#6 悔恨の旋律


「これで七つ目・・・・・・か」
「正直、あんまり嬉しくないね・・・・・・」
「仕方あるまい」 
 何を今更、というように蓮はある一点を指差して言った。
「肝心の葉があの様子では、な」
 その言葉に、皆が口をつぐむ。
 眠っていてなお、葉の力は強力だった。この場の誰一人、適わないぐらいに。
 葉のこの力をハオと仮定するのであれば、自分たちに勝ち目はない――そう戦慄させるぐらいは容易かった。
「でも、そろそろ起きてくれないと困るんだよね」
 リゼルグがぽつりともらすと、蓮はことなげに言った。
「心配することもあるまい。じき目を醒ますだろう。葉ならな」
「うん――そうだね」
 蓮の言葉に。リゼルグは笑って答えた。





◇◆◇◆◇





「あー、もー、流石にオイラも疲れてきたぞ・・・・・・」
「仕方あるまい、葉王様ならば」
「にしたってタチが悪すぎるんよ!」
(ああ・・・・・・葉さんがキレた)
 がおー! というように大口を開いてうなだれる葉に、マタムネは溜め息をついた。



 終わりの見えない迷宮。



 ひとことでいうのなら、そういう場所に葉とマタムネはいた。
 行けども行けども、行く手に見えるのは暗闇ばかり。これでは、ユルさが自慢の葉も流石にキレるというものだ。
「ハオめ・・・・・・前にお代踏み倒したときも思ったんけど、ホントなんて悪い奴だ。絶対オイラのことなんか見逃す気ないんじゃないか?」
 「それでも兄なんよな」、と葉はひとりごちる。
 ハオは自分の兄だ
。  どう足掻いてもこの事実は変わらないし、それぐらいは分かっているつもりだ。
 でも、時々兄の行為が無性に許せなくなるときがあるのだ。
 vsX-V戦の時。ハオはミイネやケビン、ブンスター・・・・・・彼ら三人の命をいとも簡単に奪った。
 そして部下を使い捨ての駒としてしか扱わないその態度。
 葉からすれば信じられないことで――残酷なまでの事実だった。
「・・・・・・マタムネ、オイラな」
「なんでしょう?」
「ハオの・・・・・・兄ちゃんの、ことは正直許しきれんことが多い」
「・・・・・・」
「でもな、助けたいんよ。運命に――過去に、縛られてる兄ちゃんを。自分で作り上げた戒めから逃れられなくなってる兄ちゃんを」
 葉が振り絞るように言うと、マタムネは微笑んだ。
「ふふ、その意気ですよ、葉さん。そら――出口はそこだ」
「!!」
 マタムネが静かに指差した先には、まばゆいばかりの光が差し込んでいた。





◇◆◇◆◇





「――のわっ?!」
「へっ?!」
 どっしゃーん!
 間の抜けた声が続き、最後に轟音が響いた。
 そして、ちょっとだけ懐かしい声が聞こえてきた。
「・・・・・・いつつ・・・・・・あー、びっくりした・・・・・・」
 その声に、その場の皆が――蓮さえも、動きを止める。
「あれ? どうしたんだ、そんな急に固まって」
 


 麻倉葉が、そこにいた。

「うおお葉ー!!」
「良かったよ葉くーん!」
「心配したんだぜ・・・・・・!!」
「ダンナー! マジ感激ッス!!!」
「うあーん葉殿〜」
「う゛・・・・・・ぐるじ・・・・・・」
 一斉に飛びかかられて、多少あっぷあっぷしていた葉だがすぐに本調子を取り戻してユルく笑った。
「うへへ・・・・・・すまんなみんな、心配かけちまって。蓮もな。サンキュー」
 言い終えた後、葉は瞬間的に表情を強張ったものに変えた。
「でもな、あんまりこうしてる時間はない。・・・・・・オイラが眠ってる間に、何処までこれた?」
「現在第七プラントだ。だが十祭司はいない・・・・・・葉、言いたいことは分かるな」
「蓮!」
「いや、いいんよホロホロ。オイラは、自分のしたことを知っておかなきゃならんからな。・・・・・・それに、もう知ってるんよ」
「え・・・・・・?」
 葉の意味ありげな言葉に、リゼルグが反応する。
「夢の・・・・・・中で・・・・・・ちょっと、な。うんにゃ、別にたいしたことじゃないんよ。気にせんでくれんか」
「・・・・・・そう、か。うん、分かった。ごめんね、無理に言わせようとしたみたいで」
「いやー構わんよ。隠し事してるのはオイラだしな」
 葉はちょっぴり困ったような顔をすると頭をぽりぽりと掻き、それからまた笑った。
「ま、なんとかなるさ。やるだけやればおのずと結果もついてくる。・・・・・・そうだ、ちょっとだけ時間をくれんか。やりたいことがあるんよ」
「? 構わないけど」
「10分を超えたら置いていくぞ」
 ばさっ、と言い捨てた蓮に葉は苦笑いすると、懐からかつてマタムネの媒介だったツメを取り出してなにごとかつぶやき始めた。
「――超・占事略決
 巫門御霊会」
 媒介たるツメに、光が収束していく。
 そしてそれは、やがてひとつの形をなした。



