あなたの告別式から二十日が経ちました。
 あなたはやはり、最後、綾時さんの場所へと行かれてしまいました。そのことを巡って、私達はいくつかの諍いを経験しました。だけどきっと、誰かが悪かったわけではないのだと思います。ただ、私達はあなたを愛していたのです。
 あなたが今どのような日々を過ごしているのか、私にはうかがい知る事が出来ません。エレボスとの戦いの前に触れたほんの僅かな断片、それだけが私達に与えられた破片です。誰かはそれをむごいと言いました。けれど私には、それを一口にむごいと言い切ってしまっていいのか、今もまだ判断が付きません。
 湊さん。
 あなたの愛した世界は、今日もうつくしく、あおく、澄み渡っています。
 あなたのいない春は、しかしそれでもあなたの愛した全てを伴って今年もやって来ました。世界はそうして私達に等しく春を与え、きっとその次は夏を、あなたの一番好きだという青色の季節を連れてくるのでしょう。残された私達に平等にそれを配って過ぎていくのでしょう。
 私は時々思います。この季節はもしかしたらあなたが私達に運んできてくれたのではないかって。あなたが守った世界です。それでも何もおかしくないと思うんです。
 絵空事だと、ラボの人達には言われました。でも彼らは私の、機械が描く絵空事という致命的なバグを殺そうとしませんでした。私はそれが嬉しかった。
 あなたが愛したものがそれで守れたような気がしたからです。
「いつか、私達があなたのいない世界に慣れる日が来て、そうしているうちにあなたの御許へと集まる時が訪れるのでしょうね……」
 私のことを人間だと言ってくれた湊さん。心のある兵器をおかしくないと言ってくれたあなたが、私と綾時さんがもし敵と殲滅兵器でさえなければ、シャドウとそれを殺すための機械にさえ生まれなければ、私があの人をダメだと思わなければ、きっと私達は良き友になれるはずだと言ってくれたことを私は忘れません。今ならば私もそのように思えるから。……私達は。
 私達は、あなたに憧れてあおい世界の、海かもしれないし空かもしれなくて宇宙かもしれないどこかを、泳いでいる魚のようでした。
「あなたが幸せでありますようにと祈ることを、どうか、許さないで」
 確かに私達はあなたに残されてしまいました。けれどこれはある意味で、一つの、とても美しい帰結であったのだとも、残念ながら……残念なのでしょうか……? そういうふうに思うのも、事実の一端であると私は記憶します。あのひとは寂しがりですから、これまでずっとお母さんを恋しがっていたのではないでしょうか。そうしてやっと、あなたと寄り添うことが出来たんです。私には……そこからあなたを引き剥がすことは出来ない。
 《有里湊》は死の元へ逝きました。それは確かに、これから先感情で揺り動かしてひっくり返して良いような事実ではないんです。そうしたらきっとあなたが生きていたあの一年を否定してしまうことになるから。あなたが選び取った選択を無碍にしてしまうことになるから。あなたがどうでもよくないと思ったことさえ、あの人を愛していたことさえ……嘘にしてしまうだろうから。
 だから私達があなたを想うことを許さないでください。死者の思い出を手放せないことを許してください。私はここに花を供えます。春は桜を、夏は朝顔を、秋は彼岸花を、冬は初雪草を。私達はこれから幾度もあなたのいない季節にあなたがいた季節を重ねて思いを馳せることをするでしょう。けれどそれは、あなたがいなくても、あなたが愛して守ろうとした世界が息づいているということの証明でもある。
 私達はあなたのいないあおい世界で生きています。今日も。明日も。明後日も。


 ——これからもずっと。



/ブルーブルー・パーフェクト・ブルー
 
     
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