05 ストロベリーフィールズ・フォーエバー




「——ばか! この、ばか、ばか、大馬鹿!!」

 世界が変わった日、というやつがカイの短い人生の中にも何回かあって、あの最低最悪の夜もその一つだった。十六歳の誕生日を迎える少し前のことだ。その晩は、建物の中にいても否応なく耳を叩き付けてくるぐらい酷いどしゃぶりの雨が降っていた。天気が酷いぶんカイの機嫌も酷かった。
「ひでぇツラしやがる。今まで見た泣き顔の中でも、一番の傑作だな」
 男は顔をしかめ、むしゃくしゃして暴れたカイを見下ろしていた。「貴様のような男に神器を持ち出す資格などない」とまで啖呵を切っておきながら大敗を喫して床に転がっているカイは、カイ自身が後から振り返っても嘲笑されて仕方のない存在だった。男はわざとらしく大きな息を吐き、悪役じみた台詞を唇に登らせた。
「ガキ以下だ。 おたまじゃくし ・・・・・・・ かテメェ。挙げ句の果てに馬鹿の連呼とは、俺じゃなくても坊やの品性を疑うだろうよ」
 安っぽい悪意。スナック菓子よりもチープで聞くに堪えない、幼児同士の罵倒だ。それでも、ことこの場において、これほど効果的にカイへ屈辱を与えられる言葉はなかった。カイは心臓に入り込んでくる悪意に歯ぎしりをし、塩水に滲んでろくすっぽ見えていない視界の向こうを睨んでいた。
「最初から、それが目的だったのか。神器が!」
「好きに解釈しろ。そう思いたいのなら、俺は構わない。ハナから 封炎剣 コイツ を取りに来るのが目的だったってのは、嘘じゃねえからな。クリフの爺さんが俺を釣るのに持ち出した一番デカイ餌だ」
「は。ではそれを手に入れるために私はまんまと利用されたというわけだ。そうして私を弄び、棄てて行くんだな」
「そうなるな。坊やに手ぇ出して、遊んで、テメェが夢中になったところでポイだ。事実は事実だから仕方がない」
「ッ……それなら……それなら、あんなに優しい顔なんか、するな……!」
 地面に這いつくばって動けずにいるカイの元へソルが悠然と歩み寄る。慌ててずぶ濡れの顔を拭った。クリアになった視界に、野蛮を体現したような彼の姿が大写しになる。
 一年ずっとそばで見ていたけれど、やっぱり、あまり似合わなかったあの白いケープ。煙草の匂い、傷一つない神器。目がちかちかする。喉が痛む。頭が重い。今までの人生で一番最悪なコンディション。これは、カイが何度も彼にせがんだ「手合わせ」の時よりもよほどこっぴどくやられたからなのか。それとも、頭に血が上りすぎているからなのだろうか。どちらが原因なのか考えるだけの余裕がカイにはない。
 ソルは神器を携えたまま腰を下ろし、カイの無様な姿を見下ろした。ヘッドギアが作る濃い影のせいで、彼の表情は読みづらい。しかしこの口ぶりでは、さぞかし色濃い侮蔑と嘲笑を浮かべていることだろう。それを確かめるのは恐ろしかったが、目を逸らすのはもっと大きな屈辱に感じられ、必死に目を凝らす。
 そうして、その奥にある瞳をなんとか確かめようとして……。
「もし優しいと感じてたんなら、そいつは全部、テメェの抱いた夢か幻だ。……俺は、子供の扱いがクソほど苦手だからな」
 カイは愕然とした。
「俺がそもそもガキが嫌いだし、テメェに手をかけてやったのもクリフに頼まれてたからってのが殆どで、単なる気まぐれに過ぎねえんだよ。限界が来た、ってわけだ。ああ、歩み寄ろうとはしたさ。契約の一環としてな。だが結局俺とテメェはわかり合えなかった。それで十分だ」
 彼の二つの眼窩に填る両眼は琥珀色をたたえ、カイを優しく見守っていた。何度まばたきをし、視界を改め、見つめ直しても、彼の面差しはそうとしか形容しようがなかった。スロヴァキアでカイを抱き上げていたときと同じように慈愛に満ちていた。ぶっきらぼうな物言いとはまるで正反対だった。
「テメェは俺に永遠を求め、俺には、それを与えてやることはとてもじゃないが出来なかった。だからここで俺達は終わる。ある意味、決裂したとも言える。俺はテメェの部下じゃなくなるし、だからテメェにとっての家族でもなくなるだろう。問題児がいなくなって仕事が減るんだぜ。喜べよ」
「喜べだなんて。こんな分かれ方をしたら、もう二度と会えないかもしれないのに」
「テメェが俺を許せるようになったら、また会うこともあるだろうよ。じゃあな」
 ソルが踵を返し、カイの手が届かないところへ歩いて行ってしまう。遠のいていく足音を聞きながらカイは唇を噛んだ。本当に、どうしようもないぐらい、この男は嘘を吐くのがへたくそだ。心にもない言葉なんか選んで、なのにそんな顔をしたままだなんて。そんなふうにされたら、カイにだって、それが本心じゃないということがわかってしまう。もしかして、分かって欲しくてわざとなのだろうか? 一瞬だけ過ぎった考えはすぐに頭の隅に追いやられる。ソルがそこまで考えているものか。
 この男はまっすぐなのだ。真っ直ぐに過ぎて、その強固さに、カイは置いてけぼりにされる。
 大体、こうなってみれば、カイを身動き出来なくなるまで叩きのめしたのだって、余計な行為——たとえば自傷だとか——に走らせなくするためだとか、どうせソルの考えることだ、そのあたりが理由なのだろう。
 それを思うにつけ、だからやはり、どうしようもなく、この夜は最低最悪の思い出でしかなくて。
「だけど私は本当に、おまえとずっと一緒にいたかったんだ」
 それでも確かにカイの世界をがらりと変えた決定的な日に違いなかった。
 
◇◆◇◆◇

 今年も降誕祭の日がやってきた。パリはお祭り騒ぎの熱気に包まれ、多くの人が街に繰り出している。聖戦が終結して五年が経ち復興が進んできた影響で、戦時中の様子とは随分街並みも趣を変えてきていたが、パリの人間が一番金を使う日であることは今も変わりがない。
 通りの各商店はこぞってセールを行うし、この日限りの許諾を得て出店される屋台の数もべらぼうに多い。パリ以外の土地から観光に訪れる客も年々増え続けており、収益の増大に伴って、売り上げの一部は教会に集められることになった。
 警察機構はそれを委託機関として精査し、戦災孤児達の養育費に充てるよう取りはからっている。そういういきさつがあるため、経済に貢献して来なさいという意味も込め、降誕祭前後は可能な限り警察機構の人間にも休みが出ているのだ。
 そんなわけで、親切な部下達の気遣いによってカイも降誕祭前夜と当日とが丸二日休みになった。警察機構本部に留まった元団員達が企画しているパーティにも誘われているし、ノートルダム寺院でのミサも予定されている。しかしそれら全てに返事を保留したまま、カイは休みを自ら返上して執務室に詰めていた。
「はあ……」
 カイは深々と溜め息を吐いた。仕事は好きだが、それほど差し迫った案件がない中、給料も入らない日に休みを返上してやるほどではない。それでも、あの賑わっているパリの街に出て行くのは億劫で、かといって自宅に籠もっていても気分がくさすし、足が勝手に職場へ向かっていたのだ。
