オヤジ!オレの父さんが(中略)困ってるんだけど!



 いや、そりゃ、ノックもしないで覗き見してたオレも悪いと思うんだけど。
 そのあと、やっぱりノックしないまま中に駆け込んでったオレも、悪いとは思うんだけど。
「ですから、シン、男子たるものこういう生理現象は正常の範囲でままあることで」
 オレはどこか知らないところからわき上がってくる「押さえつけてやりたい」という衝動をなんとかやり過ごし、もてあまし気味の手のひらを後ろに回した。オレの目線の先、つまりオレの両足の間にカイの頭がある。仕事してる間じゅう額に掛けられていたサークレットはどこにも見当たんなくて、長く伸びたキレーな髪はばらばらに広がり、今にもオレの足にかかりそうなほど顔が近かった。でも問題はそこじゃなくて。時々口を離してはなんか言い始めるカイが、口をつけてる間にやってることのほうで。
「か、カイ……」
「はい」
 内心、破裂しそうな心臓をなだめてカイの名前を呼ぶと、上目遣いに顔を上げられる。すると顔の下で今もまさにカイの指先で上下にごしごし擦られているものが目に入った。……そうなんだ。オレの身体にいつもついてるやつだとは思えないほど腫れ上がり、硬くなったそいつを、カイがずっと一心不乱に擦ってるんだ。そのうえ舌でぺろぺろ舐めてくることもあって、だからオレに「はい」って答えた唇は唾液とかでぬめって、てかてかしてる。十分ドキドキしてた心臓が息の根を止めそうになる。キスしたい。なんでかわかんないけど強烈にそう感じる。いつもおでことかほっぺたにしたりしてもらったりしてるけど、そうじゃなくて、この唇にだ。
 ――と頭では思うんだけど、心臓とカイに握られてる方はそれどころじゃない。
 オレは意識を下に戻し、ふたたび、カイの指先がまさぐる方を見た。カイの長くて整った指たちが玉袋を揉みし抱いていた。色々なものが恐ろしくなる一方、わけわかんねえ勢いでおしっこしたくなってきて、オレは困惑しきって整った顔立ちの父親に懇願する。
「頼む、は、離れて。出そう。なんかすげー勢いで出そう。カイの顔におしっこかけたくない」
「え? ああ。平気ですよ。ソルにはしょっちゅうかけられてるし……」
「ハア?! オヤジそーいう趣味なの?!」
「ちげえよあほんだら」
 猫みたいな格好でオレのことを舐めてたカイの、突き出された尻を更に弄ってたオヤジがそこで突然怒鳴って、オレは今度こそ心臓が止まるんじゃないかと思ったが、そんなことじゃ心臓は愚かおしっこしたいという気持ちの欠片も消えてはなくならなかった。カイは何がおかしかったのか知らないけどくすりと微笑んで、オレの身体に唇を戻す。浮き上がった血管をなぞるように舐めて、根本は指で作った輪っかでごしごししながら、舌をどんどん持ち上げていく。
 カイがオレを舐めるその仕草とか、目つきとか、そういうのを見る度にオレはへんな呻き声を上げなきゃいけなかった。その気がなくても、変な声がどんどん口から出ていってしまう。カイの顔はいつもと変わらないようでもあったし、オレの知らないもののようにも見えた。カイの口の中はあったかい。やわらかくて、あつくて、気持ちいい。カイが指を走らせるほど、「おしっこしたい」と「きもちいい」しか頭の中に残らなくなっていく。ああ、もう、出したい! なんかいっぱい、気が済むまで……!
 そんなこんなで、とうとう、カイの口が先っぽにちゅうと吸い付いたあたりで色々なものの限界が訪れた。オレは「ごめん! ほんと、ごめん!!」と言いながら身体に全部任せた。強烈な尿意は最早オレの意思でどうにか出来ないところまできていて、オレはものすごく墓に埋まりたい気持ちのまま、カイの顔におしっこをぶっかけなきゃいけなかった。
「……あれ?」
 でも結論から言うと、カイの顔におしっこがかかることはなかったんだ。
 もちろん、おしっこの臭いもしない。代わりに、別のなんかよくわかんない変な臭いがして、カイの顔に白っぽい液体が山ほどぶっかかっている。
「なに……その白いの?」
 オレは状態をよく呑み込めなくて、間抜けな声を出すことしか出来なかった。いやほんとなんだこれ。こんなん今まで生きて来て見たことねえもん。でも状況からして、オレがぶっかけたのは間違いない。……どっから出たんだ? カイにこすられてたとこ? マジで? おしっこ以外、出せんの? もう全然、何もわからない。
 わかるのは、心臓のドキドキが全然止まってくれないこと。
 それから、カイの顔を見てると、そのドキドキがもっとひどくなるってことだけだ。
「ああ、よかった! おめでとうシン、これでちょっと大人になりましたね……」
 だというのに、オレによくわかんない謎の液体をぶっかけられた(推定)カイはというと、嫌な顔一つせず、むしろ心から嬉しそうな表情を浮かべ、顔にかかったものを気に留めたふうもなくオレにキスをしてくる。オレの気持ちなんかお構いなしだ。けど、「え、ちょっと汚くない?」という気持ちより喜びが勝って、オレはカイに甘んじた。カイにキスされてる! ……でも、カイの尻に手を突っ込んでるオヤジの顔が怖かったのでもったいないけどキスは早々に切り上げてもらい、ん、と顔を遠ざける。
