しつこい男



 ベッドの上でする話の内容は、思い返してみると、実のところ昔から本質的にはあまり変わっていない。
 戦時下であればどうすれば戦争が終わるのかについて討議をしたし、それが過ぎてからも、犯罪の抑止や、法の番人として何をすべきか、法に囚われない男が何を見聞きしているのか、そういった物事の意見交換をすることがあった。そうして今は、世界はどのようにあるべきか、ということについての討論をする。何度も、飽きずに、彼が精を吐き出すのと同じぐらい性懲りもなく。
「――だから、私は、おまえのような人間も必要だとずっと思っているんだけど。残念ながら、収賄の根絶を目指すよりもアウトローに依頼をする方が堅実で賢い。ダレルの言葉を借りれば客観的かつ現実に即している、だ」
「テメェの口からそういう言葉が出るとは、時代も変わったもんだよ。あとついでに言っておくが俺は……」
「人間だ。人間だとも。おまえより人間らしい男を、私は他に知らない」
 ヘッドギア越しに彼が隠している場所へ手を伸ばして、カイは含みのある声音で言い含めた。直接触れているわけではないのに、指先でそこをなぞる真似をすると、胎内に迎え入れたままのものが脈動する。ひょっとすると彼の額は、ソルの身体の中で一番敏感な箇所なのかもしれない。実際に触って確かめてみたいところだが、ドラゴンインストールの侵食が日に日に進んでいると聞いてからは気軽にそういうことも言い出せなくなってしまった。
「それでも――いや……」
 カイの瞳の中に何を見たのか、ソルが反論の糸口を探ることを止め、カイの身体を緩慢に引き寄せる。緩やかな振動はまどろみのような心地よさをカイにもたらすが、反面、性急なやり口を知っているとどうも物足りない。
 けれどその物足りなさが愛おしい日もある。カイは目を細め、ソルの愛撫を享受した。胸板同士が擦れ、鼻から短い息が抜けても、ソルは静かに内で燃え上がるものをまだ表出させずにいた。
「昔に比べると随分我慢が上手くなったな」
「スローセックスが上手くなったと言え」
「そんな顔をするな、別に昔は早漏だったとか言ってるわけじゃないんだから。……まあ、人が真面目な話をしている最中にいきなり謝ったと思ったら中に出された時は流石にちょっと噴飯ものだったけれど」
「いつまでしつこく覚えていやがる……」
「忘れるだなんてもったいない。今のねっとりしたのも好きだけど……まあ、そうだな。おまえがしつこいのは、昔からか」
 ただしつこさの種類が違ったのだ。今のそれが時間を掛けて肌を溶かし合う行為なら、昔のそれは精力絶倫を体現したような飢餓感に塗れた交接だった。
「好きだろうが、しつこいの」
「うん、まあ、なにせ私に悪徳を教えた男はとびきりしつこかったからね」
 冗談半分で軽口を叩いていたら、仕返しのように舌をねじこまれ、うんとしつこいキスをされた。
 うつぶせに寝転び、その上からバックで覆い被さり、緩やかで伸びやかなセックスに興じる。その間もおしゃべりは止まらない。ところでいい加減参政権はいらないのか、と尋ねるとちょっとの逡巡の後まだいい、なんて返ってくる。まだ定住する気がないから、なんて言い始めたあたり、いずれは住民票を移す計算があるらしい。
「そうしたら戸籍謄本を作らないと。出生地は、アメリカだったか。ディズィーもかな。シンは……パリだ」
「テメェのは」
「私か? 私の出生地はもちろんパリだよ。クリフ様が孤児扱いで作ってくださったものだから。でも丁度いい機会だし、本籍地はみんなイリュリアにしてしまおう。私達は家族だからね」
 ふうん、と気のないふりをした返事。こら、話を聞いているのか、と指先でつついてやると、情欲に塗れた瞳を見せつけるように無言で顔を上げる。
 それだけでソルが何を求めているのかを察し、カイは仕方のないやつだなあと笑う。ソルは悪びれる素振りもなくカイの首筋に噛み付いた。ほどなくしてカイの胎内に熱いものが溢れかえる。ゆっくりと時間を掛けてしとどに吐き出されたそれに満たされる感触にぶるりと身体を震わせ、しつこい男の指先にキスを落としてカイは全てを許した。