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 ある日あるところで神代兄妹がどうも世界から消えてしまうらしいという話を聞いて、まあ結局その話は嘘ネタだったらしいんですが、それを受けて、そうしたら二人の疑似的な死を、彼はきっと悼むのだろうと思って書いたのがこの話でした。
 お墓に青い花を供え続けるトーマス・アークライトとそれにまつわる亡霊。彼は多分西洋人だから、自分用の十字架を持っていたりして、だけど信心深さとかはちっともなさそうだし、本気で神様には祈ったりしないのかもしれないなあ、とか。
 許嫁同士だったらきっとかわいいという思いを抑えきれなくて、デートとかもっとすればいいのにと願って色々書いてみましたが、実は二人が面と向かってお互いのことをラブの意味で好きだとは言わせないでおいてあったりします。口にするより、指先の温度とかで伝え合っていたりしたらかわいいなあ。
 途中遊馬先生が病み入っていたり、真月病から抜け出せていなかったりするのは、零遊者の持病なので……と当時許しを請うていたのですが、web再録するにあたり、遊馬の台詞を一部修正しました。遊馬こんな単語使わないだろとか、言い回しがきつすぎるとか……そのあたり。当時より全体的に句読点も足しまして、ちょっとだけマイルドな読み口になっています。


 わりとオフ活動はじめて間もない頃に出した本だったのですが、文庫の時カバー折り返しに引用した花に埋もれる死体の一文をはじめとしてお気に入りの部分がけっこうあり、かなり思い入れの深い一冊でした。というか、今冷静になって数えてみたところ、(オールキャラ本を除くと)NLCP本自体この一冊しか出してませんでした。文庫形式でオフ本を作るのもこれがはじめてだったのですが、この本を出した当時、イベントで手にとってくださった方が「文庫が好きなので出してくれる人がいて嬉しい」とおっしゃっていたのを今でも覚えています。はじめての文庫でよくばりにもラノベっぽいのを作りたいとイラスト担当の波吉にあらゆる無茶苦茶をお願いしました。彼女が描いてくれたすてきなカラーイラストも今回あわせてweb再録しましたので、ぜひぜひご覧ください。
 わりとシリアスというか、ちょっと薄暗く翳った雰囲気のお話が好きで、そういうのが一番筆が乗って楽しいのでこれもわりとその気があるかと思うのですが、でも最後は、ハッピーエンドがいいなあとずっと思っていて、「リトルプレイヤー」もそういった結末になっていたかと思います。これと同時発行した「Beautiful World」というヨハ十双子家族本も同じなのですが、辛い道を乗り越えたら、最後はハッピーエンドになってほしいという気持ちを強く抱いているからです。
 とはいえこの本を書き始めた頃はN○Sの嘘バレにまんまと踊らされておりまして、本気で神代兄妹は消えるんや……世界から消滅してしまうのや……と思っていたためメリバ直行ルート入ってしまっており、トーマスは墓の下の亡霊に連れ去られ、幸せな笑みを浮かべたまま果てる……という構想で実は進んでいました。しかし波吉に「やめてください(トーマスが)死んでしまいます」というふうなことを言われたり別に神代兄妹は世界からいなくならないんだ……という事実が明るみになるにつれ、お迎えパトラッシュエンドはなんとか回避されたという次第です。
 結局最終回に至るまでトーマスと璃緒が行ったデュエルの詳細は明かされませんでしたが、それも含めて、私が持てるトーマス・アークライトと神代璃緒という少年少女の関わりについて、こうして気に入った形に残せてよかったなあと思っています。


 作中でトーマスが思い出した詩についてですが、マリー・ローランサンが書いた「鎮静剤」という詩の一文になります。興味のある方は是非是非読んでみてほしいです。ペルソナ2の確か罰の方に引用されていたのもこれだったと思います(罪に引用されたのはハインリヒ・ハイネのドッペルゲンガーだったはず……)。そしてタイトルは言うまでもなくGuitarFreaks&DrumMania V初出の「Little Prayer」です。この曲の歌詞もかなり織り込んで書きましたので、こちらも是非是非聴いてみてください。個人的には2番が好きです。「夢から醒めた大人の顔して僕を忘れてく」のあたりがすごく。


 あとがたりが長くなってしまいましたが、この場を借りて謝辞を。当時多忙なスケジュールの中ラノベ装丁をしたいという私のわがままに最大限尽力してくださり、今回の再録も快く了承してくださった波吉、本当に本当にありがとうございます。あなたなくしてこの話はなかったです。
 そして、当時この本を手に取ってくださった方、ここまでお読みくださった皆様に最大限の敬意と感謝を。ありがとうございました!

二〇一三年十一月四日 初稿
二〇一七年五月三日 改稿
倉田翠



本文引用                         
「鎮静剤」‐マリー・ローランサン         
♪BGM                         
「Little Prayer」‐ 土岐麻子           
「深海のリトルクライ」‐ sasakure.UK feat土岐麻子
「Raining」‐ Cocco               
「冥」‐ Amuro vs Killer             




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