 カイはちょっと残念そうな顔をすると唇の周りを自分の舌でぺろりと舐めとった。それから、後ろ手に回っていたオレの両手を引っ張り出すと人さし指をぴんと立てて今更のように真面目な顔をしてみせる。
「精通を迎えたら、あとは誤りが起きてしまわないように、欲求とどう向き合っていくかをきちんと覚えないといけませんよ」
 いや、尻を突き出したまんまの格好でそんなこと言われても。
 オレはすっかり困り切ってしまって、オヤジの方をちらりと見た。オヤジは、ちょうど、カイの尻から手を引いているところだった。うん。カイの尻から。そこから、オヤジの指がずるりと出てくる。……汚くねえ? って聞くのもはばかられ、オレはごくりと生唾を呑み込んだ。
 そもそもこの部屋に入ってしまったのは、オヤジがカイとしていた、あの光景を見てしまったからなのだ。


 時間はちょっと前に遡り、オレはオヤジを探してそのへんをふらふらしていた。ヴァレンタインとヴィズエルが襲ってきた事件が片付いてしばらく、オレはオヤジと二人で客室を宛がわれてそこに滞在しているのだ。で、オレは夜中に目を醒ました。夜に目を醒ますことが、ここんとこ続いていた。そんで、起きると同じ部屋で寝てたはずのオヤジがいない、ってことも、続いていた。
 最初のうちはたまたまトイレにでも行ってんのかなって思ってたけど、これで五日も連続となると、流石にヘンだなって思わざるを得ない。五日目にして、オレはオヤジの捜索を決めた。部屋中をくまなく探し、どこにもいないことを確かめてまず食堂に行ったけど空振りだった。中庭もだ。それで思いつく限りの場所を探した結果、最後に向かったのはカイの部屋だった。
 辿り着いたカイの部屋からは灯りが漏れていた。ビンゴだ。そっと忍び寄って聞き耳を立てると、くぐもっていて内容は聞き取れないが二人分の声がする。めちゃくちゃ耳のいいオレだけど、そもそも人に聞かせるために話してる感じじゃないのか、耳を澄ませても詳細がわからない。気になって仕方ないのでこれまたそっとドアを開き、間から目を覗かせると、ちょっと信じられない光景が飛び込んで来た。
 ベッドの上に、肉の塊が見える。日焼け具合と体格からいってオヤジだ。なんで? ここ、カイの部屋だろ。じゃあカイはどこだ? ……耳を澄ませると、やっぱり、カイの声はする。けどベッドの上以外には人の気配がない。
 じゃあカイは、オヤジの下にいるのか?
「――ッ、オヤジ!! 何してんだ!!」
 そこまで考えたら、あとはもう身体が勝手に走り出していた。だってやばいだろ。オヤジ、重いし。カイ、細いし。なんていうかカイは昔からやつれてたけど、近頃のカイはあのクッソ重そうな服を毎日着てるせいで、余計に壊れやすいものみたいにオレの目には映っていた。で、オヤジの頑強さとか図体のでかさは一緒に旅をしていたオレも身に染みて知っている。そんな状態で組み手したらどっちが勝つかなんて考えるまでもない。
「な、え、あ、し、シン?!」
 そこで初めて、オヤジの下から明瞭なカイの声が聞こえてきた。カイの声は狼狽しきっていた。見られて困る、顔から火を噴いてしぬ、みたいな声だった。カイは続けて「み、見てはいけません!」と死にそうな声で叫んだ。でもオヤジの体重でカイが潰れる方がオレにとっては困るから、無視してオヤジを引き剥がそうと飛び上がったところを、オヤジの手で引っ掴まれる。
「おいオヤジ、離せよ! カイが潰れちまうだろ!」
「何してんだ、はこっちの台詞だ。ガキは寝る時間だろが」
「夜中目醒ましたら五日も連続でオヤジがいねーから探しに来たんだよ!」
「チッ……」
 オヤジに首根っこを掴まれて宙に浮き、オレはじたばたしながら抗議をする。およそこれまで向けられたこともないような殺気と剣呑さを正面からぶつけられたことには若干びびったけど、オヤジの殺気自体は賞金稼ぎの仕事で見慣れていたので、オレは一歩も引かなかった。
 オヤジの下で潰れてるカイの顔をちらりと確かめる。カイの顔は真っ赤で、汗が滲んでいた。ひでえ。オヤジ、プロレスの極め技でもかけたのかよ。毎日過労死しそうな顔してるカイになんて仕打ちをするんだろう。
 オレは意を決して険しい顔つきをし、心ないオヤジを糾弾する。
「つーかオヤジもオヤジだ。早くカイからどいてやれよ。やつれたカイと組み手したって勝敗なんかわかりきってるじゃん」
「……は?」
「え? シン?」
「だから、わざわざ夜疲れ切って寝てるカイと組み手勝負したってオヤジが勝つに決まってんじゃん! 早くどいてって、カイがぺちゃんこになっちまう」
「…………」
 するとこのあたりで、どうも微妙な空気が流れ始める。オヤジはぼとりとオレをとりこぼし、その結果オレはしたたかに床へしりもちをついた。オヤジの下から覗くカイの顔が、あんなに真っ赤だったのに一瞬で青ざめていく。今度はカイがオヤジを糾弾するように見る番だった。カイはおどろくほど冷めた瞳でオヤジに質問を投げかけた。
「ソル」
「……なんだ」
「シンに性教育はしたのか」
「……。してねえ」
「私には……あんなにすぐ手を出したのに?」
「坊やはもう十五だったろ……」
「けれど今のシンより体格は幼かったよ」
