小幕間 interval4




「……だるいなあ……」
「もうネ、ナビィはその愚痴を聞くのは飽きちゃったヨ。何度言ったらわかるの?」
「そうは言ってもね」
 空は殊更に澄みきって蒼かった。雲の殆どない青天は、しかしだからか少し物寂しい。
 昼間っから薄く光を照り返している月も、その要素を構成している一因であるようにリンクには思われた。
「僕はまだ、ずっと、考えてるんだ。"これでよかったのか"って。"これが僕の望んだものだったのか"って」
「……わからなくは、ないケド……」
「それで本当は、わかってる。"僕が望んだのはこんな世界じゃない"。"これは多分僕が出来た最善じゃなかった"。――もう一年も、これの繰り返しなんだ」
 そよ風はしつこく髪の房を揺らし、肌を幾度も掠める自分の髪の毛の感触にリンクは顔をしかめた。
 風を受けてざわめく夏草も鬱陶し気に一瞥し、少年は重たい腰を気だるげに持ち上げる。服に付いた草をこれまた面倒そうに払い、それから大きく背伸びをした。
「――今の生活は、なんだか落ち着かないよ。平和ボケして、気だるくて、何かが気持ち悪い。何も終わってなんかいないのにもうなんにもないみたいな顔をしている」
 はじめの目的は確かに達成したけど、と口ごもりリンクは目を瞑った。風は止むことなく、断続的にやわやわと吹き付けてくる。
「でも、そう感じているのは僕だけなのかな? ……だとしたら、僕がおかしいだけなのかなぁ?」
 薄い雲が、一瞬だけ晴れ渡った空を覆った。



◇◆◇◆◇



「頃合い、だな」
 薄桃の水晶の傍らで、"それ"は笑った。
「この時を待ちかねた。酷く永く――待った」
 一、十、百、千。
 しめて一千の年月。
 はじまりの喜劇によく似た歴史が繰り返されるのをずっと見続けてきた。
「これで何もかも、終わる」
 何が可笑しいのか、それは低い調子の声で馬鹿みたいに笑い続ける。
 ――いいや。何も可笑しくなんかないのか。それは、可笑しくって笑うようなものじゃなかったか。
「犠牲を、伴って」
 それは、プログラム。
 「護りたい」という思いで形作られた、時の勇者の影たる存在。
「あいつの思いを踏みにじりさえして」
 静かに続くその笑いは、嘲りの声。
 一人の青年が抱いた、理をねじ曲げる願いを受け入れてしまった自分への自嘲めいた音。
「でも、それでいい。それで――いいんだ……」
 そう呟いて、それは笑いを止めた。
 おもむろに傍らの水晶を振り仰ぎ、そして何とも言えない淋しそうな顔で口を開く。
「すまない、姫」



◇◆◇◆◇



 とくん、とくん。


『で……は、ゼ……を、……時花みた……笑っ…………子………にい…君を愛………るん…!!』


 とくん、とくん。


『……こんな……なら…………に辛…………させ……るなら……いっそ……世界な……救わ……た……』


 とくん、とくん。


『俺……に苦しま…………い。……に悩……く…………は……に出来……善………たんだ。…………ら、これ…………前………遺された……を』




 とくん。





to be continued→
   chapter4-2 The Adventure of Link……