タイニー・ピュアリー・エンジェリー



 派手な音を立てて体液が飛散した。白く濁ったそれは一直線に幼い顔面めがけて飛び散り、白い飛沫はいかにもなアングラ行為を想起させる。ソルは息を吐いた。まだ到底満足はしていないが、ひとまず、多少はすっきりした。
「……なんです? これ」
 白濁をぶちまけられた方はというと、呆然として、自分の顔に飛び散ったものを手で拭っている。その光景がまだ燻っている劣情を煽り、ソルはわざとらしい調子で「坊や、知らねえのかよ」とけらけら笑う。
 するとベッドの上にちょこんと座っている彼は、いつもならむきになって「知ってますよ!」と反論するはずのところを、やはりぼうっとした顔のまま、きょとんとして、「しりません……」と言うばかりだった。
「え。知らない。知りません、こんなの。……何? なんだか……においも、へん、ですけど。……病気?」
「……は?」
「だって、そもそもソルのそれ、大きすぎるし。腫れてるんじゃないですか。それで膿が溜まってて……刺激したら出て……けど、膿にしては妙に白いですよね。ふつうはもっと黄色いはず……うん、やっぱり病気ですよね。病気です、きっと」
「……おい、何言ってる?」
 彼の言葉に冗談を言っている調子はない。ソルは愕然として――こんなことをしてから言えたことではないかもしれないが――カイの両肩を掴んで揺すぶった。彼ももう十四歳。生真面目なたちであることは知っていたが、まあそのくらいは心得ているだろうと考えて誘った悪戯だったのに。


 そもそもの事の起こりはいつものようにしつこいカイの「催促」で、やれ報告書が上がっていないやれ規律を守らないだのと説教が始まったタイミングでちょっとした悪戯を思いついた。好奇心と好意と欲情。ソルはひらひらとカイご所望の書類を手に揺らし、耳元でそっと囁く。――「一発付き合ってくれたら書類でもなんでも出してやるよ」。
 そこで誘いに乗ってきたら溜まっていたものが発散出来て儲けもの、顔を真っ赤にしてこの部屋から出て行ってくれればしばらく口うるさい声を聞かなくて済むのでやはり儲けもの、と一挙両得のつもりだったのだ。どうするんだ、とソルが迫ったところ、カイは秒で「いいですよ。よくわかりませんが、それであなたが書類を出すと言うのなら」と頷いた。前から思っていたがこいつちょろすぎる、とその時ソルは思ったが、その程度だった。
 場所を図書室から移し、自室へ連れ込み、ベッドに放り投げてもカイは特に抵抗の意志を示さなかった。「それで何をするんですか?」と小首を傾げた彼の前に下肢を露出しても、不思議そうな顔をしこそすれ(多分、どうして性器を露出されたのかは理解出来なかったが、何か特別で正当な理由があるとでも勝手に考えていたのだろう)拒絶も罵倒もしなかった。
 本当はその時点で気がつくべきだったのかもしれない。こいついくらなんでも初心にすぎる。しかし相当溜め込んでいたせいもあって、そこで冷静な思考を働かせることには失敗してしまった。目の前にあるカイの顔が作り物めいて整っていたのも恐らく敗因の一つだった。
「何をするって、決まってるだろ。扱いて抜く以外の用途でこんなもん表に出すか」
「はあ……そうなんですか。扱く、というと……手、で合ってます?」
「最初は好きにしろ」
 そんな遣り取りの後、ソルの男根をそっと握ったカイの手つきは驚くほど稚拙だった。他人のものを扱いたことはまず間違いなくないだろうという手つきで、大変厄介なことにその稚拙さが逆に興奮を煽った。辿々しい指先が筋をなぞる度に下肢は怒張し、張り詰め、溜まっていたとはいえ思わず早漏かと自省したくなるほどあっさりと射精した。
 そうして飛び出した精液は正面に座っていたカイの顔面に容赦なく降り注ぎ、今に至る――のだが。
「まず整理したいんだが」
「はい」
 頷くカイの姿は毛繕いをする小動物に似ていた。自分が性的興奮の対象にされたという自覚があるようには見えなかった。
「知らない知らないと言っているが何がわからない」
「はい。有り体に言うと、今あなたの男性器が罹患している病気と、その結果私の顔に付着した何かですね」
「……はあ……」
 拭ったは拭ったが、完全に消えたわけではないらしい精液の匂いとこびりついた残滓に顔をしかめてカイが言う。ソルはある一つの懸念に思い至って頭を抱えた。
