Liberi Fatali




 怒りだ。
「俺は許さない。融合次元を……アカデミアを……!」
 怒りがそこにあった。疑いを知らない子供のように純粋で、故に抑えようのない、暴れ狂う獅子のような、怒りだ。
「なんだお前は!」
「お前達は何をしに来た?」
「フン……それをお前が知る必要はない」
 奔流となり遊矢の体内を駆け巡った怒りは瞬く間に彼の主導権を握り、理性をどこかへ押し込めて身体を突き動かしていた。衝かれたようにオベリスク・フォースの男達を問う遊矢を、何かとてもいやなものが包み込んでいる。目に見えない悪意。けれども鼻を刺すような……おぞましい憎悪。
 憑かれた彼の眼差しは平素からでは到底想像も付かないような緋色に染まり、文字通り、怒髪が天を衝く有様だった。遊矢を格下と嘲り、……融合次元の、アカデミアの同胞以外を人とも思わないオベリスク・フォースの態度に遊矢の唇が冷たく歪められる。
「お前達に勝手な真似はさせない。――俺とデュエルしろ!!」
 最早正気でなどいられたはずもなかった。
 瞳の冷たさとは真逆の、激情しきった声音で傲慢に高らかに宣告する。逃がさない。必ず捕らえ、己の悪行の報いを受けさせなければ。許してなどやらない。この胸の痛みと怒りが、命じるのだ。
 融合次元を許すな。
 アカデミアに、裁きを。
 心臓がまるで早鐘のようだった。この感触を遊矢は知っている。初めてじゃない。勝鬨を相手に、ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンを呼び出したあのデュエルの時にも感じたものだ。(ユート)消えていった少年の名を胸の内に抱き締める。これは彼の心なのか? ユートの? ……ユートは、ここに?
「そんなに身の程を知りたいか?」
「……ならわからせてやる」
 もしもこれがユートの痛みならば、ユートの怒りならば。遊矢は必ずそれを果たさねばならない。身体の奥底からわき上がってくる何かが強くそれを叫んでいた。ユートの怒りは遊矢の怒りであり、彼の悲しみと痛みもまた同じ。遊矢のこの憎しみは、融合次元とその尖兵たるアカデミアに無体を強いられ虐殺されてきたユートの憎しみだ。
 でもそれが何故なのかはちっともわかっていなかった。
「「「「デュエル!!!!」」」」
 ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンが雄叫びを上げる。敵を殲滅せよ、怒りを解放し、憎しみの牙で反逆の血飛沫を。悉くに喰らい尽くし、報いの裁きを。悲哀の色を映し込んだ眼をはめ込んだ額をもたげ、竜が哮る。
(わかってる……)
 まるでそれはコロッセウムの観客達が、無責任に拳闘士を野次るように。
(わかってる。だから……)
 殺せ殺せと、倫理を棄て血に飢えた観衆が喚き立てるかのように。
(……このデュエルは、遊びじゃない!)
