*短いの二つなので同ページ内にヨハン誕と十代誕両方入れてあります。 下のリンクでジャンプできます ・ヨハン誕生日sss ・十代誕生日ss (2012.06.11 ヨハン・アンデルセンバースディsss) 「え、何で知ってんの?」 思いがけない申し出につい素っ頓狂な声をあげると、十代はしたり顔になってヨハンの肩に乗っている小動物を指差した。精霊ルビー・カーバンクル。ヨハンの家族だ。 「へへ。ルビーに聞いたんだよ」 「何ぃ、ルビーお前って奴は!」 言葉は責めるようだが、声音は楽しくてたまらないといったふうだ。くしゃくしゃと撫でられているルビーも「どんなもんだ」と自慢げな顔をしている。 ヨハンは十代の大人びてしまった横顔に指を伸ばして撫でてやった。「なんだよ、くすぐったいな」と頬を膨らませて十代はそれに応じるが、どことなく愉快そうだ。 彼が差し出してくれた小包を受け取って開封すると、青い毛糸の手袋が出てきた。 「こっち……寒いって聞いたからさ。よかったら使ってくれ」 「十代の手編み?」 「まさか。店で買ったよ」 「素っ気ないなあ」 綺麗に整った手袋は確かに既製品然としていた。十代がこんな器用な物を作れるはずもないから、やはりこれは既製品なのだろう。 だが縫い込まれたやや不格好な刺繍はどうだろうか。こっちは脈アリかな、とヨハンはにやにやする。 「サンキュ。十代だと思って大事にする」 「俺は青い手袋なのかよ?」 「想いを重ねるってことさ」 ウインクを返してやると十代は変な顔になって、それからぷっと吹き出した。つられてヨハンもけらけらと笑う。大人になってしまった友人のこういう一面を垣間見られることが、ヨハンには嬉しかった。 「十代、変な顔」 「うるせー。ヨハンも同じだろ」 「ああ……」 手袋を嵌めてみせると十代は笑い顔を引っ込めてヨハンの掌を毛糸越しに触れる。それからごく自然に柔らかくはにかんだ。 少女みたいな笑顔だと、そう思った。 「ハッピーバースデイ、ヨハン。お前の一年に幸福がありますように!」 (ヨハンさんお誕生日おめでとうございます!) (2012.08.31 遊城十代バースディss) 「なんだよ、浮かない顔して。もうちょっと嬉しそうにすればいいのにさ。今日はお前が主役だっただろ?」 「ああ、まあ、そうだけどさ……」 薄暗いレッド寮の自室でプレゼントに囲まれてぼんやりと天井を眺めていた友人の姿を見付けてヨハンは溜め息を吐いた。 夏休み最後の日、この日は例年殆ど人がアカデミア島に残らずどうしても閑散としてしまう。だが今年は留学生組の存在と、そして十代の誕生日パーティのためにいつもなら考えられない程多くの生徒がこの島に残留していた。今や高校三年生となった遊城十代はアカデミア一の有名人なのだ。本人が知らないだけでファンクラブだって存在している。 数時間前にお開きになった、本人に内緒で企画された誕生日パーティを彼も十分に楽しんでいたようにその時ヨハンは感じていた。色とりどりのリボンで包まれたプレゼント、たくさんのメッセージ。購買から提供してもらった最新のカードパックにドローパン。そのどれもを十代は心から喜んで、嬉しそうに受け取っていたとそう思ったのだが。 「プレゼント、何か気に入らないものでもあったのか」 「そういうんじゃないんだ。みんな嬉しいよ。……でもさ、こんだけの量抱えて寮に帰ってきて、誰もいなくって、ふっと上を見上げた時にさ、思っちまったんだ。俺、こんなに沢山の人に祝って貰っていいのかなあって」 淋しい笑顔でそんなことを言う。ヨハンは面食らってしまって、思わず「おい」、とぶっきらぼうな声を出してしまった。 十代はヨハンがそんな声を出す理由に思い至らないのか首を傾げる。その様子に更に息を吐きたくなるのをぐっと堪えてヨハンは十代に歩み寄って出来るだけ優しい声で彼に尋ねた。 「どうしてそんな悲しいことを言うんだ」 「……かなしい?」 「悲しいよ。だってそれって、十代自身が自分が生まれてきたことを喜べてないってことだろ?」 「ああ、それは……」 誕生日が楽しかった記憶というのが、思い返してみるとないのだった。両親は仕事でいつも忙しそうにしていた。毎年、買い置いてあったケーキを一人っきりの家で咀嚼していた。