「まず俺は病気じゃない」
「え? 違うんですか? でも私、自分の身体がそんなふうになってるところ、見たことありませんよ。それとも人種の差? 年齢の差?」
「あー、敢えて言うなら年齢の差、だろうが。それ以前の問題だ。坊や、まさか性教育もされてねえのか」
「なんの教育ですって? ……あなたの口から出る単語ということは、女性には丁寧に優しく接するべしという話じゃ、なさそうですけれど」
 頭痛が加速する。正気かこいつ。ソルは今この場にいない老人達を恨んだ。クリフ、あの野郎、そのぐらいも気を回さずに今の今まで放っておきやがって。
 ……いや。でも、仕方ないのかもしれない。「まさかそんなことも知らないなんて」誰も思っていなかったのだ。それに団員達はカイを過剰に神聖視するきらいがあった。カイが通りがかるだけで、猥談がぴたりと鳴り止む現場を何度も見た。然るに、カイを大事にしすぎて、彼は大切なことを誰からも知らされないままだったのだ。
 その結果初めて見た精液が他人のそれとは。ソルの心情は困惑から同情に寄り始めていた。次いで胸中にわき上がったのは一つの使命感。
 ここで、やること全部覚えさせる。
 こういうことが、ソルの与り知らぬところで二度と起きないように、徹底的に。
 決意新たに顔を上げる。真正面に見据えたカイの顔は、改めて意識すると悲しいほど幼い。何故こんな子供相手に気を起こしたんだ――という疑問は都合良く忘れ去りソルは口を開いた。
「坊や、子供の出来方ぐらいは……流石に知ってるな?」
 急にゆっくり優しく問いかけられたのでカイは一瞬虚を衝かれたような顔になったが、すぐに気を取り直して自信満々に答える。
「コウノトリが連れてくるんでしょう? 最近、流石にキャベツ畑からは生まれないな……と思い始めたところなんです」
 カイの答えは思っていた以上に深刻だった。
「……。卵子と精子は知ってるよな」
「え? ええ。動物の場合は精子が卵子に受精することで受精卵が発生し、やがて胎児に成長します。それが何か」
「どうやって受精するか考えたことねえのかよ」
「ううん。そういえばよくわからないかも……人間にはやくとか柱頭とかないし……」 
「……いいか、覚えろ。今テメェの顔に俺が出した白いのついてるよな」
「はい。なんか生臭いですけど腐ってませんか?」
「腐ってねえ! だから――だな、これが――精子だ。人間の!」
 カイの頬にまだ残っている精液を指の腹で撫でると、カイは鳩が鉄砲玉を撃たれたみたいな顔をして、「……ええ?」と胡乱な声を出す。
「本当に? これが? 目視出来るじゃないですか」
 カイはあくまでソルの言うことを認めないつもりのようだった。
 どうにも信じられないらしい。気持ちは二割ぐらいわかる。しかしそれ以上の真実などどこにもない。ソルはかぶりを振った。もう少しわかりやすく訴え出る必要があるのかもしれない。仕方なく、カイの睾丸に手を伸ばす。
「嘘言ってどうするんだよ。この調子じゃどうせ精通もまだなんだろうが、坊やも男だ、ちゃんとてめぇのここにも入ってる……はずだ。恐らくな」
「それじゃ、私も病気なんですか!」
「だから病気じゃねえっつってるだろうが」
 そのまま、じれったくなり、ソルは予告もせずカイの性器を手のひらで揉み込むと扱き始めた。
「あっ、ちょっと、なにし、ひゃ、うぁ、ぁ、わあ!」
 いつまでも病気扱いされてはたまらない。まずある程度の年齢に達した男性なら普通に起こる現象だと納得させなければ。そのためにカイからの抗議めいた声は一切無視し、少年然とした幼いそれを一心不乱に刺激する。
 自慰すらしたことがないだろうと思われる部位は敏感で、ソルのごつごつした指先が与える刺激に呼応してすぐに形を変えていく。ほどなくして、ソルの男根がそうだったようにカイの性器も上を向いてゆるやかに勃ち上がった。カイは理解不能の羞恥心に襲われて、顔中を真っ赤にし、でもソルを止めることなくされるがままになっていた。
「そ――そ、る、あのぅ、もう、やめに……ひっ、しません、か……?」
「いや、駄目だな。ここで打ち切ったら何の意味もねえ」
「い、いみがない、って。へ、へんなんです……下から何か、せり上がってくる、みたい。こんなぞわぞわするきもち、は、はじめてで……わかんない……やだ……やめてくださいよ……」