 デュエルで笑顔をと言い残した、ここ数日彼を苛んでいる少年の今際の言葉はこの時遊矢の中から綺麗に忘れ去られていた。エンターテイメントなんていう、耳障りのいい遊びの時間はもう終わりだ。泣き笑いのピエロはどこにもいない。あるのは、我を忘れたマーダーだけ。
 その時遊矢は、ただ理由もなく、怒りに身を任せてそこにいた。

◇◆◇◆◇

(痛くない)
 アンティーク・ギア・ハウンドドッグが主の命に従ってその機械の身体で遊矢を嬲り付ける。アクション・カードを効果で封じられ、ダイレクトアタックを連続で受けざるを得ない状況に追い込まれたことで、デュエルは始まったばかりだというのに遊矢は既に相当のライフを失っていた。
 肉体が受けている痛みは本物だ。彼らはオベリスク・フォース、融合次元からやって来た刺客達。融合次元やエクシーズ次元、このスタンダードと呼ばれているより外の世界からやって来た者達が司るデュエルはダメージが現実にフィードバックされる。安全に制御されたソリッド・ヴィジョンを通り抜けて、フィールド魔法さえなしに骨を断ち肉を切るような痛みを与えうる。
 彼らと交えるデュエルは命の取り合いだ。ライフの減少は命がすり減ることを意味し、モンスターにより与えられる痛みは直に肉体を蝕む。けれどだからこそ、こんなものは痛みではないと遊矢には思えた。
 こんな魂の籠もっていない一撃に痛みなど伴うはずがない。本当の痛みは、もっと痛ましく、重々しく、逃れようもなく……夜の帳が訪れるかのようにひそやかにそして激烈に襲うものだ。
(こんなの、全然、痛くなんかない……)
「あっという間に崖っぷちだなぁ、ふぬけ野郎」
「お前もこいつらと同じ運命だ」
 にたにたと嫌らしく嘲り、優位と勝利を確信したオベリスク・フォース達が遊矢を見下ろしてきていた。彼らの手の中には三枚のカードが握られている。――否。あれは手のひらに納められた魂の牢獄。黄色い枠に囲まれたイラストエリアには苦悶し狂乱するナイト・オブ・デュエルズ達が克明に切り取られ、絶望をその表情に浮かび上がらせていた。
 牢獄に囚われた人間はどうなってしまうのだろう。牢獄の中で心を病み、緩やかに終わりへ傾いていくのか? 物言わぬ紙切れに姿を変えられた彼らはその答えを遊矢にくれない。その痛ましい姿と叫び声で、彼の怒りを助長するのみだ。
「うう……う……うあぁ……」
 脳裏に鮮明に蘇る景色があった。絶叫の渦の中、人々が逃げ惑い、しかし抵抗虚しく捕らえられ、紙切れに変えられていくのだ。地獄がそこにあった。大きく口を開き、嘲笑うように女子供の区別なく、罪のない人々をそれは吸い込んでいった。死よりも凄惨で傲慢な、その光景。だから『彼』は思った。
 人間のやることじゃない。
 悪魔め。
 神などいない。
 ならばこの手で、復讐を、革命を、この泥にまみれた世界に終わりを。

『遊矢』
(ああ、ごめん、少し手間取ったけど)
『遊矢……』
(大丈夫。ちゃんと、すぐに終わらせるから)

「うおおおおおおおおお!」
 遊矢の雄叫びに呼応するようにペンデュラムが光り輝いた。
「俺のターン! 俺はスケール3の相克の魔術師とスケール8の相生の魔術師でペンデュラムスケールをセッティング!!」
 何をどう成せばいいのかは本能が全て知っていた。的確に獲物を追い詰め、屠る術を肉体が訴えかけてくる。許しておけぬのならば、この刃を突き立てよ。
 喉を掻き切り、臓腑を撒き散らし、理解させるのだ。己の行為の愚かさを、死の恐怖と引き換えに!
「これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚可能! 揺れろ魂のペンデュラム――天空に描け光のアーク!! ペンデュラム召喚!! 現れろ、レベル4《EM ウィップ・バイパー》、そしてレベル4《EM アメンボート》!」
「これがペンデュラム召喚……?!」
「更にレベル4のウィップ・バイパーとアメンボートでオーバーレイ! 漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今降臨せよ、エクシーズ召喚! 現れよ、ランク4《ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」
「ペンデュラムからエクシーズ?!」
 ペンデュラム召喚からエクシーズ召喚へ繋げたことで、僅かにオベリスク・フォースに動揺が走ったようだった。だがまだ甘い。彼らはまだ自分達がこの牙に食い散らかされる恐怖を抱いていない。
 死の恐怖を撒き散らされ、その中で志し半ばにして果てていった彼らへの償いには、これじゃ、足りない。
「バトルだ! 俺はダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンでアンティークギア・ハウンドドッグを攻撃! 反逆のライトニング・ディスオベイ!!」
「な……何者だこいつ……」
「なんだこいつ……早く片付けるぞ。俺は手札よりアンティークギア・ハウンドドッグを召喚。アンティークギア・ハウンドドッグは相手フィールドにモンスターがいる時、一ターンに一度六〇〇ポイントのダメージを与える。ハウンドフレイム!!」
 オベリスク・フォース達はどうやら攻撃力二五〇〇のダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンにすぐには対抗できないと見たのか、バーンダメージで遊矢を追い詰めることにしたらしい。炎が熱を伴って遊矢を灼いたが、しかしそれだけだった。頂点に達した怒りは既に業火よりも激しい灼熱となり灼きついている。
 大したことじゃない。何でもなかったみたいに無言で、むくりと起き上がった。その様に異常さを感じ取り、オベリスク・フォース達の間を焦りが伝播していく。その次の一人も効果ダメージを用い、更に三人目も同じ手を取った。遊矢のライフがじりじりと削られていく。一四〇〇になり、八〇〇になる。
 だけどやはり、それだけだった。
 遊矢は起き上がって事務的に肩の砂を払った。動きは極めて機械的で、あまり人間らしい感情は込められていない。ただ、汚れが付いたから払った。昔そうしなさいと教えられたから特に理由はないけれど……そんなふうに。
 あの痛みに比べれば、この程度はかすり傷でさえなかったのだ。
 笑い出したい気分だった。怯え、畏怖に縮こまり始めたオベリスク・フォース達の姿に獰猛で残虐な気分がどんどんと肥大化し諸手を挙げる。狩人気取りで、狩られる獲物になった心地はどんな塩梅なんだ? そう聞いてやっても良かったが、それさえも惜しいような気がして問う代わりに残忍に笑む。
(だいじょうぶ、ユート)
 背の向こうから、誰かの手が伸ばされるような幻を感じた。優しい手だ。きっとこの指先は、ユートの。
(この怒りと痛み、悲しみと憎しみはきっと俺が…………)
 その優しく、繊細な指先が遊矢の首にそっと掛けられた。力が込められる。咎めるように、引き留めるように。
(……あれ?)
 そこで遊矢の意識は少しだけ途切れた。

◇◆◇◆◇

「この時が来ちゃったねえ」
 誰かの声。少年のようでありながら少女の酷薄さを併せ持ち、壮年の厳かさと老婆の強かさを秘めている。だが不思議と耳障りは悪くなく、肌に良く馴染んだ。
「まあね、榊遊勝がいなくなった時から……いや、違うかな。きみが生まれた時からそれは始まっていたんだ。きっかりと時の砂を量って、手ぐすねを引いて待っていた。幾人もね……」
 声はするものの、遊矢の他に誰かいるという雰囲気でもない。無人の彼方から声は響いている。それなのに、幽霊のような儚さはまったく感じられず、胸糞が悪くなるような現実感を伴っていた。声には厚みと重みがあった。まかり間違っても、テープレコーダーが壊れかけながら発しているような声音じゃない。
