あとがき
頭の中にまずあったのが、自分の手で喉にナイフを突き立て、自害をする、男の子の幻でした。
そういうわけで、この話はカイの自殺から始まりました。ではカイが自殺したらどうなる、何がどう巡ったら今の世界に辿り着くのだろう、そういうふうに考えた結果、ドラマCDのREDとBLACKを中核に巻き込んだ、長いループを切り出した話に落ち着きました。
珍しくタイトルも早々に決まって、「プライマル・レッド」というのがそのまま直訳で「原初の赤」という意味なのですが、実は何年も前から(ジャンル関係なく)ストックしてあったタイトルで、やっとしっくりくる話がかけてすごく楽しかったです。「原初の赤」というのがまあ実はドラマCDのREDに引っかけたタイトルにこっそりなっていて、REDに至る前の原初のループ、として五千百八十九兆六百五十二億千九百八十二回目までのループを「プライマル・レッド」という括りで扱いました。ちなみにこの五千何百兆という数字はなんとなくの思いつきなので深い意味はありません。
根底に通る一つのテーマとして「呪いの話」というものがあります。プライマル・レッドは「どうしても望んだ愛を手に入れられなかった男の子が世界と男とを呪う」話。リバース・ブラックは「愛した少年を守りきれなかった男が彼の亡霊にひとりでに呪われて誰も救えなくなる」話。でもそれを受けてのエンディングであるピュアリー・ブルー(ゲームの正史)には呪いは残っていません。それは最後の世界が、彼らがそこに至るまでに多大な犠牲を払い、呪いを精算してやっと手に入れた、ハッピー・エンドだからです。
元々ドラマCDのあの話がすごく胸に刺さっていて、カイが死ぬまでに焦点を当てたREDの方をフィーチャーした話はぽつぽつ書いていたんですけど、BLACKの方は、なんかもう色々なものがしんどすぎて、あんまり触れられないまま今に至っていました。だってしんどいんだもん……ソルは死んだ少年のことを十年経っても引きずってるし……ディズィーは人間を憎んでいるし……メイたちはジョニーの仇をとるために命を捨てようとするし……あの世界は本当にどん詰まりの、誰も救われないような、そういうIFの世界なんだなということを、ずっと考えていて。
じゃあどうして彼らはそんな救われない道に足を踏み入れてしまったんだろう、ということを考えているうちに、幾つか気になるところが出てきて、そういうのを個人的に補完しました。たとえばどうしてソルはディズィーの名前を知っていたのか、とか。だってディズィーって名付けたの、正史だと恐らく村の老夫婦ですしね。そういうところを当てはめていった結果、あの世界でソルはディズィーを娘だと認知していたのではないか、とか、諸々。
あとは……星の王子様カイキスクをどばっと書いて(楽しかった)、でも一番あのパートでやりたかったのは、実は、ソルを迎えに行くカイなんですよね。あのシーンは、意図的に、ちょっとだけ背を寒くしてくれるようなものにしたくてああいう終わりになっています。——だって天使のお迎えって、結局、死の宣告と同じでしょう?
「たった一つの奇跡」→「奇跡の代償」→「最後の現実」という大まかな構成にしようとぼんやり考えていたのですが、その結果一人で拗らせているあのカイ親子説が暴走してしまい、いや〜あのカイはやっぱり親子なんだあ……ってうんうん頷きながら諸々を書きました。最後くらい父親らしいことをしてあげたい飛鳥=R=クロイツという存在に萌える(しかしそれは妄想の中にしかない)。なんか大分マーリン的なものがイメージに混ざっている気がするけど、実際あの男はマーリン並になんでも出来るので、実質マーリンなのではないだろうか(ちがいます)。
あとほんとはもっとテスタメントを綺麗に扱いたかったんですけど力及ばず……テスタ最近元気? まだ全然音沙汰無いけど……きっと元気にしてるよね……早く出てきて……元気な姿を見せて……私の中でテスタメントの属性がどんどん拗れてこのままだと人妻になっちゃう(???)……。
そしてもうずーーーっと言ってることなんですけど、どうしようもなく、十四歳のカイ=キスクと十五歳のカイ=キスクがすきです。うつくしいものは儚い。だからすぐに少年のまま息の根を止めてしまいそうになる。ホルマリン漬けにされた標本みたいに。でもなんとか死なないで、大人になるから、今のバブみ聖母連王がいるんだと思うと、尊さのあまり泣けてくる。リバース・ブラックの部分のカイは死んでしまったばっかりにいつまでも大人になれない永遠の少年なんですけど、そういうのを書くと、やっぱり彼は大人になるべきだったんだなって思います。いつか大人になるから、少年は美しいんですよね……。一過性のものだから、こんなにも、愛してやまない……古代ギリシャのおじちゃんたちもそう言っていたよ。
最後に謝辞を。いつもチェックに付き合ってくれた友人、ありがとう! それから、ちょこちょこ書いてる時に、読んでるよ!とアクションをくださった皆様、ありがとうございます。少しでもお気に召していただけたなら、とってもとっても嬉しいです。
そして、ここまでお付き合いくださった全ての皆様に感謝を込めて、ここで筆を置かせていただきます。ありがとうございました!
2017.03.23 倉田翠
作業中BGM♪
プライマル・レッド
「真夜中のナイチンゲール」(竹内まりや)
リバース・ブラック
「Pray」(Tommy heavenly6)
「色彩」(坂本真綾)
「大事なものは目蓋の裏」(KOKIA)
「The Abandoned Island 見捨てられた楽園」(Zektbach)
ピュアリー・ブルー
「時代」(中島みゆき)
「イニシエノウタ -運命-」(NieR RepliCant)