※性描写を含みます。高校生以下の方は閲覧をご遠慮ください。
※セカンド敗北バッドエンド
※快楽堕ち
※妊娠をほのめかす描写とかもあります
※なんでも許せる方向け















その名前をまだ知らない




 自分の中の恐怖と戦っている。恐怖、という単純な名をこの感情に与えて良いものなのか、既に彼には上手く判別が付かなくなっていたが、一番最初に浮かんだ言葉がそれだったので恐怖と呼んでいる。
「やだ……」
 自分のようで自分ではないもの。けれど紛れもなく、自分の意識が宿って、その延長線上に存在している。彼は、ゼアルセカンドの……自らの肉体に纏わり付くそれにうわごとのように拒否を繰り返しながらいやいやと首を振る。そこにはっきりした意識はもうなくて、ただの連続した運動にすぎなかったし、連鎖反応みたいなもので、条件反射で繰り返しているだけだったけれど、それでも言わなければいけないと思っていた。
「いやだ……!」
 もし、この言葉を言えなくなってしまったら。
 その先にあるものを認めてしまったら、きっと自分は自分でなくなってしまう。
「――ッ!!!!」
 最早九十九遊馬なのか、それともゼアルセカンドなのか、それすらも混濁してわからなくなってしまった思考を引き摺って彼は絶頂を迎えた。
 腹の中には彼を犯す男の精液が吐き出されている。バリアンの持つ、カオスが凝り固まったもの。粘度の高いそれが自分の中に蓄積されていく感覚に身もだえして体を捻った。こんなものに感じている。認めたくない。最初はそう思っていた。
「ぁ……きもち、いい……」
 でも今は、認めたくないと考えられるだけの思考能力がもう残っていないのだ。
 セカンドはその理由を考える余裕すらなく快楽に飲まれて意識を失ってしまったが、セカンドを犯した男はそれをちゃんとわかっている。わかっていて、その結末が見えていて、だからこそそのように仕向けた。セカンドをカオスの中に浸した。
 セカンドにとってカオスは麻薬のようなものだ。上限を超えてしまえば、簡単に中毒を起こして「だめ」になる。それなのに、性質上セカンドはカオスへの順応性が高い。そうすると、どうなるか。
 簡単だ。
 セカンドの身体はカオスを求める。彼の意思をも凌駕し、高潔な志を書き換えて、愚かな雌に造り替えてしまう。


 一番最初にベクターがしたことは、捕らえたセカンドの純潔を奪うことだった。
「女と同じものを付けて……ピンク色の入り口をひくつかせて、女と同じように欲しがって、それじゃ、お前はこの現状をどうやって言い訳するつもりなんだ?」
 違う、だとかそんなんじゃ、だとか口走るセカンドの顔が、性器に指をねじ込んだあたりで蒼白になり、そこから先はどんどん血の気を失っていくばかりだった。
 理由は知らないがセカンドには女性器と男性器が両方備わっていて、大元の九十九遊馬にもアストラルにもそれはないものだったから彼は随分と自分の肉体に有り様に困惑していたがベクターにとってそんな都合は知った事ではない。貞淑な顔をしてぴったりと閉じたそこをこじ開けてみれば案の定処女であった。だからベクターはそれを奪って穢した。
 セカンドが貞節を守っていたことに安堵した自分と、それを大々的にぶち壊してやった爽快感に酔いしれる自分を感じながら見下ろした彼の姿の、なんと愛らしかったことだろう。ベクターはその光景を今でも鮮明に思い出すことが出来る。入りきらずに溢れてきた白濁と破瓜の血が入り交じった体液を股から垂れ流しながら、虚ろな目でありもしない空を見上げるセカンドの身体は美しかった。穢されてなお。汚されてなお。
 だから、もっといたぶって壊し尽くしてやるほか無いと誓った。
