05 マグノリアの祈り
※R-18描写を含みます。高校生含む18歳以下の方は閲覧をご遠慮ください。
面倒を見ろと言われて仕方なく承諾したものの、しかしこれは度を超して鬱陶しい。聖騎士団に身を置くようになって早数ヶ月、ソルが抱いた感想がそれであった。
何かにつけてソルソルうるさいし、もうとにかく姿を認めさえすればソルソル言ってくるし、あれは鳴き声か何かか、と一度クリフに問いただしたことさえあったが、クリフは老獪に笑って懐かれたようで一安心したぞなんて言う始末だ。あの爺さん人ごとだと思って面白がってやがる。こんなのもう、懐かれただとかそんな範疇じゃないだろう。
完全に執着されている。そういう類のものだ。あいつ、死んだら絶対俺に取り憑くぞ。それがここのところのソルの悩みの種である。
「ソル! どこへ逃げたんですか、ソル!! まだ報告書が済んでいませんよ!! それからあとで修練場へ来なさい、聞こえているんでしょう、ソルッ!!」
「うるっせえぞ坊や!! テメェには声を潜めるっていう機能は付いてねえのか?!」
「あ! そこにいたんですね?! 動かないでください、今行きますから……!!」
騒音に耐えかねて思わず窓の外に身を乗り出してしまってから、しくった、と思う。それにしてもなんと諦めの悪い坊やだ。あの初めての手合わせの日から幾度となく試合を申し込まれてはこてんぱてんにのしてやっているが、カイにはまるで諦めた様子がないのだ。
しつこさだけなら完全にソルを上回っている。一度そう言ってだからもう納得しないかと持ちかけてみたのだが、逆効果だったことは言うまでもないだろう。
ソルが考え事をしている間に凄まじいスピードで中庭から本棟の四階図書室まで駆け上がってきたカイは、一応場の特性に配慮したのか光速忍び足で窓際のソルに近づいた。最早逃げてやる気力もなく、どかりと座り込んだまま接近を許したソルの耳元に口を寄せると、カイが「今日こそ観念してくださいね、ソル」と何故か少し嬉しそうに耳打ちをしてくる。
「どうした坊や。えらいハッピーな声だな。俺はこの上なくアンハッピーだ」
ソルは努めて不機嫌な声で応対してやったつもりだったが、規格外のしつこさを誇るこの少年には無意味なようだった。
「ええ、嬉しいですとも。溜まりに溜まった書類、今日こそ片付けていただきます。もうこれ、わたしの部屋に置いておくの、本当に本当に嫌だったんですよ。あなたの部屋に何度置いても次の朝にはわたしの部屋のドアの前に積んであるんですから、嫌気もさすってものですよ」
「嫌気が差してるのは俺も同じなわけだが」
「ソルのそれは自業自得でしょう。さあ、今日という今日は逃がしません」
息が吹き掛かるほど密着して、懐から取り出したペンを無理矢理ソルの手に握らせようとしてくる。こんな七面倒なものは、こういうのに秀でた人間がやればそれで済む話なのに。かつて自分が理系を専攻していたことを棚の上に放り上げてソルは思い切り嫌そうに顔をしかめる。たとえばこの坊やとか、こういう細々とした事務処理など大の得意ではないか。
とはいえ、ここ数日間付きまとわれていた最大の理由がこれら未提出の書類であったことも確かだ。これほど溜まる以前は、ここまで鬱陶しくなかった。仕方ない、いよいよ覚悟を決めるか。そう思い素直にペンを握るとカイがぱっと嬉しそうに笑顔に花を咲かせる。
その表情にソルは頭を抱えそうになった。こんなことでそんな、年頃の少女が告白を了承された時のような顔を頼むからしないでくれ。そう言いたいが、そんなたとえをしたところでこの少年には意味が伝わらないだろう。
ソルもカイもお互いに一昨日遠征から帰ってきたばかりで、昨日今日と久しぶりに非番を割り当てられていた。つまり、二人揃ってまるまる四十八時間団の敷地内にいるということだ。別に外に出ても良かったのだが、外出届を出すとカイにソルの行き先が知れてしまうし、かといってこっそり抜け出そうとしてもカイの並々ならぬ努力によって塀を登っている途中とかに発見されてしまう。面倒なので、ソルは敷地内から出ないことにしていたのである。
そんな塩梅で昨日のうちはカイの方にも疲労がたまっていたこともあり、なんとか一日逃げおおせることに成功したが、二日目ともなるとそう上手くはいかない。若さの力ですっかりと元気になったカイは、今日ばかりは本当にソルを見逃してくれそうにないのだ。
しかしこの坊やは、何故そうまでしてソルにこだわるのだろう。ソルは適当にペンを走らせながら考え込んだ。やはり、自分を打ち負かした男として、負けたままではいられないからなのだろうか。それなら無駄なことだ。こんな坊やに負けてやる予定など、ソルの手帳には未来永劫存在しないというのに……。
「なあ」
「なんです」
「坊や、いい加減に諦めるとかそういう……」
半ばソルの方が諦め気味ながらも一応尋ねてみると、カイは無情にもきっぱりと首を横に振って見せた。
「何をですか? 私には、大隊長を束ねる立場として、クリフ様に代わって団を治める義務があります。あなた一人をのさばらせておくことは、責務をきちんと果たすためにも出来ない相談です。それとも他に何か」
「……テメェに訊いた俺が馬鹿だったよ……」
「それに……わたしはあなたのこと、一応、尊敬しているんです」
「……はあ?」
「…………。こんなにわたしが言ってるのにへこたれない人、そうそういませんから! ほら、手が止まってますよ」
最後は何故か勝手にへそを曲げ、はぐらかすようにソルの止まり掛けた手を叩く。若干むかついてどうしてやろうかと引きつった笑みを浮かべたところに、どこからか甘い花の香りがしてきて、ソルは、はたとペンを落とした。
「ああ、言ったそばから! ペンを持って続けてください、ねえ、ソル……」
「香水か何かでも使ってるのか、坊や」
思わず問いただせば、カイがびっくりした様子で目を見開き、ぷるぷるとそれを否定する。
「香水? そんな贅沢品、こんなご時世に貴族のご婦人でもないわたしが使う理由があると思いますか。見たこともありませんよ」
確かに、そんな品、このご時世では資産家の娘でもない限り持っているはずがない。何か懐かしい匂いがすると思ったのだが……気のせいだったのだろうか? ソルは訝しんで鼻をひくつかせた。しかし嗅覚を研ぎ澄ますと、やはり花の香りが漂っているように思うのだ。白く清廉な花の香り。これは白百合か、木蓮か……。
「なら、庭園に入り浸っていたとか……」
それで尚も追求を重ねてみたが、カイは再び首を横に振るばかりだった。
「確かに裏の庭園ではいくつかの花を栽培していますけれど……別に、私が毎日世話をしているわけではないですよ。あの……本当にどうしたんですか。一応熱、測ります? どんなに鍛えている人でも、引くときは引きますからね、風邪とか」
「風邪如きに負けるような免疫機構をしてねえよ」
