※おとなになった彼が、ふとした時に、こどもあつかいをされているとすごくいい。
「いい年してこんなんもわかんねえのか」
ソルはこれみよがしに溜め息を吐き、中腰になって椅子に座っているカイに目線を合わせた。それから人差し指を突き出したかと思うと、普段のスラング丸出しの早口からは考えられないほど、丁寧なゆっくりした発音で項目を述べ始める。
「説明してやるからよく聞け?坊や?。まず第一に、テメェが出て行っても何の解決策にもならねえ。餌を与えるだけだ。六年前ならまだしも、現役を退いて長いからな。そりゃあ昔こてんぱてんにされた奴らはまだ恐怖を覚えているだろうが、人の記憶なんてそんなもんだ」
そこまで言うと、人差し指に続いて中指も立てられる。呆気にとられたままソルの行動を見守っているカイも、このあたりで、ようやく、どうも小馬鹿にされているというか、子供扱いされていることに気がつき始めた。
「第二に、王がそうほいほい玉座を離れるもんじゃない。いいか? 啓示関連の騒動は特例なんだ。こんな噂話程度で動いてみろ、腰軽だと思われて各国から雑用が飛んでくるのは目に見えてるだろうが。そういうのはベッドの上だけにしておけ」
「ちょっと――」
「第三に」
とうとう薬指も立てられる。ぴんと天を向いたソルの三本指に言葉を遮られ、カイは文句を引っ込めて彼の口元に注視をした。
「そのぐらい俺に任せておけ。そういう時の為に身軽な賞金稼ぎがいるんだから気兼ねなく使えよ。なんでも背負い込もうとすんな、ったく」
「……ソル」
「なんだ」
「……うん。そうだな。ありがとう」
それ以上は何も言わず、カイがはにかんだ。邪気のない微笑みは幼く、ソルは「まだこんな顔をするのか」と言う代わりに、カイの頭を撫でた。