだってくるのがかわいくないと言えば、まあそれは嘘になるな。おいごねるな、やる気があるならさっさとまたがれ」
「言われなくてもそうしますよ!!」
 ただでさえくさくさした気持ちだというのに、ソルときたら傷口に塩を塗るような事ばかりまくしたてる。そのせいで逆に吹っ切れてしまい、お望み通りさっさと終わらせてやろうと決意してカイはソルの雄に手を伸ばした。
 またがれと言われたものの、まず最初は口で奉仕するのが淫魔の「マナー」なので(というように吸血鬼のおじさまが渡してくれた文献には書いてあったのだ。本当だ)、両手でずっしりとした幹を支えながら鈴口へ舌を這わす。ちろちろと舐め、つう、と滴っている液体を舐め取る。透明な先走りの方はなんだかよくわからない味がするのでそんなに好きではないのだが、これをがんばって舐めているとそのうち精液が出てくるので、いつもなんとか飲み込んでいる。
 ソルに言わせると、カイは「信じられないぐらい奉仕がへたくそ」で「テクニックもくそもない」うえ「イくのだけはいっちょまえで早漏」と三拍子揃った「淫魔失格物件」らしく、特に口での奉仕はあまり楽しそうに受けてくれない。一生懸命舐めながらちらと上を見遣ると、今日もなんだか微妙な顔をしてカイの頭をくしゃくしゃ撫でていた。でも、契約してしまった日からずっと、ソルはカイに「下手なんだからやめろ」と言うことをせず辛抱強く付き合ってくれている。
 竿を指先でぐにぐに揉み、時々陰嚢にも手をつけて、亀頭をちゅっちゅと吸い上げる。早く精液出ないかな。口で奉仕している間はいつもこのことしか考えられない。精液は―特に契約相手のそれは、淫魔にとっては最高の御馳走なのだ。麻薬みたいなものだ。これがないと文字通り生きていかれなくなる。カイはまだ症状が軽微な方だが、文献には、毎日「おつとめ」をしないとだめな身体になって、契約相手が死んだ後を追って衰弱死してしまった淫魔の話がたくさん載っていた。
 そう考えると、契約とか「おつとめ」は、実はものすごく危険な行為なのかもしれない。でもご奉仕をしている最中は、そんなことはどうでもよくなる。とにかく一秒でも早く、たくさんの精液が欲しい。
 摂取方法についても、本当は腹で摂取するのが一番効率がいいらしいんだけど、口から食べる方が味覚的に美味しいし、手軽に淫魔の調子を整えてくれる。だから最初に口で奉仕をして、それから中に出してもらうのが淫魔の一般的な手順になっている。これも文献にそう書いてあったので多分正しい。
「……あ」
 たっぷり数分かけて、なんとか一番目の射精をしてもらう。たまたま口を外していた瞬間に射精が訪れたので慌ててしゃぶりつき、口をすぼめて喉の奥へと吸い取った。唇と舌の動きでなんとか搾り取ってごくごく嚥下していく。五臓六腑に精液が染み渡って淫魔としての感覚が研ぎ澄まされていくのがわかる。
 ああ、なんだか、調子出てきた。そろそろ、先んじて出ていたしっぽに加えて角と翼も出てきた頃だろう。カイは最後にもう一度じゅるりとソルの陰茎を吸い上げて唇を離し、恍惚とした表情でソルを見上げる。
「美味しい……」
「そうか」
「はい。どろっとして……すごく濃くて……もしかしてソル、最近あんまり出してなかった?」
「オナニーより気持ちいいことが目白押しだったからな」
 ソルがにっと犬歯を見せて嗤う。そうだった。この男は戦闘狂なのだ。ギアを殺し、その悲鳴を浴びる瞬間がものすごく気持ちがいいんだという。
 きっとカイの稚拙な奉仕の何倍もその方が良いのだろう。それを思うと複雑な気持ちになり、カイはむしゃくしゃした気持ちに衝き動かされるまま腰掛けたソルの太ももの上へ乗り上がった。
「ん……」
 すっかり慣れてしまった手つきで尻たぶを引っ張り、出来る限り穴を広げて、そそり立つ男根の先端をそっと入り口に押し当てる。硬い肉が自分の身体を擦る感覚、それから、期待にのぼせあがった胎内がきゅうと反応する感触。それらを無理矢理押し殺すように、ぱっくりと開いた穴の中にがちがちになったものを受け入れていく。
「――ぁ、き、た、ぁ……」