 それから毎日、セカンドを犯した。無力化して拘束し、監禁した。自由は一切与えず、与えたものと言えば苦痛と精液ばかりだった。セカンドは手ひどく抵抗した。まあ、当たり前だろう。抵抗されないとはベクターだって思っちゃいない。
 それでも毎日毎日精液を流し込んでいるうちに、変化が出てくる。
 最初の変化は、セカンドを捕らえて七日後に起こった。
「やだ……なんで……見るな……見ない、で……!」
「……おまえ」
「ちがうんだ、これ、こんなの、おれ、」
「くっ……くくっ……そうか、そういうことかよ」
「ちがう、ちがう、ちがう――」
「何も違わない。そういうことだ、認めちまえ。そうすれば楽になる……」
 セカンドが自らの指を己の身体に空いた穴に宛がい、頬を紅潮させて、息を張り詰めさせては身をなじり、物足りなさそうに喘いでいる。ベクターがいない部屋で。たった一人で、快楽行為にふけろうとするようにはしたなく、荒い息づかいで指を動かしているのだ。
「お前はもう、そういうものになろうとしてるんだよ」
 歓喜だ。その時ベクターの身体中を駆け回った感情は、まったく歓喜と言って差し支えなかった。痺れるような快楽だった。うっとりとするような甘くねちっこい感情。だってこんなことが、今までに予想出来ただろうか?
 あの究極態ゼアルセカンドともあろうものが、ベクターを欲し自らを慰めている姿など!
「俺の体液が何で出来ているのか、教えてやろうか」
 バリアン態の固くて鋭い肉体をわざとらしく切なげに震えるセカンドの肢体に押しつけながら耳に息を吹きかけて尋ねる。セカンドは首を振った。にんまりと笑みがこぼれるのを止められない。歓喜がベクターの興奮を助長する。後押しする。嫌らしく薄い腹をひと撫でするとセカンドの身体が大げさなぐらいにびくりと跳ねた。
「カオスだ。お前がその身に抱えきれないほどの、純度の高い。体液だけじゃねえ。俺の肉体はすべからくカオスで構築されている。存在の全てがカオスで出来ている。そしてそれはお前を狂わせる、らしいな。どうやら」
 ねだるようにセカンドの腰が揺らめいた。セカンドの人差し指が突き刺されたままの蕾がきゅうと収縮する。欲しがる雌の反応そのものだ。
 それを口に出してなじってやると、まだ意思の宿っている瞳で睨み返された。
 仕方ないので、その日は特に念入りに犯してやった。セカンドの意識が失われた後も、死体を抱くような感触だったが犯し続けた。抜き挿しを止めなかった。その日ベクターは、自分はネクロフィリアもいけるだろうというどうでもいいことを知った。
 セカンドの身体はこの時既に如実に変貌を見せていた。じわじわと知らず知らずのうちに侵食し、ゆっくりだが確実にその性質を造り替えていこうとしている。楽しい。こんなに楽しい遊びを、ベクターはそう知らない。
 のめり込むのに時間は掛からなかった。それまでの七日間にも増して、ベクターは熱烈にセカンドを抱き潰すようになった。
 十日、十四、二十一、三十五、もう何日経ったかわからないぐらい、とにかくセカンドと身体を重ね続けた。
 白く細い肢体がベクターの醜い独占欲に染まっていくのを何日も眺めた。
「で……どうなんだ」
 あれから、どれだけの時間が経っただろう。
 わからない。知らない。でも確実に時は経過している。だからベクターはそれを問う。セカンドが確実にカオスに蝕まれているという自信があるから追い詰める。
「欲しいか。俺が……お前の身を焦がし、狂わせ、貶めるカオスが。お前が中毒になったこの汚ねえ液体が、欲しくて仕方ないか?」
「や……あ……あぁ……」
「知ってるぜ。もう俺に最後までシて貰わないとお前は駄目なんだよな。俺の、このどろどろした精液で腹の中パンパンにされるのが好きなんだ。だが……今日は一つ残念なお知らせがある。教えてやろう。中に出されれば、女ってのは、女の仕組みを持つ肉体は、孕むもんだ。いとも簡単に……」