軽口のようなものを一応返しながらも、なんだかすっかりやる気を失ってしまい、ソルはペンを握り直す代わりにカイの両頬を掴み取るとぐるりと回した。
こちらを向かせて確かめたカイの顔は、ただでさえ童顔なつくりをしているというのに、今日はまた一段と少女めいてソルの目に映った。先日変声期が終わりに差し掛かりはじめ、控えめながら確かに主張をしている喉仏を差し引いても、少女と少年のあわいにいるような、不安定な顔つきをしている。そしてやはり、紛うことのない花香。まるで情事と秘め事の残り香のような、ふわふわとして浮ついた……。
「坊や」
そこでふとソルは得体の知れぬ不安に駆られ、向かいの部屋で暮らしている少年の唇を指でなぞり、彼を呼んだ。
「だから……坊やじゃありませんってば……」
「坊や、昨日から今日にかけて、何をしていた?」
「何って。書類仕事がソルの比じゃないくらいあるんです。殆ど昨日はそれに費やしていました。ソルを探す時間も取れないくらい」
「誰とも会わなかったのか」
「食堂にも浴場にも、それに修練場にも行っています。誰とも会わない方が不自然でしょう。……あの、ソル。あなた本当に、何か悪いものでも口にしたんじゃないですか?」
怪訝な顔をして、カイがソルの額に手を当てる。幼さを残した、整った指先。細くて華奢で今にも手折られてしまいそうで、まるでカイ=キスクという少年の性質を表しているかのようなその指がソルの額を撫でている。
その有様にぞっとしないものを覚え、ソルは自分を見つめてくるエメラルドブルーの瞳をじっと見た。この少年が、一昨日一緒に遠征へ行った時までは見たこともなかったような表情ををしている気がして、背筋が凍る。
「ソル……え、あっ?!」
そうしてソルは、正体のわからぬ恐怖に衝き動かされるようにして、間近に浮かんでいた小さく形の整った唇を自らのそれで塞いだ。
息苦しそうに呻き始めたのを無視して、口づけを先へ進める。普段はやかましく開かれているくせして今はぴったりと閉じられているやわらかい上唇と下唇の間を割り開き、その先の歯列をもなぞり、驚いたのか隙間が生じたところで喉奥までを目指して舌をねじ込んだ。すぐに生温かく弾力のあるカイの舌に触れる。子供の、小さな舌。それを根が乾かぬように舐めとり、しゃぶる。
酸素を奪われて、思考がおぼつかないのだろう。それに体格差もある。カイは突然の事態に暴れることもなく、なすがままにされていた。腕の中でくたりと身を任せてくる子供の姿に、脳味噌の奥で理性が警鐘を鳴らす。一体何をやっているんだ、お前は。その子供を守ってやれと頼まれていたはずじゃないのか。けれど。別の声がそれに反論をする。こうすることが、結果的に彼を守ることへ繋がるかもしれない。下卑た目でこの少年を見る者がいることを、ソルは既に知っている。
秒針の回る音が、人気のない図書室の中でカチカチと鳴り響く。それを何十回と耳に流し込み、数え切れなくなったところで、ソルは口づけを止めた。
一体どのくらい唇を合わせていたのだろう。唇を離してやった途端、カイが勢いよく息を吸い始める。分かたれた唇と唇の間に唾液が糸を垂らしていることに、彼は必死すぎて気がつく様子もない。
「……理由が気に掛かるのなら、今晩俺の部屋へ来い」
生理的なものなのかそれとも感情が由来したのか、涙混じりに充血しはじめた目でぼんやりとソルを見上げてきていた少年にぼそりとそう言った。どうしてそんなことを口走ってしまったのかはソルにもよくわからなかった。
カイを置き去りにし、図書室を後にしてからもしかして、と考える。悪者になりたいのか、俺は。一度何もかも滅茶苦茶にしてやって、カイの中のソルへの認識を完膚無きまでに破壊してやるのだ。あいつがソルの周りをうろちょろするのは、きっと最初のうちに、中途半端に優しくしてやったのがいけなかったのに違いない。もっと何を考えているのかわからないやつだと教えてやればいい。お前に何をしでかすのかわからない、危険人物だと。
そうすれば、流石にカイもソルにまとわりついてこなくなるだろう。それにむしろ、あまり表だって接触されるよりも嫌われてしまった方が、クリフとの約束通りにこっそりと彼の身を守るにはいいかもしれない……。
なにしろソルが手を付けたとなれば、他のやつらは、カイに手出しをしようなどと夢にも思わなくなるはずだ。一部で「軍神」と恐れられるソルに、積極的に関与しようとしてくるやつはカイ以外にいない。そしてそのカイでさえ、深い事情をソルに訊ねようとはしてこない。何故かと問えば「ツキが落ちるから」だとか言う。
馬鹿げたジンクスだが利用しない手はない。混迷する思考にそう的外れな理由を付けて、ソルは自室へ戻った。あんなことをして書類と一緒に残してきたにも関わらず、ソルには夜、カイが部屋を尋ねてくるだろうという根拠のない自信があった。
◇◆◇◆◇
いっそ嫌いになってしまえばいいのだ、こんな男のことなんて。そうだ。嫌いになってしまえ。半径五メートル以内に近づくのも嫌だというぐらい、憎んでしまえ。ソル=バッドガイという男のことを。
頼むから、これ以上近づいてこないでくれ。懐を見透かしかねない、そんなまっすぐな目をして……。
「や、やだ、やめてくださいソル、どうして……何を、考えているんですか、ソルッ……!」
昼間に言ったことを真に受けて、夜もそこそこに更けた頃、カイは本当にのこのことソルの部屋を訪れた。丁寧な二度のノックの後、「開いてる」というぶっきらぼうな返事を確かめて室内に入ってくる。風呂上がりの綺麗な身体を、あの肩が剥き出しにされたインナーにくるんでいた。白木蓮の香りがむっと吹き抜ける。昼よりも濃いその匂いに、ソルはようやく合点がいった。これはシャンプーの匂いだったのか。
あんまり危機感のない様子でとてとてと近付いて来たカイは、開口一番、昼間の不可解な行動の真偽を確かめようとした。ベッドに腰掛けているソルの手を無遠慮に取りあげ、いつもより少しおどおどした調子で「ソル」と口ずさんだ少年を、ソルは予告なく強引にベッドへ押し倒した。
キスもそぞろに突然ベッドに組み敷かれた少年は、酷く驚いた表情をして大きな瞳をぱっと見開き、あわあわと口を震わせる。自分がこれから何をされるのかわかっているわけではなさそうだったが、本能的に恐怖を感じているのか、身体はがちがちに固まって竦んでしまっていた。
そうか。その様子にソルはほっと息を吐く。大人のキスが為される理由を知らなかったこの少年が、性行為について知っているはずもないのだ。……そして自分が息を吐いた理由が、それを確かめて安堵したせいだと気がつき、ソルは思い切り舌打ちをした。
何しろこれほど整った容姿の少年だ。どこかで既に誰かが慰み者にしていたとしてもおかしなことはない。それをまるで保護者気取りのように危惧していたのだと、声なき理性に指摘されたような心地になったのだ。
「理由を、教えてくださるんじゃなかったんですか……」