 そうして待ちわびていたものを身体の中へ迎え入れた次の瞬間、カイの身体は大げさなぐらいにびくりと跳ね上がり、視界はちかちかちして真っ白になり、あっさりと果ててしまった。
「おい、大丈夫か」
 この常ならざる性急さには流石のソルも面食らったようで、彼は珍しく狼狽した様子で腰の上を跳ねる身体を抱き留め、急くように尋ねた。揶揄する調子がなく、慮りの色が強い。でもカイの方にはそんなソルの機微に気付く余裕もなく、ただがむしゃらに、身体の奥底からわき上がる欲望を求めてしまう。
「だ、だいじょぶ、です、ずっと欲しかったの、きて、よすぎて……それで、」
「んなアホ面晒して大丈夫もクソもあるか、ったく、だから長期遠征は嫌だと言っておいたのにあのジジイ」
「あっ、ぁ、クリフさまは、わるくないんです、わたしが……おねがい、した、から……んっ」
 荒く喘ぎ、ソルに身を預けて生っぽい息を吐く。もう駄目だ。理性なんかどこにもない。それまでどんなにソルと口げんかをしていても、怒り狂ってソルなんか大嫌いと連呼していても、中に挿入されてから一度でも絶頂を迎えると、カイはあっという間に理性をなくして頭の中を「おつとめ」に支配されてしまうのだ。カイ自身正気でいる時はとても信じられなくて穴があったら入ってしまいたいぐらいなのだが、これは淫魔の持つ共通の特性であり、何をしても逃れられない制約なのだという。
 なにしろ淫魔の本懐は精液を摂取することにある。胎内に男性器が埋まっているということは、即ち精液を手に入れるチャンスだ。これを逃すわけにはいかないので、淫魔といういきものは皆、絶頂をスイッチにして強制的に目的意識を切り替えてしまうらしい。
 恍惚とした表情で甘ったるいなき声を上げ、カイは、はやくはやく、と急かす代わりにソルを飲み込む作業に没頭した。受け入れはじめを対面座位の格好ではじめたので、いきむ必要もなくどんどんとカイの自重で身体が沈み込み、ソルの巨根がずぶりと胎内へ入り込んで行く。
 カイは苦虫を噛み潰したみたいなソルの目をぽやぽやと見つめた。彼は躊躇っていた。しかしそんな躊躇いとは裏腹に、彼の屈強な男根はどろどろに蕩けた肉を猛烈な勢いで割り開いてしまう。こんな速度で中に挿れるなんてそうそう出来ない芸当らしいのだけれど、何しろカイの身体は淫魔のそれなので、人間同士のふつうとか基準とかいうものは全然あてにならなくて、とにかく、「おつとめ」に向いた構造をしているせいでこうなってしまうのだ。
「あぁクソ、エチオピアとかいう僻地に急に飛ばされた理由はテメェか、このアホが! そりゃ確かにあそこには支部がないが。どうも変だと思ったんだ。それで俺を遠ざけておいてこんなになってちゃ、世話ねえな。危機感ぐらい持て、契約してなきゃ、無差別に団員を襲ってたかもしれねえんだぞ」
 ソルが舌打ちをする。その音が異様に強く頭の中で響いて、それだけで身体が上り詰めてしまいそうになる。ずっぷりと咥え込んだ男性器を食み、カイはぼんやりした頭に残された少ない意識を下腹部に集中させた。
 ここをきゅうと締め付ければ、そのうちお腹いっぱい精液を食べさせて貰える。カイは未熟な淫魔だが、それでも淫魔としての機構はしっかり兼ね備えているので、「確かに奉仕はへたくそ」だけど「身体は気が狂うほど抱き心地が良い」らしいし、「テメェ相手じゃなきゃこんなに早漏じゃない」と文句をつけられるぐらいにはすぐにソルに精液を出してもらうことが出来る。
「ん、ぅ、はやく……ください、よ……」
 精液欲しさに一心不乱になって腸壁を締め付けると、ソルが低く呻いた。ソルの言葉を借りれば、カイの中は信じられないぐらいあつく、小刻みに襞がうねり、それがソルの茎を丁寧に舐め回して射精をねだる「悪魔のかたちをした搾精機械」であるらしい。彼は常々、どんなに厳しい戒律を己に課した聖職者であろうと、これにかかればひとたまりもないだろう、と行為のあとにぼやいた。「俺じゃなきゃもう十回ぐらい死んでる」も彼の口癖だった。カイの方にはそんなつもりは全然ないけれど、確かに三回に一回ぐらい、ソルは精魂尽き果てたようにげっそりとやつれてカイを抱きしめていることがあった。
