「やさしい世界は、誰も傷付けない。その代わりに最後は破滅する」
 空から落っこちてきた記憶喪失の青年《遊城十代》を加えて日々を過ごすチーム・ファイブディーズ。ある日《イリアステル》を名乗る少年が龍亞達の前に現れ、チームはにわかに騒がしくなってくるが、しかしそれすらも機械人形の思い描く夢の形にすぎない。
 正史を喪失したロール・プレイの人形達はひしゃげたゲーム盤の上で決められたレールに沿って怠惰な行進を続けている。《遊星ギア》を喪失した世界は変わらない。盲目の人形達は、自らが機械人形の見る夢物語のピースでしかないことにまだ気付けないでいる。



「世界中の誰よりも大好きな君へ。俺はいつだって、君のことをあいしてる」
 バイト先で出会った胡散臭い男に丸め込まれて飲み屋に連れて行かれた十代は、次の朝彼の家で目を覚ます。アドレスを勝手に交換されたりしてなんだかもやもやした気持ちのままなし崩し的に交友をスタートさせた十代だが、奇妙な懐かしさを覚えて次第に彼に惹かれていくようになる。
 男の名前は「ヨハン・アンデルセン」。不動博士の友人であるという彼は「ずっと、ずっと、きみのことあいしてる」だなんて不確かな言葉を十代に囁く。人間に恋されたコッペリアが古い昔話を取り戻した時、昏い海の底で二人は失われた海底都市へと辿り着く。



「うそつきの世界なんかいらない。大好きな歌も、本当の名前だって、なにも、かも」
 師匠の武藤遊戯と共に「名前探しの旅」の一環でヴェネツィアを訪れていた十代はそこで待ち合わせていたヨハンから「連続カード消失事件」の話を聞かされる。協力を申し出て捜査に乗り出す内、不可解な点に気付くがそこを謎の仮面の男に襲撃されてしまう。
 バクラや遊戯の助力の元仮面の男と対峙する十代とヨハン。だが男は二人を「醒めない夢を永遠に見続けていた方がずっと幸せだというのに愚かなことを」と、遙か高みのテーブル・マスターの座から嘲笑うのだった。



「幾つ年を重ねて、幾つ命が消えていったとしても、きみのことを憶えてる」
 半人半精のつがいは百の年月を掛けて一組の双生児を産み落とした。人間の子供として生まれた双子は当たり前に両親よりも早く死んでしまうけれど、だけどそれでも、何よりも愛しい宝なのだと母親は腹部を撫でて父親に囁く。
 きらきらした世界の中でただ懸命に生きてきた一人と一人は、手を取り合って永遠を共にし、そしてある時世界を救った英雄と邂逅した。
 これはコッペリアが忘れてしまった、深海の暗闇に眠り続けている古ぼけた恋する少年の記憶の話。

「機械仕掛けのアルカディア」‐Copyright (c)倉田翠.