それでも気丈なふうを装って震える声で訊ねてきた少年に、ソルは知らず、理性とは裏腹に恐ろしく残虐で獰猛な捕食者の笑みを見せていた。
「これでもまだわからねえのか、坊や」
「ッ……、わかりません。わからない、それを知りたくて、この部屋に来たんです……」
「ならその時点で失策だ。テメェは俺のことを一体なんだと思っていた? なんやかんや文句を言いつつも面倒見のいい保父か何かか? 小僧、覚えておくんだな。世界は決して子供に耳障りのいいお伽話だけで出来上がっているわけじゃ、ない……」
耳殻に舌を這わせる。ひっ、という、かわいそうなぐらい引き攣れてかすれた声が上がり、思考がぐずぐずに溶解していくのを感じる。けれど今や捕食者とその獲物の関係にまで成り下がったふたりを咎めるものは、この部屋の中にはいない。ソルの片腕がカイをベッドに押し留め、あいている方の右手で器用に衣服を引き剥がし始めて、カイはようやくうっすらとその先の出来事に思い至り、顔面を青ざめさせる。
「ねえ、ソル、あなたまさか……」
「まさか、なんだ」
「わ、わたしは、男、ですよ……?」
「ああ、なんだ。一応知ってはいるんだな。まだコウノトリを律儀に信じてるのかと思ってたんだが」
丸っきり生娘ってわけじゃあねえみたいだな。耳元でそう囁いてやるのと、強引に脱がされた衣服がベッドの下に放り投げられて幼い裸体が露わになるのはほぼ同時だった。
行為をひとつ進める度に、うぶでまっさらな子供の肢体はあちこちから悲鳴を上げた。真新しい、降り積もったばかりの雪を汚れた長靴で泥まみれに踏み荒らしていくような気分がした。
まだ恋も知らぬ少年の、これから時間を掛けて色づき、花開くはずだった蕾を強引に暴いた。未来永劫残る傷を刻んでいるのだと理性ではわかっていた。その理性を踏みにじって暴力的な衝動が生白い肌に色を落としていく。啄めば簡単に鬱血し、そのうち消えてしまう行為の痕と一緒に忘れられぬ痛みを植え付ける。
この期に及んで、普段彼がしっかり服を着込んでいるその更に下、インナーで覆い隠される場所ばかりを選んで痕跡を落としている自分は、なんとも卑屈で醜い生き物だと彼自身思っていた。首筋なら襟の中側。肩口は見えてしまうから駄目だ。心臓の位置は誰にも見えない。太ももの内側も、こんなふうにして足を割り開き、掴み取って上方へもたげさせねば誰に見咎められることもない……。
免罪符のように思い描いた「坊やを下卑た目で見ている奴」というのが本当は誰なのか、団の内外に山ほどいる欲求をもてあました野郎だとか美少年趣味の性倒錯者などではなく、ソル=バッドガイであることは既に言い逃れが出来ないほどはっきりとしていた。けれど今更後戻りも出来なくて、新雪に足跡を踏み込み続ける。はじめは唇を、次いでは四肢を、心臓にほど近くなれば乳首を、そうして、未発達の性器を責めさいなむ。
カイは初めからずっと戸惑いを露わにし、恐怖を顔に表していたが、どうしてだか悲鳴は一度も上げない。征服者に蹂躙されることがあまりに恐ろしくて、悲鳴を上げることさえ出来ないのかもしれない。
「坊や」
意地でも名前を呼びたくはなかった。こうなってしまっては、もう、全身全霊で憎まれてやるしか結末は許されない。恋人にするようなやさしいセックスをしてはいけない、けれど、ぼろぼろに壊すような真似はしたくない。身勝手な二律背反がソルの背中をどんどんと奈落へ突き落とす。本当はこの子供に何をしてやりたかったのだろう。なだめるキスを落とし、下の穴に指を三本突っ込んで拡張しながら、ソルはぼんやり考えた。実のところ、やりたかったのは、絵本の読み聞かせや教科書の習熟だったりしたんじゃなかろうか……?
いや、そんなはずがないのだ。勉強の面倒は時々見させられていたが、ただ面倒だったし、頭の良いこの子供は、ものを教えるのが嫌いなソルの指導なんて、別に必要としていなかった。カイはソルに多くのことを求めたが、その大半は職務に纏わる必要事項であり、甘やかしてほしいとは一度も言ってこなかったし、むしろ子供扱いされ続けることにうんざりしていた。
「これは、子供扱いじゃ、ねえからな……」
引き攣れた声。カイのまだ未熟な性器はソルの手で扱きあげられ、既に一度薄い精を放ったあとだったが、それが快感を覚えているからではなく単なる生理現象としての結果であることはわかっている。だからソルは「きもちいいのか」とか、「感じたのか」などとは訊かない。そんなことを訊ねるのはまるで無意味だ。いたずらにカイの自尊心を傷つけ、憎まれる以上に、彼の心を壊してしまいかねない。
それからソルは、カイの返事がままならないのをいいことに、確認一つ取らずにいきり立った男根を指先で無理矢理広げた入り口に押し当てた。こんな強姦めいたことをしているくせに、しっかりと性器は勃ちあがっている自分が滑稽だった。
「俺に大人扱いされたかったのか、坊や」
そんな惨めな自分を覆い隠そうとしてそう訊ねた。普段、カイが背伸びをして大人ぶって見せようとしているのは、特にソルの前だと顕著だったからだ。
「それとも大人になりたかったのか。誰からも侮られないために」
「……そう、だと、言ったら……あなたはどう、するんです、か……」
すると驚いたことに、その問いかけには答えが返ってきた。
今までずっと無言で、時々身体を震わせて漏れ出そうになる声を必死に抑えていたカイは、急に堅く結んでいた唇を開いて途切れ途切れに返事をした。自分より一回りも体格のいい男に組み敷かれ、抗う術もなく、今この瞬間も秘めるべき場所に怒張した男性器を突きつけられているとはとてもじゃないが思えない声だ。
更にソルを驚愕させたのは、その声音が屈辱に耐えてやっと絞り出したといったふうではなく、それでもまだ、ソル=バッドガイという男のことを信頼しまっすぐに見据えた上で発せられていることだった。
「わたし、は……そう、です。おとなに、なりたいんです。今……この瞬間も。けれど……それにあなたが関係しているのかどうかは、わからない……」
海の色をした瞳が硝子玉のように透き通り、しかしその中に確かな強い意志を宿してソルを見てきている。決して睨み付けられているわけではなかったが、不思議と目をそらせなくなるような力強さがそこにある。それでソルは、たった十五歳の……しかも先日誕生日を迎えたばかりの子供に釘付けにされてしまった。
大人になりたい。彼は言う。それもこの年頃の子供たちが口癖のように言う、大した意味を持たないポップミュージックのサビの部分の歌詞みたいに浮ついた台詞ではなく。
その言葉に秘められたあまりの悲壮感にソルはくっと息を詰める。
こんな顔をして、こんな声で、こんな言葉を、こんな子供が、言っていいものなのか。時代がそうさせたのだと自分を言い聞かせるのは簡単だったが、ソルにはそれが出来なかった。この少年を、祈りと美しいものとでつくりあげられた、本当は真綿でくるんで守ってやらねばいけなかった少年を、そうまで思い詰めさせた最後のトリガーがソルという男であったことを、彼は正確に理解してしまっていたのだ。
