※おともだちのお誕生日に!
※四主人公兄弟パロ
※遊馬は末っ子かわいい




春になったら花見に行こうか。





 ヨハン・アンデルセンは苦悩していた。
 子供が二人、俺の眼前で非常にくだらない諍いを続けている。がたいがいい方の片方は俺と同い年だったが、敢えて「こども」という表記を用いようとヨハンはひとりごちた。二人はお互いに指を向け合い(俺が知る限り、日本ではそれはあまりよろしくないとされる風習だったはずだが)、低次元の言い争いをしている。そしてとうとうぐるりと向き直り二人して「「なあ、ヨハン!!」」俺をジャッジ役に指名してきた。勘弁してくれ。
「ヨハン兄ちゃん聞いてくれよ! 十代兄ちゃんのやつ、ヨハン兄ちゃんのこと独り占めしようとして無理難題ふっかけてくるんだ」
「はン―ヨハンは俺の友達なんだぜ。四男坊の分際でもってこうなどと十万年早い。出直してこい」
「意味わかんねーよ! 俺教えてもらいたいことたくさんあるのに」
「俺もたくさんある。明日のテストの勉強とか」
「十代……切実すぎるだろ……」
「あっでもそれ俺も聞きたい!」
「遊馬、お前もか。本当に似たもの兄弟だな?!」
 ついつい溜め息が漏れて出る。二男の十代と四男の遊馬は性格が似通っていて、ついでに思考回路や勉強に対する態度なんかも似通っていた。大雑把でがさつで頭を使うことが苦手な二人はテスト前になるとてんやわんやなのだ。なんだかんだで俺や三男坊の遊星が教えるはめになる。遊馬は運が良ければ友人の神代や天城に教えを請える時もあるが、十代の場合は一も二もなくまず俺しかまともに頼れる人材がなく、そして長兄である遊戯さんに迷惑をかけることを厭った。
「テスト終わったら、花見にいこうと前に話していたな十代」
「ああ。遊戯さんとか遊星の知り合いも呼んで大勢でぱーっとやろうと思ってる」
「だけど忘れてないか、テストには赤点を取った場合追試というものが存在する。あまりにも悲惨な点数を取ると更に更に豪華特典で補習もついてくる。そうしたらどうなると思う」
「…………は、花見がつぶれる……」
 悲壮な顔で答えたのは十代ではなく遊馬だった。今回のテスト範囲によっぽど自信がないと見える。十代の方は、あれだ。慣れきってしまって鈍感になっているのだ。こいつはその点に置いてはとことん悪童であった。
「別になんとかなんだろ、赤点回避ぐらい。ヨハンがいれば」
「お、俺はどうするんだよ十代兄ちゃん」
「遊星にでも聞け」
「遊星兄ちゃんだってテスト前なんだってば!」
「大した問題じゃないだろ、あいつ優等生だし」
「ひど!」
 適当にあしらわれて涙目になっている。ここまで見ていると、どうにも遊馬の方が可哀相に思えてきて俺はふと妙案を思いついた。仲良き友には苦労をさせよ。意地悪な兄貴には、たまには俺を頼らないということを覚えてもらわないといけない。
「よし十代、ならこうしよう。今回俺は遊馬の面倒しか見ない。範囲が違うとはいっても、中学一年の勉強だからな。こつこつやってる俺なら片手間でも見られる。お前は、たまには一人で頑張れ」
「は?! いや俺そんなの聞いてないし! 無理無理冷たいこと言うな!」
「俺は知ってるぜ、十代は実はやれば出来る子なんだ。普段は全然やらないけど。というわけで、頑張って花見で会おうな十代」
「無情……ッあまりにも極悪非道……ッ!」
 どっちがだ。
 俺は静止するように十代の口をすっと差し出した手のひらで覆うと、空いている方のもう片方で大人しく黙るように人差し指を指し示す。なおも食い下がる気満々だったであろう十代だがそれを受けてぐっと押し黙り、渋々口を閉じた。彼は俺がこの動作をした時は、自分の意見を変えないし駄々をこねればこねるほど状況が悪化するだけだということを身をもって知っている。だから無駄な抵抗はしない、そういうことである。