「おや、カイ様。いかがされましたか、そのようなお顔をされて」
「そんなに面白い顔、していますか?」
「ええまあ、ちょっとばかり。心ここにあらずと言った感じです。そもそも、お休みの日にこんな場所で仕事などなさらずともよろしいのに」
「いえ、いいんです。そういう気分なんです。こうでもしていないとやっていられなくて……」
 勤務表の上では休みになっているはずの執事がお茶を机に置きながら尋ねてくる。困り笑いをしてカップを受け取り、口に含み、カイは再び溜め息を吐いた。
 今年の降誕祭は八年ぶりに雪が降り積もった。窓の外には一面の銀世界が広がり、その上に、浮き足だったパリの街々が乗っかっている。その光景を見ているとどうしても思い出してしまうことがあって、カイの気は随分滅入ってしまっているのだ。
 そこまで言えば、付き合いの長い執事にはもう全てお見通しだったらしい。彼はぽんと手を叩くと含みのある表情で頷いて見せた。
「ははあ、なるほど。そういえば、八年前の降誕祭もよく雪が積もっておりましたな」
「そういうことです。そういえば……雪の積もった本部屋上で、私はあいつにこっぴどく叱られたんですよね。でもどうして叱られたのか最初はわからなくて。だって聖戦の頃は、人死にがあまりにも当たり前すぎた。去年降誕祭を共に過ごした友人が翌年は墓の下なんて、ザラじゃないですか。だから私は、友人を亡くしたばかりの団員に『その人はもう死んだでしょう?』というようなことを親切のつもりで言って……そうしたらまあすごい剣幕で怒られた。テメェには人の心がないのか、と」
 まあ、なかったのだろう。人の心が。過去の自分を手繰り寄せて唸り、不本意ながらソルの言い分を認める。彼に指摘されるまで、カイにはテオドアの苦しみがわからなかった。いなくなった人を忘れられない気持ちが、誰かに拘泥する理由が、理解出来なかったのだ。
「その人がずっと一緒にいるのだとわけもなく信じてしまうような、そんな相手が私にはいなかったんですね。クリフ様やベルナルドのことは無意識にそう捉えていた節がありますが、あなたは今も私のそばにいてくれますし。ちょっと驕っていたわけです。……それなのに、その次の年の降誕祭で、私はふと思った。誰も入っていない向かいの部屋の、がらんとした光景に、ああ、去年一緒にいたはずの友人がいないというのは、こういうことだったんだな、と」
 言葉は下がり調子で、口にしているカイ自身、降誕祭の日に相応しくない大分物寂しい顔をしている自信があった。この部屋にいる部下がベルナルドだけでよかった、と思う。付き合いの長い彼はカイの弱さをうまく受け入れてくれるが、他の部下達だとこうはいかない。きっと大騒ぎされてしまう。
「失ったあとになって気がつくというのは、少々滑稽に過ぎて笑い話にもなりません」
「よろしいではないですか。それもまた成長したということです」
「気付くのが遅すぎでしょう。恥ずかしい限りだ。そういうわけで、今日は一日仕事を片付けます。いいですよね?」
「私は執事ですから、主人であるカイ様の決定を止めはしませんとも。ただ、一つだけ耳寄りな情報を進言させていただけますかな」
 カイが伺うように尋ねると、ベルナルドが微笑み、空になったカイのカップに紅茶のおかわりを注ぐ。微笑み方は、カイの見間違いでなければ、彼が時たま見せる何かを企んでいる時の表情によく似ていた。
「……なんです?」
「降誕祭恒例の蚤の市が開催しているのは、今年は夜八時までです。前夜の今日も、明日の当日も。どうも近頃シャンゼリゼ通りの周辺で物騒な話がちょくちょく出ているとかで、自治体の方で少々早めの撤退を取り決めたそうですよ。まあ物騒といっても大した話ではありません。こそ泥が活発にしているらしいんですが、それもここ数日ぱたりと止んだとか」
「はあ」
「理由はまだ不明ですが……悪さをする輩に誰ぞが仕置きをしているのでしょう。誰でしょうなあ。そういえば最近、例の 名乗り出なし ネームレス がこの近辺で賞金を引き換えていましたな。記録に残っています。見ますか?」
 ベルナルドがわざとらしい調子で言いながらすっと書類を取り出す。部外秘と大きく描かれた、賞金首リストの原本だ。横目でちらりと発行年月日だけ確かめた。二一八〇年十二月二十二日発行。なるほど、確かに最新版ではあるが。
「そんな、大して面白くもないことをもったいぶって言わないでください。 あの男 ・・・ がパリのそばを通り過ぎていたとして、ここに来ることはまずありません。あいつ、賞金稼ぎのくせに賞金首なんですから。むざむざと出てきたら、それこそ捕まえてくれと言っているようなものだ」
「ふむ、それは確かに。賞金首の提出と引き換えも、パリ本部ではなく少し離れたサン=テルブランの窓口で行ったようですしな。まあ、そういう話もあったという程度のことです。小耳に挟んでおいて損はないでしょう」
 賞金首リストを机の上に置いたまま、それでは、と一礼してベルナルドは執務室の外へ下がった。部屋にはカイと大量の書類、なみなみ注がれた紅茶のカップ、そしてネームレスと記載されたリストだけが残る。
 カイは再び窓の向こうを眺め見た。あの日と違って、雪は、日中も降り続けている。それでも陰鬱な空気にならず明るい様子に感じられるのは、パリが豊かになり、派手な飾り付けが街中を彩っているからだろう。
「……はあ」
 そこまで考え、無意識に八年前の同じ日と何もかもを比べてしまう自分に嫌気がさして、カイはがくりと肩を落とした。
 どうも、重たいのだ。あの日は楽しかったなあとか、随分はしゃいで街中ソルを引き回したなあなどと思い返すたび、今日の自分がどうにも不幸せなような気がしてきて、肩も頭も、身体じゅう、どんどんと重たくなっていく。どうしてあんな男一人のためにこんな気分にならないといけないんだろう。カイは子供っぽく唇を尖らせる。暮らしは順風満帆で、仕事もそこそこ順調、人間関係にも恵まれている。カイの生活には大体全てが揃っている。あの男以外は……。
「『神はいる。ただ人を救ってくれないだけで。だから人は、いつもひとりでに救われる』……か。本当は分かってるんですよね。あの男は決して、私を救うために戻ってきてくれたりなんか、しやしない。ベルナルドがいくらあんなこと言ったって、来るはずがないんだ……」
 でも彼だけは、ソル=バッドガイという自由を人の形にしたような男だけは、ここにいない。いつもカイの手が届かないところへいなくなる。賞金首リストの書類を握る手に力が入り、ぐしゃりと紙がよれた。以前ほど素直に降誕祭の日を祝えない自分がいて、その原因もはっきりしていて、なのに解決する手立てだけ存在していないというのは、ものすごく性格の悪い嫌がらせに似ていると思う。

