Epilogue:The Legend Of Zelda




 遠い昔……
 大地に三柱の女神が降り立ち、三人の人間と契約を結んだ。
 力司どるディンは猛き砂漠の盗賊王と
 知恵司どるネールは誇り高き王国の姫君と
 勇気司どるフロルは勇敢なる森の剣士と

 力を得た盗賊王は残虐の限りを尽くし王国を焦土に変え
 姫君は逃げ潜みじっと耐え忍び
 幼い少年は力を得るための眠りに就いた

 七年の年月の後目覚めた少年は姫君を探し
 勇者となった少年は姫君と共に盗賊王を討つ
 だが盗賊王は勇者と姫君を呪い、不死の魔王となった。
 魔王の呪いは因果を作り、いたずらな運命が完成する
 姫君と勇者は離れ離れになり
 二つの世界で生きることを余儀無くされる

 世界は忌わしき呪いによって宿命を繰り返し
 荒廃と安寧が交互に訪れ
 そして一千の年月が流れた時、大地に最後の勇者が生まれ落ちた

 心優しき勇者は二つの手を取り女神の力を手放した
 その力の名をトライフォース、強大なる神の無垢の力
 一つに戻った女神の力は愛子の願いを聞き届ける

 汝 願いたまへ それが我の願い
 されば我、触れそめし者の願い叶えたもう

 女神に愛された始まりの者達は
 永却にハイラルの大地を見守り続く

        ――――――ハイラル創世神話より
        



◇◆◇◆◇



 ある平和な王国で、少年と少女が絵本を読み聞かせて貰っていました。古い昔話の絵本です。ずっと、ずっと昔の出来事を綴ったその絵本は子供達が一度は読むものでした。少女がじっと聞き入っている隣で少年が身じろぎをします。少年は、なんだかもう聞き飽きたと言いたげな表情で続きを急かしました。
「マザー、そのへんはもう何回も何回も聞いたよ。僕が聞きたいのはそこじゃなくて最後! 一番最後のページだけ、なんでいっつも読んでくれないの?」
「多分、ただ単に勿体ぶってるからよ。父さんに聞いたら最後は私達が本当は良く知ってる話なんだってそう言ってた」
「あらまあ、あなた達のお父様はそんなことを言っていたの。確かに、あなた達が良く知ってるはずのことよ。物心付いた時に習うことだもの。……そういえば、今日はあなた達の十歳の誕生日だったわね。だったらもう、いいかしら」
「いいんならさっさと教えてよ、マザー」
「あんまり焦らないの。さあ、続きから入りましょう」
 マザーと呼ばれた神官の女性はゆっくりと微笑んで絵本のページを捲ります。絵本の中で緑の服を着て揃いの色のとんがり帽子を被った少年が、ピンクのドレスを着たお姫様に向き会っていました。マザーは朗読を再開します。
「……勇者は、お姫様に言いました。
 『魔王はもう反省してる。いがみ合うのを止めて女神様にお話をしに行こう』
 お姫様は勇者の言うことに頷いて、二人で魔王が眠る暗い洞窟の中へ出掛けることにしました。洞窟はとても暗く、じめじめしていて、あまり住みよい場所ではありませんでした。洞窟の一番奥で魔王は眠っていました。一人ぼっちの魔王は嫌な夢を見ているようでした。不憫に思った勇者とお姫様が魔王を揺すり起こしてやると、魔王はゆっくりと起き上がり、不思議そうに二人を見つめました。
 『私に、何の用だ?』
 『魔王はもう随分と反省してるし、ずっと一人ぼっちじゃあんまりだ。三人で一緒に女神様にお話をしに行きたいんだ』
 勇者がそう言うと、魔王は少し嬉しそうに頷きました。
 『君がそう言うのならば、それがいい』
 ……一緒に女神様のところまでやってきた三人は、もう魔王を許してやれないかとお願いをします。女神様は慈悲深くそのお願いを聞き届け、その代わり、三人が持っているトライフォースを元の形に戻すように言われました。三人がトライフォースを一つに集めるとトライフォースが金色に輝き、三人を包み込みます。
 『なんてきれいな光でしょう』
 お姫様が言うと三人の女神様は手を差し伸べ、手招きをしました。三人は導かれるままに女神様と共に、神様の国へ上って行きました。
 神様の国へ行った三人は、それからずっと、地上の私達のことを見守ってくれています。…………これで、おしまい」
 朗読を終えてマザーが微笑むと少年と少女は拍子抜けして「それでおしまい?」とマザーに尋ねました。マザーは頷きます。少年は変な顔をして、「変なの」と呟きました。
「なんだかあっという間に終わっちゃった」
「でも、あなた達もよく知っているお話だったでしょう?」
「うん、マザー。ハイラル王国の、創世神話の最後とよく似てる」
 少女がしきりに頷く隣で少年はまだ物足りなさそうな顔で「本当にそれでおしまい?」と尋ねますがマザーは「本当の本当にこれでおしまいよ」、と優しく微笑むだけです。少年は「もっといっぱい、戦ったりすると思ってたのに」と言いました。最後にあっさりと和解して終わってしまったのが不思議で仕方ないようでした。
「勇者は、三人で神様の国に行くまでいっぱい、いっぱい、いっぱい戦っていたのよ。だからもう戦わなくてもいいようにって女神様が言ってくださったの」
「ふーん……?」
「さあ、もうお月様も随分と高く上ってしまったわ。二人はもうお休みなさいな」
 マザーが背中を押すと、少年と少女は気乗りしないふうな返事をして家へ帰るために教会の玄関へ向かって行きました。
 ふと、絵本を棚に戻すマザーの肩に寄ってくるものがあります。青い光の森の妖精です。マザーは妖精に気付くと少し驚いた顔をしておいで、と手招きしてその妖精を手のひらへ乗せました。妖精はちかちかと羽根をはためかせて、マザーに語りかけます。
「いいことあるヨって、リンク、言ってたヨ」
「あの子達に?」
「うん、そう。いつもマザーが祈ってるからって」
「あらまあ、ありがとう。ふふ、妖精さんにも神様のご加護がありますように」
 青い妖精にお礼を言って、マザーは分厚い歴史書の隣に絵本を仕舞い、自分も休むために寝室へと向かいました。





…………end of The Hyrule*Fantasy.