「馬鹿が。子供時代っていうのは、失っちまったらもう二度と訪れねえ。一回こっきりだ。それを生き急いでふいにして、どうする。大人はもう……子供にはなれねえんだぞ……」
「……それでも。それでもわたしは、なりたい、んです。大人に、強い男に、できればソルのとなりに立てるような、……その憧れはおかしなことなんでしょうか?」
「今すぐにか」
「一秒でも……はやく」
カイは目を逸らさない。体中に鬱血痕を散らされ、乳首はこねくり回されたせいで腫れ上がり、勝手に弄られた性器はぴょこりと跳ね上がっているのに、鼓動の音だけはしっかりしていた。心臓が早鐘を鳴らしているのはむしろソルの方だった。いたいけな少年を穢し、その神聖を貶める、決定打を打ち込むことに今更怖じ気づいていた。
「一つだけ確認したいことがある」
尋ねると彼は気丈な顔をして応える。
「ええ、なんでも」
「悲鳴を上げないのは、これを乗り越えたら大人になれるかもしれないだとか、考えているからか」
「わかりません。でもこの行為は、きっと子供がするものじゃ、ないのでしょう?」
そう言うと、カイは泣き笑いみたいな顔をして微笑んだ。
ソルはそれで、頭を思い切りばかでかい氷でぶん殴られたような心地がした。怯えられ、畏怖され、悪し様に罵られるよりもよっぽどこの表情を見せつけられる方が拷問だった。ちくちくと心臓を苛んでいた罪悪感がひといきに芽吹き、針のむしろに成り代わったみたいな気分だ。
「こんなことをしたって大人になんかなれねえよ……!」
叩き付けるように呻いても、カイはやはり微笑んでいる。いたたまれない。目を合わせていられない。ソルはまなじりを下げ、目を瞑ろうとし、しかし寸でのところでそれを止める。
「……知っています」
そしてカイのその言葉を待っていたように——結局彼の目を見つめたまま、逸らせぬままに、少年の小さな窄まりに自らの雄を押し込んだ。
「っ……く、そ、狭い、な……」
「う、うぅ、あ、くっ……」
成人男性の中でも比較的大きめなソルの性器は子供の身体に押し込むにはやや酷で、ぎちぎちに締め付けてくる肛門は狭苦しく、ソルにも、無論カイにも、想像以上の苦痛を強いた。性行為に不慣れなカイは痛みに反応してか闇雲に下半身に力を入れてきて、気持ちいいもなにもあったものではない。やむなく諭すようにキスをして、気を逸らすために性器を握ってやる。やわやわと緩く揺すり、身体の強張りをどうにかしてとかせと唇の中で伝える。
キスと深呼吸を繰り返し、辛抱強く緩やかな挿入を進めていくと、徐々にカイの緊張がほぐれ、広げられた腸壁が絡みついてくる感触を感じられるようになる。それでも最後まではとても入りそうにない。そもそも、たいして気持ちよくもないし放った種が着床するわけでもないのに、必死になって奥まで挿入する必要があるのだろうか。カイの下腹がはちきれてしまったら、どうするのだ?
「ソル、わたしなら、だいじょうぶ、だから」
そんなソルの考えをまるで知らないくせに、急に動きが止まったソルの手を引いてカイがそう言った。
一体何が大丈夫なのか。何が。全てが? まるでそんなふうには見えないし、彼は今まさに同意を得ずに陵辱されている真っ最中だというのに、声音はむしろソルを気遣うふうだった。立ち止まってしまった男の肩を叩き、手を取って、崖の向こうへ引きずり込むのだ。或いは川辺のケルピーのような。深い水底まで引きずり落とし、全て喰らわれ、あとには内臓しか残らない。
この少年のことを神の御使いだと噂する団員の気持ちが、その時はじめて、一ミリだけわかったような気がした。
カイ=キスクという少年はこの世のあらゆるうつくしいものと敬虔な祈り、そしてあふれかえるような正義心とで紡ぎ上げられていて、少年特有のなまめかしい神聖というものを存分に持ち合わせていたが、その一方で、早足で天国へ死に急ぐ不安定さと地に足つかぬ浮遊感、つまりこの世のものとは思えぬ違和感をも持ち合わせていた。人の手垢のついていない天使は、いつか天へ帰って行ってしまう。だからうつくしい。だから、おそろしい……。
では天使に人の欲を塗り込めたら、どうなるのだろう? エグリゴリが人に知識を与え地上を脅かした咎で堕天したように、この少年も急ぎ足で死んだりしなくなるのだろうか?
改めて思い返す。はじめにソルは部屋に入ってきた時点で失策だと彼に言ったし、実際事態がよく飲み込めていなかったからだろう、最初こそ押し倒されたことにカイは動揺してみせた。けれどその後はどうだ。揺れ動いているのはソルばかりでカイはそんなソルをじっと見続けている。この少年は、はじめからとっくに、覚悟というものを決めていたのだ。
じりじりと下半身が奥へ進んでいく。結合部からは肉の引き攣れる音が響き、やがてどこかが切れて生温かい液体が零れた。確かめるまでもない。カイの血だ。
「テメェは、子供でいていいんだ。まだ……もうしばらくは。坊や、ガキはガキらしく、必要以上の背伸びなんざ、しなくたってよかった。生き急いで走ることも。大人になりたいと願うことも……」
「でも、わたしは、」
「俺のために大人になんかなるな」
「ソル……」
「そうでなくとも、いつかテメェだって、嫌でも大人になる時が来るんだよ」
とうとう性器の全てが温かい胎内に埋まる。奥を突いてやると、そこではじめて嬌声が上がった。抑えていた声が、ここにきてついに漏れ出てしまったらしかった。
「あの、ソル、わたしは……」
上ずったままの声でカイが言う。ソル、ソル、書類をなんとかしてください、また武器を壊したでしょう、勝負してください、廊下を走るのは規則違反です、そういったお小言を並べ立てている時とはまるで違う、甘ったるい声音。その甘さがムスクの香のようによくない気分を助長する。ぎりぎりかかっていた歯止めも壊されて、どこへもゆけなくなる。
「わたしは……ソルになら、いいんだ」
ばかやろう、とかぶりつくように叫んで、ソルは一度収まったものをゆっくりと引き出し、そうしてまた押し込み、荒々しい抽挿へと行為を移した。
そこから先は、無理をして留めていたものを解き放ったみたいにカイも喘いだ。生まれたての子鹿のようにわななき、ひっきりなしに嬌声を上げ、夢中のうちに貪り貪られる。不慣れな身体で必死に雄に絡みついてねだり、全身でしがみついて離そうとしない。
触れ合う度に、柔らかくあえかな身体と成熟しきった雄の肉体が弾け、飢えたけもののようにふたりで腰をすりあわせた。だらだらと汗が流れることなど気にも留めず体中の体液を出し尽くすように交わり、荒く息を吐き、交合にふける。
その晩は繰り返し三度も吐精した。全てが終わった頃、月が白々しく照らし出したカイのやわらかな肢体からはどろりとしたソルの白濁が溢れ、凝ってべとりとしたかたちのない楔がふたりをベッドへ縫い止めていた。
