#3 千年の鎖


「どうなってんだこりゃ・・・・・・!!」
「どうもこうもあるまい。・・・・・・信じたくはないがな」
「信じられるわけねーよなぁ」
 リゼルグが、重い声で今最も皆が言いたいことを言った。



「これが・・・・・・葉君のやったことだなんて・・・・・・!!」



 惨劇。
 それが、最も今の情景に似つかわしい言葉だった。
 スピリット・オブ・ファイアの炎に焼き尽くされた大地は見る影もない。もちろんカリムも、だ。そんな中、蓮やホロホロ達が助かったのはひとえに直前の葉の声があったからだ。
「もし、あの言葉通り後ろに下がってなかったらと思うとぞっとするな」
「命は確実になかっただろうし・・・・・・葉君も」
「より深く後悔しただろうな」
 今の葉は昏睡状態と思われた。葉はスピリット・オブ・ファイアの傍でうずくまっている。その瞳は閉じられていた。
「それにしても、一体葉君に何が起きたんだろう?」
「わかったら苦労はしねーよな。まあ苦しそうだってことだけは見て取れたが」
「とりあえず今はスピリット・オブ・ファイアごと次のプラントに連れて行くしかあるまい。オレ達に何もないことを祈りつつな」
 そう言いながら、蓮は葉を担ぎ上げた。





◇◆◇◆◇





「・・・・・・恐らくだけど、葉は葉王の記憶を見た、もしくは呼び起こされたのだと思うわ」
「それは・・・・・・」
「"ハオ"という人間が持つ全ての記憶。千年のウラミの記憶。それら全てを引き継いだものと考えた方がいいわね」
「なるほどな」
 アンナの説明にブロッケン・マイヤーが頷く。
「巫力とはすなわち魂に刻まれた死の記憶。死にかけたり死んだりして巫力があがるのは魂に死の記憶が蓄積されるからだ。麻倉葉がハオ様の千年分の死の記憶を引き継いだとしたら当然こういうことが起きる」
「・・・・・・でも」
 たまおが口を開く。
「葉様は葉様です。たとえハオと双子でも・・・・・・そんな、前世の記憶なんて共有できないんじゃないでしょうか」
「あながちそうとは言えないのよ、たまお。残念なことにね」
 からから、と何処かで花車の廻る音がする。
「本来、ハオの魂はあんなサイズじゃないはずなのよ。考えてもみなさい。千年よ? しかもそのうち九百年は地獄にいたんだもの。その巨大さたるや想像を絶するでしょうね。・・・・・・中身はともかく。でも今のハオの魂はそんな大きいわけじゃないの。せいぜいあたし達の3倍ぐらい」
「・・・・・・ならば」
「赤子の身体にその魂は収まりきらなかったのよ。それでふたつに割れた。その片割れが葉」
 アンナはふいと海を仰ぎ見ると小さく呟いた。
「皮肉よね・・・・・・あたしの愛した男は・・・・・・だったなんて」
 その言葉は、誰にも聞き取れなかったけれど。





◇◆◇◆◇





”何故だ”
”何故私を拒絶するのだ”
”私が何をしたという?”
”滅んでしまえばいい”
”私を拒むヒトなど滅んでしまえばいい”
”この世界に生きるのは真に優れたものだけでいいのだ”
”すべてすべて、滅ぼしてしまえ――”

(やめろ)
(やめてくれ)
(オイラはこんなん見たくないんよ)
(オイラにはもう時間がないんよ・・・・・・!!)
「・・・・・・見て貰わないと困るんだよ、葉」
「は、お・・・・・・」
「ふふ、驚いたみたいだね。でもお前は僕なんだ。このぐらいは当然だろう?」
「・・・・・・? なんのことを言って、」
「怖がらなくてもいいんだよ、葉。お前は僕で、僕はお前。僕たちはふたりでやっと一人になれるんだ・・・・・・だから」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前は僕が守ってやる。もうすぐ、ひとつになるために――」
「にい・・・・・・ちゃん・・・・・・」



 から、から、ひとめぐり。
 から、から、ふためぐり。
 から、から、もうひとめぐり。
 めぐるさだめに流されて
 やがて鬼の子は夢を見る
 運命の歯車が廻る――





◇◆◇◆◇





「にい・・・・・・ちゃん・・・・・・」
「ッ葉?!」
 慌てて呼びかけるが、葉はまたかくん、とうなだれて唇を閉じてしまった。
「うわごと・・・・・・? にしちゃぁいやに意味深だよな」
「兄ちゃんって・・・・・・ハオのことだよなぁ?」
「それ以外に誰がいる」
「だとしたら・・・・・・葉君は何か意味あるビジョンを見ているのかもしれない。それがプラスに働くかマイナスに働くかはわからないけど。彼には前々からそういうものが見えたみたいだしね」
『そういえば、にいさんはねえさんが危なかったときもそこに行く前に危ないってことがわかってたみたいだった。そん時はやっぱり特殊なつながりでもあったのかも、って思ったけど』
 思い当たる節があり、ルドゼブは会話に割って入った。今思えば奇妙だったのだ。ほんの少しではあるが。
「それが本当だとしたら非常に興味深いな。やはり葉もハオの弟というだけあるということか」
「うん・・・・・・」



 この時の一行は知る由もなかったのだ。
 葉に課せられた最後の使命を。



続く




あとがき
こういうネガティブスパイラルな話もたまに書くとそれはそれで非常におもしろいです。たまになら。
「千年の鎖」というタイトルはちょっと悩んでつけたのですがどうでしょう。言いたいことが伝わるといいと思いつつ伝わらないと思います。
千年という悠久の時の上に蓄積されたウラミと思いの切なさ。巡るめくどうしようもない寂しさ・・・・・・
一人でそんなものを抱えていたら誰だってそりゃあ大変だと思いますよ。
ハオにもそんな思いを伝えられるはけ口が必要だとちょっぴり思いました。





backtopnext