「ね、ほら、私のおなか……こんなに押しあげられて……ソルのかたちになってる……」
 とはいえ、おつとめの最中は精液をもらうことしか頭に残っていないので、ソルがどれだけやつれようとカイにとって知ったことではない。カイは己の薄い腹をぼこりと押し上げているソルの昂ぶりを皮膚と内臓の上からうっとりと撫でた。淫魔の紋、その中央のハートを象った部分がちょうどてっぺんにぶち当たって膨れあがり、なんとも下品な光景を作り出している。カイの身体が小さいその上、ソルの男性器が規格外に大きいので、本気で交わるといつもこういうふうになる。そしてそのことを口に出して教えてやると、どうも、ソルの男根はますますいきり立ってしまうらしいのだ。
 だから今、カイは分かっていてそれを見せつけた。こうしたらもっとソルが気持ちよくなって、いっぱい精液をくれると思ってそうした。するとソルのこめかみに青筋が浮かぶ。同時に、それまでカイを慮っていたソルの表情がぐしゃりと歪み、彼はけだものの如く喉を鳴らして深く息を吸い込む。
「いっちょまえに誘ってんじゃねえよ、このクソガキ」
 そして吐き出された声は地を這うよりも低く、熱に浮かされ勃起しきった陰茎をカイの肉壁に扱かれている最中だとは思えないほど冷め切っていた。
「確かに、ああそうだ、テメェは淫魔だからな、身体自体は雄を誘うように出来てるんだろうさ。だが俺はそんなまねを教え込んだ覚えはねえな。一体どこで覚えた? 俺がいないたった半月の間に、どこでだ?」
「え? え、やだ、ソル、どうしたんですか?」
「答えろ。じゃなきゃテメェの大好きな精液はやらねえよ」
「――! そ、そんな……」
 それまでカイの腰を支えてくれていたソルの大きな手が離れ、カイの尻から伸びたしっぽを乱雑に掴み取る。カイは絶望的な心地になった。精液がもらえない。それは淫魔にとっての死を意味する。しかもそれだけじゃない、ソルはカイの尻尾をいやらしい手つきでなぞりはじめたのだ。
 淫魔には――正確には発情期になったカイには無数に性感帯があって、正直契約相手に触られていればどこもとても気持ちが良いのだけれど、しっぽを撫でられることだけは大嫌いだった。掴まれる程度なら別にいい。でも撫でるとなると、まるで話が違ってきてしまう。
 しっぽはカイにとって特に感度のいい場所のひとつで、意図をもって触れられれば触れられるほど、官能が高まり、腹に溜まった欲求が大きく膨れあがる。でも膨れあがるだけで終わりがない。外性器なら射精をしてすっきりすることが出来るが、しっぽにはそういう果てがない。ただ緩慢にびりびり痺れるような快感が積み上げられ、無制限に上り詰めるだけで、どこにもいけない。地獄だ。
「やだ……やめて……しっぽは、いや……!」
「ならさっさと本当のことを言え」
「ほ、ほんとうのことって。だって私、ずっと、ソル以外とこんなことしてないのに」
「ならあんな誘い文句どこで覚えたって言うんだよ」
 精液がもらえないという事実がカイの脳内を埋め尽くし、頭の一部がすっと冴え渡っていく。執拗に尾を撫でて腰は微動だにしないソルに、カイは涙でそうなったのか性感が高まりすぎてそうなったのかわからない潤んだ瞳を向け、絶望的な心地で訴えかけた。
「こ……この前! ソルが言ったんじゃないですか! 私のおなかをゆびさして……『俺のかたちになってる、わかるか』、って……!」
「…………なに?」
 涙目の訴え。効果はてきめんだった。
 ソルはまず面食らったような顔つきになり、それからものすごく気まずそうにもごもごといくらかの言葉を飲み込んで張り詰めていた息を吐き出した。次に彼はふるふると首を振り、カイのしっぽからぱっと手を離すとそのままこめかみに手のひらを宛てる。
「ああ……そういや、そうだったな……」
 そうして、耳を澄ませていなければ聞こえないぐらいの極小さな声で「悪ィ」と呟くと、最後に勢いよくカイの身体を突き上げた。
「――ッ、あ、あぁっ、ゃ、あ、あぁっ――!」