面倒を見ろと言われて仕方なく承諾したものの、しかしこれは度を超して鬱陶しい。聖騎士団に身を置くようになって早数ヶ月、ソルが抱いた感想がそれであった。
何かにつけてソルソルうるさいし、もうとにかく姿を認めさえすればソルソル言ってくるし、あれは鳴き声か何かか、と一度クリフに問いただしたことさえあったが、クリフは老獪に笑って懐かれたようで一安心したぞなんて言う始末だ。あの爺さん人ごとだと思って面白がってやがる。こんなのもう、懐かれただとかそんな範疇じゃないだろう。
完全に執着されている。そういう類のものだ。あいつ、死んだら絶対俺に取り憑くぞ。それがここのところのソルの悩みの種である。
「ソル! どこへ逃げたんですか、ソル!! まだ報告書が済んでいませんよ!! それからあとで修練場へ来なさい、聞こえているんでしょう、ソルッ!!」
「うるっせえぞ坊や!! テメェには声を潜めるっていう機能は付いてねえのか?!」
「あ! そこにいたんですね?! 動かないでください、今行きますから……!!」
騒音に耐えかねて思わず窓の外に身を乗り出してしまってから、しくった、と思う。それにしてもなんと諦めの悪い坊やだ。あの初めての手合わせの日から幾度となく試合を申し込まれてはこてんぱてんにのしてやっているが、カイにはまるで諦めた様子がないのだ。
しつこさだけなら完全にソルを上回っている。一度そう言ってだからもう納得しないかと持ちかけてみたのだが、逆効果だったことは言うまでもないだろう。
ソルが考え事をしている間に凄まじいスピードで中庭から本棟の四階図書室まで駆け上がってきたカイは、一応場の特性に配慮したのか光速忍び足で窓際のソルに近づいた。最早逃げてやる気力もなく、どかりと座り込んだまま接近を許したソルの耳元に口を寄せると、カイが「今日こそ観念してくださいね、ソル」と何故か少し嬉しそうに耳打ちをしてくる。
「どうした坊や。えらいハッピーな声だな。俺はこの上なくアンハッピーだ」
ソルは努めて不機嫌な声で応対してやったつもりだったが、規格外のしつこさを誇るこの少年には無意味なようだった。
「ええ、嬉しいですとも。溜まりに溜まった書類、今日こそ片付けていただきます。もうこれ、わたしの部屋に置いておくの、本当に本当に嫌だったんですよ。あなたの部屋に何度置いても次の朝にはわたしの部屋のドアの前に積んであるんですから、嫌気もさすってものですよ」
「嫌気が差してるのは俺も同じなわけだが」
「ソルのそれは自業自得でしょう。さあ、今日という今日は逃がしません」
息が吹き掛かるほど密着して、懐から取り出したペンを無理矢理ソルの手に握らせようとしてくる。こんな七面倒なものは、こういうのに秀でた人間がやればそれで済む話なのに。かつて自分が理系を専攻していたことを棚の上に放り上げてソルは思い切り嫌そうに顔をしかめる。たとえばこの坊やとか、こういう細々とした事務処理など大の得意ではないか。
とはいえ、ここ数日間付きまとわれていた最大の理由がこれら未提出の書類であったことも確かだ。これほど溜まる以前は、ここまで鬱陶しくなかった。仕方ない、いよいよ覚悟を決めるか。そう思い素直にペンを握るとカイがぱっと嬉しそうに笑顔に花を咲かせる。
その表情にソルは頭を抱えそうになった。こんなことでそんな、年頃の少女が告白を了承された時のような顔を頼むからしないでくれ。そう言いたいが、そんなたとえをしたところでこの少年には意味が伝わらないだろう。
ソルもカイもお互いに一昨日遠征から帰ってきたばかりで、昨日今日と久しぶりに非番を割り当てられていた。つまり、二人揃ってまるまる四十八時間団の敷地内にいるということだ。別に外に出ても良かったのだが、外出届を出すとカイにソルの行き先が知れてしまうし、かといってこっそり抜け出そうとしてもカイの並々ならぬ努力によって塀を登っている途中とかに発見されてしまう。面倒なので、ソルは敷地内から出ないことにしていたのである。
そんな塩梅で昨日のうちはカイの方にも疲労がたまっていたこともあり、なんとか一日逃げおおせることに成功したが、二日目ともなるとそう上手くはいかない。若さの力ですっかりと元気になったカイは、今日ばかりは本当にソルを見逃してくれそうにないのだ。
しかしこの坊やは、何故そうまでしてソルにこだわるのだろう。ソルは適当にペンを走らせながら考え込んだ。やはり、自分を打ち負かした男として、負けたままではいられないからなのだろうか。それなら無駄なことだ。こんな坊やに負けてやる予定など、ソルの手帳には未来永劫存在しないというのに……。
「なあ」
「なんです」
「坊や、いい加減に諦めるとかそういう……」
半ばソルの方が諦め気味ながらも一応尋ねてみると、カイは無情にもきっぱりと首を横に振って見せた。
「何をですか? 私には、大隊長を束ねる立場として、クリフ様に代わって団を治める義務があります。あなた一人をのさばらせておくことは、責務をきちんと果たすためにも出来ない相談です。それとも他に何か」
「……テメェに訊いた俺が馬鹿だったよ……」
「それに……わたしはあなたのこと、一応、尊敬しているんです」
「……はあ?」
「…………。こんなにわたしが言ってるのにへこたれない人、そうそういませんから! ほら、手が止まってますよ」
最後は何故か勝手にへそを曲げ、はぐらかすようにソルの止まり掛けた手を叩く。若干むかついてどうしてやろうかと引きつった笑みを浮かべたところに、どこからか甘い花の香りがしてきて、ソルは、はたとペンを落とした。
「ああ、言ったそばから! ペンを持って続けてください、ねえ、ソル……」
「香水か何かでも使ってるのか、坊や」
思わず問いただせば、カイがびっくりした様子で目を見開き、ぷるぷるとそれを否定する。
「香水? そんな贅沢品、こんなご時世に貴族のご婦人でもないわたしが使う理由があると思いますか。見たこともありませんよ」
確かに、そんな品、このご時世では資産家の娘でもない限り持っているはずがない。何か懐かしい匂いがすると思ったのだが……気のせいだったのだろうか? ソルは訝しんで鼻をひくつかせた。しかし嗅覚を研ぎ澄ますと、やはり花の香りが漂っているように思うのだ。白く清廉な花の香り。これは白百合か、木蓮か……。
「なら、庭園に入り浸っていたとか……」
それで尚も追求を重ねてみたが、カイは再び首を横に振るばかりだった。
「確かに裏の庭園ではいくつかの花を栽培していますけれど……別に、私が毎日世話をしているわけではないですよ。あの……本当にどうしたんですか。一応熱、測ります? どんなに鍛えている人でも、引くときは引きますからね、風邪とか」
「風邪如きに負けるような免疫機構をしてねえよ」
軽口のようなものを一応返しながらも、なんだかすっかりやる気を失ってしまい、ソルはペンを握り直す代わりにカイの両頬を掴み取るとぐるりと回した。