◇◆◇◆◇

 雑念から逃れようとするように仕事に没頭し、気がついた時には夜七時を大幅に過ぎていた。「シャンゼリゼ通りの蚤の市は夜八時まで」という執事の親切な忠告を思い出し、慌てて身支度をととのえる。机の上はしっちゃかめっちゃかだったが、そのあたりは休暇明けの自分に任せることにして、カイは外套と鞄を引っ掴むと大慌てで本部の敷地を飛び出した。
 パリでの暮らしが長いので、蚤の市に軒を構える店主にはカイの知り合いがとても多い。あのあたりで店を出している顔見知りの人々は当然この日がかき入れ時とばかりに様々な趣向を凝らして客引きをするし、普段は別の仕事をしている人も、その手伝いをしていたり自分で屋台を出していたりする。出来る限りそれらの人々に挨拶をして回るのが、毎年のささやかな楽しみなのだ。大分出遅れてはしまったが、急げばまだ、少しは間に合うだろう。
 本部の外に出て少し走ると、フランスで一番の賑わいを見せるマーケットが目に入る。色とりどりのライトアップをされた大通りはちらちらと降り続けている粉雪に彩られ、例年以上の美しさと賑わいを感じさせた。人混みの中を掻き分け、お目当ての場所を目指して小走りで移動し、まだなんとか灯りの付いている軒先を見つけてカイはほっとしてそこへ駆け込む。
「アネットさん! カップケーキ、まだ残っていますか?」
 カイがパリに来た当初から懇意にしているミセス・アネットは、自分を呼ぶ親しんだ声にゆっくりと振り向いた。
 元々降誕祭の日に子供達と一緒に露天商を出していた彼女は、聖戦後、物資の流通が安定してきた頃にこじんまりとしたケーキ屋をシャンゼリゼの一角に開いたのだ。これがそこそこに繁盛しており、遅い時間に寄るとすっかり全部売り切れてしまっている——なんてことが降誕祭の夜にはままある。
 それで尋ねるカイの口調も自然と切羽詰まったものになってしまったのだけれど、カイと目を合わせたアネットは綺麗に並んだ白い歯を見せ、人好きのする笑みをカイへ向けた。
「おやまあ、カイ様じゃないか。もう殆ど店じまいしちゃったけど、二つだけ残ってるね。持ってお行き」
「良かった。じゃあそれを、二つともください。代金は……えーと、一個二ユーロ五十セント……ああいえ、ワールドドルに統一されたんでしたね。はい、五ドル」
「うん、確かに。……ところで、こんな時間までどうしてたんだい? まさかお仕事なんて言うんじゃないだろうねえ」
 カイ相手にいくらまけると言っても定価を払われることをよくよくわかっているアネットは何も言わずに五ドルぴったりを受け取り、ところで、と首を傾げた。痛いところを突かれたカイは所在なさげに呻き、隠し事を見つかった子供よろしくしょげて見せる。
「実はその通りで……」
「なんてこったい。あんた、若いもんがね、こんな日にまで仕事をしているもんじゃない。いいかい、失った日々は二度と取り返せないんだよ。若い内にあれこれしておけばよかったなんて思っても大抵はあとの祭りさ。そうだろ、バーンズさん」
 するとミセス・アネットは待ってましたとばかりに早口でまくしたて、隣の軒先で屋台を出していたミスター・バーンズに話題を放り投げた。
 飛び火した形になるバーンズだが、彼はどうもアネットの言葉に深く感銘を受けたらしく、嫌な顔一つせず何度も頷いて見せる。それからアネットと目配せをし合い、彼の屋台に陳列された売り物の中から紙コップを一つ取り出すと、ぐいぐいとカイの方へ差し出してくる。
「アネットさんの言うとおりさ。自治体の取り決めで蚤の市はもう終わっちまうが、このあとのミサにはまだ間に合う。さあカイ様、ホットワインだ。これでも飲んで、親しい人を誘って行ったらどうかね」
「うーん、でも、仕事で疲れているんです。今日はちょっとお休みしたいような……」
「なら明日出掛ければいい。確かにパリは前夜の方が盛り上がるが、明日もそれなりの集客を見込んでる。……よし、じゃあこいつも追加だ。持っていって誰かと飲むといい」
 湯気を立てるホットワインのカップに加え、ワインボトルまで取り出して有無を言わせず押しつけてくる。これにはかなり困ってしまって、カイはなんとかボトルだけでも返せないかと思案を巡らせた。悲しいぐらい下戸のカイは、乾杯用のグラス一杯まではともかく一人で瓶を開けられるほどワインを飲む習慣がないのだ。料理に一瓶使うほど家にもいない。余らせてしまうのは不本意だが、かといって、好意でいただいたものを他人に譲り渡すのも気が引ける。
「あの…………」
 しかし、自分を見つめてくるバーンズとアネットの力強い眼差しを見て、カイはすぐに彼らの説得を諦めた。
「……いえ。なんでも。せめてお代を払わせてください。おいくらですか……」
「ホットワインなら、一杯三ドルぽっきりだ。ああ、瓶の方は要らないよ。年寄りのお節介に金を払われたら、やってられないからねえ」
 せめて代金ぐらいはとの申し出も輝かんばかりの笑顔に押し切られる。仕方なく三ドルちょうどを支払い、礼を言ってカイはその場を離れた。二人には申し訳ないが、本当に、逃げ出したいような気分だった。


 帰路につき、冷める前にとホットワインを飲む道すがらでカイはぼんやりと七年前のことを思い出していた。七年前。ソルがカイを置いて団を脱走した、あの秋の夜のことだ。
 あの時、止めようとしたカイを彼はにべもなく打ち払い、手ひどくのしたあと床に転がして、捨て台詞を吐いてどこかへ消えてしまった。大変屈辱的なことに、あんな状況で、あんな言葉を選びながら、それでも彼は手加減をしていたしカイのことを案じていた。優しさがわかるぶんカイは酷く惨めな気持ちになった。こんな思いをするぐらいならいっそ悪し様に罵られた方が素直に彼を憎めて良かったのではないかとさえ考えていた。
 脳天気で夢見がちだった十五歳のカイが本当のことに気がついた時には、もう、何もかもが遅かった。彼は神器を奪い去り、一年あまりを使って掛けていた呪いを成就させて消え去った。呪いの効果は覿面で、カイは彼の中に確かに父性を見て、大人と子供の違いをまざまざと見せつけられた。子供だったつもりなんか一瞬もなかったカイ=キスクという少年は実のところ十五歳になっても子供のままだったと思い知った。
 そうして姿を消してしまったソルが再びカイの前に姿を現したのは、それから七年が経ってからのことだ。
 一度は陰謀渦巻く第二次聖騎士団選抜武道大会で、もう一度は、例のドラッグ、ヴィタエを巡る陰謀の最中で。けれどそのいずれも、きちんとした「再会」が出来たわけではない。彼はカイをまともに取り合わなかった。交わした言葉はほんの僅かで、同じ事件に関わっていても、すれ違うばかりだ。
「……そりゃあ、会えるのなら、会いたいですよ。ちゃんとした形で、目と目を合わせて向き合って、話がしたい。……あの額に刻まれた印のことだって、まだ本人には聞いていないんだから……」