プレゼントも一人で包みを開いた。 「確かに、そうかも。毎年一人で誕生日を迎えてさ、ちっとも楽しくなんかなかった。生まれてきた日をみんながこぞってめでたがるのが俺にはわかんなくて」 ずっとひとりぼっちだった。その印象が強すぎて、だからどうも素直に喜べないのだ。 自身の周囲に積まれたプレゼントボックスを今一度見回す。一際大きな包みの贈り主は吹雪だ。中身は想像もつかないが、明日香は「たちの悪いびっくり箱だと思った方がいいわ」と言っていた。中くらいの包みは翔や剣山、明日香、万丈目らがくれたもの。翔と剣山が我先にと手渡してくれた昼の光景が脳裏に蘇る。――「アニキ、僕のプレゼントを先に開けてよ、絶対だよ!」「俺のを先にお願いするドン。アニキはきっと喜んでくれるザウルス!」――二人はきらきらした目で(あるいはギラギラした目で)そう言ってくれたのだっけか。 他にも数えきれない量のプレゼントを、それこそ名前も知らない下級生なんかからも貰ったのだった。それら全ての中でも一番に小さな包みが転がっていて十代の目を引く。ひょいと拾い上げて確認したネームプレートに書かれていた贈り主の名前は、目の前にいる少年のものだった。 「一人が淋しいのなら、一晩中俺のそばにいてやるから。だから祝われていいのかなんて言うもんじゃない。お前なぁ、これだけプレゼントを貰ってるってことは、それだけ沢山の人から愛されてるってことなんだぞ? 素直に受け取って素直に喜べばいいんだ。誰もお前が生まれてきたことを呪ったりなんかしやしないさ。むしろ、こうして祝ってくれてるだろ?」 「……うん」 「なあ、それ、開けてみてくれよ」 「わかった」 請われるままにラッピングに手を掛けた。きっちりと結ばれたリボンもぴっしりとした包装紙もあっという間に剥がされていく。ほどなくして現れた箱も、かぱっ、と音を立ててすぐに蓋が開いた。 現れたのは小さなストラップだった。ルビーとハネクリボーを模したぬいぐるみがくっ付いて一つになっている。自身を模したぬいぐるみを見たルビー・カーバンクルとハネクリボーはお互いに顔を見合わせて、楽しそうに尻尾や羽根を揺らし出す。間もなく二匹は主の肩に降りてきて満足そうに座り込んだ。 「ヨハン、これ」 「うん。作ってみた」 「ハネクリボーが前にヨハンのところにいたのってこのためだったのか?」 「そ。こいつらが一緒にいる姿は、俺と十代が一緒にいる姿に似てるかなって思って」 「器用だな、ヨハンって」 「十代のためだからな!」 マスコットストラップと一緒に小さく折り畳まれた手紙も出てくる。十代がそれを手に取るとヨハンは照れ臭そうな顔になって、「まあ、開いてみろよ」と十代に開封を促した。 ヨハン、ルビー、ハネクリボー、併せて六つの瞳に覗き込まれながら手紙を開封する。ヨハンの几帳面な文字で、しっかりとした日本語が綴られていた。本当にこの男は、日本人の十代よりもよっぽど日本語が達者だ。 「えと……『親愛なる我が友へ』。なんだよこの出だし」 「ディアマイフレンド、と置き換えてもいい」 「ふーん…………『君が生まれて、俺と出逢えた奇跡に感謝を。』」 その先に続いていた言葉は、恥ずかしくてとてもではないが声に出して読み上げることは出来そうにもなかった。口に出して、たった五文字。それなのにこんなにも、泣きたくなるぐらいに嬉しい。 「――ばかやろ、ヨハン、……でも、」 「うん」 「サンキュー、な」 「うん」 澄ましたふうに相槌を打って、にこにこしている。このやろ、ばか、と小声で言ってやってもにこにこしていた。やがて彼は十代の顔にずいと自分の顔を近付けてぱちぱちと瞬きをする。エメラルドグリーンの透き通った綺麗な瞳が、十代のこげ茶の瞳をまっすぐに見つめてきている。 唇から漏れる吐息が少し、鼻に掛かったような気がした。 「改めて、生まれてきてくれてありがとう、十代。そして、俺と出逢ってくれてありがとう。あいしてる」 ヨハンがはにかんだ。まっすぐな笑顔に無性に嬉しく、また恥ずかしくなって、十代は少しだけ頬を染めて視線をそらす。 それから、視線をそらしたままでヨハンの手を握った。 「ハッピーバースディ!」 (十代さんお誕生おめでとうございます!) |