 俺達は親友だ。そういう些細なサインで通じ合える同士。俺に肩を掴まれながら遊馬が物欲しげな、悔しげな様子で俺と十代を見上げてきていた。こいつは多分俺達のそういう関係性に憧れてちょっと嫉妬しているのだった。
「いつかそういう友達が遊馬にも出来るさ。現に、アストラルとはこういうふうに、通じ合っているだろう?」
「うん…………」
「納得いかないって顔だな」
 ぽんぽんと頭を撫でてやった。気恥ずかしそうに俯いて、遊馬はとても遠慮がちに俺の手を握る。俺は一人っ子で兄弟はいないんだけど、遊馬のこの態度は紛れもなく『弟』のものだなあと思う。
 遊馬はずっと誰かに守られてきた弟なんだ。元より弟たちに分け隔てなく優しい遊戯さんや誠実な遊星に加えて十代も本当は遊馬に甘いし、彼らの友人達も甘い。
「おいおいわかるよ」
「……わかるかな、俺にも」
「ああ。さて、それじゃもうそんなに時間もないし、さっさとテスト勉強を始めよう。たまには見返してやれ、兄貴のこと」
 いつもやらっれぱなしじゃ悔しいだろ? と発破をかけてやると遊馬もこくこく頷いて、わりと必死そうだ。この様子では俺の知らないところでおやつの争奪戦とか、焼き肉戦争とか、そういうところでも負けっぱなしであったと見える。
 基本的に十代は己の利益が絡むところに関しては、容赦がないのだ。親友の俺だってそれで何度悔しい思いをしてきたかわからない。



◇◆◇◆◇



「ヨハンにふられたんだ」
「……知りませんけど」
「あいつめ遊馬にばっかり優しくしやがって。もーすっげー悔しい。花見にいけなくなったらどうしてくれるんだよぉ」
 机に突っ伏して嘘くさい涙声を発している。一つ上の兄は大袈裟な態度で俺の試験勉強を邪魔しに来ていた。数学のノートが半分、兄の頭で見えなくなってしまっている。
 彼が何を求めて俺の部屋を訪れたのかを察して素早く話を切り出す。あまり多くの時間を彼に拘束されるのは流石にまずい。
「理系科目なら多少は見られるかと思いますけど」
「一個下の弟にテスト勉強頼るのって情けないよなぁ……でも背に腹はかえらんねー。というわけで遊星、これ万丈目の物理のノート。こっちは明日香の化学のノート。そんでこれが、吹雪さんにこっそり回してもらったテストの過去問」
「……一人でなんとかなるんじゃないですか?」
「残念だが俺一人じゃノートの内容が理解出来そうにない」
「あなたの場合、それはただの怠慢だと思うんですけど」
 密かに溜息を吐いて遊星は十代から受け取ったノートを開いた。彼の友人達の実直で真面目そうな字が規則正しく連なっている。本人のノートは、これらとは対極にあるような杜撰な出来で汚い乱雑な文字が躍り、板書内容よりも授業そっちのけで考えているらしい新しいデッキの構築に関するメモ書きの方が多いということを俺は知っていた。
 範囲を確かめて、これなら趣味でやっている独学で対応出来るかなあと朧に考える。兄は、成績も素行も悪いが頭は非常にいい。ただ努力というものがからっきし駄目なのだ。それはもう致命的に駄目だ。兄は勉学に対しては大の努力嫌いだった。しかしそれでも立ち塞がる全てをなんとかしてしまえるような天性の豪運と優れた知略を備えている。
「遊馬と喧嘩したんですね」
「……喧嘩じゃない。遊馬が一方的に俺からヨハンをとってった」
 図星だ。図星を突かれると、この人はいつも頬を膨らませて歯切れの悪い言葉を返してくる。俺や遊馬の取り分を勝手に食べてしまって遊戯さんに問い詰められた時、誰かと喧嘩をした時、何かまずいことをして後ろめたい思いでいる時。長兄に叱られる時の仕草や癖は俺の記憶の中に蓄積してある。