 青ざめたカイの顔が更に凍り付いていく。カイがオヤジの身体をやんわりと押しのけ、起き上がった。その途中でずるりという音がして何かがカイの中から抜けたけど、その時のオレには何が起きたのかまだよくわからなかった。
 オヤジとカイが離れ、そこでようやく、オレは二人が裸だってことに気がつく。見慣れたオヤジの裸と比べ、カイの身体は色が白く細っこくて、なんだか無性にいけないものを見ているような気分がしてくる。
 そんなカイの華奢な手のひらでおいでをされ、オレはふらふらと引かれるようにカイの方へ寄っていった。ベッドのそばで膝立ちをしてカイの顔を見上げると、カイは青い顔をしたままオレの頭を撫で、ゆっくりと、世にも恐ろしいことを確かめるみたいにオレに尋ねた。
「シン、それでは、精通もまだなんですか」
「……せいつー、って、なに?」
 答えるとカイの顔はますます絶望的なものになった。
「ではまず、そこから始めなければならないでしょうね……」
 オレから手を離すと、今度はベッドへ上がってくるよう手招きをする。オレは誘われるままにベッドの上に上がる。するとカイの手がいきなり寝間着を脱がし始める。「なんで?!」って慌てて口走るとカイはオレの向こうにいるオヤジに「お前も手伝え」と低い声で命令をする。
 オヤジは逆らえる様子もなく、むっすりと手を伸ばすと、滅茶苦茶乱暴にオレのズボンを脱がした。パンツもぶんどられ、生まれたままの姿にされたところでカイの手がオレの背をベッドボードにもたれかけさせる。
 それからカイはおもむろに腰を折り、頭を下げると、オレの股ぐらに顔を突っ込んだ。止める間もなかった。それでなんかもぞもぞすんなあと思ってたとこに手を伸ばし、取り出し、つぶさに観察し、「一応勃起はしているのだろうか……」とめちゃめちゃ神妙な顔でよくわからないことを言う。
 で、あとはこの通りだ。
 カイはオレを舐めたり擦ったりして、オヤジはカイの尻に手を突っ込み、オレはよくわかんねえ謎の液をカイの顔にかけ、心臓はばくばくうるさいままで、だというのにカイは微笑みながら「じゃあ次に行きましょうね」と首を傾げている。


「次、って。な、なに……まだなんかあるのかよ……」
「ええ、ですから、正しい性欲との付き合い方を解説しますから、覚えていただきたいなと。紙とペンは用意しますから、ちゃんとノートを取ってくださいね」
「いや。まだるっこしいから一回やって覚えろ」
「ソルも講釈を手伝って――はあ?! 何を言ってるんだお前は!!」
 それまであんまり喋らなかったオヤジが急に口を挟み、その瞬間、カイは信じられないものを見るような表情になりまたさっと顔を青ざめさせた。経験上こういう時のオヤジはろくなことをしない、信じられない、みたいなことが額にありありと書いてある。
 でもオヤジはそんなカイの声なき抗議など知ったことじゃないらしく、カイの腰にするりと手をやるとあれよあれよという間に膝の上に抱き上げてしまう。
「実地訓練ってことか? いつもみたいな」
「テメェは説明しても覚えねえ。とはいえここから先は何かあった時に取り返しがつかなくなりかねない」
「とりかえし」
「ああ」
 オレが訊ねると、オヤジは神妙に頷いた。カイはオヤジの腕の中でしばらくじたばたして暴れてたが、オヤジが本気で押さえつけるとまるで敵わなくて、いつの間にか観念しきったように身を預けている。
 そうしていると、ただでさえ細いカイの身体は、栄養失調とかそういうレベルで心配になってきちまうぐらい、オヤジや――それにオレとも、違っているように見えた。
 まずカイは肌が白い。無闇矢鱈に白い。なのによく見ると、普段服に覆われている部分に点々と赤い傷がついている。なんでそんなとこ大量に怪我してんだろう? 白と赤の対比は、ちょっと痛ましい。……けど、こんなこと言うのあれなんだけど、この無数の赤い傷を見たせいで、心臓のドキドキが加速しちゃった気がする。
「シン、テメェはたった今カイのクソ丁寧なフェラで精通を迎えたわけだが」
「だからそのせいつーって何?」
「男性器から精液がはじめて出た時のことを精通と呼ぶ。精通を迎えると生物学的に生殖活動が可能になる。子供だから何してもいいっつう時期が終わった、ってことだ。まあ……確かに、知らんでは済まされない」
「……?」
「何も知らなかったでガキにガキ増やされちゃたまったもんじゃねえ。お前はまだガキだ。子供作るのは、もっと先でいい。だから子供がどうやったら出来るかを知って、それを避けて動け、っていうのが、あー、主題だな」
 微妙に歯切れ悪く言って、オヤジはカイの胸に手を伸ばした。あぐらをかいてるオヤジを椅子みたいにして座ってたカイが、胸を触られた途端、んん、みたいな、掠れた声を出す。オヤジはそのままカイの胸をつねった。うわ! 何してんだ! それ絶対痛いやつだろ! オレはまるで自分がお仕置きをされたみたいな気持ちになって思わず目を瞑ってしまい、でもその直後に飛び込んで来た声にびっくりして、すぐに目を見開いてしまう。
「え……?」
 甲高い、押し殺そうにも押し殺しきれなかったみたいな音が、オレの耳を刺し貫いた。一瞬、誰の声かわからなかった。妙に胸がざわついて、カイに散々舐められた場所が、またヘンになる。なんだこの声? 誰の? オレじゃないし、オヤジでもない。――なら、カイの?