 ギアの女王ジャスティスを屠る彼の額に浮かび上がっていたソルの「秘密」をそっと思い描く。聖騎士団で一緒に暮らしていた時には決して教えてくれなかったそれは、彼が怨敵GEARであることを証明する忌まわしき刻印……。
「おまえが、ギアだったなんてな……」
 誰にも聞かれない独り言は、闇夜に溶けていずこかへ消えていった。
 ソル=バッドガイの正体はギアだった。あの額に刻まれた紋様は元より、ギアの女王自身が言い放った「貴様とてギアであろう」という叫びが全てを肯定した。
 けれどカイは、そのことを未だ誰にも話せずにいる。だって、あの誰よりギアを殺し、ついには女王ジャスティスをも屠った男が、そのギアだなんて! 昔のカイなら反射的にソルを殺しに掛かっていたところだ。カイでなくとも、騎士団員の少なくないものが、力量差を顧みずに憎しみの刃を向けるだろう。ギアを畏れよという鉄則を忘れて。自分たちが過去に頼っていた「軍神」がギアだなんてことを、錦の御旗の元に集っていた聖騎士達が、許せるはずもない。
「私はどうしたらいいんだろう」
 なのに——だというのに、その聖騎士を束ね、率いた筆頭であるカイは、あの時動くことが出来なかった。直前にジャスティスに手ひどくやられて負傷をしていたのもあるが、それ以上に、ジャスティスに投げかけられた言葉がカイを揺らがし、地面に縫い付けていた。そこへ畳み掛けるようにソルの印だ。一度は肌さえ重ねた男が宿敵だったなどと、そんな筋書きは、古典文学だけで十分ではないか。
 カイは薄れていく視界の中で男の面影を追い縋る。ソルを殺したい、という気持ちは微塵もわいてこなかった。多分そこで、カイが信奉してきた正義は完全に瓦解した。一面的な正義は泥に還る。カイは思い知った。神様は確かに、人を救ってはくれないのだ。
「せめて何か言ってくれればいいのに。少しは、責任感とか、負い目ってものがないんですかね、あの男は。私だけまだあいつのことを友人だとかライバルだとか思ってるのかな。だとしたら馬鹿みたい。裏切るなら、ちゃんとはっきりとそうしてくださいよ。じゃないといつまでも憎むことも許すこともうまく出来ないじゃないですか」
 夜遅く、住宅街には人通りがない。それをいいことにぐちぐちした独り言はどんどんとエスカレートしていく。
 カイは小さく呻いた。昔、まだ世界がふわふわしていた頃、ソルに囁いた言葉を今も覚えている。何をされたとしても最後はきっとソルを許すだろうという、少女の甘い夢のようなうわごと……。
 今でも、その気持ちはまだカイの心のどこかで燻っている。だけど何かを許すのには、はっきりとした怒りや憤りが必要なのだ。こんな、ただ一人でもやもやしているだけのものは、どこにもぶつけようがなくて、一人でしまいこんでしまうほかなくって、いつまで経っても救われない。
 カイは鬱屈とした気持ちでカップに残っていたホットワインを一息に飲み干した。大して度数もないしあれこれ混ざって薄まっているもののはずだが、喉を通りすぎる液体は火のようにカイの喉を燃やした。その燃え盛るようなアルコールの熱もますますソルのことを思い起こさせて、やけくそのような気持ちになった。
「降誕祭の前夜なら、サンタクロースがプレゼントを持って来てくれたっていいじゃないですか。私をまだ、坊やとか言うのなら!」
 ふらふらと覚束ない足取りでなんとか自宅の前まで辿り着き、ひったくるような勢いで扉を開ける。今朝方確かに戸締まりしたはずの玄関扉が何故か鍵を差し込まずに開いたが、酔っぱらっているカイはその不自然さに思い至らない。
 眩暈がする。我が家に戻って来たことで、緊張の糸が切れてしまったのだろうか。カイはぐるぐる回る頭に全てを委ね、思考を放棄した。たとえ明日の朝寒々しい玄関口で倒れ伏していた自分に気がつくことになろうとも、今は一切の煩わしさを忘れてしまいたかった。

◇◆◇◆◇

 八年前の降誕祭は二人だったけど、七年前は一人で、六年前も、五年前も、四年前も、三年前も、二年前も、去年も、全部一人だった。
 戦時中はみんな一人で団に来ていたから、それも仕方ないというか当たり前のことだっんだけど、戦争が終わってから、部下たちに親しい女性とか作らないんですか? と言われることがやたらに増えた。カイ様なら選り取り見取りじゃないですか、試しに付き合ってみて、合わなければ別れればいいのに。そんなことを言われた日には、たとえそれがどれほど優秀で気心の知れた部下だったとしても、カイは憮然として、きっぱりと、「そんな不誠実なことは出来ません」と厳しい言葉を返すほかなかった。
 とりあえず付き合ってみて、合わなければ別れたらいい、だなんて! とてもじゃないが、そんな発想を肯定することは出来ない。だってカイは誰より置いていかれるものの苦しみを知っているのだ。一人置き去りにされる悲しみをいやというほど味わっている。だからカイは、一生を捧げられると信じた相手にしかそういうことを求めたくない。カイにとってはたとえばそれがソルだった。……八年前は。
 でもソルはカイを置いていった。それから、二度と、帰ってはこない。
「おい、何してる。玄関先で倒れるやつがあるか」
 完璧に床に倒れ伏すつもりだったカイの身体は、何者かに抱きとめられ、ここのところ掃除を怠りがちだったカーペットとのキスを免れた。節くれだった何者かの手はそのままカイを抱き上げ、溜め息を吐いて抱え込む。カイはぼんやりした頭で誰かを見上げた。そこには、赤いヘッドギアをつけ、筋肉を誇示するような派手な服を着た目つきの悪い男がいた。
「……なんだ。サンタクロースのプレゼントって、二十二歳でももらえるんですね。……夢の中なら」
 今一番会いたいけど、一番、ここにいるはずのない人物だ。カイはぽやぽやとした頭で、舌っ足らずにそう呟いた。自分を抱えている男の出で立ちはソル=バッドガイの特徴と完璧に一致していたが、彼がカイの自宅にいる謂われはどこにもなかったし、いてはいけないはずだった。
 そこで都合良くこれを夢の中の出来事と決め込み、カイは覚束ない言葉を繰り返す。
「ああ、いいなあ。夢の中なら、ソルはずっと……優しいんだ。酔っぱらって倒れた私を抱き上げてくれるなんて、ここ一年すれ違った本物とは大違い。まるで昔みたい……」
「……」
「ずっと夢の中でだけ会っていたいな。たまに現実で会っても無視されたり苛々してたり、目を見て話してくれなかったり、ろくなことがないもの。それに夢でなら、きっと私を置いていったりしないだろうし。私のそばに、いてくれる……」
 手を伸ばそうとするが、思ったより酔いが酷いのか、うまく持ち上がらない。それでもよたよたと腕を持ち上げ、指先で夢の中の幻をなぞった。