「駄目だ」
 不安だったが、この反応なら勃起不全だとか、そこまで行かずとも不感症という線もなさそうだ。身体そのものは本当に健全な少年のそれらしい。
 無知はかくも恐ろしい――と、十四歳の、汚れひとつ知らないであろう男性器を弄くりながら思う。もはや完全にソルの頭の中から、行為と引き替えに出すはずの書類のことなど追いやられてしまっていた。今ソルの頭をいっぱいに満たしている思いは一つだけ。はやくカイをイかせて射精とその役割について説明し、性教育を遂行してしまわなければ。
「やだあ……う、うぅ、ひぅ……ん、あぁ、なに、こないで、きちゃう……!」
 そそる声だなと思ってちらと見ると目尻に涙が浮かんでいる。そんな、泣くほどのことか。泣くほど怖いのか――或いは未知の快楽が泣くほどいいのか。今のまともに頭が回っていなさそうなカイに聞いても答えは返ってきそうにない。
 しょうがないので、顔を寄せて涙を舌で舐めとって宥めるようにキスをした。唇を付けられたカイはますます混乱したようで、肉薄した状態のままぱくぱく口を動かし何かを伝えて来ようとする。鬱陶しいので舌を差し込み、扱いているのとは別の方の手で身体を思い切り引き寄せて固定すると、流石にもう何も喋れなくなったらしく抵抗が止む。
 直後、カイの身体がぶるりと震えた。それから何かを恐れるようにソルの身体をぎゅうと掴み、カイはソルの手の中で恐らく初めての射精を迎えた。
「おめでとう、っつうのか、こういう時は」
 他人の手で精通を迎え、体験したことのない感覚に見舞われたカイの肢体はまだがくがく震えている。口を離し、抱き抱えていた身体をベッドに転がすと、あまりに近くて絶頂の瞬間はよく見えなかった双眸が露わになる。くそ、せっかくの初物、見とけば良かったな。ほんの少しそんな考えを抱いたが、余韻に浸っている顔もそれはそれでいいものなので不問に付す。
「これでやっと一歩だけ坊やを卒業だ。どうだ? こいつでやっと、病気でもなんでもねえとわかっただろ」
「う、う――そ。病気じゃない、なんて。そんなわけ……ありません。だって……だ、だって、こんな、心臓、ばくばく言ってる……」
「普通だ普通。男は定期的に溜まったもん抜くぐらいで丁度いい。まあ……坊やはどうも感じやすい体質なのか……或いはいきなり他人に触られたのが問題なのか……知ったこっちゃないが」
 生臭い液体を放ってくたりとなった可愛らしい竿を再び手に取り、亀頭に爪をゆるやかに立てる。すぐに、「ひゃいっ?!」という声が上がって俯いていたものが立ち上がり始めた。まだ体力はありそうだ。
「なら……ソルのそれも……病気じゃ、ない?」
「そうだ。放っておくほうがまずい。それこそ本当に病気になっちまうかもな」
「溜めると……病気?」
「そういうこった」
「え。困ります。ソルが病気になったら、本当に誰も書類を出せなくなっちゃう」
 論点はそこか? とソルが言うより早くカイがばっと起き上がり、ソルの下肢に手を伸ばす。そこにはまだ勃起が収まっておらず、生々しくそそり立った男根が生えている。一体どうするつもりだ、と思っているうちにカイがそれを両手で握った。それから少し躊躇って、流れ落ちてきている前髪を濡れた指先で掻き上げ、目を瞑ると先端を口の中に含んだ。
「な――何やってんだ、おい!」
 これにはソルも驚いた。フェラチオなんて教えていない。受精がどうやって行われるかさえ知らなかった子供がピンポイントにそこだけ理解しているとも思えず、どうしても混乱が先に出てしまう。
 しかし肉体の方はどうにも正直で、子供の小さな舌がちろちろと這いずりまわり、亀頭を吸い、筋を舐め上げようとする拙い行為に性器は怒張するばかりだ。
「おい、話を聞け、ったく」
 このままではまずい。カイの顔を鷲掴み、無理矢理口を離させ持ち上げると、非常に苦そうな顔をして舌を突き出しているカイの顔が視界に映る。
「何してんだ」
 厳格な父親さながらの厳めしい顔で凄むと、自分がいけないことをしたと分かったようで、カイはおっかなびっくり伺うようにソルを上目遣いで見上げた。
「唾、つけようと思って……病気じゃなくても、そんなに赤黒くて固いの、変だなって。怪我ならそれが一番だから」
「……。あのなあ。俺以外にするなよ、絶対」