「なんだよ、今の……」
「コイツは胸が弱い。特に乳首が。こうされると我慢出来ずに喘ぎはじめる」
「や、馬鹿、そんなことまで教えるな……ふぁ、あ、やめろ、ソル!」
「必要だろ? テメェ普段は『いきなり挿れるな愛撫ぐらいしろ』って散々言うだろうが」
「いやそれはそうだが、しかし、」
「シン、とりあえず吸ってみろ」
「って言ってるそばから! ……え、あ、うそ、シン!」
 オヤジに「しろ」って言われた瞬間、オレは弾かれたようにカイに顔を寄せ、乳首に吸い付いた。だって、ほら。オヤジの言うことには逆らわない方が大体の場合得策だし。うん。オヤジがいいって言ってるし、いいだろ。
 カイの乳首は何故か硬く、唇をすぼめるとかんたんにその中に捉えられてしまう。オレは一心不乱にカイの乳首を吸い続けた。さっきカイが、オレの身体にそうしてくれたみたいに、どうしようもなくそうしたくて、カイのぷっくり膨れあがったものを舌で転がした。
 吸い上げるたびに、カイの息づかいはどんどん荒くなっていく。最初のうちは「やだっ、シン、私から母乳は出ません」とかなんとか言ってたのが、いつの間にか言葉にならない掠れ声ばっかりになっていく。
 これが、オヤジが言ってた「喘ぎ声」ってやつなのか。戦ってて手ひどいダメージを負った時の声と似てるような気もしたけど、何かが根本的に異なっている、違う、とオレは思う。だって戦ってる時の声はこんなにむずむずしないし。
 ……そうなんだ。オレがカイの乳首を吸って、カイが変な声をきれぎれにあげると、オレのちんちんはどんどん元気になっていって、カイがいっぱい擦ってくれた後みたいに硬く張り詰めた。でもそれは、不可抗力だと思う。だって乳首を吸ってるってことは、オレの身体とカイの身体はめちゃくちゃ近いってことだし。そうするとオレの身体とカイの身体は当然あたるし。で、オレのちんちんとカイのそれがぶつかって擦れるし。……というか、よく見ると、カイのそれもなんか元気な感じになってるのだ。オレが初めてこういう状態を見たのは旅の途中、宿に泊まってた時のことで――その時、オヤジは相談してきたオレを一瞥すると「朝勃ちだな」と一言だけ言った。病気じゃないから気にすんな、と。
 その時、ちんちんが元気になっちまうことを「勃起」って言うらしいのはオヤジから聞いた。でもなんで元気になるのかはよくわかんないままだった。……けど、今、なんとなくわかってきた気がする。
 オレは勢いよく乳首から顔を離し、カイの様子をまじまじと見た。オレが吸い続けた方の乳首は唾液でぬるぬるになって真っ赤に腫れ上がっていた。ますますドキドキした。オレが吸ってなかった方の乳首も、オヤジの指につままれて、同じぐらい真っ赤に腫れていた。
「は……ぁ、う、うぅ……」
 やっとのことで解放されたカイは、困惑したみたいにオレを見てきていた。顔中赤く染まって、小刻みに肩を揺らし、目尻に涙がたまっている。オレの知らないカイの顔。仕事に忙殺され、疲れ切って帰ってくるカイや、戦場に立ち凛々しく剣を掲げるカイ、母さんを抱きしめるカイ、ちびだったオレを抱き上げようとしていたカイ、再会したオレに気を遣いながら話掛けようとするカイ――そのどれとも違う、初めて見る表情。
 その目を見た瞬間、胸のドキドキはもっと酷くなって、オレは思わず胸を押さえたけど意味はなかった。自分でもびっくりして、ばくばく言う心臓とやたら張り詰めて痛くなってきたちんちんに意識を持ってかれそうになり、ぶるぶる頭を振る。カイが泣いてるのに、かわいそうとか、つらいのかなとか、全然思えなかったのだ。それは多分、カイを膝に乗せているオヤジが、オレでもびびるぐらい、やばい顔をしていたからだった。
 オヤジは笑っていた。にっと唇を釣り上げ、にやにや、めちゃくちゃ性格悪そうな顔で、カイのほっぺたを撫で回していた。オレはその仕草に無性に腹が立ってむっとしたけど、同じぐらい、羨ましく思った。オレも同じように、カイに触れたかった。
「……オヤジばっかずりぃ」
「何がだ」
「お、オレだって、カイにほっぺたすりすりしたい!」
「ガキはミルク吸って満足してろよ」
 オヤジはにべもなくオレの要求をつっぱね、おもむろに、腕の中に抱えているカイの身体をぐるりと回した。
 そうすることで、カイの尻がオレの方を向いて、色んなものが丸見えになった。薄い尻は、傷だらけの背中と比べて全体的に赤かった。オヤジの手がカイの尻を両側から押さえる。ぐいと開かれて、真ん中がはっきり見えるようになる。
 その様を見てオレは自分でも理由がわかんないまま息を呑んだ。
「すっ……げえ」
 オヤジが引っ張ってる尻の中央で、色の濃い部分がいくつも皺を作ってくぼんでいた。尻の穴だ。オレにもあるし、そりゃまあカイにもあるよな。でもオレ、知らなかった。尻の穴って――こんなに、目が離せない場所だったっけ?
 カイのそこは、せわしなく動いて、ひくひく収縮している。オヤジがそのふちをなぞりながら「相変わらず物欲しげに口開いてんな」となんでもないみたいに言う。いや、なんでそんな、いつも通りみたいな調子なんだよ。オレこんなのはじめて見たのに! オヤジは……この五日間、毎日これを見てたってことなのか?