 幻は確かな輪郭を備えていた。寝ぼけた手のひらは頼りなく、すぐに落っこちてぶらりと垂れ下がってしまったが、それでも感触は指先に残っている。ざらざらとした男の頬。手入れとか一切していなさそうな、がさつで、乱暴で、粗雑で野蛮で、大嫌いで、でも大好きな、彼そのもの。
「もう何年も触れてないのに、覚えてるんだ……」
 頑張ってもう一度手を伸ばし、口周りにも触れた。生えかけの無精髭みたいなじょりじょりとした感触が伝わってくる。何もかもが懐かしい。カイはぼうっと微笑み、唇をすぼめ、儚く消え入りそうな言葉を独り言のように紡ぐ。
「ねえ、サンタクロース。これが本当に目を醒ましたら泡沫に消えてしまう夢なのならば、私に、キスをしてほしいな。昔みたいに。まだ私がおまえに永遠を夢見ていられた頃のような、優しいキスをしてほしい」
 そうすれば、朝になって目を醒ました後も、しあわせな夢を覚えていられるような気がするから。
 そう囁くと、カイを抱えた男は一瞬とても驚いたような顔をして、狐につままれたみたいにじろじろとカイを見た。カイはもう一度「キスして」とおねだりをした。ここが夢の中だと思うと、驚くほどわがままに振る舞えた。まるで何も知らない八年前の自分に戻ったみたいだ。
「……あとで文句付けるなよ」
 カイを抱えてどこかへ向かう男は、随分悩んだ末にそう呟いて、カイの唇を啄んだ。
 舌も入れないようなフレンチ・キスはカイの要望通り、熱でとろけたチョコレートみたいにやさしい。八年前、雪降る降誕祭の街でおまけにもらった「ベツレヘムの星」のことを思い出す。ホイル紙に包まれた星形のチョコレート。その次の年、カイがスロヴァキアの夜空に探して、けれど見つけられなかった、輝く星。
 やさしいキスは、それと同じぐらいに甘ったるい。まるでカイの身体のあちこちに残る少年時代の、その残り香や続きのような、そういう味がする。
 カイはしあわせな気持ちに包まれて最後の意識を手放した。おねだりした通りキスをしてくれたのだから、カイを抱えているサンタクロースは本当に夢の中の存在なのに違いない。きっとそうだ。頬をなぞる節くれ立った指先にまどろみを預け、眠りの際でもう一度自分にそう言い聞かせる。これは夢だ。優しい手つきも甘ったるいキスも全部幻。だから明日の朝は、やっぱり、ちょっと汚れたカーペットと玄関の天井で始まるのだ。


「——あれ?」
 けれど予測に反して、記憶の続きは、朝焼けの光と鳥のさえずりから始まっていた。
 おかしい。玄関口には大きな窓がないから、鳥の鳴き声はともかく朝焼けの光なんてものが入り込んでくるはずがない。カイは事実確認を取るためにぱちりと目を見開いた。すぐに見慣れた天井が視界に映り込み、そこがパリにある自宅の、寝室であることをカイに教えてくれる。
「ええと……」
 記憶の齟齬に唸り、再び下がってくる瞼をなんとか上へ押し戻した。
 確か何か、夢をみていたはずだ。それもとびきり極上の、幸せの絶頂期みたいな夢だった。だけど何かがおかしい。辻褄が合わない。記憶と現実が一致しない。
 カイは昨晩の記憶を必死になって手繰り寄せた。昨日は確か仕事帰りにホットワインをもたされて、やけになって一気飲みし、酩酊状態で自宅に辿り着いたのだ。そこでもう、ぱたりと操り糸が切れたみたいになり、明日の朝はごわごわした玄関マットと共に迎えるつもりでカイは床へ倒れ込んだ。そのはずだ。
 だというのに、何故か今見える天井は玄関口のものではなく寝室のもの。あそこまで酔っぱらっていた自分が、ここまで辿り着く体力を残していたとはとても思えない。
「ううん……? 一体何がどうして……あいてっ?!」
 考えごとをしながら寝返りを打とうとして、思いっきり何かに顔をぶつける。壁か? いや、それにしては柔らかいというか、触れた感触が生っぽい。一体何に……痛みに顔をしかめながら額をこすり、少し距離を退いてものを確かめ——
「ッ、——!!」
 カイは声にならない悲鳴を上げた。
「い、いや、嫌だ、なんで、わ、わたしのベッド、の、うえ、なんで!」
 近づいてまじまじと見るという選択肢を一秒も経たない内に放り捨て、カイは全身全霊でベッドから飛び降り後ずさる。シングルサイズの、それほど大きいわけではないベッドを何かが半分以上埋めてしまっている。何か。何なのだろう。信じられないことに生身の生き物だ。硬いフォルムの皮膚が剥き出しになっており、カイの顔がぶつかった箇所が何かの肉であったことを決定づける。
 動転する頭で、あわあわと呻きながら、カイはまず捕縛術式を展開した。招いた記憶のない客がベッドに寝っ転がっていたとなれば、これはもう、相手はまず悪人に違いない。そういえば昨日ベルナルドが「こそ泥が活発にしていた」というようなことを言っていた。近頃はぱったりと大人しくなったと言っていたような気もするが、また活動を再開している可能性は大いにある。
「父と子と聖霊の御名において——不届き者には裁きを。ついでに感電でもしていなさい!」
 魔法陣が収束し、侵入者を縛り上げる。急に腰のあたりをきつく締め付けられたことで、男(たぶん)が呻き声を上げた。しかし彼が続けて何か言おうとしていた言葉は、直撃したスタンエッジによって情けない悲鳴に変わる。
「ふう……これで一安心、と……。さあ、もう悪さは出来ないでしょう。流行りのこそ泥だかなんだか知りませんが、一人暮らしとはいえ警察の家に上がり込むとは不用心なことですね。洗いざらい白状してもらいますから——」
 しかし、「これで一件落着」などと息を吐いたカイの安堵は一瞬にして別の感情に追いやられてしまった。
「……おい坊主。恩人に向かってなんだ? この扱いは?」
 ベッドの上に突っ伏したまま腰を縛られていた男が、のっそりと面を上げる。皺が寄った眉間の上には赤いヘッドギアが装着され、下には、怒り心頭といった様子で青筋が浮かび上がっている。
「……は?」
 カイは言葉を失って男を見た。幻惑魔法にしてはよく出来ているなと自分を宥めてみたが、さっき触った時確かに実体があったことを思い出し、もう何も言えなくなってしまっていた。
「それとも、そんなにカーペットとランデブーしてたかったのか。いや、そのセンも有り得るな……くそ、いい夢見てたってのに……」
「は……? え、ええ……?」
「三秒でディスペルしてやるからそこにいろ。一から躾直してやる」
 混乱したまま身動きも出来ないカイを尻目に、男が苛立たしげに何らかのスペルを詠唱する。程なくして、氷が割れるような音と共にカイの掛けた捕縛術式が跡形もなく消え去った。
「ああ、くそ、俺は高血圧なんだぞ。朝から余計な手間取らせるんじゃねえ」
 自由になった男は起き上がり、ベッドから降りてカイの方へずかずかと向かってくる。カイは男から逃れようと後ろへ後ずさったが、すぐに壁にぶつかってしまう。最後の反抗にと巨大な雷を降ろす法術式の詠唱を小声で始めたものの、その試みもすぐに霧散した。