「何言って……というか、誰……」
 顔を顰め、あからさまな警戒を滲ませながら虚空に尋ねた。しかし姿なき声は、簡単に「さあね」と返すのみだ。見えない首を横に振られたような気分だった。
「僕はきみであり、またきみではない。αでありΩであるが、それ故何者にもなれない」
「わかんないよ」
 遊矢が困り果てて首を振り返すと、誰かはまたくすくすと笑った。笑い声はやはり子供のようだった。昔よく聞いたことがあるような気がする。でも、どこでだろう? 思い出せない。
「遊矢は今、怒ってるね。痛みを抱き締めて、怒りを放出している。きみの怒りはとても強大で、そして凶悪だ。このままじゃ彼ら、どうなっちゃうか、わかんないね」
 誰かが発した「彼ら」という言葉が、オベリスク・フォースのことを指しているのは明らかだった。質問する意図が読めなくて気分だけでも誰かのそばに寄ってみようと声のする方へ歩いてみたが、あたりには中央へ向かって渦を巻く宇宙が表出しているばかりで何も変化は起こらない。「どうしたの?」と誰かが尋ねた。その声は、先程と変わらぬ距離を遊矢に感じさせる。
 遊矢は溜息をひとつ吐くと肩を竦めて、「だって」と言い訳じみた言葉を選んで放り投げた。
「……それは、あいつらが悪いんだ。人をカードにして弄ぶなんて許されることじゃないから……」
「それはそうかもしれない。でもね遊矢。聞くけどこれって一体、誰の痛みなのかなあ? 誰の怒りなんだろう。誰の憎しみで、誰の悲しみなんだろう……?」
「……そんなの決まり切ってるよ。俺の……おれの…………あれ? どうだった、っけ…………?」
「そこが肝心なんじゃない。じゃ、質問を変えるけど……この、次々と人々がカードに変えられていく悪夢……これは誰のものかなあ?」
 含みを持たせて、ねっとりと覆いかぶさってくるような調子で誰かが嫌らしく聞いた。最早ここまで来ると誘導尋問だ。遊矢は嫌そうに――どうして自分が「知らないはずの」世界の光景を想起出来るのかという矛盾に気付かず、また誰かもあえてそれを言及しようとはしなかった――肩を竦めて望まれた回答を指し示す。
「それは……ユート、だよ。これはエクシーズ次元で起きたこと。ユートが、反逆の竜を手に入れた切っ掛け……」
「よく出来ました。そうだよ、これはきみのものじゃない。ここまで、わかる?」
 赤子に確かめるような調子だ。いよいよ苛立ってきて、遊矢は右足で強く地面を蹴った。
「何が言いたいの。この痛みや怒りはユートのものだから、俺が振りかざすのはお門違いだとか、そういうこと? だけど、」
「そう。ユートの感情はきみの感情。それは理論として概ね正しいよ。ユートは今やきみだからね。ふふ、黒咲隼に、教えてあげられないのが残念だ。ユートは、遊矢とひとつになったってね……」
「……悪趣味」
「おっと、話にはまだ続きがあるんだよ。確かに、それが本当にユートの心だったら、きみにはそれを振りかざすだけの理由があるかもしれない。だけど思い出してごらんよ。最後にユートがきみに送った言葉、それをきみはずっと大事に抱えていたじゃないか」
 首筋に当てられた指の感触が克明に蘇った。
『デュエルで……笑顔を……』
 安らかな顔で、まるで後悔という後悔を全て遊矢に押しつけて死んでしまうかのように、彼は消えた。何処か遠い所へ。どんなに手を伸ばしても届かない所に。
『キミの力で……世界に……みんなの未来に……笑顔を……』
 この、絡みついて足を取り、決して遊矢を逃そうとしなかった呪いの言葉を吐いた時彼はその手を遊矢に伸ばすことをしなかった。そうするだけの力がもう残されていなかったのか、それとも……何か隠された意味があったのか。あったとしても遊矢には推し量ってやることさえ出来ない。ユートはもう喋らないのだ。
「そう。みんなを笑顔にする楽しいデュエルをしてほしい、ってあの子は言ったんだ。ねえ遊矢、もう一度聞くけど。この虐殺ショウみたいな独壇場を、ユートは望んでいたのかなあ? 殺戮兵器として使わせるためにダークリベリオンを託したの?」