「シン」
「お、おうっ?!」
「今から多少難しい話をするがなんとか覚えろ」
 考えごとをしていたところにいきなり名前を呼ばれ、びくりと身体が震える。オヤジはオレのびびり具合なんかどうでもよさそうにカイの尻穴に指を二本突っ込み、それを広げ、何かを確かめてふうと息を吐いた。穴は広がるときにくぱりと音を立てたけど、ものすごく自然に広がった。そういや、部屋に入ってきてすぐ、カイの身体から何かがずるずると音を立てて抜けていたということを思い出す。
 じゃああれはここに入ってたのか。でも何が? その疑問の答えは、すぐにわかった。
「男性器が何故勃起するかというと、生物学的に、子供を残さねばならないからだ。で、勃起して気持ちよくなると出る。さっきカイがしたみてえに口や手で擦られても出るが、こうしても出る」
 オヤジがぶつぶつ言いながらカイの尻を持ち上げると、その下から、ものすごいでかくて赤黒いものが顔を出した。オヤジの……ええと。ちんちん。デケェな。サイズで言うとカイ・オレ・オヤジみたいな順番だ。いやでも……でかすぎないか。昔からオヤジと風呂とか一緒に入ってたけど、こんなでかかったか?
 でも考えてみると、カイにこすられて硬くなったオレのもいつもよりデカい気がするし、オヤジもカイにめっぽうドキドキしてこんな感じになってるのかもしれない。てことは、こんな澄まし顔してんのに、オヤジも心臓破裂しそうな気持ちなんだろうか。わからない。そんなことを考えるより、オヤジがはじめたことの方に釘付けになって、オレの頭がそれでいっぱいになってしまう。
「あ――ソル――そんな、子供の見ている前で、ば、ばか……」
 オヤジに広げられたカイの穴の中に、先っぽがぴたりとあてられる。諦めはじめていたカイがそこでまたいやいやと首を振った。目尻に浮かんだ涙が頬を伝い落ちていく。涙が乳首を通り、ひっ、とカイが身体を竦めた。オヤジはカイの言葉を取り合わなかった。そのかわり、なだめるようにカイの口にへキスをして、先端をぐりぐり擦りつけた。
「見た方が早い。つうか、俺は途中でいきなりすっぽ抜かれて消化不良だ。溜まってんだよ」
「だ、だからって……というか、それならさっさと入れろ! 焦らすな!」
「いきなり抜かれた腹いせもしないとな」
 入れてほしけりゃ自分で入れろ、とまた悪そうな顔をする。カイがオヤジを呼ぶために世界中に張り出させた指名手配犯の人相書きより、こっちの方が百倍ぐらい極悪人の顔つきをしている。
 カイはぱくぱくと口を閉じたり開いたりして、オヤジの顔を思いっきり睨み付けて、ただでさえ赤かったはずの顔を更にかあっと赤くした。焼きリンゴみたいになったカイは、オヤジの唇に勢いよく食らい付き、かと思えばおずおず身体を揺すり、ぐい、と腰を下へ降ろした。
「ぐ、んん、んーっ、ぅ、あ、はあ……」
 息をつめ、ずぶり、ずぶり、とカイはゆっくり腰を下ろし続けた。カイの穴はそんなに大きくなかったような気がするのに、驚いたことに一度も引っ掛かって動きが止まることはなかった。時間はかかったが、やがてオヤジのクソデカいちんちんはカイの身体の中にすっかり収まった。心なしか、カイの薄い腹が、オヤジの形にぽこりと膨らんでいるような気がした。
「は、はいった」
「時間かけて仕込んだからな」
 オヤジが得意げに言った。カイは何か反論をしたそうな感じだったが、そんな余裕はないみたいで、ふうふうと息を吐いたり吸ったりし続けるだけだった。
「時間掛けてって、どんくらい」
「……。それなりにだ。いいかシン、カイだからこうやってスケベな真似して全部喰うが、まあ普通こうはいかない。だから俺やカイが何を言いたいかというとだな、もしおったてて、無性に穴に入れたくなったとしても、我慢しろ。我慢してトイレで一人でシコって抜いたら寝ろ」
「カイの中に入れながら言われると説得力ねえよ」
「カイだって全部入るようになるまでは大変だった。俺の努力の賜だ」
 オヤジがまた自慢げに言うと、今度こそカイは抗議の意志を固めたらしく、カイを支えているオヤジの腕に思いっきり爪を立てる。オヤジの顔に青筋が浮かんだ。オレは咄嗟に後ずさってオヤジから離れた。オヤジの喧嘩っぱやさをよくよく知っているオレの本能が、「ヤバイ! 離れろ! 巻き添え喰らう!」って全力で叫んだのだ。
「いい度胸だな、カイ?」
 オヤジが悪魔のように笑った。
 オレの本能はすこぶる正しかった。カイの腰をがっつり押さえたかと思うと、オヤジは急にカイの身体を激しく上下にゆすり始めた。あのやたらデカイやつを、ものすごい速さでカイの中に出したり入れたりしはじめた。何が起こっているのか全然理解が追いついてないオレだけど、それが無理矢理だ、ってことは流石にわかる。カイの身体は細くて華奢で、オヤジのちんちんはすげーでかくて、オレからしてみれば、カイの身体の中にあれが全部入っただけで殆ど奇跡だったのだ。
「カイ――」
 でもオレは、やっぱり、それを見ていることしか出来なかった。
 カイの中へ出たり入ったりするたびに、じゅぷっ、じゅぽっ、ぐちゅぐちゅ、って水っぽい音がする。それに合わせてカイの腰が跳ねて身体が踊る。元々泣いていたカイの顔はぐっちゃぐちゃで、国を治める王の面影はどこにもなく、小さい頃、オレを肩車してくれた父親の面影も見あたらなかった。言葉に出来ない感情がオレの中をぐるぐるかけずり回って、ずっと見ていたい、目を離したくない、という思いで頭がいっぱいになる。ずぽっ、て抜けて出てくる。カイが甲高い叫び声を上げる。ぐぷっ、ずぱんっ、って中へ押し込まれる。カイの身体がびくびく震え、掠れた喘ぎ声でオレまで脳味噌しびれそうになる。