こちらを向かせて確かめたカイの顔は、ただでさえ童顔なつくりをしているというのに、今日はまた一段と少女めいてソルの目に映った。先日変声期が終わりに差し掛かりはじめ、控えめながら確かに主張をしている喉仏を差し引いても、少女と少年のあわいにいるような、不安定な顔つきをしている。そしてやはり、紛うことのない花香。まるで情事と秘め事の残り香のような、ふわふわとして浮ついた……。
「坊や」
そこでふとソルは得体の知れぬ不安に駆られ、向かいの部屋で暮らしている少年の唇を指でなぞり、彼を呼んだ。
「だから……坊やじゃありませんってば……」
「坊や、昨日から今日にかけて、何をしていた?」
「何って。書類仕事がソルの比じゃないくらいあるんです。殆ど昨日はそれに費やしていました。ソルを探す時間も取れないくらい」
「誰とも会わなかったのか」
「食堂にも浴場にも、それに修練場にも行っています。誰とも会わない方が不自然でしょう。……あの、ソル。あなた本当に、何か悪いものでも口にしたんじゃないですか?」
怪訝な顔をして、カイがソルの額に手を当てる。幼さを残した、整った指先。細くて華奢で今にも手折られてしまいそうで、まるでカイ=キスクという少年の性質を表しているかのようなその指がソルの額を撫でている。
その有様にぞっとしないものを覚え、ソルは自分を見つめてくるエメラルドブルーの瞳をじっと見た。この少年が、一昨日一緒に遠征へ行った時までは見たこともなかったような表情ををしている気がして、背筋が凍る。
「ソル……え、あっ?!」
そうしてソルは、正体のわからぬ恐怖に衝き動かされるようにして、間近に浮かんでいた小さく形の整った唇を自らのそれで塞いだ。
息苦しそうに呻き始めたのを無視して、口づけを先へ進める。普段はやかましく開かれているくせして今はぴったりと閉じられているやわらかい上唇と下唇の間を割り開き、その先の歯列をもなぞり、驚いたのか隙間が生じたところで喉奥までを目指して舌をねじ込んだ。すぐに生温かく弾力のあるカイの舌に触れる。子供の、小さな舌。それを根が乾かぬように舐めとり、しゃぶる。
酸素を奪われて、思考がおぼつかないのだろう。それに体格差もある。カイは突然の事態に暴れることもなく、なすがままにされていた。腕の中でくたりと身を任せてくる子供の姿に、脳味噌の奥で理性が警鐘を鳴らす。一体何をやっているんだ、お前は。その子供を守ってやれと頼まれていたはずじゃないのか。けれど。別の声がそれに反論をする。こうすることが、結果的に彼を守ることへ繋がるかもしれない。下卑た目でこの少年を見る者がいることを、ソルは既に知っている。
秒針の回る音が、人気のない図書室の中でカチカチと鳴り響く。それを何十回と耳に流し込み、数え切れなくなったところで、ソルは口づけを止めた。
一体どのくらい唇を合わせていたのだろう。唇を離してやった途端、カイが勢いよく息を吸い始める。分かたれた唇と唇の間に唾液が糸を垂らしていることに、彼は必死すぎて気がつく様子もない。
「……理由が気に掛かるのなら、今晩俺の部屋へ来い」
生理的なものなのかそれとも感情が由来したのか、涙混じりに充血しはじめた目でぼんやりとソルを見上げてきていた少年にぼそりとそう言った。どうしてそんなことを口走ってしまったのかはソルにもよくわからなかった。
カイを置き去りにし、図書室を後にしてからもしかして、と考える。悪者になりたいのか、俺は。一度何もかも滅茶苦茶にしてやって、カイの中のソルへの認識を完膚無きまでに破壊してやるのだ。あいつがソルの周りをうろちょろするのは、きっと最初のうちに、中途半端に優しくしてやったのがいけなかったのに違いない。もっと何を考えているのかわからないやつだと教えてやればいい。お前に何をしでかすのかわからない、危険人物だと。
そうすれば、流石にカイもソルにまとわりついてこなくなるだろう。それにむしろ、あまり表だって接触されるよりも嫌われてしまった方が、クリフとの約束通りにこっそりと彼の身を守るにはいいかもしれない……。
なにしろソルが手を付けたとなれば、他のやつらは、カイに手出しをしようなどと夢にも思わなくなるはずだ。一部で「軍神」と恐れられるソルに、積極的に関与しようとしてくるやつはカイ以外にいない。そしてそのカイでさえ、深い事情をソルに訊ねようとはしてこない。何故かと問えば「ツキが落ちるから」だとか言う。
馬鹿げたジンクスだが利用しない手はない。混迷する思考にそう的外れな理由を付けて、ソルは自室へ戻った。あんなことをして書類と一緒に残してきたにも関わらず、ソルには夜、カイが部屋を尋ねてくるだろうという根拠のない自信があった。
◇◆◇◆◇
いっそ嫌いになってしまえばいいのだ、こんな男のことなんて。そうだ。嫌いになってしまえ。半径五メートル以内に近づくのも嫌だというぐらい、憎んでしまえ。ソル=バッドガイという男のことを。
頼むから、これ以上近づいてこないでくれ。懐を見透かしかねない、そんなまっすぐな目をして……。
「や、やだ、やめてくださいソル、どうして……何を、考えているんですか、ソルッ……!」
昼間に言ったことを真に受けて、夜もそこそこに更けた頃、カイは本当にのこのことソルの部屋を訪れた。丁寧な二度のノックの後、「開いてる」というぶっきらぼうな返事を確かめて室内に入ってくる。風呂上がりの綺麗な身体を、あの肩が剥き出しにされたインナーにくるんでいた。白木蓮の香りがむっと吹き抜ける。昼よりも濃いその匂いに、ソルはようやく合点がいった。これはシャンプーの匂いだったのか。
あんまり危機感のない様子でとてとてと近付いて来たカイは、開口一番、昼間の不可解な行動の真偽を確かめようとした。ベッドに腰掛けているソルの手を無遠慮に取りあげ、いつもより少しおどおどした調子で「ソル」と口ずさんだ少年を、ソルは予告なく強引にベッドへ押し倒した。
キスもそぞろに突然ベッドに組み敷かれた少年は、酷く驚いた表情をして大きな瞳をぱっと見開き、あわあわと口を震わせる。自分がこれから何をされるのかわかっているわけではなさそうだったが、本能的に恐怖を感じているのか、身体はがちがちに固まって竦んでしまっていた。
そうか。その様子にソルはほっと息を吐く。大人のキスが為される理由を知らなかったこの少年が、性行為について知っているはずもないのだ。……そして自分が息を吐いた理由が、それを確かめて安堵したせいだと気がつき、ソルは思い切り舌打ちをした。
何しろこれほど整った容姿の少年だ。どこかで既に誰かが慰み者にしていたとしてもおかしなことはない。それをまるで保護者気取りのように危惧していたのだと、声なき理性に指摘されたような心地になったのだ。
「理由を、教えてくださるんじゃなかったんですか……」