 それまで身じろぎもしなかったものを急激に押し上げられたものだから、さしもの淫魔の身体も突然すぎて対応出来ず、カイはなされるがまま声にならない悲鳴を上げた。しっぽを撫でられていた時に溜まりに溜まったフラストレーションが、力強い突き上げで全て塗り替えられていく。じりじりした快感が強烈な電流に似た快楽に成り代わる。
 きもちがいい。言葉にできないほど。だからあまりにも気持ちが良すぎて、なにもかも真っ白になる。
 ぬるぬるした内壁を乱暴に擦り、猛烈な勢いでピストンをするその度、ぬちゃりぐちょりと淫猥な音がしたたかに鳴り響いた。抜き差しされる度に結合部が泡立ち、ぐちゅぐちゅになって、じゅぷりごぽりと不透明な液体が零れ落ちていく。肉が引き攣れて泡立つ液に、朱が混ざるのはすぐだった。柔軟性に富み、ソルの傲慢ないちもつを難なく受け入れられるはずの淫魔の身体が、あまりにも乱暴な抽挿に耐えられず、はじめての時以来の血を流し始めたのだった。
「あー……良すぎて全然頭まわんねえ……」
 カイの細腰を両手でがっしりと固定し、上下に揺すぶりながらソルがぽつりと漏らす。ソルの目は獰猛に光り、瞳孔は縦に開ききって黄金色に染まっていた。
 その双眸に目を奪われ、はっとする。激しく身体全体を揺すぶられ、腹の奥底を突かれ、有り得ない場所まで男根を咥え込み、はしたなく抱きついて必死に搾り取ろうとしている肉体と、ソルに釘付けにされた精神とが、カイの中で乖離していく。
「ソル……そる、ください、わたしの奥へ、おなかいっぱい……!」
 腹に刻まれた淫魔の証がじわりと光り、カイの身体の一番深い場所を刺激した。カイは自分が持てる全てを込めてソルの身体を抱きしめた。両腕で彼の逞しい上体を抱き、腸壁でははちきれそうに膨れた男根を締め付け、みずみずしい唇でソルのかさついた唇にキスをした。
 ほどなくしてソルは鼻から息むような声を上げてカイの奥へしとどに精液を吐き出した。射精の最中、ソルは触れていたカイの唇に噛みつき、そこから滴る血を舐め取った。カイはそのことに何も言わなかった。
 ただ、一番きもちいい場所にたくさんの御馳走をやっと出してもらえて、満足感で胸をいっぱいにしながら目を閉じた。


◇◆◇◆◇


 それから、カイはなまぐさい臭いで目を醒ました。
 なまぐさいと言っても「おつとめ」の時にあたりを充満しているそれではない。それは戦争の臭いだった。
「……ソル?」
 むくりと起き上がろうとして、身体がまったく思うように動かないことに気がつく。仕方がないので目だけ開け、きょろきょろ見回して探すと、窓際の椅子に腰掛けて煙草を吸っているソルの姿が目に入る。
「何してるんですか……」
 ああ、ではこれは、血と煙の臭いか。カイにとって戦争とは、煙と血と腐臭、それからソルが吸う煙草の臭いが混ざったものだ。そのうち二つが揃っていたから錯覚してしまったのだろう。
 けれど何故? 煙はわかるけど、血なんて、どこに……。
 カイは怪訝に思って自らの身体に目を遣る。そして視界に入ったあまりの光景に、思わず「うわ!!」と素っ頓狂な声を上げた。
「ひ、ひどい。なにこれ。私の身体中血まみれっていうか……噛み痕だらけなんですけど!!」
「……あー、なんだ、起きたか。悪い。テメェがあっさり気絶しやがったもんだから、欲求をもてあましてあちこち噛んじまった」
「もてあまして噛むな!!」
「そりゃねえだろ、あんなに煽っておいて速効寝落ちたくせして」
 カイが目を醒ましたことに気がつき、ソルがじっとりとした眼差しを向けてくる。カイはたじろぎ、しかしすぐにこんな目つきに負けてはいけないと思い直してぶるぶる顔を横へ振った。
「すみませんが、あんなに煽っておいてとか言われても、記憶にないので。私に残された結果は何故かあちこちに噛み痕を付けられ出血した身体だけです」
「まあ噛まれたことを覚えてねえのは仕方ないだろうな。テメェが意識失ってからやったし」
「えっ嘘……ちょっとよくわからない……」
「中挿れたまま無抵抗の坊やに噛み付いてまわるのもまあ悪くなかったぞ」