 オヤジの動きには容赦というものが一切なくて、きれぎれの声でカイがどれだけ懇願しても、カイを揺すぶり続けた。そのうち、カイは「おく」とか「きちゃう」みたいなことをうわごとのように口走り始める。その頃には、口の端から涎が垂れて、理性なんか一欠片も残ってなさそうな顔で、子供みたいにとろんとした目をオレに見せていた。
「やら……も、出して……」
 ろれつの回っていないカイの声は、いたく下半身を刺激した。元々上を向いていたカイのちんちんは、揺すぶられている間じゅうずっと上向いたままだったけど、途中で透明な液を零し始めて、今もとろとろとそれを流し続けていた。オレがカイにこすられて出したあの白い液でも、黄色いおしっこでもないそれを流せば流すほどカイはつらそうになっていった。懇願の内容は、「やめろ」から「はやく」に変わっていた。
「はやく……ちょうだい……」
 そこまで言われると、オヤジも流石に良心が痛んだのか、悪魔みたいな顔からオレの知ってるオヤジの顔つきに戻った。返事の代わりにキスをして、カイの腰を一層深く落とし付ける。
 それからほどなくして、オヤジが低く唸った。合わせてカイの身体がひときわ派手に震えた。目を閉じ、鼻から息を抜かせ、オヤジがカイの身体に自分の身体を押しつける。びゅるびゅると勢いよく何かが吐き出される音が、くぐもってオレの耳に届いた。出してるんだ。オレがカイの顔にぶっかけちまったのと同じやつを、オヤジがカイの中に出してる――。
「は、あ……こんな、溜め込んで、無尽蔵か、おまえは」
 やがて吐き出す音が止まると、カイは足先をぴんと伸ばし、熱っぽい声でそう呟いた。オヤジが満足そうにカイから抜き出し、身体を離すと、カイの穴からごぷりと大量の白い液が零れ落ちていく。それにしかめ面をして、カイがオヤジへキスをした。たまらなく羨ましかった。
 オレは急に自分がひとりぼっちになってしまったような心地がして、カイに飛びついた。

「あ、うわ、シン? 寂しいんですか? え……えっ? え、ええ、うそ、やめなさい、シン!!」
 飛びついた勢いのまま、オヤジから身体を離してくたりとうつぶせに倒れ込んだカイの上に覆い被さった。カイの身体からは生臭いにおいがした。オヤジのにおいだった。でもそんなことは全然どうでもよくて、気にもとまらなくて、オレはとにかく一秒でも早く(オヤジにオレの目論見がばれちまう前に!)事を成就させてしまいたかった。
「カイ、ゴメン……」
 熱っぽい息を吐き、覆い被さった体勢のまま右手で自分のちんちんを握り、左手でカイの尻を押さえる。そこで、余韻に浸ってぼんやりしていたオヤジが目を見開く。でもちょっと遅い。オヤジが「おいシン何してる」と凄むより、オレの方が早い。
「や、やだ、シン、だめです……ひっ?! あ、あっ――」
 つぷり、と先っぽを押し当てて、そのあとはもう一瞬だった。うつぶせになったカイの身体を後ろから押さえ込み、距離を詰めると、それだけでオレのぜんぶが、カイの中に入っていった。
「うわ……すげ……」
 途端に、今まで体験したこともないような感覚が身体じゅうを包み込む。カイの尻の中は――そういやこれ、尻の穴なんだよな――あつくて、やわらかくて、どろどろしてて、もうとにかく、意味がわからないぐらいきもちいい。肉がみっちり詰まってて、オレにぴったり寄り添ってくる。そうしていると、倒れてるカイの上にオレが乗っかってるのに、まるでカイに優しく抱きしめてもらってるみたいで、あまりの良さに視界がちかちかしてくる。
 カイの尻は薄いんだけど、オレとかオヤジに比べるとどこかふわっとしていて、弾力があり、オレはさしこんだものが出て来ないよう必死になって両尻を掴んだ。オレのちんちんはオヤジ以下カイ以上みたいな感じなんだけど、オヤジがなんかしてたせいか、カイの身体はびっくりするぐらい柔軟性が高いし、湿っぽくてやたらとぬるついてるし、ものすごい滑りが良いので、一発でぬるりとカイの奥へ滑り込んでしまっていた。オレは自分が何をしているのかもよくわかってないまま、身体を動かしはじめた。
「やだ、シン、なんで……わ、わたしの中で……どんどん、おっきくなってる……」
 あらゆる行動が、頭で考えるよりも早かった。オレは実の父親に何をしてるんだろう? という疑問よりももっと気持ちよくなりてえという欲求が勝ったし、カイが泣いてるっぽい、という事実よりも腰をしこたま振ってうちつけようとする本能が優先された。オレが身体を動かす度、ぐじゅ、じゅぷ、という音が立った。オヤジがカイを身体の上に乗せて、入れたり抜いたりを繰り返している時と同じだった。違いがあるとすれば、オヤジとやってた時はひっきりなしに上がっていたカイの甲高い声が、ふうふうと押し殺し、噛み殺した声ばかりに取って代わられて、全然、聞かせてもらえないことぐらいだ。
「シン、こっち向け」
 それを残念に思いつつ、とにかく気持ちいいことをおっかけたくてカイの身体に乗っかかってオヤジの真似をしていると、不意にオヤジがオレの名前を呼ぶ。オレは反射的に身構え、ぴたりと動きを止め、オヤジに目を向けた。オヤジは怒ってるようなそうでもないようなよくわからない顔をしていた。それと同時に、オレが身体を止めたことで、カイが「ひぁ?!」というへんな声を上げてどろどろした柔らかい肉でオレを締め付けた。
