秘密はいちごの味がする



「わ、わからないんです。胸がどきどきする理由も……おまたがもじもじしてへんなのも……たすけて、ソル……」
 カイは頬を林檎のごとく上気させ、かと思えば秘所をいちごのように色づかせてソルを見上げてきていた。目まがいするようだった。指を伸ばし、割れ目に触れる。幼い少女の身体が震える。
 まだ初潮も来ていないのに。めまいは次第に頭痛に取って代わられていった。それこそ預かったばかりの、もっとカイが幼かった頃から、いつかこういうことになってしまうのではないかと、その日を恐れていた。いや……嘘だ。生唾を呑み込む。嘘だ。恐れるふりをしていたにすぎない。指の先で割れ目を押し広げる。柔らかく暖かな入り口の先に、熟れた肉がみっちりと詰まっているのが見える。
 舐めもせぬうちから、甘露さに喉が鳴った。どうにかしてやりたい。暴力的な衝動に襲われ、なけなしの自制心を奮い起こし、鼻から荒い息を漏らす。
「たすけて」
 少女は再び懇願した。救いの手をソルにのみ求めていた。彼女を救えるものはソルをおいて他にいないのだと、カイ自身が盲信していた。
「わたしはどうしたらいいですか?」
 カイの下肢から指を抜き取る。少しだけ目を瞑り、すぐに開くとそのまま抱き上げた。いつにも増して軽い身体は、抱きしめていなければ今にも零れ落ちてしまいそうだった。この子供に初潮がまだ訪れないのは、幼さよりも、血の代わりに魂を零しているからなのではないかという気がして、あまりのばからしさに鼻で笑うほかなかった。


 昼間彼女自身が洗濯して干したシーツの上に転がされ、カイは指示された通りに服を脱ぎ、生まれたままの姿になってソルの声をじっと待った。下腹部に感じる違和感はじわりと広がり、へそを中心として、ぐるぐる渦を巻いていた。カイはじっと己の股を見ていた。ベッドに連れて行かれる最中、ソルが「いちごが」とかなんとか言うものだから、なんだかその部分の赤みが、本当にいちごみたいになってしまった気分だ。脱いだばかりのパンツもいちご柄だった。
「……おふろに入るんですか?」
「違う」
「じゃあ、何を?」
「テメェが助けろと言った。俺にはこれ以外方法が思いつかない」
 ソルはどこかばつが悪そうな顔を少しだけ見せ、しかしかぶりを一度振ると、もうそんな様子はどこにもなかった。彼は風呂に入る時と同じようにその逞しい裸体をカイの眼前に晒し、ごきごき首を鳴らすと、ベッドに乗り上げてくる。
「あ……」
 そんな彼の姿に奇妙な違和感を覚え、カイは何の気もなしにそれを指さした。
「ねえソル、ソルにぶらさがってるやつ、なんだか変ですよ。焼きすぎたお肉みたい……」
「テメェがいちごになってんのと同じだ」
「いちごとお肉はちがいますよ!」
「似たようなもんだ。こっちに来い」
 招かれるままに身を寄せ、あぐらをかいたソルの上にぽすりと収まる。ソルを椅子代わりにすることはままあるが、どうも頭上から聞こえるソルの息づかいは荒々しく、リビングでのんびり過ごす普段とは違ってしまう。
「ソル……」
「ああ」
 名前を呼んでも適当な相づちしか返ってこない。ソルはカイを助けてくれるつもりのようだが、様子のおかしいソルに抱えられていると、かえって股のもじもじした感じが酷くなっていくばかりだ。どうしよう、と思い悩んでいるうちにソルのごつごつした手がカイの太ももを一本ずつ鷲掴み、強引に開かせる。「ひゃあっ?!」と声を漏らした時にはもう遅くて、無理矢理開かれた両足の中央に何かを割り込まされていた。
「え。う、うわ、なに……?」
 然るに、急にカイの足を割って生えてきたのは、ソルの股間にぶらさがっているはずのものだった。なんでのっぽになって天井を向いてるんだろう? それを尋ねるより早く、いちごになってしまったカイの割れ目にそれが押し当てられる。ぐっと押し込まれたものは、カイが想像していたよりずっと固く、質量があり、熱かった。本当の温度にかかわらず、押しつけられた瞬間、カイの身体が火傷をしてしまったようにかっと熱く燃え上がった。
「そ……ソル?」
 答えないばかりか、今度は相づちさえない。ソルは押し黙り、息を殺し、熱心に固くなった肉をカイに押し当てた。ソルの動作は、やがて緩慢な擦りつけ作業に代わっていった。焼けすぎた固い肉がカイのいちごを上下に押してすり潰し、そのうち、ぐちゅぐちゅとした音が聞こえてくる。
「んっ……ふ、ぁ、ゃ……」
 何の音だろう。いちごが潰れてジャムにでもなってしまったみたいだ。でも……すごくよく考えてみたら、カイの股はいちごみたいな色に腫れてしまっただけで本当の果物じゃないはずなのに。
「んん、んぅ、ど、どうしよ、へんになっちゃう……」
 もじもじした気持ちが、ぐちゅりぐちゃりという音がするたびに腰全体に回っていく。あたまがちかちかする。無意識にのけぞり、肩をソルの胸板に押しつけた。口からどんどんおかしな声が出そうになるので、左手の甲で唇を押さえる。すると、何故か一層くちゅくちゅした音が脳の内側で強く響く。恐ろしくて、口を押さえているのとは逆の手をソルの身体に伸ばした。ほとんどひっかくように押さえたが、ソルは痛いともやめろとも言わず、カイの割れ目をすり潰すことに没頭していた。
「細ぇな」
 そんなことをしばらく続けていて、ようやく口を開いたソルが言った言葉の意味がカイにはわからなかった。
「っ、ん、え、なに……?」
「細ぇ。入るのか、本当に」
 途端に、あれほど執拗だった擦りつけがぴたりと止んでしまう。ぐちょぐちょした音も止まる。ばかりか固い肉も離れて行く。あつく腫れ上がり、わけがわからないぐらいじんじんしたカイの身体だけが残る。ソルが離れて行った場所がきゅうと疼き、カイはやだ、と震える首を振る。
「いかないで……」
「少しだけ我慢しろ」
 願いも虚しくソルがつっぱねる。その代わり、ソルは自分の右胸を掴んでいたカイの右手を取り、じくじくしすぎて感覚がおかしくなった割れ目を無理矢理触らせた。
「ぬれてる……」
「ああ。さっきからしてる、水っぽい音の正体はこれだ」
「なんでぬれてるの……?」
「興奮すると出る。身体の防衛機能がそうさせる」
 色づいた割れ目から零れ落ちた透明なものをすくい上げ、いちごの蜜だな、とソルが呟く。それからソルはすくい上げた指をカイの指に這わせた。ソルはカイの指先を導き、一緒になって、濡れたいちごの間を掻き分けさせた。
 いちごの中は自分のものとは思えないほど熱かった。ぬるぬるして、やわらかくて、それを自分の指とソルの指が押し入って、頭がどうにかなりそうだった。
「ソル、これは? これはなんですか?」
「セックスの準備をしている。もう少しかかる」
「せっくす?」
「……俺たちだけの秘密の名前だ」
 少しのためらいのあと、ソルが言った。
 その時初めて、ソルの指が自分の身体の中に入っているということにカイは気がついた。