#5 希望 ハオがシャーマンキングに決まってから数時間。 地上。 地上に残されたガンダーラ達は、葉達に残る4つの五大精霊を届けるために準備をしていた。 そしてアンナは。 葉に異変があったのだと感じとり、ある霊を呼ぶために”クチヨセ”をしていた。 「ひとつ積んでは父のため ふたつ積んでは母のため みっつ積んではふるさとの 兄弟 我が身と回向する・・・・・・」 「アンナさんのクチヨセ・・・・・・何度見てもすごいね」 「でも、一体何の霊を呼んでいるのでしょうか?」 たまおの疑問に、横から木乃が答える。 「そんなのは分かり切ったことじゃろう。マタムネじゃよ」 「マタムネ・・・・・・」 「あの、マタムネさんですか」 「あれ? たまおさんってマタムネ・・・・・・さん、に会ったことあるの?」 「ええ。葉様のお世話をさせていただいておりましたから・・・・・・それに、嫁様が決まったと聞いていてもたってもいられなくて」 「ああ、ごめんね、そんなこと聞いちゃって」 「いえ、かまいませんから」 何となく聞いてしまってからまん太は少し後悔した。たまおは葉のことが好きなのだ。昔から、ずっと。 まだ見知らぬ、「アンナ」が嫁に決まった。そう知った時、幼心にどう思ったかは容易に想像がつく。 それでも葉やアンナに不満ひとつなく仕えているのだから、たまおはすごい。 まん太がそう考えにふけっていると、アンナが悔しそうに口を開いた。 「・・・・・・ダメね。呼べなかったわ。 マタムネの方から拒絶された。目的があるって・・・・・・そう言われた」 「そうかい。まああれだけ強い霊だからねぇ・・・・・・そのぐらいの我が儘は言うかもしれんさ。アンナ、マタムネは「目的がある」とそう言ったんだね」 「ええ」 「ならば心配はいるまいよ。なぁに、心配せんとも葉のもとへ向かっているに違いないさ」 「・・・・・・そうね」 「さてと」 木乃が腰を上げる。 「そろそろ我々も行くとするかね」 木乃の言葉に、皆が頷いた。 ◇◆◇◆◇ (眠い・・・・・・疲れたな) (オイラ・・・・・・何のためにここに来たんだっけか・・・・・・? ていうかどこだっけここ) (まあいっか) 108の煩悩に穿たれて 鬼の子は囚われた 思い想いたくさんのココロ 1080の感情を知ったとき 鬼の子は目を覚ます ◇◆◇◆◇ 「・・・・・・さん、葉さん!!」 「んー・・・・・・なんよこんな時に・・・・・・オイラのことは放っておいてくれよ・・・・・・」 だるだるの葉が、目すらつむったまま呟く。 「・・・・・・仕方あるまい」 すぱーん!! 「いってぇーっ!!!!!!!!」 あまりの衝撃に、さすがの葉も目を開けた。むしろ痛い。頭がひりひりする。 「おや、目を覚ましたようで?」 「なにするんよ! こんなんするのはアンナぐらい・・・・・・あれ?」 (そういや、アンナは・・・・・・?) 葉の頭の中を瞬時にいくつもの疑問が駆けめぐった。自分はどうなっているのか。仲間達は。ハオは。シャーマンファイトは。・・・・・・そして、アンナは。 そこまで考えているうちに、だんだんと頭が冴えてきた。 「ふふ・・・・・・ようやく調子が戻ってきたようですね、葉さん」 「おお。ありがとな、マタムネ」 葉はうえっへっへ、とユルく笑うとちょっとだけ真剣な顔になった。 「なあ、マタムネ。ここ、どこだか分かるか?」 「もちろん。探し出すのも入り込むのも大変でしたが」 「・・・・・・つーことは、出るのもキツイんか」 葉が訊ねると、マタムネはさらりと答えた。 「何せ、葉王様の創り出した空間ですから」 「ええっ?! そうなんか?!」 だが、そう考えれば全ての辻褄があうのだ。葉を拘束できたことも、様々なヴィジョンを見せられたことも。 「やっぱ・・・・・・強いんだな、ハオは」 「もちろんですとも。だが、葉さんはもっと強い。葉さんには、葉王様には無いものがありますから」 「そっか。ありがとな、マタムネ。・・・・・・なあ、蓮とか・・・・・・」 葉がおそるおそる聞くと、言い終わる前にマタムネが口を開いた。 