あとがき

 フレデリック=バルサラという人間の死について向き合おうとしたとき、彼がどのように死を遂げたのか、誰に殺されたのか、飛鳥=R=クロイツは何を考えて何が起こるか分からない種子を親友の喉元に打ち込んだ挙げ句「生きてて良かった」ではなく「賭けに勝った」と表現したのか、とにかく色々なことがうまくまとめられなくて、こういうかたちになりました。少し長くなりましたがこれがBEGINの感想文です。テーマは「フレデリック=バルサラの完璧な二度目の殺害」。そういう感じで私にしては珍しく、最初から書きたいものが道筋まで含めてしっかり決まっていたので、タイトルも最初から(とういかBEGINを読む前から)これに決めていました。誰が、ロックスターを、殺したのか。その問いに対して私が出した答えが、ちゃんと伝わっているといいなあなどと思います。
 もともと〝Video Killed the Radio Star〟という曲が好きで、この話の冒頭でラジオから流れていたのもこの曲なのですが、タイトルはこれをうっすら下敷きにしたもじりだったりします。もうあんまり、原形がないんですが……。ちなみにこの曲、一話で触れたとおり邦題が「ラジオ・スターの悲劇」になっていまして、そのへんも意識してモチーフに取り入れました。ギルティ世界は一九九八年までは恐らく我々の歴史と同じ道筋を辿っているはずなので、この曲自体は、フレデリックは知っていたんじゃないでしょうか。ものすごく有名な曲だし。
 BEGINのラストで飛鳥に撃たれ、フレデリックは己の名前と過去を棄て化け物として生きる覚悟を決める——という一連の流れを見たとき強く感じたのが、フレデリックという男にとって、凶暴なふるまいや荒々しい言葉遣いは、「モンスターとしてのアイコン」なのかもしれない、ということでした。それまでわりと言葉遣いがまとまっていた彼が、自分が化け物になっていると自覚した途端、口調までも荒々しく変わるとか地の文で細くフォローされているのを見て。ああ、この人は、きっとヒーローになりたいと思ったことなんかなかったんだなと思わずにいられませんでした。彼は普通の男の子で、普通の人間で、恋人とありふれた家庭を築いて、普通に老いて死ぬつもりで……生きていたのかなと。
 そんな彼に「そういうことならお望み通り死んでやる」と言わせ、「今日から俺は何者でもない」と彼が大切にしていたものを根こそぎ奪い取り、果ては「ただの一匹の化け物で、お前の敵だ」とまで言わしめた飛鳥は、なんかこう、自分がしでかしたことの重さを……どうなんだろう。わかってるのかな。わかってたら、友達に嫌われるのが怖いとか、今更あのタイミングで言わないような気もするんだけど……どうなんだろう。修士論文と殺人はわけがちがうんだぞ。


 今回意図的に「カイ=キスク」という名前を封印して書いていて、ずっと「エンジェル」って呼び続けたので「一体自分は何を書いているんだ……?」と何回か自分を見失いそうになったのですが、今更ですけど、あれは全部カイです。カイ=キスクです。なので全編フレカイです。エンジェルという名前は、最初もうちょっと捻ろうかなと思ったんですが、「いや……カイキスク熾天使だしな……」と私の中の私が据わりきった目でこちらを見てきていたのでシンプルに落ち着きました。なので名残で、飛鳥だけアンジュ(愛称)と呼んでいます。
 書きたかった内容はいろいろあって、フレカイおねしょたプレイとか、あと、カイがギアを殺すときの無慈悲さとか。でもなにより、ラストが書きたかった。エンジェルという名前をあてられた青年と過ごしたフレデリックだった男が、それに関わる記憶の何もかもを失い、けれどラストに「おまえは天使か」と問う。しかしそれに守護天使はいいえと首を振る、そういうなんか……そういう……あれが……書きたくてずっと進めていました。すみません。語彙力がない。
 ソル=バッドガイはよくカイのことを「あいつは嘘だけは吐かない」と表しますけど、私からすれば、彼はギルティギアという物語の中で一番の秘密主義で、結果的に一番嘘を吐くのが上手なひとだな、と常々思っています。あの人は本当のことを全部は言わないんですよね。嘘で塗り固めないだけで、全てを教えてはくれない。だから十歳までのことは何もわからなくて、きっと家族も彼がギアということを知らなくて、そういうことを考えながら彼とフレデリックの過ごした日々に思いを馳せたんですが、いかんせんちょっとフレくんのかっこいいシーンがあんまりなかったような……。ソルくんは思いきりかっこよく書いたので、それと一応対比にしてあったりします。ソルくんはゴムもローションもぜんぜん持ってないけど、フレくんはちゃんとゴムつけてローションで濡らしてくれるよね、みたいな。フレデリックでもソルでもないバッドガイくんは、その中間なので、あればたぶんローションは使ってくれる。あと蜂蜜プレイとかもしてた。絶対してた。テメェの髪みてえだろとかよくわかんない口説き方をした。私は見てきたので詳しい。
 

 だいぶ頭のわるいあとがきになってるんですけど、BEGINを読み終わった直後に抱いた感想が、「飛鳥のために人間性を棄てて世捨て人のように暮らしてきたソルに人間性を取り戻した切っ掛けはきっと守護天使で、彼は今ソルに家庭をさえ与えようとしていて、けれどもカイを人間にしたのもまたソルだった」ということなんですよね。化け物の衝動に身も心も明け渡し、人間の残滓のようなものがあるから気まぐれに人を(クリフとか)助けることはあったけど、一方で自分の不利益になるとわかれば躊躇なく自らの手で殺害出来る男が、今、子供を育てて家族と暮らそうかどうか検討してるかもしれない。ソルカイのすごいところだな……と思わずにいられない。齢百八十を優に数える男が、たった十四歳の男の子と出会って、人に戻り、決別したはずの過去に目を向ける余裕さえ取り戻して。まだいっぱい不穏な要素は残っていますが(ハッピーケイオスとか)(そもそもカイの正体まわりがあるとしたらあまりにも不穏)、なんか、幸せになってほしい。でも飛鳥は無条件に許されないでほしい。死んで償うのも逃げだなと思うしつらい。生きて罪と向き合ってほしい。どうなるんだろう……カイはほんと、飛鳥のこと、怒っていいと思うんだけどな……。
 大分とりとめなくなってしまいましたが、ソル=バッドガイの存在そのものが炎のロックンロールだなあとか、そういう感じの話でした。

 最後に謝辞を。通しで読んで校正手伝ってくれた妹、ありがとう。めちゃくちゃ助かりました。あといっぱい励ましてくれてありがとう。うれしかった。それからトップページ用にめちゃくちゃかっこいいソルくん描いてくれた波吉、忙しい中いつもありがとう。それと、久しぶりに続き物書いてる途中でコメントなどいただけて、ものすごく励みになりました。本当にありがとうございます。すごくすごく嬉しかったです。そしてなにより、この話をここまで読んでくださった全ての皆様に感謝を込めて。ありがとうございました!

2017.02.03 倉田翠





作業中BGM♪
「Video Killed the Radio Star」(The Buggles)
「It's Only A Paper Moon」(Harold Arlen)
「たった1つの想い」(KOKIA)
「魔王」(NieR RepliCant)
「ヴィルキス〜覚醒〜」(志方あきこ)