宇宙でたったひとり


 僕が知る限り、本当に本当の昔から、ユーリは自由ないきものだった。

 僕らふたりにとっての世界が、まだ狭い狭い下町の中でだけ完結していた頃から、彼といういきものは、どうしてだか、ふと遠くを漂っているかのような横顔を見せることがあった。それはもしかしたら僕の思い違いで、思い込みで、身勝手な妄想なのかもしれない。ユーリには僕にないものがたくさんあって、僕は彼のそんなところに焦がれていた。(今も。)だから自分勝手に、彼は永遠に僕のそばにいてくれるはずだと思い込むのと同じように、彼はいつか僕を置いてどこかへ行ってしまうのだと恐れて、そう感じていただけなのかもしれない。
 けれど。
 大人になった今僕が思うのは、それはやっぱり、僕だけの妄想じゃなくて本当のことだったんじゃないかな、ということ。
 彼にとって世界の全てが下町で出来ていて、下町の人達だけで物語が完結していて、そんな頃から、だけどユーリは夜空を見上げるのが好きだったから。



「よっ。どうだ、元気してるか」
 帝都じゅうの花壇が、美しい花を咲かせるようになった季節のことだった。
 まるで昨日もそうしたかのような調子でするりと窓から入って来た彼は、久方ぶりに顔を合わせるというのにまるでそんなブランクを感じさせない調子で、当たり前のような顔をして僕の部屋に居座っていた。窓際、椅子とテーブル、彼の定位置。
 ユーリは窓のそばが好きだ。昔からずっと。
「ドアには鍵をかけていたはずだけれど?」
「窓が開いてたのは、オレが入って来れるようにっていう配慮だろ」
 ユーリが傍若無人に言い棄てる。僕はそれ以上の言及を諦め、彼の向かいに腰を下ろした。窓から入ってくるのはどうかといつも思ってはいるのだけれど――閉塞的なものは悉く彼を縛り付ける枷なのだから、それは仕方のないことだ――とも、なんとなく僕は思っていた。
 ユーリは窓が好きだし、僕の部屋の扉をちゃんとくぐるのが嫌いなんだ。
 そういうことでいい。昔一回だけ、本当に扉が壊されていたこともあったし。あとからエステリーゼ様に聞いた話によると、あれは厳密にはユーリのせいじゃないらしいけれど……。
 さておき。
 僕はこほんと一つ咳払いをし、彼に向き直った。
「それで、今日は何のご用で」
「ごあいさつだな。何か用がなきゃ、来ちゃいけないってか」
「いいや。ただ、緊急の用がないのならば、ドアから入って来てほしいんだ。本当を言うとね」
「はは、照れ隠しか。あんまりうまくないな」
「本音さ。本当の本当に」
「と言ってはみるものの、本当の本当の本当を言えば、オレの顔を見られて安心してる。そうだろ?」
「…………。そうだよ」
 少しの沈黙を経て認めると、ユーリはあのなんとも言い難い不可思議な笑みを浮かべ、そうかそうか、と唇をニヒルに歪めた。僕に思うところがあるように、彼にも思うところはあるようだった。自らの遊動性に対する自覚も。
 そう。星喰みを打ち倒し、ギルド凛々の明星総出の旅が終わった少しあとぐらいから、ユーリはふらりと姿をくらますことが多くなった。旅を始める前は、下町に通りがかればいつでも見つけられたはずの彼が、大抵の場合どことも居場所が知れなくなった。
 神出鬼没。そう言えば聞こえはいいかもしれないが、実際のところそれは単なる雲隠れに近い。いつの頃からか、彼は凛々の明星のみなにでさえ全ての行き先を告げなくなったのだ。いや、いつの頃からか、なんて言い方がそもそも間違っているのか。ユーリは元来、行き先をいちいち他人に教えて回るようなたちじゃないのだから。
(それにしたって……)
 僕は溜め息を吐き、朧に、脳裏へ過去の記憶を取り出した。