 ソルが冗談めかして言った内容にカイは一瞬で凍り付き、言葉を失う。一体何がどうしてそうなってしまったのだろう。もしかしてソルには元々そういう趣味があったとか? カイは恐ろしい空想に自問自答をした。たとえばその……意識のない人間相手に無体を働くとより興奮するとか、そういう……。
「私以外にはしちゃだめですよ、そういうの!」
「するかよ。それより……もう治っただろ、身体の方は」
「あ……そう、ですね。確かに。角もないし……しっぽと翼の感覚もないし……お腹もいっぱいになったみたいだし……」
「当たり前だ。たったの一発であれだけ絞り取っていきやがって」
「……そんなに食べました? 私……」
 ソルがケッと悪態を吐くが、カイの方には全然身に覚えがない。「おつとめ」の最中何をしていたか、理性を飛ばしてしまった後の事に関しては、ちゃんとした記憶がカイには残らないのだ。たぶん、カイがまだ淫魔としては未熟なので、身体にかかる負担を軽減するとかそういう目的で脳がどうにかしてしまうんだと思う。
 だからいつも「おつとめ」のあとにカイに残されるのは、身体中を満たす絶対的な充足感と、身体を重石のようにベッドへ縛り付ける重度の疲労ばかりだ。淫魔って本当に損な生態をしている。
「ソルばっかり気持ちよくなってずるい……」
「言ってろ」
「おつとめの後って、なんとなく気持ちよかったなあっていう気分と、ご奉仕の記憶しか残ってないんですよ。これじゃ私、そのうちパブロフの犬みたいになって、ソルの舐めてるだけで気持ちよくなってしまいそう」
「それはそれで結構だが、どうせ精液絞り切るまでテメェは満足しねえよ」
 煙草を口から離し、ソルがげっそりしたふうにぼやく。本当に全然覚えがないのだが、一体どれだけ御馳走させてしまったのだろう。カイは怖くなり、それ以上のことを考えないように決めた。ソルが嬉々として嫌味を言ってこないということは、そういうことだ。
「それより、私、もう二度とわざとはあなたを遠くに行かせません」
「ああ、そうした方がお互い身のためだな」
「こんなにしっぺ返しが手ひどいなんて思ってなかった。ソルがいない間は、ふつうに暮らせていたので。なのにあなたが帰ってきた途端しっぽが出るわ発情期は早まるわおつとめ後のソルはげんなりしてるわで、いいことなしですよ、本当」
「俺もだ。エチオピアで気持ちよくギア共を殲滅したと思って気分良く帰ってきたらこのざまだからな。発情期が来てないからといって坊やを放っておくとろくなことにならん……」
 椅子から立ち上がり、ソルがこちらへ歩いてくる。彼はばっと掛け布団をはぎ取ると、生まれたままの姿をしているカイの肌へ事務的に手を掛け、ひとつひとつ噛み痕を確かめた。そうしていくつかの目立つ傷に治癒術をかけ、きれいさっぱり消してしまう。
 普段なら「なんでもかんでも法術で治すんじゃねえ、自己治癒機能がいかれるぞ」と口を酸っぱくして咎めてくるソルが、カイに治癒を施すのは本当に珍しい。けれど、その理由は考えるまでもなかった。ソルが消した跡は、どれもこれも、カイが普段着ている服では覆い被せない箇所に付けられたもので、いつものソルだったら絶対に噛み付いたりしないようなところにばかり付けられて鬱血していたのだ。
「珍しいこともあるものですね」
 そのことを察して言うと、ソルは「さてな」とカイから目を背けて呟く。照れ隠しみたい。カイは思った。ここで目を背けないで顔を見せてくれたらもっといいのに。
「ねえソル、顔を見せてくださいよ」
「今は無理だ」
 ソルの答えは素っ気ない。でもその言葉は奇妙に暖かく、カイの腹部にじんわりとした熱をもたらす。
「やっ……」
 甘噛みのような疼きに耐えかねて思わず声を漏らすと、ソルが勢いよくカイに顔を向ける。振り向いた直後は緊張していたソルの面持ちが、カイの上気した頬と手のひらに押さえられた紋様を見てすぐにすうっと落ち着きを取り戻していく。
 彼はしばらくカイの腹をじっと見つめていたが、やがてぽりぽりと頭を掻き、「次はもうちょっと加減してやる」となんだか困ったふうにぼやいた。


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