 男は、カイの胸ぐらを掴んで身体を持ち上げた。そこでようやく気がついたのだが、カイは寝間着ではなく制服の下にいつも着ているインナーを身につけていて、腰のベルトは妙に緩みズボンがだぼついている。いかにも、カイではない別の誰かが中途半端に制服を脱がせようとして、途中でどうしたらいいものか考えあぐねた様子だった。あの重苦しいうえに汚れたケープやらをつけたままベッドに寝かせるのは躊躇われたものの、かといって裸にすることも出来なかったという、どっちつかずの状態だ。
 となると、昨日の幸せな夢は、夢ではなかったと考えるのが妥当だ。
 カイは恐る恐る自分を掴みあげている男に目を合わせた。考えないようにしていた現実を、自分の意思で直視した。
「……サンタクロース?」
 ぼんやりした言葉は、カイ自身どうかと思うぐらい間が抜けていた。
「プレゼント用の靴下一つ用意しないでサンタ呼ばわりすんな」
「じゃあ靴下があればプレゼントをくれるのか。それなら、この部屋の箪笥の三段目にいくらでも……あー、いや、ちがう。そうじゃない。そうじゃなくて」
 頭をぷるぷると振り、しゃんとしない思考に叱咤をする。違う。本当に言いたいことは、そんなことじゃない。いやプレゼントは欲しいけど。この男から、何かを貰えるというのならば、全部余すことなく欲しいんだけれど。
「なんでおまえがパリにいるんだ」
 雑念に蓋をして鍵を掛け、今一番問うべき言葉をひねり出す。パリにいるはずのない男は、そこでようやく不機嫌以外の色を見せ、は、と嫌味っぽく口端で笑う。
「いちゃいけないのかよ」
「だ、だっておまえ。パリは私の庭も同然だし、というかそもそもここは私の家だし、そんな場所にのこのこ出てくるということは、逮捕してくれと言っているも同然だぞ」
「おい落ち着け。脳味噌ぐっちゃぐちゃの喋り方してるぞ。子供か」
「これが落ち着いていられるか! だって……だって——あれからずっと、目ひとつまともに、合わせてくれなかった、のに……」
 嫌味ったらしい物言いにむっときて人の顔を思いっきり指さし、糾弾するように喚いてはみたものの、言葉はどんどん尻すぼみになっていって腕もがくりと項垂れてしまう。カイは首を振り、それから男の剥き出しになった肌に触れた。人間並みの体温があって、生き物の弾力もある。何度確かめても目の前の男は生きてそこに存在している現実だった。
「どうして今更になって……」
 カイが尋ねると、ソルは自分の肌を撫でている白い手をつまみ上げた。それから、深呼吸をしてぽつりと言う。
「ほとぼりが冷めたかと思ってな」
「なんの」
「俺に指名手配かけなかっただろ」
「は? なんでかけなきゃいけないんだ、そんなもの」
「はー……」
 ソルがこれみよがしに大きな溜め息を吐き、やれやれと首を振った。それから子供に言い聞かせるように目線を合わせ、一つ説明するたびに右手の指を一本ずつ立てる。
「おい坊や、俺が賞金稼ぎとして、まだ世界のあちこちで稼働してるギアを狩って暮らしてるのは知ってるな。ギアに賞金かけてるのは当局だ。で、テメェはそこの責任者」
「ええまあ。人里で暴れるギアがいたら、それは危ないから。司令塔がいない今、動いていなくとも、発見し次第封印指定をかけて専門のチームに処理させているし」
「俺もギアだぞ。しかも自由意思で稼働していて山一つ簡単に抉るぐらいの力を持ってるとびきり凶悪な個体だ。なら何故、俺に賞金をかけねえ?」
「なんでってそんなの、ソルは………………あ!」
 ソルが三本目の指を立てようとしたところで合点がいき、カイは思い切りよく両手を叩いた。
「……うん。昔の私なら、理由も聞かず、ソルがギアだってだけで出会い頭に息の根止めてるな。確実に。適当に理由を付けて裁判所とかに呼び出したら、即裏取りしてまず頸動脈を狙っただろうことは想像に難くない……」
「そういうことではあるんだが、実際に言われるとなかなかホラーだな」
「知っているか? 顔見知りに対して、人間は反応が遅れやすいんだ。それがある程度親しい仲なら尚更な」
 こんなふうに——と首筋に爪を突き立てながらカイが嘯く。殺気がないことを考慮しても、こんな会話の後だと、ちょっと心臓に悪い。
 数秒の後、いつまでも突きつけられている人差し指をそっと引き剥がし、膝に戻してやる。それから深呼吸をして、ソルは床に転がっていた雑嚢を引き寄せるとその中に手を突っ込んだ。
「まあ、でも、日取りには意味がある。開けてみろ」
 お目当てを取り出すと、壁に背を持たれて座り込んでいるカイに投げて寄越す。ソルらしくもなく、包装紙とリボンでラッピングなんかされている。ラッピングの仕上がりは見事で、とてもソルが自分でやったものだとは思えない。時節柄、人にやるものだと説明したところ勝手に包まれたのだろう。
 行儀良く折り目に従って包装紙を剥き、中身を取り出す。日に焼けた、ガリ版刷りの本だ。恐る恐る表に返し、書題を確かめ、カイは本日二度目の変な声を上げた。
「ああ、これ!」
 表紙には古ぼけたインクで「プリンキピア」のスペルが綴られている。昔、勝負で負けた後半ば冗談で一度挙げたきりだった本の名前だが、八年経っても覚えていたらしい。
「これだろ? テメェがずっと探してたやつは。流石に一六八七年の原書は見つからなかったが、二十世紀の翻訳ものでもかなり吹っ掛けられた。調べたらどうも、元老院から禁書指定喰らってたらしいな。何に使うのかは知らんが、やる」
「……ありがとう。この際、サンタクロースのくせに肌出し過ぎとか、来るのが遅いとか、そういうのは全部、不問だ。これを探していたのでは時間が掛かっても仕方ないし、見つかっていないのなら、私から逃げても仕方ない。そういうことにしておこう」
 カイが探していた中でも一番ぐらいに入手難度が高かった本だ。両手で大事に抱きしめ、今までのいざこざを全て水に流す決意をしてカイは破顔した。本自体もすごく嬉しかったけれど、何より、二十二歳になってはじめてやってきたサンタクロースが一番嬉しかった。
「かみさまにプレゼントなんかもらったら、本当に、天に召されたりしないかな……」
「あ?」
「独り言。ああ、本当に、なんだか一気に全部許せてしまう気がする。八年前に私を置いていったこととか、結局一度も本気で手合わせしてくれなかったこと、あのうさんくさい大会に出るまえの足取り、それから例のドラッグの重要資料を恐らくおまえが持ち逃げしたこと、なんでも」
 昨日の夜は息をするようにソルへの悪態が出てきたのに、今はもうまったく思い浮かばない。今まで何をしていたんだ、どうして会いに来てくれなかったんだ、というような言葉も、似合わないプレゼントを携えてやって来てくれたことの前では全部霧散してしまう。