それでも気丈なふうを装って震える声で訊ねてきた少年に、ソルは知らず、理性とは裏腹に恐ろしく残虐で獰猛な捕食者の笑みを見せていた。
「これでもまだわからねえのか、坊や」
「ッ……、わかりません。わからない、それを知りたくて、この部屋に来たんです……」
「ならその時点で失策だ。テメェは俺のことを一体なんだと思っていた? なんやかんや文句を言いつつも面倒見のいい保父か何かか? 小僧、覚えておくんだな。世界は決して子供に耳障りのいいお伽話だけで出来上がっているわけじゃ、ない……」
耳殻に舌を這わせる。ひっ、という、かわいそうなぐらい引き攣れてかすれた声が上がり、思考がぐずぐずに溶解していくのを感じる。けれど今や捕食者とその獲物の関係にまで成り下がったふたりを咎めるものは、この部屋の中にはいない。ソルの片腕がカイをベッドに押し留め、あいている方の右手で器用に衣服を引き剥がし始めて、カイはようやくうっすらとその先の出来事に思い至り、顔面を青ざめさせる。
「ねえ、ソル、あなたまさか……」
「まさか、なんだ」
「わ、わたしは、男、ですよ……?」
「ああ、なんだ。一応知ってはいるんだな。まだコウノトリを律儀に信じてるのかと思ってたんだが」
丸っきり生娘ってわけじゃあねえみたいだな。耳元でそう囁いてやるのと、強引に脱がされた衣服がベッドの下に放り投げられて幼い裸体が露わになるのはほぼ同時だった。
行為をひとつ進める度に、うぶでまっさらな子供の肢体はあちこちから悲鳴を上げた。真新しい、降り積もったばかりの雪を汚れた長靴で泥まみれに踏み荒らしていくような気分がした。
まだ恋も知らぬ少年の、これから時間を掛けて色づき、花開くはずだった蕾を強引に暴いた。未来永劫残る傷を刻んでいるのだと理性ではわかっていた。その理性を踏みにじって暴力的な衝動が生白い肌に色を落としていく。啄めば簡単に鬱血し、そのうち消えてしまう行為の痕と一緒に忘れられぬ痛みを植え付ける。
この期に及んで、普段彼がしっかり服を着込んでいるその更に下、インナーで覆い隠される場所ばかりを選んで痕跡を落としている自分は、なんとも卑屈で醜い生き物だと彼自身思っていた。首筋なら襟の中側。肩口は見えてしまうから駄目だ。心臓の位置は誰にも見えない。太ももの内側も、こんなふうにして足を割り開き、掴み取って上方へもたげさせねば誰に見咎められることもない……。
免罪符のように思い描いた「坊やを下卑た目で見ている奴」というのが本当は誰なのか、団の内外に山ほどいる欲求をもてあました野郎だとか美少年趣味の性倒錯者などではなく、ソル=バッドガイであることは既に言い逃れが出来ないほどはっきりとしていた。けれど今更後戻りも出来なくて、新雪に足跡を踏み込み続ける。はじめは唇を、次いでは四肢を、心臓にほど近くなれば乳首を、そうして、未発達の性器を責めさいなむ。
カイは初めからずっと戸惑いを露わにし、恐怖を顔に表していたが、どうしてだか悲鳴は一度も上げない。征服者に蹂躙されることがあまりに恐ろしくて、悲鳴を上げることさえ出来ないのかもしれない。
「坊や」
意地でも名前を呼びたくはなかった。こうなってしまっては、もう、全身全霊で憎まれてやるしか結末は許されない。恋人にするようなやさしいセックスをしてはいけない、けれど、ぼろぼろに壊すような真似はしたくない。身勝手な二律背反がソルの背中をどんどんと奈落へ突き落とす。本当はこの子供に何をしてやりたかったのだろう。なだめるキスを落とし、下の穴に指を三本突っ込んで拡張しながら、ソルはぼんやり考えた。実のところ、やりたかったのは、絵本の読み聞かせや教科書の習熟だったりしたんじゃなかろうか……?
いや、そんなはずがないのだ。勉強の面倒は時々見させられていたが、ただ面倒だったし、頭の良いこの子供は、ものを教えるのが嫌いなソルの指導なんて、別に必要としていなかった。カイはソルに多くのことを求めたが、その大半は職務に纏わる必要事項であり、甘やかしてほしいとは一度も言ってこなかったし、むしろ子供扱いされ続けることにうんざりしていた。
「これは、子供扱いじゃ、ねえからな……」
引き攣れた声。カイのまだ未熟な性器はソルの手で扱きあげられ、既に一度薄い精を放ったあとだったが、それが快感を覚えているからではなく単なる生理現象としての結果であることはわかっている。だからソルは「きもちいいのか」とか、「感じたのか」などとは訊かない。そんなことを訊ねるのはまるで無意味だ。いたずらにカイの自尊心を傷つけ、憎まれる以上に、彼の心を壊してしまいかねない。
それからソルは、カイの返事がままならないのをいいことに、確認一つ取らずにいきり立った男根を指先で無理矢理広げた入り口に押し当てた。こんな強姦めいたことをしているくせに、しっかりと性器は勃ちあがっている自分が滑稽だった。
「俺に大人扱いされたかったのか、坊や」
そんな惨めな自分を覆い隠そうとしてそう訊ねた。普段、カイが背伸びをして大人ぶって見せようとしているのは、特にソルの前だと顕著だったからだ。
「それとも大人になりたかったのか。誰からも侮られないために」
「……そう、だと、言ったら……あなたはどう、するんです、か……」
すると驚いたことに、その問いかけには答えが返ってきた。
今までずっと無言で、時々身体を震わせて漏れ出そうになる声を必死に抑えていたカイは、急に堅く結んでいた唇を開いて途切れ途切れに返事をした。自分より一回りも体格のいい男に組み敷かれ、抗う術もなく、今この瞬間も秘めるべき場所に怒張した男性器を突きつけられているとはとてもじゃないが思えない声だ。
更にソルを驚愕させたのは、その声音が屈辱に耐えてやっと絞り出したといったふうではなく、それでもまだ、ソル=バッドガイという男のことを信頼しまっすぐに見据えた上で発せられていることだった。
「わたし、は……そう、です。おとなに、なりたいんです。今……この瞬間も。けれど……それにあなたが関係しているのかどうかは、わからない……」
海の色をした瞳が硝子玉のように透き通り、しかしその中に確かな強い意志を宿してソルを見てきている。決して睨み付けられているわけではなかったが、不思議と目をそらせなくなるような力強さがそこにある。それでソルは、たった十五歳の……しかも先日誕生日を迎えたばかりの子供に釘付けにされてしまった。
大人になりたい。彼は言う。それもこの年頃の子供たちが口癖のように言う、大した意味を持たないポップミュージックのサビの部分の歌詞みたいに浮ついた台詞ではなく。
その言葉に秘められたあまりの悲壮感にソルはくっと息を詰める。
こんな顔をして、こんな声で、こんな言葉を、こんな子供が、言っていいものなのか。時代がそうさせたのだと自分を言い聞かせるのは簡単だったが、ソルにはそれが出来なかった。この少年を、祈りと美しいものとでつくりあげられた、本当は真綿でくるんで守ってやらねばいけなかった少年を、そうまで思い詰めさせた最後のトリガーがソルという男であったことを、彼は正確に理解してしまっていたのだ。