「マタムネ、またよろしく頼むな」
「もちろんですとも」


「・・・・・・ネコ?」
 皆が不思議そうにマタムネを見る。
「ああ、そうだ。ネコマタのマタムネ、オイラの初めての持霊でな、さっきも助けて貰った。いわば小さい頃からの恩猫・・・・・・って感じだな」
「以後お見知りおきを、皆様方」



 ネコマタのマタムネ。
 千年続いたオーバーソウル。
 そして、葉王が唯一心を開いた友。



「なんか・・・・・・同じ動物霊でもあの変態狸と狐とは大違いだな」
「いや、あいつらと比べるのは大きな間違いだと思う」
 他愛ない会話がしばし続く。
 しかし、その談笑の輪の中に入っていないものが一人いた。



 名を道蓮という。



「いい加減にせんか貴様らーッ!!」
「ぼっちゃまー! 落ち着いてくださいませー!」
「ええい黙れ馬孫! オレの怒りには正当性がある!」
 馬孫に掴まれながらもじたばたと暴れる蓮を見て、葉はこっそりと微笑んだ。
(相変わらずだな、蓮も・・・・・・これなら心配する必要はないな)
「まあまあ、落ちつけって蓮。お前の言いたいことはわかったからさ。
 ・・・・・・じゃ、先を急ごう」
「もちろん」
 葉の言葉を受けて、皆は足を前へと踏み出した。





◇◆◇◆◇





「ねえアンナさん」
「なによまん太」
「葉君達に五大精霊を届けるからって・・・・・・」
 まん太はちらりと後ろを見る。
「流石にこれは、ないんじゃないかなぁ・・・・・・」
 まん太達一行の後ろには、葉達が倒した十祭司の死体がこてんと転がっていた。
 つまり、ムーの内部にいるのだ。
「何かいけない?」
 アンナにキツく睨まれて、まん太はびくんと背筋を伸ばす。
「いやー、だってそのー、ここって確か一次予選を勝ち抜いたシャーマンしか来れないんじゃぁ・・・・・・」
「関係ないわよ。だいたいあたしはそこらのシャーマンなんかよりぜんぜん強いもの。蓮ぐらいなら一発で勝てる自信があるわ」
(・・・・・・流石にそれは言い過ぎじゃ)
「別に言い過ぎなんてことないわよ。・・・・・・でも、もう葉は無理ね。葉は強くなったもの。本当に・・・・・・」
 そういうアンナは、なんだが切なげだとまん太には思えた。



”絶対帰ってきなさいよ、葉。もしまた約束を破ったら、あたし、今度こそ許さないから”
 アンナは静かに指を組むと、今は見えぬ星に願いをかけた。
「お願い・・・・・・」





道々に咲く彼岸花
願い・望みその手に込めて
空の果てへと指伸ばす
願いは星に砕けれど
希望は残り其処にある
道々に咲く彼岸花
返り咲きし彼岸花
愛を忘れじ彼岸花・・・・・・



続く



あとがき
いろいろ現実逃避しながら携帯でちまちま打ったものに加筆修正を加えたモノがこれです。
エロ話と平行して作業していたのでどうしてもこっちへの逃避率が高くなり、いろいろ楽しいことになりました。
タイトル、いよいよ本編とは全く関係ありません色が強くなってきました。悔恨の旋律。何が言いたかったんでしょう。
あと、今回出番ナシの葉王様。
次回こそは出したいです。でも兄弟対決にはまだ早いし・・・・・・どうやっても出せない気がします。
反省点は限りないんですが、いつまでも下を向いてるのもあれなのでさっさと切り替えて次の話に行こうと思います。





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