 古書に頬ずりをして、カイはソルと過ごした短い年月の記憶に想いを馳せた。出会いは最悪で、それから少し反目し合って、ソルは手探りでカイに対応していた。降誕祭の夜に少し距離が縮まって、そこからカイはどんどんソルに心を開いていって、夏ぐらいにちょっと不思議なことがあって。それから秋に、彼へ色々なはじめてをあげた。胸を衝くような喪失感も全て、およそ「はじめて」と名の付くものは大体、ソルに捧げられていった。
 だけど今年は一人じゃない。このあと、降誕祭当日を迎えた蚤の市にも、八年ぶりにきっと二人で出掛けられる。なんだかすごく浮かれているから、戸締まりだけはしっかりしないといけない。昨夜帰ってきた時もよく考えたら家の鍵があいていたような気がするし……。
「……ん?」
 そこまで考え、何かがおかしいことに思い至ってカイは本から顔を上げ、よく見るといつもほど赤を纏っていない男をじっとりと見上げた。
 ソルは上半身裸に下穿き一枚の格好で、我が家同然にくつろいだ姿だった。ここはソルの家ではないのに。
「いや待て。そもそも、私の家におまえが平然と在宅しているのは、おかしくないか? 戸締まりはちゃんとしていたはずなんだが」
「ああ、それか。窓割った」
「…………。…………はあ?」
「個人宅の警備に移相式の八階調法程式なんか採用すんな。アナリーゼに時間が掛かりすぎて、途中でディスペルを諦めた。窓割った方が早い。窓の防護術式はすぐ割れたしな。家そのものに手間掛けるんなら、次からは窓もデフォルトから術式を移しておくことだ」
「なっ、お、おまえ、おまえってやつは……!」
 何故か自慢げに言ってくるソルの態度に呆然とし、開いた口が塞がらなくなる。自宅の警備に使っている法術式は、カイが半年掛けて改良に改良を重ねた自信作だ。並の使い手ではまず階調すら判別できない超難解なコードは、デバッグをしてくれたベルナルドをして「リストの超絶技巧練習曲みたいですね」と言わしめた世紀の大傑作である。
 それをあっさりと看破したくせに、最終的にディスペルを放棄して物理で殴り込んでくるとは。
 カイはプレゼントの喜びに忘れかけていたソル=バッドガイという男の野蛮さをこれでもかというほど思い出させられ、半泣きになり、ソルを睨み付ける。
 しかしそれが逆効果だったらしい。ソルはにんまりと口を歪め、わざとらしく身体を密着させてきた。カイは身をよじるが、元々壁際にもたれていたので逃げ場がなく、結局部屋の隅に追い詰められる形になってしまう。
「そんなことよりだな、感動の再会に十分な手順はもう踏んだろ。俺は昨日からずっと我慢してることがある」
「そんなことって、大事なことだぞ! おまえが来る度セキュリティを破壊されてみろ、私に発生する労力が天文学的な数値に——はうあっ?!」
 押し当てられた部位の感触に顔を真っ赤にする。こういうことが前にもあったと思う。八年前の初夏のあれだ。あの時のソルには悪意がなくて、すぐに退いてくれたが、八年前の秋にあの結果になってしまった以上、身体に当たる隆起したものが何を示しているのかは、考えるまでもない。
「知らないなら教えてやるが、俺は我慢とか努力ってやつが何より嫌いだ。調書に書くぐらいにはな。正直な話をすると、坊やが酔っぱらって帰ってきた時、俺は割とテメェを襲いたかった。キスまでせがんでくるしな。それでも前科があることを鑑み、自省したわけだ。
 聖騎士団を出てからこの方殆ど自省なんかしたことがなかったもんで、諸々は困難を極めた。せめて舌突っ込んでやりゃあよかったと思いながら上着だけ脱がせ、ベッドに寝かせ、自分も脱いで同衾した段階でかなり襲いたかった。だが我慢した。同意なんか取らずにやらかして、朝目が醒めて死体にされてたり、結界牢にブチ込まれてたら洒落にならん」
「え、いや、あの、そのだな、だって……その……おまえが思いとどまってくれたことは大変嬉しいが、それはその、婦女暴行罪にあたるから、犯罪だ。そう。立派な。おまえは元々違法行為すれすれのことばかりやってるから、私が見ている以外の部署から要請が入って、賞金が掛けられたり解除されたりを繰り返しているんだけど……」
「まあ、そんな御託はどうでもいい。で、どっちだ。『はい』か『いいえ』か、坊やの返事は」
 ソルの何もかもが近い。目を逸らす余裕も与えられず、うろうろと視線を彷徨わせた挙げ句カイはソルの獰猛な顔つきを直視するはめになった。改めて間近で見ると、この男はものすごく顔つきが整っていて、だけどそれと同じぐらい目つきが悪くて、一見しただけではあんまり優しい人だと分かりづらくて、でも昔からカイだけにはそういうところを割とよく見せてくれていて、だからカイは、
「……はい……」
 ——いつもソルの横暴を、最後は許してしまうのだ。
「いい子だ」
 耳元で囁かれた低い声に身体がぞくりとする。それで全身の力を抜かれてしまい、身動き一つまともにとれなくなる。
 カイは開き直ってソルへ身体を預けた。カイの了承を得て軽々と身体を持ち上げた男は、やや首を傾げ、「相変わらず軽いな」と呟きカイをベッドに起き戻した。


 午前のうちにマーケットへ出るつもりだったのに、結局昼を過ぎても自室から一歩も出られなかった。生まれたままの姿でぐったりとベッドに横たわり、時計を確かめる。午後四時十二分。このぶんでは、シャワーを浴び身支度を終えて街へ出る頃には、陽が暮れているだろう。
 それというのもソルが元気すぎたせいなのだが、八年分だと言いくるめられてしまうと、もう反論の手立てがない。とはいえソルの方も手心を加えられなかったことに些か思うところはあるらしく、ようやくすっきりしたと落ち着いたあと、カイに小声で「悪ぃ」と謝った。
「これでも加減はしようと思ってたんだがな、何しろ八年にも及ぶ禁欲生活だ。とはいえ仕事中のテメェに手を出すほど俺も落ちぶれちゃいねえ。かといってのこのこと出て行けば問答無用で殺される危険性が高い。結局、時期を見るのに時間が掛かりすぎたってのが本当のところだ」
「えらいあけすけだな……」
「……まあな。坊やの噂はいくらでも耳に入ってきていたが、正直あの大会で顔合わせなきゃ、俺は一生、テメェが死ぬまで会いに行こうとは思わなかったかもしれない」
 ソルが「死者は頸動脈狙って刺しにこないだろうからな」と軽口を叩く。口ぶりは軽薄だったが、カイが死ぬまで会うつもりがなかったというのは、多分本当なのだろうなと思えた。ソルには生きる目標がある。ギアの女王ジャスティスを破壊し、その創造主であるギアメーカーを殺す。それが達成されるまでは、たとえカイの手に掛かってでも、殺されてやることが出来なかったのだ。
 だが大会で偶然再会したカイは、ソルがギアであることを知ってなお、ソルを殺そうとはしなかった。殺されないで済むのなら、会って話したいことがあった、とソルは静かに言った。
「置いていった理由も説明してなかった。あればかりは恨まれても仕方がない」