「馬鹿が。子供時代っていうのは、失っちまったらもう二度と訪れねえ。一回こっきりだ。それを生き急いでふいにして、どうする。大人はもう……子供にはなれねえんだぞ……」
「……それでも。それでもわたしは、なりたい、んです。大人に、強い男に、できればソルのとなりに立てるような、……その憧れはおかしなことなんでしょうか?」
「今すぐにか」
「一秒でも……はやく」
カイは目を逸らさない。体中に鬱血痕を散らされ、乳首はこねくり回されたせいで腫れ上がり、勝手に弄られた性器はぴょこりと跳ね上がっているのに、鼓動の音だけはしっかりしていた。心臓が早鐘を鳴らしているのはむしろソルの方だった。いたいけな少年を穢し、その神聖を貶める、決定打を打ち込むことに今更怖じ気づいていた。
「一つだけ確認したいことがある」
尋ねると彼は気丈な顔をして応える。
「ええ、なんでも」
「悲鳴を上げないのは、これを乗り越えたら大人になれるかもしれないだとか、考えているからか」
「わかりません。でもこの行為は、きっと子供がするものじゃ、ないのでしょう?」
そう言うと、カイは泣き笑いみたいな顔をして微笑んだ。
ソルはそれで、頭を思い切りばかでかい氷でぶん殴られたような心地がした。怯えられ、畏怖され、悪し様に罵られるよりもよっぽどこの表情を見せつけられる方が拷問だった。ちくちくと心臓を苛んでいた罪悪感がひといきに芽吹き、針のむしろに成り代わったみたいな気分だ。
「こんなことをしたって大人になんかなれねえよ……!」
叩き付けるように呻いても、カイはやはり微笑んでいる。いたたまれない。目を合わせていられない。ソルはまなじりを下げ、目を瞑ろうとし、しかし寸でのところでそれを止める。
「……知っています」
そしてカイのその言葉を待っていたように——結局彼の目を見つめたまま、逸らせぬままに、少年の小さな窄まりに自らの雄を押し込んだ。
「っ……く、そ、狭い、な……」
「う、うぅ、あ、くっ……」
成人男性の中でも比較的大きめなソルの性器は子供の身体に押し込むにはやや酷で、ぎちぎちに締め付けてくる肛門は狭苦しく、ソルにも、無論カイにも、想像以上の苦痛を強いた。性行為に不慣れなカイは痛みに反応してか闇雲に下半身に力を入れてきて、気持ちいいもなにもあったものではない。やむなく諭すようにキスをして、気を逸らすために性器を握ってやる。やわやわと緩く揺すり、身体の強張りをどうにかしてとかせと唇の中で伝える。
キスと深呼吸を繰り返し、辛抱強く緩やかな挿入を進めていくと、徐々にカイの緊張がほぐれ、広げられた腸壁が絡みついてくる感触を感じられるようになる。それでも最後まではとても入りそうにない。そもそも、たいして気持ちよくもないし放った種が着床するわけでもないのに、必死になって奥まで挿入する必要があるのだろうか。カイの下腹がはちきれてしまったら、どうするのだ?
「ソル、わたしなら、だいじょうぶ、だから」
そんなソルの考えをまるで知らないくせに、急に動きが止まったソルの手を引いてカイがそう言った。
一体何が大丈夫なのか。何が。全てが? まるでそんなふうには見えないし、彼は今まさに同意を得ずに陵辱されている真っ最中だというのに、声音はむしろソルを気遣うふうだった。立ち止まってしまった男の肩を叩き、手を取って、崖の向こうへ引きずり込むのだ。或いは川辺のケルピーのような。深い水底まで引きずり落とし、全て喰らわれ、あとには内臓しか残らない。
この少年のことを神の御使いだと噂する団員の気持ちが、その時はじめて、一ミリだけわかったような気がした。
カイ=キスクという少年はこの世のあらゆるうつくしいものと敬虔な祈り、そしてあふれかえるような正義心とで紡ぎ上げられていて、少年特有のなまめかしい神聖というものを存分に持ち合わせていたが、その一方で、早足で天国へ死に急ぐ不安定さと地に足つかぬ浮遊感、つまりこの世のものとは思えぬ違和感をも持ち合わせていた。人の手垢のついていない天使は、いつか天へ帰って行ってしまう。だからうつくしい。だから、おそろしい……。
では天使に人の欲を塗り込めたら、どうなるのだろう? エグリゴリが人に知識を与え地上を脅かした咎で堕天したように、この少年も急ぎ足で死んだりしなくなるのだろうか?
改めて思い返す。はじめにソルは部屋に入ってきた時点で失策だと彼に言ったし、実際事態がよく飲み込めていなかったからだろう、最初こそ押し倒されたことにカイは動揺してみせた。けれどその後はどうだ。揺れ動いているのはソルばかりでカイはそんなソルをじっと見続けている。この少年は、はじめからとっくに、覚悟というものを決めていたのだ。
じりじりと下半身が奥へ進んでいく。結合部からは肉の引き攣れる音が響き、やがてどこかが切れて生温かい液体が零れた。確かめるまでもない。カイの血だ。
「テメェは、子供でいていいんだ。まだ……もうしばらくは。坊や、ガキはガキらしく、必要以上の背伸びなんざ、しなくたってよかった。生き急いで走ることも。大人になりたいと願うことも……」
「でも、わたしは、」
「俺のために大人になんかなるな」
「ソル……」
「そうでなくとも、いつかテメェだって、嫌でも大人になる時が来るんだよ」
とうとう性器の全てが温かい胎内に埋まる。奥を突いてやると、そこではじめて嬌声が上がった。抑えていた声が、ここにきてついに漏れ出てしまったらしかった。
「あの、ソル、わたしは……」
上ずったままの声でカイが言う。ソル、ソル、書類をなんとかしてください、また武器を壊したでしょう、勝負してください、廊下を走るのは規則違反です、そういったお小言を並べ立てている時とはまるで違う、甘ったるい声音。その甘さがムスクの香のようによくない気分を助長する。ぎりぎりかかっていた歯止めも壊されて、どこへもゆけなくなる。
「わたしは……ソルになら、いいんだ」
ばかやろう、とかぶりつくように叫んで、ソルは一度収まったものをゆっくりと引き出し、そうしてまた押し込み、荒々しい抽挿へと行為を移した。
そこから先は、無理をして留めていたものを解き放ったみたいにカイも喘いだ。生まれたての子鹿のようにわななき、ひっきりなしに嬌声を上げ、夢中のうちに貪り貪られる。不慣れな身体で必死に雄に絡みついてねだり、全身でしがみついて離そうとしない。
触れ合う度に、柔らかくあえかな身体と成熟しきった雄の肉体が弾け、飢えたけもののようにふたりで腰をすりあわせた。だらだらと汗が流れることなど気にも留めず体中の体液を出し尽くすように交わり、荒く息を吐き、交合にふける。
その晩は繰り返し三度も吐精した。全てが終わった頃、月が白々しく照らし出したカイのやわらかな肢体からはどろりとしたソルの白濁が溢れ、凝ってべとりとしたかたちのない楔がふたりをベッドへ縫い止めていた。