 続いて探りをかけた。
「ちょっと大人げなかったんじゃないですか」
「……うるせぇ」
「やっぱりそうなんですね。そろそろからかい続けてないで、謝ったらどうですか。俺としても兄と弟が俺を挟んでぎくしゃくしているのは見るに堪えないです」
「……してた?」
「昨日から少し。あなたは遊馬に口をきかないし遊馬は居心地悪そうにもぞもぞしているし……」
「あー、そっか。遊星にばれてるってことは当然遊戯さんにもばれてるな」
 ぽりぽりとバツが悪そうに頭を掻く。悪びれてみせているということは多少なりとも罪悪感を抱えているということで、やはりこの人も遊馬を大事に思っているのだということを伺わせる。意地が悪いところもあるが十代さんは基本的に誰かを大事に出来る人だった。意地の悪さは裏返せば信頼の証拠なのだ。もう一人の遊戯さんが、海馬瀬人に対するのに少し似ていた。
「俺、遊馬のことからかいすぎたかなあ」
「近頃はからかいの域を出ていたような気もするんですが。あなたはいつもそうだ。ヨハンさんが絡むとむきになって」
「だってしょうがないじゃん、ヨハンだもん。遊馬はきっと俺に似てるからヨハンに引っ張られちゃうんだろうな。あいつはデュエル馬鹿ホイホイだ」
「誤魔化さないでくださいよ」
 切り込むと眉を顰めて「おまえはユーモアが足りない」とぼそぼそ呟かれた。でも今はそういう言葉のあやなんかで遊んでいる場合ではないと思う。俺の数学のノートの半分は相変わらず兄の頭に占拠されて機能していないのだ。
 第一あなただって明日赤点を取るとまずいんでしょう、そう言ってやろうと思うが俺が口を開くよりも先に十代さんの口が開いて、俺の言葉を口の中に留めてしまう。
「でも俺遊馬のこと大事なんだよ」
「ええ」
「一番ちっこい弟をさ、可愛がってやりてぇの」
「はい」
「ほんとはヨハンのことだって、取り合うんじゃなくて二人で挟んでればいいんだろうなって思うんだけど」
「そうですね」
「どうしたらいいんだろう」
「俺が答えるべきなんですか?」
 問い掛けると押し黙る。息を詰まらせて、そうして徐に突っ伏したままだった顔を上げて、「遊星」俺の名前を呼んだ。俺の目を見たまま、その奥を覗き込まんとするかのように。
「遊星は、やっぱり、俺が悪いと思う」
「どちらかと言えば。遊馬はまだ子供なんですから……」
「そのなんでも子供だからって庇うの、俺は好きじゃないけどなあ。遊馬はすごく、色々なものが見えてると思うぜ。あの子はしっかりしてる。だから余計に甘やかしたり年相応の顔させたりしたくなっちゃうんだけどさ」
 それでついついいじりすぎてしまうのか。合点はいくが、しかし同じようにからかわれている弟の身としてはなかなか複雑なところである。
「それでも、俺は遊馬が大好きなんだよ」
「知ってますよ」
「だよな」
「兄弟ですから」
 なんでもないみたいにそう言ってやると兄は機嫌が良さそうににっと笑って、俺の頭をよしよしと撫でた。俺がもっと小さな子供だった頃は、よくこうされていたような気がする。いつの間にか俺は彼よりも背が高くなってしまって、必然的に頭を撫でられる機会というものも少なくなってしまった。
 ――だからだろうか。
 兄は、遊馬の頭を良く撫でているような気がする。俺を撫でる分まで、彼を。
「あなたって実は面倒な人ですよね」
「うるせー」
 ぽろりと零すと照れ笑いをした。
「悪い兄ちゃんでごめんな。でもいい兄ちゃんには、もう遊戯さんがいるしな。一人ぐらい劣等生の方がバランスいいだろ」
「知りませんけど。……でも俺は、十代さんは十代さんのままでいいと思います」