「お、オヤジ……」
「なんだその顔」
「怒るのかなって……」
「その気ならとっくにテメェの頭ぶん殴って気絶させてる。怒る気も失せた」
 呆気にとられすぎた――と淡々とした調子でぼやき、オヤジは倒れているカイの身体を無理矢理起こすと、さっきそうしていたみたいに自分の上に乗せて、ベッドボードにもたれて少しだけ斜めに角度を変えた。カイの中に入っていたオレのちんちんがずる……と半分ぐらいはみ出してきたけど、その途中でカイの尻が名残を惜しむように食いついてきて、全部は抜けなかった。それに気付いたカイが、この世の終わりみたいな、消え入るような声をオヤジの胸板に漏らしていた。なんかちょっと微妙な気持ちがしたけど、オヤジの顔を見たら何故かオレはカイの心情に勝手に納得してしまった。
「怒らねえの……?」
 恐る恐る尋ねるとオヤジが嗤う。
「カイにも責任はある」
「わ、私のせいなのか」
「まあ俺にも責任がある、とは思うが。……まさか?坊や?、息子に犯されて感じてるとは、なあ?」
「っ! だ、だって! お前が散々やったあとで……その。ええと……そもそもお前が悪い。お前が昔幼い私に手を出したりなんかしなければ――」
「まぁ、そうだな。そういうことにしといてやろう。どうもシンには甘くなっていかん……」
 二人でひとしきりよくわかんない会話を繰り広げ、オヤジがちょいちょいと手招きをする。犬歯が覗く獰猛な笑い顔を拒絶出来るわけもなく、オレはふらふらとオヤジの方へ身を寄せた。すると、オレ・カイ・オヤジで密着している関係で、半分抜け出ていたちんちんが再びずぷりとカイの中に埋まった。カイがひゃんと腰を震えさせたところを、オヤジの手が支える。
 オヤジはオレの身体を抱き寄せ、オレ達三人の身体をもう限界ってとこまで密着させた。そうすると、カイの心臓の音は当然、オヤジの心臓の音まで聞こえてくるようだった。一番ばくばく言ってるのはオレの心臓だった。
「お、オヤジ?」
「腰振ってていいから、まあ、見てろ」
 オヤジがふたたび嗤った。
 それが最後の宣告だったようで、そこからオヤジは、何もオレに喋りかけてくれなくなった。向かい合っているカイの唇に食らい付くようにキスをして、自分の、赤黒くて脈打っててあまりにもデカイそれと、カイの震えて泣いてるみたいに透明な液体を零し続けているそれをまとめて右手で握り取った。そうしてふたつを合わせたまましごき、カイの肩に、唇に、首筋に、胸に、腹に、あちこち縦横無尽に、口を付けていった。
 オヤジの右手が二人ぶんのちんちんを擦りあげるたび、潜められていたはずのカイの声が漏れ出ていった。それを聞くとオレのちんちんもどうにも収まりがつかなくて、オレはオヤジに叱られないのをいいことにひたすら腰を振った。犬みてえだなと思ったいっぽうで、オレが作る魔法犬の方がまだ全然躾が行き届いてていい子なんじゃねえかな、とも思った。少なくとも今のオレはカイの言うことは聞いてなくて――けど、だって、仕方ないんだ。むらむらわき上がってくる衝動がオレの全身を支配して、そうしないと、頭がどうにかなりそうだったんだ。
 頭がどうにかなりそうだから、オレは無我夢中でカイの身体にしがみついた。オレが無茶苦茶したぶん、カイの身体は応えてくれた。カイが息を詰めて身をよじると、どんどん、何かがせり上がってきて、足の指から頭のてっぺんまで、電撃が走るような心地がした。ここまで来ると流石のオレもなんでこうやたらめったらに気持ちよくなれるのかが分かり始めていて、カイにぎゅうぎゅうハグしてもらいたくてじゅぽんずぱんと派手な音を立てて出したり入れたりをハイスピードで繰り返した。
 その最中に、時折オヤジとカイのくっついた身体の内側を覗き見た。オヤジはやたらと慣れた手つきで二人ぶんのそれを擦っていて、オヤジのは当然カイのも、普段の色白さからは考えられないほど膨脹して色を濃くしていた。凶器みたいだ。生唾を飲むのを止められない。オレのも――カイの中で、ああいう感じに、なってるのか。
「ふ、ぅ、うぁ、あ、も、いき、そう……」
 その光景に見入ってると、不意にカイがいやいやと首を振り始める。おねだりは、オヤジとオレ、その両方に向けられていた。オヤジがわかったと頷き、早くしてやれとオレに促した。オレはわけもわからず頷いた。カイにおねだりされたという事実に異様なぐらい興奮して、テンションはだだ上がりだった。
 まずオヤジが、カイの耳元に口を寄せ、何か低い声で言葉を落とし込んだ。その直後にオヤジがまとめてしごきあげて、二人が一緒に白っぽい液体を吹き出す。びゅうびゅうと吹き出るそれが密着した二人の腹やら胸やらにびちゃびちゃ掛かるのに合わせて、カイの尻の穴が急激に収縮し、ぎちぎちにオレを絞り上げた。オレはたまらなくなって何もかもを吐き出した。びゅくびゅく音がして、ただでさえ先客……オヤジが出したっぽいやつでぬかるんでいたカイの奥に、オレのぶんも流れ込んでいく。二人分の液がどぼどぼ注がれ、カイの身体の中に溜まり込んでいる。
「カイ……」
 ぬるぬるふわふわしてあったかいカイの中にまだちんちんを突っ込んだまま、オレとオヤジに挟まれてびくびく痙攣しているカイに抱きついた。カイは精魂尽き果てたみたいで、もう「いや」も「むり」も何も言ってこなかった。けど、指先を伸ばして目尻に溜まっている涙を拭うと、ちょっとだけ微笑んだ気がした。