 あれは確か、まだ子供たちの労働に町外れへの水汲みが連なっていた頃のことだ。工事のせいで下町の水が止まり、結界の外へ出て川まで水汲みに行こうとしていることを、ユーリは誰にも告げなかった。彼一人で全てをまかなおうとしていた。結果的にその目論見は僕をはじめとした数人に見つかり、色々な波紋を残したのだが、ともかく、彼の中には他人へ計画を報せる気がまるでなかった。
(思えばユーリは子供の頃から、そういうところがあったんだ……)
 だから、そう、たとえば、だ。
 それを放っておいたから、あの日、ユーリはキュモールを突き落としたのか。
 そんな漠然とした不安に、星喰みを倒して以来行方をくらましがちになった彼の噂が重なっていく。すると不安はより強く大きく育ち、姿形を獲得し、僕の心象風景に巨大な化け物となって立ち上がる。
 ――いつか僕の前から、ユーリが完全に姿を消してしまうのではないか。
 そんな、口に出して言葉にのせるだけで一生涯呪われてしまいそうな化け物に……。
(だからねユーリ、どだい無理な話なんだ。そんな不安に襲われている最中に、君と会い言葉を交わして、安心するな、だなんて)
 僕は一度目をつむり、そして再び開いた。僕の瞳の中央にはまだ涅色の髪を垂らした友人の姿があった。刀を握り続け、たこの出来た手のひらも。今目の前にいるユーリは夢でもまやかしでもない。
「安心する。この上なくね。少なくともユーリ、君はまだ僕の前に顔を見せてくれる気があるんだということが、これでわかるから」
 ユーリへ向け、静かに手を伸ばす。ユーリは少しだけ躊躇いを見せ、しかし最後には僕の手を取る。彼の指先は猫のようにしなやかで、そして恐ろしく軽い。質量がないみたい。確かにそこにあるはずなのに。
 僕はそれを確かめる度に恐ろしくなる。
 いつかこの指先が幽霊に変わってしまったら、僕はどんな顔をしていいのか、そもそも顔がかたちを保っていられるのか、ひとつの自信も持ち合わせていないのだ。


◇◆◇◆◇


「そうねえ……まあ、言うほど簡単な問題じゃあないでしょーけど……」
 市民街にある喫茶店、そのテラス席。時刻は夕刻過ぎ。僕は鎧を脱ぎ、レイヴンさんはいつものあの緩い着回しをしてコーヒーカップを手に持っている。道行く人々から「奇妙な組み合わせ」に対する好奇の視線をいくつも貰っていたが、僕もレイヴンさんも気にしてはいなかった。
 たまたま帝都まで用事があって出てきたというレイヴンさんを見かけ、引き留めたのは僕の方だった。相談があるんです。俺に? そうです、あなたに。この話はエステリーゼ様にもユーリにも他の誰にも出来ない。あなたにしか。
 そんなふうにまくしたてると、レイヴンさんは小さく頷き、僕の話を聞いてくれた。僕の話は、自分で思っていたよりも随分と長くとりとめのないものだったけれど、彼はじっと黙って耳を傾けてくれていた。
「おっさんはねえ、思うのよね、フレンちゃん」
 そうして全てを聞き終わると、レイヴンさんは頬杖をつきながら、努めてなんでもないふうを演出しながら口を開いたのだった。
「確かにね、青年ってさ、な〜んか、一人でなんでも出来過ぎちゃうっていうか……自己完結しすぎてるとこがあるじゃない。フレンちゃんが思う不安っていうのは、だいたいここからきてるわけでしょ。けどね……」
「けど?」
「ん。けど、よ。青年にはフレンちゃんがいるじゃない。だからいいのよ。おっさんは、そういうことじゃないかって思ってるんだけど……」
「……どういう?」
「どういうって言われると、難しいんだけども」
