※オフ本のサンプル
※サイトで書いていた連作の再録です。以下のサンプルは書き下ろし部分のものになります。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 みんなでカイト達が作ったらしい《ゲート》に飛び込んで、サルガッソの狭間を抜け、アストラル世界へは割とあっさり辿り着いた。想定していたより随分簡単に付いてしまって拍子抜けしたぐらいだ。
 降り立ったアストラル世界は俺が訪れた頃とは様相が少し違っていて、あちこちで花が咲いていたり、俺が前にこの世界を訪れた時のような「エネルギーが足りてない」って感じはしなかった。「アストラル世界はバリアン世界と融和する道を選択したんだ」と、カイトが教えてくれた。
「それで、ドン・サウザンドが暴れてるっていうのは本当なのか?」
『事実、ということになるな。私が一度この目で確かめてきたのだ、間違いないだろう』
「じゃ、なんでそんなことになってんのか理由ってわかりそう?」
『ふむ……彼はカオスの煮詰まったような存在だからな。その行動原理は私よりも人間である君達の方にこそ近いのではないか』
「どうだかねえ。俺が遊馬に裏切らせた時に見せたあの醜い嫉妬、ありゃあ人間そのものだったぜアストラル」
『黙っていてくれ。君には何も聞いていない』
 で、今はアストラルとベクターが何故か俺を挟んで右から左からいがみ合っているというか、縄張り争いをする猫みたいに睨み合っている。アストラル世界に俺達が来るのを見越していたのか、アストラルはなんとゲートの出口で俺達を待ってくれていた。『もう一度、君と会えると思っていたよ』と言ってアストラルは俺を抱き締めてくれた。ちょっと、お母さんみたいで、なんだかうるっときてしまったのは内緒だ。
 カイトが観測していた通り、アストラル世界はバリアン世界との融和を遂げ、途中までは上手いことカオスの受け入れが進んでいたはずなのにここ最近急にそのサイクルが上手く回らなくなってしまったらしい。どうしてなのか、その理由を尋ねるとアストラルは少し唸って『何とも申しがたい事実だが、ドン・サウザンドの影響ではないかと思うのだ』と言った。
「そういう言い方するってことは理解してるってことだろ? あの自称神が一人が寂しくて拗ねてるってことをだ。そうじゃねえのかよ」
『む……確かに私もそのあたりが理由だろうとあたりを付けてはいたが、君にそういう言い方をされるのは不愉快だ』
「ふーん? なんで僕に言われると不愉快なんですかぁ?」
『君の悪意が伝わってくるからだ。遊馬から離れろ。遊馬が望むからと温情と慈悲をもって君もあの世界に残してやったのだ。感謝して欲しい』
「頼んでねえし」
「け、喧嘩はやめてくれよぉ……」
 ベクターが焚きつけるように攻撃的に話し掛けるものだからアストラルの方もどんどんヒートアップしてきてお互いになんとなく引っ込みがつかなくなってるっていうのが伝わってくる。一を言われたら三で言い返して、そしたら次は五で、その次は更に十、十五、二十……そんな感じでどんどん膨れ上がっていくのだ。
「喧嘩じゃねえ。俺はただ見たままのことを言ってるだけだぜ」
「だけどよぉ」
『その通り。君は遊馬を困惑させている。遊馬の心を痛めるものは……遊馬の世界には相応しくない……』
「アストラルぅ、それも違うって!!」
 シャークとかカイトとか、他のみんなはちょっと下がった所から俺とアストラルとベクターを遠巻きに眺めてどうしたらいいのか考えあぐねている。カイトなんか顔に思いっきり「今はこんなことをしている場合ではない」って出てた。正直俺もそう思う。
 アストラルと再会出来た喜びもそこそこに、なんだかきりきり胃が痛んできている気がする。なんでこう、仲良く出来ないんだろう。それともこれは三周ぐらいして仲がいいんだろうか。


| home |