「……どうせ私のためとか言うんだろう。おまえはいつもそうだ」
「いつも?」
「うん。いつも」
 ごろごろ寝返りを打って身を寄せ、まだ汗ばんでいる身体をぴとりとくっつける。両腕を伸ばして抱きすくめ、顔を近づけるとソルの瞳が目に入る。はじめて身体を重ねた時と同じその色は、何らかの要因で興奮しているとそうなるものらしい。二時間ぐらい前に、ソルが睦言と一緒に言っていた。
「だからそういう説明は別に要らない。その代わり、私の話を聞いてくれるか」
「まあ、本気出せとかそういう話以外なら」
「この状況でこれ以上本気なんか出されてたまるか。夜は出掛けたいんだ。アネットさんとバーンズさんがそれはもう熱心に……ああ、そう。アネットさんに、ちょっとだけ関係がある話だな。覚えているか? 八年前、蚤の市でカップケーキの露天商を出していた」
「ああ、あの」
「その時おまけでくれたチョコレートを、おまえは『ベツレヘムの星』と言ったな。神の子が生まれるその御印となった輝ける星。それを……何故か、初夏の時にも私に対して言ったじゃないか。それをずっと、考えてるんだ……」
 ソルがまばたきをする。その中にカイの海色が映り込み、やがてそれは光の反射でどろどろになり溶けて消えた。
「お前がいなくなる前、私達はスロヴァキアへ行っただろう。あの夜、二人きりのキャンプでお前に抱かれながら、私は星を探していた。ベツレヘムの星を……いや、別に、そういう名を付けられた星が星図に載っているわけじゃないのは知っていたけれど。……探さずにはいられなくて、そうして結局見つからなかった」
 ベツレヘムの星は見つからず、その直後、永遠を与えて欲しいとせがんだ男はあっさりとカイの前からいなくなる。その一連の結果があるぶん、「ベツレヘムの星」という言葉はカイにとって重たい意味を持っている。降誕祭のツリーに飾る星飾りなんかよりずっとずっと重たくて沈鬱な意味合いが。
 その言葉を、カイに向けて一度ソルが言っている。どうしてなのか、あれからずっと、八年も考え続けているのに一向に答えが見つかる兆しさえない。
 そう弱り切った声で告げると、何故かソルはおかしそうに笑った。
「んなもん見つかるわけねえだろ」
「なんでだ」
「わかりきってる。星自身が星を見つけるなんざ、不可能だ。鏡もねえのに」
 そうして、ソルは優しくカイの唇にキスをした。
 はじめてのキスはレモンの味がするとかなんとかいう話を、聖戦が終わって何年かしてから大衆紙の十八面あたりで見たことがある。初恋と同じで、甘酸っぱい思い出になるから——というのがその記事に書かれていた根拠だったが、カイに言わせてみれば、ソルとのキスはそんなかわいい思い出ではなく、大体の場合は酒か煙草の味がセットだった。同じ甘酸っぱいにしても、まだイチゴ味の方が身に覚えがある。尤も、あれは本物のイチゴではなく製菓特有の「嘘くささ」をたっぷり含んだ、とてもキャッチーな味だったわけだが。
「つまり、ベツレヘムの星というのは、私だったと?」
「俺にとってはな」
「なんだ。それなら最初から言ってくれればいいのに」
「そういうわけにもいかねえ」
「なんで」
 考えてみればとても簡単なことで、ソルの言葉はいつもシンプルだ。彼は言葉を飾らないし、もっと上手に生きろとか言ってくるわりにあまり嘘は吐かない。ただ、本当のことも、全部は教えてくれないけれど。
「恥ずかしいだろ」
 だから今度の答えも単純だ。カイはくすくす笑ってソルにキスをし返した。今日のキスは酒の味も煙草の味も、イチゴの味もしなくて、八年前に二人で半分ずつ食べたベツレヘムの星と同じ味がした。
「嬉しいな。これでまた、私はソルの秘密にちょっと詳しくなったわけだ。八年前より随分と進歩したと思わないか?」
「は。テメェが知ってることより、知らないことの方がまだ全然多いに決まってるだろ」
「それは別に、いいや。今おまえは、私の前にいるし。全てを知ろうとすることが、その人への愛情を示す行為というわけでもないからね」
「ふん……一丁前のこと言うようになりやがって」
「そりゃあ、私も成長したからな。自分が子供だったことを知って、ちょっとは大人になったんだ」
「馬鹿言え。もう機械とは言えないが、それでもまだまだガキだよ、坊やは」
 酔っぱらって帰ってきて玄関に転がろうとする内はな、と愉快そうにソルが口をすぼめる。確かに、雪が降って昔を思い出し、仕事に逃げようとする内は、まだまだ未熟で青いままなのかもしれない。それでも構わない。子供だということは、まだ大人になる余地があるということだ。生きている限りは。そうしていつか、ソルがぐうの音も出なくなるぐらい大人になって、その時「もう坊やとは呼べなくなったな」と認めさせてやればいい。
「でも、そうだな。せっかくソルが教えてくれたんだから、公平を期すために、私も、私の神様の名前を、教えてやろうかな。特別に。……一度しか言わないから、よく聞くんだぞ」
 新しい目標を掲げ、上機嫌になったカイはソルの耳に唇を寄せた。
 かつてソルは、神の存在に思い悩むカイに一つの答えを与えた。神様は信じている限り存在する、しかし、人は神を救わない、人はひとりでに救われるのだ、と。
 ソルからしてみれば、カイもやはり、ひとりでに救われたというようなところがあるのだと思う。ソルに置いて行かれた後、カイは一人でも戦い続けたし、ギアを殺し続けた。一人で進路を選び、官職に就き、世界を守り続けることを自分で選んだ。人の心がないとまで言われた少年は人々に慕われる青年になった。確かにそれらは神が手を下した結果ではない。お告げも奇跡も、そこに介在していない。
 それでもカイは、いつか自分を救ってくれたものを、神様だと信じているから。
 気まぐれな神様がサンタクロースのように帰ってきて、それで救われたのなら、そう思うことを誰も咎められないだろう。
 唇が耳へ直に触れる。ソルが身じろぎをし、カイの告げる言葉を待っている。不思議な感じがした。そうしていると、情事のあと、ベッドで話をしているというシチュエーションにも関わらず、図書館で勉強を習っていた時と同じような気持ちになった。多分それは、あの頃ソルが一番真面目にカイの言葉を取り合ってくれたのが勉学の時間だったからだ。そういえば、あれから研鑽を重ねてマグカップを机の端から端に転移させることがとうとう出来るようになった。あとで出掛ける前に、見せてやりたい。
 再びソルが身じろぎしたのを確かめ、カイは大きく息を吸い込み、深呼吸をする。
 それから、カイは努めて声のボリュームを落とし、ソルだけに聞こえるようこっそりと、八年越しに、彼の身体の中へ秘密の囁きを落とし込んだ。


「私が信じる、神様の名前はね——」












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