 レイヴンさんが困ったように笑う。フレンちゃんは真面目だからねえ、なんて軽い言葉を口ずさみながら。僕はぽかんとして彼をじっと見つめた。この人の言うことは時々すごく難しいと前からたまに思っていたけれど、今までの中でもとびきりの難問を浴びせられた気分だった。
「僕がいたって、ユーリはどこへでも行きますよ。彼は自由なんです。奔放で、何にも縛られない、けれど彼はそうでなくちゃいけないから、僕にはそれ以上が望めない」
「そね。青年は自由だし、どこへでも好き勝手に行く。けど永遠にどこかへは行ってしまわない。……おっさん、ちょ〜っと同類っぽいとこがあるから分かる気がするんだけど。青年って自分からあんまり人と繋がろうとしないじゃない。そういうやつってね、どこかへ行ったら、ほんとに、いなくなっちゃうのよ。かつてシュヴァーン・オルトレインがそうしようとしたみたいに」
「そんな……」
「そんなもんよ。だのにそういう、誰かに腕をふん掴まれなければ人と繋がれないとこのある青年が……フレンちゃんのこととなると、ちゃんと怒ってずかずか歩いて行って、なんとかしたがる。それってすごいことじゃない?」
 それからレイヴンさんは、飄々とした語り口でそんなふうに締めくくった。
 僕はさらにぽかんとして、今度は口もだらしなく開けたまま固まってしまう始末だった。レイヴンさんの言葉のいちいちが、あまりに難解にすぎた。
 ユーリは確かに、己が信条に反するものについては静かに激しく怒りを表す人間だったが、そのために僕に対して怒ることこそあれ(騎士としての僕が法で裁けない悪人を前に手をこまねいている時なんか、特に)、僕のために怒っているところなんか、子供の頃ならいざ知らず……大人になってからは、もう滅多に見るものでもなかったのだ。
 僕は息をひそめ、信じられないものを見る顔つきでレイヴンさんに尋ねた。
「怒る? ユーリが? 僕のことで?」
「そだよ」
「エステリーゼ様のことじゃなくて?」
「そうともさ」
「そんな。エステリーゼ様のために激情したユーリは見た事があるけれど、……僕のために怒るところなんて、めったには……」
「ああそっか、青年、照れ屋さんだから。本人の前ではそういう素振りを見せないのか。多分エステルの嬢ちゃんもおんなじ反応するわな、これ。『フレンのために怒るユーリはよく見るけど』ってね」
 レイヴンさんは微笑んだ。その笑みが、多分一番の答えだった。
「……僕は知らない、そんなの」
「フレンちゃんには見せたくないんじゃない。人殺しを自己申告しなかったのと一緒」
「……そんなの! ユーリは、あいつは、自分勝手です。僕にはわからない。どうしたらいいのか。僕はただユーリを失いたくないだけなのに」
「はは。お互い様だねえ、おたくらは」
 お互い様だね。レイヴンさんが再び繰り返す。お互い様。僕はユーリを失いたくない、ユーリもきっと僕を失いたくない、僕はユーリの親友でいたい、ユーリも僕の親友でいたい。だから隠し事をしたりするし、秘密を持ったりもする。自分勝手であいつはわからないと愚痴る。だけど全部それはお互い様で。
「あのねえフレンちゃん、青年はね、自分のものを奪われるのがキライなのよ、たぶんね」
 だからだろうか、いつの間にか俯いてしまった僕の頭をぽんぽんと撫でながら言うレイヴンさんの言葉は、どこか宥めるような調子だった。
「……そうでしょうか。だってユーリは、自分のものにも、自分自身にも、頓着しないじゃないですか……」
「そうね。だから――正確には、自分が価値を認めたものを貶められるのが我慢ならないのかな。アレクセイがエステルの嬢ちゃんの必死さを詰った時あんなに怒ったのは、そういうことかなっておっさんは思うのよ。キュモールやらを殺しちゃったのも、突き詰めればそうでさ。真面目に頑張ってるフレンちゃんをバカにして踏みにじるやつらが許せなかったんだよね。青年にとっての理屈っていうのは、実はそのぐらいシンプルなんだわ」