「葉さんのお仲間なら無事ですよ。葉さん、昏睡状態のままスピリット・オブ・ファイアを使ってまいましたし」 「・・・・・・・・・・・・そういや、一瞬意識がふっと遠くなったような・・・・・・うぁー、オイラなんちゅーことを・・・・・・」 葉が頭を抱えて落ち込み出す。この空間にいる間に、確かに何度かあったのだ。ハオの感情に流されて、すべてがどうでもいいと思えてしまった瞬間が。 「葉さん」 「・・・・・・ん?」 「落ち込むことはありません。葉さんの心は強い。優しく強いその心、正しく保てれば恐れることなど無きに等しきもの。 葉さんはね、希望なのです。優しさ故心の奥底に潜む鬼に勝てず、自らも鬼と化したハオ様を救えるのは葉さん、あなただけですから」 マタムネが葉にそう微笑みながら言うと、葉もつられてちょっと笑った。 「うえへへ・・・・・・なんか、恥ずかしいなそう言われると・・・・・・よし、オイラももうひとふんばりするか」 よっこいせ、と立ち上がった葉はそれから、さもふと思い出したかのように呟いた。 「地上に残ったアンナとか・・・・・・無事なんかな・・・・・・」 「アンナさんなら無事ですよ」 「ホントか?!」 「ええ。ここに向かっている途中クチヨセに呼ばれましてね。急ぎでしたから断ってきましたが」 「アンナのクチヨセを断れたんか?! すげえな・・・・・・」 「小生、伊達に千年もの間霊をやっていたわけではありませぬ故。・・・・・・おや、あまりのんびりしている時間は無いようですよ、葉さん」 何事かと葉が振り向けば、そこには見慣れた兄の顔があった。 「・・・・・・マタムネ・・・・・・また、僕を助けてはくれないんだね」 「小生、心を喰われたままの葉王様につくわけには参りませんから」 「そうか・・・・・・でも、葉は渡さないよ。葉は僕にとって必要な存在なんだ。欠けては困る」 「・・・・・・オイラは、ここには残らん」 葉は下を向いて、はっきりと意志を表した。ここはハオの創り出した空間だとマタムネは言っていた。そんな空間で己の意志を殺すことは、自分自身を殺すことに等しい。 「オイラには、やることがある。そんで時間もない。お前の我が儘に付き合ってる暇はない」 「随分反抗的だけど・・・・・・勝ち目があると思ってるのかい?」 「そっちこそ余裕ぶってるけど、本当はそうもいかんのと違うか? この空間はグレートスピリットの中で、なおかつお前の精神世界なんだろ。だったら、原理は地獄となんも変わらん」 葉はマタムネの媒介となっていた爪を手に取ると、胸の上に掲げた。 「だったら、オイラはお前には負けん」 「気づいていたのか・・・・・・でも、僕の弟なら当然かな? まあいいよ、僕は今機嫌がいいからね。この勝負、持ち越してやるよ」 「・・・・・・随分あっさりしてんな」 「ふふ、時間が無いのは僕も同じでね・・・・・・王の間で待っているよ。早くおいで、愛しき僕の半身よ」 最後に曰くありげな言葉を呟き、葉王はその場から消えた。 「・・・・・・マタムネ、大丈夫か。結構虚勢張ってなかったか、お前」 「葉さんに心配させるほどでは。さて、行きますよ」 「ああ、そだな」 ”待っててな、アンナ・・・・・・” 「オイラ、必ずアンナのところに帰るから」 葉の立てた誓いは、誰の耳に止まるでなく、風に流れた。 あとがき どんどん不穏になってくるハオ様。 むしろアンナ→(両思い)←葉(片思い?)←ハオの様な図式が出来ている気が。 ハオ様、男、しかも弟に恋しても得はありませんからッ!! むしろドン引きですよぅ・・・・・・ さて、やっとマタムネを出せたわけですが・・・・・・ マタムネむずっ。 マタムネの口調って敬語でもただのですます調でもぶっきらぼうでもないから今回ではつかみきれませんでした。 ずっと葉さん葉さん言ってはいるものの、「さびしいのか」とか、「寝たらどうだ?」とか、結構普通に喋っているんです・・・・・・ うう、くやしい! 今度こそ、今度こそマタムネを掴んでやる!! back*top*next |