「それは……でも、ユートが痛かったのも、悲しかったのも、憎んだことも、全部本当だから……嘘じゃないんだ……」
「うん。そうだね。きみがそう思うのならば、それは真実だよ」
 口なき存在となってしまったユートの代弁をするような調子で誰かがあっけらかんと肯定した。
 分かったようなことを言われるのが癪で、眉をひそめる。でも誰かの声の調子にそれを気にした素振りはなく、彼は「これはお伽噺なんだけどね」とおちゃらけて話を勝手に続けた。
「きみはね、今、岐路に立たされているんだ。きみの中に隠されていた真実が少しずつ……本当にちょっぴりだけど、目を開こうとしている。色んな人が、真実の目を塞ごうとしてきた。そのおかげで『榊遊矢』という存在は十四歳までを平穏無事に過ごすことが出来ていた。だけど赤馬零児が動き出したことで均衡が崩れ、『スタンダード』という殻にひびが入って……今、ゆりかごの時計は針を止めようとしている。……きみの刃は、時読みと星読みの魔術師だったね。それがまずは第一の指針だったってわけ」
「……相克の魔術師と相生の魔術師のこと、遠回しに言ってるの」
「ふふ、それは内緒。ともかく……やすらかな眠りは終わる。燃えるような真実が世界中に炎を這わせ、燃え広がり、やがては世界そのものをも覆い尽くそうとするだろう。手始めにそれは虚偽と欺瞞で紡がれていたゆりかごのスタンダードに目覚めの時をもたらす。それが吉と出るか凶と出るか……結果は実のところ、まだ誰も知らない。さあ……遊矢」
 虚無から腕が現れた。すらりとした、デュエリスト特有の美しい指先が伸ばされて遊矢の腕を掴み取る。指先はどことなくユートに似ていた。しかし、よく見てみれば、ユーゴや、遊矢に似ている様にも思えたし、そうじゃない誰かのもののようにも思えた。
「運命の時だ」
「うんめい」
「きみには目を覆いたくなるほど凄惨で、むごく、身勝手な運命が用意されている。運命のもと生み出された『子供達』。出会うべくして仕組まれたきみたちが、その存在を贄のまま終わらせるか否かは、きみの双肩に掛けられた。わかるかい? わかりたくもない? ……そうかもしれないね」
 まだ十四歳なのにね。くすくす笑いに呼応して、白く柔らかな指先が腕を伝って肩へ、そして首筋へ伸びていった。
「真実はきみの中にある。さあ、歩き出してごらん。だから今は……」
 首に手が掛かった。
 優しく咎め、引き留めようとしたあの指先と同じだと思った。この指先はとても残酷だ。遊矢に何かを選ばせようとするふりをして、その実道を選び取って押し進めようとしている。
「あんなことを言ったけれど、きみが望むのなら、彼らを討ち滅ぼしたっていいんだ。誰のものかもわからない怒りに振り回されたまま直情的に……後先考えず。たとえそれが悲しみの引鉄となったのだとしてもね……きみにその覚悟があるのならば」
 「もう、逃げられないんだよ」と、ぞっとするほど耳元近くで囁かれた。
 生温かい吐息が肌に掛かり、しかしすぐに離れて何処かへ消えてゆく。それっきり誰かの声も消えてしまって、見渡すとカードが一枚そこに残されていた。その中には渦巻く感情を体現したかのような、今までに見たことのない黒竜が描かれている。
 手に取ることに躊躇いはなかった。この竜を呼び出し、終わらせる方法を何故か遊矢は知っていたからだ。ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンとオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを使うのだ。遊矢とユートの写し身を、持ち主がそうなったように重ね合わせて交わらせ、そうして顕現させるのだ。
 オッドアイズとダークリベリオンが交わって生まれるその竜は、最早そのどちらでもないものだ。面影はあっても、違うもの。では遊矢は? ユートは? ふとそれを思った。竜達が違うものへと変貌するのであったら、交わった遊矢とユートは一体今「何になっている」のだ?
(俺は……何になるんだ……?)

 その時ようやく、遊矢は「恐れ」を自覚した。
 最早どこに踏み留まることも、逃げ出すことも叶わなかったのだけれど。