「シンプル? どこが? 僕には複雑怪奇な知恵の輪にしか思えませんよ」
「あはは。そんなこと言ったら人間なんてみんなそうよ。よく見ると単純な、でもぱっと見難解な、知恵の輪のオブジェ。その連なりに過ぎないのかもね……」
 あそこをごらん、とレイヴンさんの指先が天へ伸びる。話し込んでいるうちにすっかり更けてしまった夜空の中、いくつもの星々が瞬いている。その中でもひときわ強く輝く恒星がどうしようもなく僕の目を惹き、連れ去られるように、僕のまなざしは凛々の明星のその向こうへ引き摺られていく。
「もしも世界の外、空の向こう、星のかなたに、世界が続いているとして。そこには空気も水も光も重さもなく、永遠が彼方にまで広がっている……それを学術の上では、『宇宙』と呼ぶんだってさ。リタっちの受け売りなんだけど」
 フレンちゃんが今見つめているのは宇宙でしょ。レイヴンさんが呟く。僕は無言で頷く。僕が恐れているものが、レイヴンさんの説明で浮き彫りになる。
 ああ、僕は、その時やっとわかったんだ。
 ユーリは、僕の一番の親友、ユーリ・ローウェルは、しかし僕の手を振り払い、いつか宇宙でたったひとりになってしまうんじゃないか、それが僕はとても怖かったんだ。
 夜空を見上げるのが好きで、あの夜の色をした美しい髪と瞳とを兼ね備え、人を縛り付ける重力からも解き放たれ、自由に、どこまでも自由に、空を泳いで消えて行ってしまいそうな眩しい星の光が――怖かった。
「ユーリはいつか星になるのでしょうか?」
 けれど僕が呟くとレイヴンさんは笑う。
「どうして?」
「或いは、幽霊に? レイヴンさん、ユーリの手は、ひどく軽いんです。質量がないみたい。確かにそこにあるはずなのに、まるで空の向こうへ浮かんで行こうとしているみたいに……」
「ん〜。ま、確かに……もしこの星の外に放り出されたとしても、青年は生きてゆかれるだろうなって思わせるところ、ちょっとあるけど。でも青年は空の向こうへはゆかないよ。だって青年にはフレンちゃんがいる。似たもの同士のおたくら、互いに相手を星になぞらえ、互いの重力に惹かれ合って地に墜ちる。――フレンちゃんはね、青年にとっての重力なのよ」
 青年がもう、フレンちゃんの中で星になってるのと同じようにね。
 レイヴンさんは、最後に、あのどこか真意の読めない笑みを浮かべてそう言った。


◇◆◇◆◇


 いつかユーリの世界は下町の外へ広がり、僕たちはお互いに動き続ける二つの点と点になった。点同士で時折交わり、そうしてまたどこかへ去っていく。僕たちはいつでも一緒にはいられない。何故なら選んだ道が違うから。
 けれどそれは、僕たちが友達でいられなくなることの理由にはならない。
「こら、また僕の部屋に入り込んで。今回も窓から? 今日は窓を閉めておいたはずなんだけれど」
「鍵が開いてた。入ってこいのサインだ」
「君はまた、すぐそういう屁理屈を言う」
「そんなことより、外行こうぜ。今日は雲がない。星を見るには持ってこいだ」
 僕が自室の戸を開けるや否や、窓際で丸まっていたユーリが立ち上がり、窓に手を掛けて飛び出してゆく。あかりのついていない部屋からしなやかな黒猫が飛び上がる。僕は窓に手を掛け、夜を駆ける気まぐれな猫を追う。
 壁を駆け上がり、屋根から屋根を飛び移り、僕らはザーフィアスで一番高い建物の上に腰掛けた。月がことさらに近い。その周りにきらめく星々はまばゆく、目が眩みそうに美しい。
「久しぶりにフレンと星が見たかったんだ」
 どちらからともなく口を開き、ユーリが呟いた。
