幕間 interval2 まわる、まわる。 くるくるまわる。 陰惨悲壮な喜劇を 血塗られた運命を 変わらない歴史を 繰り返し繰り返し 物語は紡ぎ続ける ――おお、役立たずの神よ! 終焉を期すのは愚かな事か? 絶望を叫ぶのは過ちなのか? 深淵の魔物に希望を抱くのは 地の底で嘆く魂に祈る事は、 実現不可の夢幻に過ぎぬのか 物語は終わらない 時の針は狂いきり 同じ時を刻むのみ やがて、それは"永遠"を知る ――ewige Wiederkunft―― ……物語は永劫に回帰する。 ◇◆◇◆◇ 「俺はあの人を救いたい」 金髪に蒼の瞳が美しい青年がそう己の理想を口にする。 「それは傲慢で浅はかで、おこがましい思いかもしれないけれど、それでも」 彼の言葉に耳を傾ける二人の姫君は沈黙でもって答えを返した。 それはつまり、肯定も否定もしないということだ。 止めないから、好きなように信念を貫けばよいと。 そういう答えだった。 はっきりとした答えを出すには、彼の問いはあまりにも難しいものだった。止めるのも促すのも、そして何より理想を形にすることが酷く難しかった。 夢想もいいところだ。"既に亡くなってしまった故人を幸福にしたい"だなんて。 彼自身がいみじくも口にしたように、とてもとてもおこがましい願い。 ただ、それでも彼は願ったのだ。危険もリスクも百も承知で、たとえ努めただけ失って結果何も得ることが出来なかったとしても。 それでも構わない。自己満足と謗られてもいい、ただ彼をしあわせにしたいのだと。 それは間違った願望だったかもしれない。正しさなんてこれっぽっちもなかったかもしれない。 しかし、その思いは物語を動かした。 祈りはやがて陳腐な奇跡となり、変わらないはずの歴史を書き換える力に―― ◇◆◇◆◇ 「あれから二年。今日もハイラルは変わりなく、といったところか」 薄桃の水晶の傍らで、影が一人ごちる。特になにごともなく月日は過ぎ去った。漫然と退屈な日々が続き、これといって面白いこともない。 ハイラル城がガノンの手によって爆散したあの時も、影は姫との誓約に則り地下の祭壇にいた。巨大な水晶が安置された白亜の祭壇は幸い、城のかなり奥まった地下にあり影の力でも爆発の被害から守ることが出来た。もし水晶に傷が付いていたらと思うとぞっとする。 ふあ、とだらしなく――かつて、神殿を踏破していた頃の時の勇者そっくりだった――欠伸をして影は目を閉じた。明日もきっと何ごともなく終わるだろう。退屈するのに飽きてはいたが、それは仕方ないことだ。彼女と交わした約束を守るにはどうしても退屈と友になる必要がある。 またもや出そうになった欠伸を噛み殺し、ふと何かを感じて影は振り向いた。その視線の先には別段変わるところなどなかった。しかし影は微笑む。 「……一波乱、ありそうじゃないか」 ごたごた、混乱、厄介ごと――そのどれだって今の影にとっては退屈しのぎの良材にすぎない。なんだって大歓迎だ。それに、彼には予感があった。それはきっと、「何か大きなきっかけになるだろう」と。 「リンク」 なんとはなしに、影はその名を呼んだ。 ◇◆◇◆◇ はじまりはとうに過ぎ去り 泥沼の日々は思い出に化け 単調なメロディが支配する 時の波は途絶えて 悪魔の仮面は壊れ 見上げるは黄昏空 繰り返す、繰り返す、繰り返す。 おんなじように、飽きもせずに、 淡々と淡々と同じ歴史を繰り返す 終わらない物語に分岐点を求めて 新しい物語を書き足そうと足掻く はじまりが消えても、まだ早い。 その先にひかりを見つけるまで。 その"願い"を諦めてはいけない。 「永遠」なんて。 「永劫」なんて。 「無限」だなんて。 そんな馬鹿げたものがあるはずはないのだから。 to be continued→ chapter3 Twilight Princess…… |