「おう。そんじゃ化学と物理、あと数学頼むわ」
「……数学はそこまで自信ありませんよ」
「まあ国語とかで稼ぐし。花見は何としても行かないと、ヨハンのやつを今回は見返してやるんだ。付き合え遊星!」
「俺の数学は」
「知ったことか! ヤマだけ掛けといてやるよ」
「あ、はい」
 ぐっと親指を突き出されて俺は仕方なしに数学のノートを閉じた。多分なんとかなるだろう。多分。
 兄はヤマ勘だけは異常に鋭く当ててくる、そういうタイプの人間なのだ。



◇◆◇◆◇



「で、結局赤点は免れたのな」
「俺を見縊ってもらっちゃ困るな。こう見えても窮地に強いタイプなんでね」
「よーく知ってるぜ。俺をお前の何だと思っている」
「親友」
「正しくは悪友だ」
 花見の席で十代は得意気にピースサインを俺に向けてくる。今日は確か理系科目の追試兼補習日のはずだったから、彼はそのへんを上手いこと俺抜きでも切り抜けられたらしい。後ろで重箱を準備している遊星にアイコンタクトをはかると彼はぺこりと頭を下げた。やっぱり弟に見てもらったのかこいつ。
「どんな手を使おうと切り抜けてしまえばこっちのもんだぜ。遊馬の方は、どうだった」
「あっ……、俺?」
「当たり前だろ。他に俺の自慢の弟は遊星しかないぜ」
「急にそういうこと言われると反応に困るんだけど。……ギリギリ、なんとか、ヨハン兄ちゃんのおかげで」
「ん。そっか」
 そこでもごもごして口を閉じてしまう。十代らしくもない動作だ。遊星がじっとりと十代の方を見てきていたから、二人でいる間に何か話をしたのだろう。大方遊馬との仲直りとかそういう部類のことだろう。
 仕方ない。遊星の意を汲んでやることにして十代の肩を叩く。十代は僅かにぴくりと震えてそれからごくりと生唾を呑み込んだ。遊馬が不思議そうに首を傾げる。
「あのさ、遊馬」
「う、うん」
「ごめんな」
「え?」
「その……ヨハンとのことでさ。ちょっとむきになりすぎたなって。別に遊馬に親友を取られるわけでもないのに。遊星にも大人げないって言われて」
 ダメな兄貴でごめん、と珍しく素直に頭を下げる。遊馬は逆に困惑してしまったようで言葉にならない声を漏らして盛大に戸惑いのポーズを見せていた。慌てふためく遊馬は小動物に似ていて不謹慎だがかわいい。だからこいつはどうしようもなく弟属性なんだなと俺は一人で納得をした。
「俺十代兄ちゃんのことダメだとかそんなこと全然思ってないぜ?! すげー好きだし、デュエルめっちゃ強いし尊敬してるって。マジで!」
「最近遊馬に冷たすぎたかなって思うんだけど」
「そんなことない。嫌いになったりなんてしてない。デュエルでこっぴどく負かされるとそりゃ悔しいけど、その分すっげー憧れてる。兄ちゃん達にはみんなそうだけど……性格が似てるからかなあ。十代兄ちゃんには、特に憧れてる」
 きらきらした瞳で屈託なく力説している。その様に十代の緊張した面持ちが徐々に崩れていった。一瞬ぽかんと口を開けて、すぐにわしゃわしゃと遊馬の頭を撫でて「このやろぉ」とか嬉しそうにはにかむ。遊馬もつられて笑った。和解は一瞬のうちに済まされたみたいだった。
 そのまま十代が遊馬を抱き寄せて思いっきりハグをする。遊星の顔が固まって、遊戯さんは後ろで小さく苦笑いしている。それで俺はどうかと言うと、自分では見えないからわからないけれど多分むず痒い顔をしているのだった。ちょっと仲睦まじすぎるんじゃないか、結構いい年した男兄弟二人で。
 俺は一人っ子で両親もあまり家にいないから――羨ましくはあるんだけど。
「なんか、俺、今末っ子でよかったなあって思ってる」
「遊馬は結構甘えたがりだからな」