「最後におまえと星を見たの、いつだったかな。星喰み倒してからこっち、こうやってちゃんと眺めたことがなかったような気がしてさ」
「ユーリは星が好き?」
「今になって聞くことか?」
「まあ、それもそうだ。凛々の明星というギルドの名前、僕も好きだよ」
「決めたのはエステルだけどな」
 屋根の上に寝そべると遮るもののない夜空が視界いっぱいに大映しになる。僕の瞳の中、君の瞳の中、今は同じ星空が映り込んでいるのだ。それを思うとどこか不思議な気持ちになる。
「あの空の向こう、もっとずっと先にある場所を、『宇宙』というのだって」
 だからだろうか、僕の口は自然に動き、そんなことを勝手に口走っていた。「宇宙?」ユーリが怪訝な声を出す。けれど僕の唇はもう止まらない。
「そう……宇宙だ。そこには空気も水も光も重さもなく、永遠が彼方にまで広がっている」
「ふうん。今日のおまえ、えらい詩的だな」
「受け売りだよ。宇宙で人間は生きていかれないっていう、学術の話なんだって。けどね……ユーリ、どうか笑わないで聞いてくれよ。僕はその話を聞いたとき、不安でたまらなくなったんだ。なんておあつらえ向きの場所なんだろう、そんなところがあったら、ユーリはきっと一人でそこへ行ってしまう。僕を置いて……」
 僕が一息に喋り終わると、笑いを堪える努力ひとつ見せず、ユーリは大声でげらげら笑った。馬鹿にしてるわけじゃないっていうのはわかるけれど、ちょっと気恥ずかしかった。
「あっこら、笑わないでくれって言ったじゃないか!」
「あっははは! そいつは無理ってもんだフレン、これが笑わずにいられるかって。今日のおまえ、やっぱちょいと詩的だぜ。ああうん、これは褒め言葉だ……」
「今日だけじゃない、いつも思ってる。僕は身勝手なんだ。君の自由を何よりも尊びたいのに、君を束縛したくなる。君が僕の隣にずっといてくれたら。そう思うのを止められない」
「ふ、ふふ、はははっ。ならオレも同類さ。フレンの気持ちを分かっていてふらふらあちこちへ出掛けるし、フレンの隣にオレ以外が立ってるとむしゃくしゃする。オレが自分からおまえのそばを離れたくせにな。オレの方がよほど身勝手だよ」
 馬鹿笑いをしながらユーリが僕の手を握り締める。驚くほど軽いユーリの手、でも触れてみるとそこには熱があり、彼は確かに生きている。今ここで。僕の隣に。
 宇宙のまんなかに、たったひとりなんかじゃなくって。
「昔なら、まあ、宇宙でたったひとり生きていくのも悪かないって思ったかもしれねえ。けど今のオレはもう知っちまったからな。宇宙にはフレンがいないってことをさ」
「なのに星を見上げるのか」
「そいつは嫉妬か?」
「そうだよ。今僕がいるのは夜空じゃなくて屋根の上だ」
「そう、そうだな。なら、訂正が必要だ。宇宙にはフレンがいない。しかし今オレの隣、屋根の上にフレンはいて、そしてこの空におまえの輝きが映り込んでいる。……なあフレン、知ってるか? 知らないのなら、教えてやるよ。オレはな……」
 ユーリが寝返りをうち、僕の耳へ唇を寄せた。秘め事を交わすために身体を近づけ、僕は不意にレイヴンさんの言葉を思い出す。――お互い様だね。似たもの同士のおたくら、互いに相手を星になぞらえ、互いの重力に惹かれ合って地に墜ちる。
 そう、僕らは、よく似ている。僕らは何故かいつまでも同じ身の丈だし、選んだ道はまったく違うのに、それでもまだ同じ夢を追いかけている。そしてお互いを星になぞらえながら、見ているのは互いの姿だ。
「オレはな、べつに、夜空を見るのがことさら好きなわけじゃない。ただ、おまえの隣で、おまえと一緒に、おまえみたいな星を見つけるのが好きなんだ。フレン、オレの星」
 僕の星ははにかみ、悪戯っぽく囁いた。