写真



 何を見ている、と訊ねられたので写真だと答えてやると、ソルはこちらへ身を乗り出し、手元を覗き込んできた。厚みのあるアルバムは、結婚してからディズィーが少しずつ撮りためてまとめていたものだ。写真の種類はシンが親元を離れるまでに撮られたものが圧倒的に多く、以後は、カイやディズィーの写真が少しずつ収められているだけになっている。「撮って送ってやった方が良かったのか」それを確かめたソルがややばつが悪そうに聞いた。「こんなん作ってるとは知らなかったから……」。
「まあ欲を言えば欲しかったけれど、親のエゴだからなあ、こんなものは。私も、自分の成長記録としての写真なんか殆どないけれど不自由はしていないし。……ああ、でも、おまえの幼い頃の写真は見たい。すごく。そういう意味では、やはり心残りがないと言えば嘘になる」
「ねえよそんなもん……」
「ふうん。ぬいぐるみのアドルフくんを握りしめているフレデリック少年の写真、見たかったんだけどなあ」
「――待て。ソイツを誰に聞いた、誰に」
 内緒、と人差し指を立てにこりと微笑むとソルがちょっと信じられないような顔つきになる。昔は、彼がカイに向かってこういう表情をすることはまずなかった。ソルは強い大人だったし、カイは子供で、関係性は歪で不平等だった。
 大人になんてなるものじゃない、とちらりと思ったことがないわけではないが、彼のこういう一面を気軽に覗き見られるのならこういうのも悪くはない。気を良くしてソルの手を引き、顔を寄せ、彼の頬に触れて唇を合わせる。
「でもおまえがぬいぐるみを抱えたままだとこうはいかないから、やっぱり、いいよ」
 ぱっと彼から口を離してはにかむと、ソルは一瞬呆気にとられたような顔をして、それからやれやれと首を振った。