「うん。兄ちゃん達三人もそうだけど、なんかこう安心するっていうかさ。勿論甘えてばっかじゃ駄目だってアストラルにも言われるけど俺さ、こうやって色んな人達と触れ合うの好きなのかもしれない」
 純真な目で率直に伝えたようなのだが、その発言に十代はぷうと頬を膨らませた。
「お前、こんなに兄貴がいてまだ兄貴が欲しいとかそんなことを抜かすのか。俺も遊戯さんも遊星もいて、神代と天城も兄貴面させてて、城之内さんとか吹雪さんにもかわいがられてて、それでもまだ兄が欲しいと申すか」
「そ、そういうんじゃなくてよぉ!」
「だったらなんだよ。俺じゃたんないって」
「違うってば! 俺はみんな好きなの! ヨハン兄ちゃんも、十代兄ちゃんも、みんな!!」
 かなり必死だ。十代はその言葉がまんざらでもなかったようでまたぐしゃぐしゃに遊馬を撫でた。なんだろう。微笑ましいものを見ているはずなのに何故か嫉妬心めいたものが膨れ上がってきているような気がする。落ち着けヨハン・アンデルセン。
 俺は別に十代とハグしたいわけじゃ……たぶん。
「喧嘩する程仲が良いって言うもんな。なあ遊馬、今度デュエルしようぜ。ヨハンも入れて二対一で」
「え、それ誰が一人で誰と誰が組むの」
「そりゃ勿論俺と遊馬でタッグだぜ。心配すんな、ぼっこぼこにしてやる」
「待て。俺が心配だ。卑怯なまでに引きの強い十代と遊馬を同時に相手にしろとか無茶苦茶にも程があるだろ」
「ほら、来たぜ。お前の友達」
 すかさず抗議したのだが何もなかったかのように流された。
 ひどい。
「あ――シャーク! カイトも!」
 顔が引きつる俺に気付くことなく、遊馬が弾かれたように立ち上がって走り出していく。和菓子の包みを提げた上級生二人目掛けて走り出していく後ろ姿には小型犬のような愛嬌がある。なんとなく俺はポメラニアンを連想した。尻尾を横に振っているあの小さなふわふわした犬。
 俺の隣で十代がご満悦といった表情をしている。こいつは意地を張って赤点競争を弟とするはめになったことや何やらを既に都合よく頭の中から消し去ってしまっているに違いない。ある意味非常に生きるのがうまい奴なのだった。
 俺は渋々ながら今にも膨れそうな頬を引っ込めて彼に向き直る。十代が目ざとく勘付いて「ん?」と先を促した。
「なあ十代」
「おー。なんだヨハン」
「遊馬にもいつかお前に対する俺みたいな友達が出来るのかな」
「そりゃ、出来るさ。俺の弟だし」
「べた褒めだな」
「手放しでな。ヨハンに懐いてるのも俺に憧れてる節があったからだと思うとちょっとかわいい」
 紛うことなき兄馬鹿だ。肩を竦めて首を振って、俺は一つ気になっていたことを彼に尋ねることにする。
「それで、もうテストで俺を頼らない決心は出来たか?」
「いや全然?」
 一瞬たりとも迷う素振りを見せない悪びれなさ。俺はあんぐりと口を開け、それから仕方なく笑った。
「次からは遊馬と二人でヨハンに見て貰えばいいんだよ。取り合うんじゃなくて共有する。分け合う。素晴らしい精神だと思うんだけど」
「俺の意見を尊重してくれよな。いいけど」
「いいのか」
「だって遊馬、かわいいし」
「うん。だろ」
 どうやら遊馬に対しては俺も幾分か兄馬鹿の気質があるようだった。ついつい面倒を見てやりたくなってしまう。そういう不思議な何かがある。
 そしてそれとは別に、十代にも結局甘い顔をしてしまうのも否めない。こいつは遊星や遊馬の前では兄ぶって見せているが、その実遊馬と同じような弟属性を持っていて、その点でも二人は似通っているんじゃないかなと俺はぼんやりとそう思った。



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