「あ、え、はい。しません。そんな怖い顔しないで。あなた本当は、もうちょっと優しい人なのに、その顔で全部台無し」
「…………はあ……ったく……」
 ひょいと降ろすと、丁度、ソルとカイのものがやんわりと触れ合う。温かい口腔内から追い出されて外気に触れ物足りなさを主張している場所には、それでもなかなかきつい仕打ちだ。その様子に、一旦忘れかけていた悪戯心がむくむくと膨れあがってくるのを感じる。ソルは気持ちよくなりたい。元々そのつもりで誘ったのだ。いや最初はお互いに扱きあって何発か抜いて終わりにするかぐらいの軽い気持ちだったが、それを差し引いても、目の前にある少年の身体は魅力的だ。
「坊や、そんなに俺のことを治したいのか」
 だから自覚して極めて悪質な笑みを浮かべ、カイの耳元で囁いた。意識しなければ決して普段からは出ないような、ねっとりと落とし込む声。囁かれただけでカイの身体はふるりとわなないた。緊張しているというのもあるが、紅潮した身体を見る限り、自然な流れとして、カイの身体も無自覚に興奮を覚え始めているらしい。
「治す方法が、あるんですか?」
 カイが訊き返す。乗って来たな。獲物を捕まえた悪魔のように目を細め、ソルは囁きを続ける。
「ある。多少、坊やは、しんどいかもしれないが。それさえすれば完璧に治るだろうな」
「わかりました。そのためなら、なんでも耐えます。頑張ります。だって……ずっと言ってますけど、私は別に、『坊や』じゃないですからね」
 だからお医者様にかかる子供を宥めるみたいに言わないでください、と強気な眼差しを向けられる。いいだろう。その心意気、勝ってやる。ソルはにんまりと笑うとカイの身体をひっくり返してうつぶせに寝かせた。そして「何をするんですか?」と問うカイの上に覆い被さり、目当ての場所にするりと腕を伸ばして、尻を割り開かせた。
 途端にあがる悲鳴だか驚きの声だかわからない、ないまぜの叫び。でも詳細は訊ねてこない。この少年が持つ性質で一番ソルと異なるのは、何と言っても我慢強さだ。「なんでも耐える」と言った手前こんなすぐに異を唱えることは出来ないらしい。
 それに気を良くして、人差し指をずぶりと突き刺した。カイの身が縮こまるがお構いなしだ。まずは入り口を馴染ませてやらないといけない。何しろソルの平均以上に大きな男性器を入れようというのだ。流石にいきなりではカイへの負担が大きすぎる。
「ふ、ぅ、うぅ、ぐ……」
 指で内部をかき回し、時々ひっかくように折り曲げて解きほぐす。異物を受け入れたことのない腸壁は侵入者を頑なに拒むが、そこは指を追加してねじ伏せる。慎重を期し、しつこくしつこく、ぐちぐちと音を立てながら少年の柔らかい胎内をかき混ぜた。カイはずっと経験のない感触に耐えて呻き声を漏らしていたが、指が三本になり、固くしこる部分を掠めたあたりで、不意にそれが色を変える。
「うーっ、うあぁ……ぁ、ひぅ、あんっ、……え、えっ?」
「なんだ? 急によさそうな声なんか上げて。ここが好きなのか」
「ふぁ、ぁ、だめっ、そこ、何か……変、です、ぁあんっ」
 我慢しきれずに漏れ出た声は嬌声そのものだ。ついさっきまで自分の男性器から精液が出ることもろくすっぽ理解していなかったカイがそんな声を漏らしていると思うとぞくぞくしてたまらなくて、執拗にその箇所を責め立てた。
「やぁっ、なにこれ、なに……ぁん、あたま、ふわふわして、おかしくなっちゃう……」
「前立腺に当たってるんだろ。ここを仕込むとケツでイけるようになる。とはいえ初めてで感じられるのは才能だぞ」
「ひう……ぁ、ソル、ソルの、指……おおきい、です、ね。知ってた、はず……なのにな」
 この後指どころではないものを入れる予定だとは言い出せず、カイの押し殺した嬌声が自然な喘ぎ声になるまで内部をまさぐった。同時に、勃ちあがりかけていたカイの性器に手をかけてやり、そちらもゆるゆると揉み込む。どのくらいこうしていただろうか? カイがもう声を抑えなくなってしばらくして、全身がぶるりと跳ねた。「近い」のだろう。咄嗟に両手を身体から引く。三本の指を引き抜かれた肛門は大きく口を広げたまま、触れた外気の冷たさに震えるようにしてわななき、浅く呼吸を繰り返していた。
「え? あれ? ソル……終わった、んですか?」
「馬鹿言え。本番はこれからだ。坊や曰くの『病気で腫れてる』部分にまだ何もしてねえだろうが」
