手のかかる子供



 抱きすくめるたび、なんて華奢な身体をしているのだろうかといつも思う。
(まあ、そのことを言ってやると、頬を膨らませてめちゃくちゃに抗議されるんだが)
 ソルはぼんやりとそんなことを考えながら、弱々しい喘ぎ声を漏らす小さな肢体を上下させた。身体を持ち上げてやると、上向いた陰茎が柔らかな肉の合間からずるりと顔を出す。半分ほど外に出たところで手を放すと、重力に従って身体は下へ落ち、広げられた穴がゆっくりとまたそれを呑み込んでいく。
「おい坊や、泣くなよ」
「な……泣いてなんか、ないです! で、でも……ひ、ひどい……こんなの、だって、」
「酷いって、いつも組み敷かれてばっかで重たいから、たまには上に乗せろって言ってきたのは坊やだろ」
「ひ……膝に乗せて……こんな……ぁ、まね、ひぅ、させられるなんて……きいてない……!」
「……。まったく手の掛かる……」
 泣きじゃくるせいで真っ赤になったカイの顔を拭ってやって、ソルは息を吐いた。文句を付けてくるわりには気持ちよさそうに喘ぐし、泣きながら締め付けてくるし、どうしていいのかよくわからない。ちらりと視線を下にやると、カイのまだ成長途上の性器はぷるぷる震えて上を向き、カウパー液を漏らしている。この状態で抜いたら、何よりソルがすっきりしないが、多分カイもしんどいだろう。鼻から甘い息を漏らしているのが何よりの証拠である。
 宥めるように背中を撫でさすると、カイはすんすんと鼻を鳴らし、甘えるように抱きついてくる。こういう仕草を見るにつけこいつはまだ子供だなとソルは思う。なんというか幼い。庇護欲をそそられる。その子供に無体を働いているのは棚に上げるとして。
「坊や」
 耳元で呼んでやると、腰がびくりと跳ね上がる。その瞬間反射的にきゅっとカイの胎内が締まって、ソルは大変な辛抱強さで射精を我慢しなければならなかった。
「で……出したいのか」
「う……うぅ……はい……」
「そうか。実を言うと俺もそろそろ出したい」
「なっ、あ、あなたは、いつも……そうでしょう! ひゃあっ!?」
「あっ、おい馬鹿、そう無闇矢鱈に刺激するな! テメェがケツ締める度に俺がどんな思いで堪えてると思ってやがる!」
「しりません! 無茶苦茶言わないでください! 仕方ないんです! だって……ぅぁ……ソルの……おっきいの、き、きもち……いいから……!」
「…………」
 ひとしきりそんな会話を交わした後、ソルは押し黙った。なんだ、この、かわいい生き物は? 疑問符が頭の中を埋め尽くす。この少年は自分が今何を口走っているのかわかっているのだろうか。多分わかっていないのだろう。だめだ。これは、きちんと教育をしてやらなければいけない。ソルの中で建前が猛烈な速度で組み上がっていく。そうしないとカイは無自覚に男を誘いまくってしまうに違いないのだ。きっとそうに違いない。
 だから今こうしているのは、カイのためであって。
 決してソルが自分の欲望を満たそうとしているとか、そういうわけではなくて。
 ソルはカイの身体を抱きすくめる手に力を込めると、一層低い声音を出して下半身に意識を集中する。
「おい」
「ふあ……ふぁい?」
「そういうことを言うのは俺だけにしておけ、後生だから」
「え? ええ? そる? なにその、こわい……あ、ああ、あーっ! ば、ばか――っ!!」
 それから、一呼吸置いてしたたかにカイの中に吐精した。
 勢いよく大量の精液を腸の中に放たれ、カイも顔を真っ赤にしたままつられるように射精する。十五歳の、自分の手で精通を迎えさせた少年の遺伝子がソルの腹に掛かる。その生ぬるい感覚にゆっくりと息を吐いていると、ソルが放ったものもまた重力に従って結合部分の隙間から漏れ出てきた。お互いがお互いの出したものに濡れて、なんともひどい格好だった。
「……あ、あしたは、絶対ナシです。しません。しないったら、しません」
 しばらくして、射精の余韻から帰ってきたカイが唇を尖らせる。非常に面白くない提案だ。ソルは精を放ち柔らかくなった陰茎を少年の胎内で蠢かせ、そうか、と意地の悪い顔をする。見る見る間に硬さを取り戻し、元気になっていくソルの男根にカイが露骨に嫌そうなものを見る顔をした。
「なら、キスはなしだな」
「……え! い、今なんて……」
「だから、キスはなしだって言ったんだ。当然だろ? 坊やがノーを言うのなら、俺だってそうする権利があるさ。等価交換、取引、そう言い換えてもいい。だが……坊や。わかってるだろう?」
 童顔に冷や汗が浮かび、嫌そうな表情が見る間に情けなく怯えきったものに変わっていく。ソルがはじめにめいっぱい優しいそれを与えてからというもの、カイはキスが好きなのだ。ソルとの行為の中で、おそらく一番好きだ。
 それをセックスの後に奪われるというのは、これはもうちょっと、洒落にならないぐらいカイにとっては悲しいことなのである。
「……い、いっかい」
「あ?」
「明日は、一回、だけ。ぜったい……!」
 ややあって、人差し指が一本、ぷるぷる震えながら突き出される。覗き込んだ顔は真っ赤だ。羞恥との戦いの末、欲求が打ち勝ったらしい。
 ソルは満足気に頷くと繋がったままカイのやわらかな肢体を抱き寄せ、意地悪い行為の代償に、めいっぱいの優しいキスをした。