「え……?」
「つまり、お前が大好きな俺の精液を中出ししてもらうと孕んじまうかもしれねえってことだ。それもけっこうな高確率で。その姿で、年で、ボテ腹妊婦になるのは怖いよなァ。わかってるよ。だからやさし〜い俺様は、直前でこうやって聞いてやってるわけだ。――それでも、腹の中にぶちまけて欲しいか?」
 セカンドの熱に浮かされた表情が一気に冷え渡って、ぼんやりしていた瞳に光が戻って行く。「はらむ?」たどたどしく選び出した言葉を反芻し、セカンドが信じられないものを見る目でベクターを見上げていた。
「なにを……?」
「あ? んなの俺のガキに決まってんだろうがよ」
「ベクターのこども?」
「そうですぅ、そうするちと晴れてお前はママになるってわけだ。つっても、身体は素直だ。そりゃ、カオスが欲しくて仕方ないよな。なんせ、俺がいないところでこっそり毎日オナってるぐらいだからなあ。だが、そのろくすっぽ働いてない頭でもヤバイってのはわかる……俺の子を孕むってのがどういうことか、なんとなくは」
「おれがおれじゃなくなる……」
「あ、そういうふうに捉えてんのね。ま、そうそう大差はねえからいいか」
 半ばまで挿し入れていた性器をセカンドの中深くへねじ込む。何度も挿入を繰り返したせいで広がってしまった性器はまったくベクターを拒まない。むしろ、剥き出しの本能に従って雄を歓迎し、招き入れては絡みつくような愛撫を送ってくる。
 雌の抱擁。この従順さが、結果を既に物語っているようなものだった。セカンドが一際よく喘ぐ子宮口をいつもより強引にゴリゴリと擦ると、せっかく戻って来ていた目の光がまた霧散して消えていく。とろりとした雄に支配されている雌のそれに立ち戻る。何度目かに性器を奥底に押し込んだ瞬間、セカンドが啼いた。高い声で、少しだけ産声を上げるときの絶叫に似ていた。
 それが多分、最後の陥落の合図だったのだ。
「いい……それでも、いいの……」
「ん?」
「孕んでもいい……赤ちゃん、出来ていい、から、カオス……カオス、ちょうだい……?」
 今一度見開かれたセカンドの瞳には、もう完全に光は灯っておらず虚ろで、凛とした強さなど最早どこにもなかった。そこにあるのは発情しきった雌の媚びた眼差しだ。目の中に愛欲と淫欲を色濃く映し込んで、雄を誘っている。
「もう一度言えよ。それで決まりだ。後戻りは、出来ないぜ」
「カオス、ちょうだい。ベクターの赤ちゃんが、ほしいから……!」
「そうか」
 その言葉を聞き遂げてから、もう完全に壊れてしまった人形を抱き締めるようにして、セカンドを腕の中に抱いて待っていましたとばかりに射精した。セカンドもベクターの腰に手を回して足を絡め、身体を自ら密着させてベクターの精を搾り取ろうとする。あっけない。玩具が壊れるのは、いつも一瞬だ。
「あ……あぁ……ァ……」
 びゅくびゅくと吐き出される精に悶え熱っぽい息を吐くセカンドを抱き締めながらベクターはそんなことをぼんやりと思った。どんなに大事にしていても、壊れるのは一瞬。だったら自分から大々的に壊したって何も変わらない。「ベクター、べくた、べくたあ」と壊れたステレオラジオみたいに名前を呼び続けるセカンドを抱く腕に力を込めながらしかし射精は止めない。セカンドはこれからもう二度とベクターに反抗をしないだろう。むしろベクターにねだり、従順にあり続けるに違いない。
 そうしてやがてベクターの子を宿し、いつかは孕み落とす。
 しかしそれがどうしてだか酷く虚しくて、その思いを無理矢理塞ごうとするようにセカンドに口付けた。
 そして舌を絡ませあってようやく初めて、ベクターは自分がセカンドとそれまでキスをしていなかったことを知ったのだった。