「あ、ああ、そう……でした。そういえば、それと今までやってたこと、何の関係性が……」
「決まり切ってるだろ。中に挿れる以外に、ねえよな」
 訊き返す間を与えず、張り詰めた陰茎を開きっぱなしの口にぐっと宛がう。「はえ?」と間の抜けた声が上がった。流石に押しつけられているものが穴に対して大きすぎることには気がついたらしい。
「まあ、痛いだろうが――がんばれ」
 だが待ってやることは出来ない。カイの身体を押さえつけ、ソルは勢いよく反り立ったものを出来る限り奥へと押し込んだ。
「ひ――あっ――あ、ぁ、あぁっ!」
 執拗な前戯で慣らしていたとはいえ、とんでもない質量だ。子供の中に押し込めるべきサイズではない。そんなことは重々承知だが、どうしても、中に入れてやらないと気が済まなかった。受け入れられた先端部分から順に柔らかな肉が触れていく。吸い付く感触に舌なめずりをし、ずぷりずぷりと徐々に深奥へ押し進んで行く。
「はっ……クソ狭ぇ。入んのかよ、本当に」
 異物を押し返そうとする反発も先の比ではない。食い千切らんばかりの締め付けに舌打ちし、カイの身体をまさぐり、宥めるように撫でて変化を待つ。何より今一番つらいのはカイだ。圧迫感も相当なものだろう。だから、大丈夫だということを伝えてやる。赤子をあやすように体温を伝え、背をさすり、なんとか安堵させられないかと試みる。
「深呼吸しろ、大丈夫だ、ここにいる」
 そんなことを続けているうち、徐々に身体の強張りがゆるやかになってくる。快楽を感じ取れるぐらいの締め付けになり、ソルも大きく息を吐くと、今度は間髪入れず抽挿に移った。
 押し込めればぐちゅぐちゅと肉が擦れ、引き抜くと乾いた音が鳴る。それに呼応するように垂れ流される喘ぎ声を聞きながら腕の中にすっぽりと収まってしまう身体をバックから犯す。まともに意識など残っていないだろうカイはもちろんのこと、ソルの方にも当初の目的は欠片も残っていない。あるのは獣の情欲だけ。書類を出すとか、その代わりに取引をするだとか、そういうことは全てどこかへ消え去り、気持ちよくなりたいということ以外ろくに考えられない。
「ぁ、っ、――ぁあ、」
「我慢すんなよ、坊やも気持ちよくなりてえのは同じだろ」
 腕を差し込んで掴み取った男根は幼いなりにそそり立って、覚えたばかりの射精を求めている。法術式を見ていた時も思ったが、本当に何につけても覚えが早い。何もこんなところまで、と思う一方で後ろ暗く喜ぶ自分もいる。荒い呼吸を繰り返す中でソルは思う。この子供がいつか神の御許へ行けなくなったとしたらきっとそれはソルのせいになる。
 興奮した面持ちのまま、がくがくと揺さぶって犯す最中で、とうとう限界がソルにも訪れる。歯を食いしばって低い呻き声を上げた。実際それは唸り声のようであった。背筋を駆け上がる背徳感に身体中を溺れさせ、思い切りよく、自分本位に、ありったけの欲望を小さな身体に解き放つ。
 射精はやや長めに続いた。これほど気持ちの良い射精をしたのは久しぶりだった。放ち続けている内に結合部から入りきらなかった分が零れだし、でろりと滴ってしみになる。
 まだ繋がりを断つ気分になれず、中に挿し込んだ状態のままでうつぶせのカイをぐるりとひっくり返し、膝の上に抱き上げた。カイが押しつけられていた部分のシーツに広いしみが出来ている。それと交互に見比べたカイの顔は、今までに味わったことのない感覚で放心しきり、口の端から涎を垂らしていることにも気がつかずとろりとした眼差しをソルへ向けている。
「……よかったのか?」
 訊ねるとカイはゆっくりと瞬きをした。
「わかり……ません。だって、こんなの、知らない、もの。……中にまだ、ソルが、いるんだ。へんなかんじ……。……あの、治りました?」
「さあ……もうしばらくはどうも無理そうだな……」
 その言葉に、埋めたままの性器が勢いを取り戻すのを感じてソルは首を振った。こんなに気持ちのいいことを、たったこれしきでやめてやろうと思えるほど自分は善人ではなかったのだと思い知らされる。
 ――とりあえず、性教育の総括は、起きて風呂に入り、欲望がはけたところで真面目にやろう。
 ソルは決意した。もはやどうしてこんな行為に及んだのかさえ思い出せなかったが、そんなことよりも、今全身を満たしている快楽と充足感を追い求める事の方が大事に思われた。