 オレはそこでどっと疲れてしまい、強烈な眠気に襲われるまま目蓋を閉じた。カイに覆い被さったままのオレの身体を、オヤジの腕がまとめて抱きすくめてくれたような気がしたんだけど、そのあたりからはもう記憶にない。


◇◆◇◆◇


 ぱちくりと目を見開くと、明るい室内の中、オレはベッドの中に転がっていた。鳥たちが口々にさえずっている。夜明けだ。
「なんか、すげえ夢、見てたよーな……」
 ぼんやりしているせいか、羽毛布団の中はいつにも増して暖かい。なんだっけ……とまだ寝こけている頭を軽く拳で突っつき、不意に寝返りを打って、オレは仰天しきって「うわあっ?!」とか素っ頓狂な声を上げてしまった。
「か、か、カイッ!!」
 寝返りを打った先に、オレを微笑んで見つめるカイの顔があったのだ。その顔を見た瞬間、オレは何がどうしてこうなっているのかその全てを思い出し、がたがたと震えてしまった。
 カイは髪を垂らして寝そべり、オレと目が合うと目を細めて笑いかけてくる。それから手を伸ばし、オレの頬に触れる。けどオレは、その心地よい手のひらを反射的に、大慌てで、引き剥がさなきゃいけなかった。オレにそうされたことでカイの顔が曇る。良心が痛む。でもなんか、その手で頬を撫でられていると、よくないことが起きてしまう気がするので、ゴメン、そんな顔しないでほしい。
「お、お、オレから離れてって……!」
「シン? どうしたんです、そんなふうに慌てて。昔もこうして一緒に寝たじゃないですか」
「だ、だって。オレ……オレ……昨日の夜……」
「ん、ああ。大丈夫ですよ。もう全部きれいにしたあとなので」
 言われてみれば、オレたち三人でしっちゃかめっちゃかにしたはずのベッドはすっかり綺麗になり、しみひとつ残っていない。オレが何かした記憶はないので、カイか……あと、オヤジがどうにかしたんだろう。そういえば最後にオヤジが抱き上げてくれたような……。
 そんなことを考えていると、連鎖的に昨晩見たカイの姿が脳裏に蘇ってくる。オレはかーっとなって、ぶるぶる頭を振り、雑念をなんとか追い払おうとした。でもダメだった。下半身が熱くなる。いろんなものが、オレの真ん中に集中する。
「か、カイぃ……オレもう、ダメかもしんない……」
「ええ! 一体どうしたっていうんです」
「朝起きたばっかなのに、ちんちんがむずむずする……」
「それはいけませんね! 夢精ですか? それとも朝勃ち? そういうのは、早急に対処しないと。シン、抜いてあげますから、ちょっとじっとしていてくださいね……」
 オレが手をはね除けた理由がわかった途端、カイがぱあっと表情を明るくして、布団の中でもぞもぞ手を伸ばしてくる。オレはあとずさって身をよじった。カイ、なんでそんなノリノリなんだ。昨日の夜は、「見ないで」とか「だめ」とか言ってなかったっけ?! でもそういや、最初、口で舐めてくれてた時はノリノリだったな。よくわかんないけど、カイにとって、オレのちんちんを手とかで触るのは、全然ダメじゃないことらしい。まあオレのおしめとか変えてたもんな。……って、そうじゃなくて。そういうんじゃなくて!
「おい、何してる」
 助けて、オヤジ! このままじゃオレまたやばいことになっちまう! そう口に出しかけたその瞬間、上から降ってきた声と共にオレ達に被さっていた布団がはぎ取られ、カイの腕が止まり、オレは事なきを得た。見上げた先でオヤジが仏頂面をしている。オレは飛び起き、オヤジに泣きついた。
「お――オヤジ! 何処行ってたんだよ!」
「シーツの処理だよ阿呆。カイは腰が砕けて使い物にならん」
「骨折れたのか?!」
「物の例えだ。仕事に差し障りはない。それよりテメェ何朝からおっ勃ててやがる、トイレ行って一人で抜いてこい」
 後ろから襟首を掴まれてぽいと床に投げ捨てられ、それでやっとカイの魔の手から逃れることに成功し、オレは残念そうに「そんなあ」みたいなことを口走るカイを背にして一目散にトイレへ駆け込んだ。
 いや、カイに……ちんちんいじってもらうの、すげー良かったんだけど。でもなんか、あんなん毎日のように続けてたらオレは人としてダメになっちまうような気がしたんだな。ここ五日間のオヤジだって、朝オレが目を覚ました時には部屋に戻って着替えを済ませ、新聞読んでオレが起きるのを待ってたのに。カイに朝からやってもらうなんて明らかな贅沢を覚えたら、もう色んなことに自信をなくしちまいそうだ。
 トイレのドアをばたんとしめる。寝間着のズボンをずり降ろし、びよんと跳ねるように出てきたそいつの元気はつらつっぷりに変な顔をして、オレは便器に腰掛けた。
 しばらくして、ドアの向こうからくぐもった二人の声が聞こえてくる。オレが昨日の夜、二人でプロレスしてると勘違いした時と同じみたいな声が……。
「……。――オヤジィ! ずりぃぞ!!」
 それまでのまじめな気持ちが一発で吹っ飛び、ずり降ろしたズボンはトイレの床に棄てたままダッシュで駆けていく。床を蹴り上げ、高く飛び、そのままベッドにダイブした。ベッドの上ではカイがオヤジにプロレス技をかけているところだった。寝間着の上だけを身につけ、白くすらっとした生足が二本剥き出しになってオヤジに腰掛けているのを見て、オレは数時間ぶりにばくばく言い出した心臓を必死になだめながらオヤジにまたがったカイのさらに上へ覆い被さった。