12 愛を知る少年、恋を歌う青年
※R-18描写を含みます。高校生含む18歳以下の方は閲覧をご遠慮ください。




 少年の彼は美しかった。
 幼さ故のあやうさ、穢れを知らぬ純真無垢さ、盲目的な正義、それらさえも少年である彼という存在の聖性を高めるパーツの一つだった。人々はそのような神聖そのものを体現した少年に歓喜し、熱を上げる。このように美しいものならばきっと我々を導いてくださるに違いない。聖戦を終わらせ、その先の世界でさえ、彼は我々に幸福をもたらすその旗頭となり、変わらぬ美しさを示し続けるのだ。
 人々は少年を盲信した。少年に傅いて祈りを捧げた。少年を少年のままに留めた力のいくつかは、そういった少年に心酔する者達の声なき期待だった。人々は澄み渡って汚れのない 偶像 アイドル にこの世を正しく導かれる空想に耽った。
 けれど彼が美しかったのは、本当に彼が少年だったからなのだろうか?
 ただのそれだけで、あれほどの祈りとうつくしいものとで紡ぎ上げられた人間が、存在出来うるのだろうか?

「ッ、は、坊やが……もう生娘じゃねえくせによ……」
 絡みつく肢体のいっそおぞましいまでのなまめかしさにソルは思い切り悪態を吐いた。
 執務室のソファでしなだれかかってきたカイの誘惑に負け、事にもつれ込み、しかしソルはその浮ついた世界の中で頭の片隅には奇妙な冷静さを残して考えを続けていた。カイの白くすべらかな皮膚は甘く吸い付き、汗は珠になってしたたり落ちる。かつてより幾分か伸びた髪の毛も、まぐわいの熱を吸い込んでしっとりと首元に吸い付いて、余計に彼を淫靡に見せている。それを思うさま味わい、祈りで出来た彼の身体を言い逃れの出来ない下劣な欲望で満たそうとしながら、ソル=バッドガイは思考する。
 あの頃のカイと同じ十四、十五の子供達でも、その全てが彼のように純粋無垢でいられたわけではない。それよりもっと幼くして世の中の醜きを知り、身を堕としていく子供達は数知れない。新都イリュリアは世界有数の平和を誇る街であるから隅々まで治安が行き届き滅多なことでは低モラル犯罪が起こらない(と言われている)が、その一方、アメリカの幾つかのストリートでは今日も年端もいかぬ子供達が薬の売人をさせられて暴力と汚辱の中に身を置いている。
 聖戦が終わって戦災孤児こそ減ったものの、親に棄てられる子供というのは後を絶たず、むしろ平和な時代の幕開けによって増加の一途を辿るばかりだ。悪趣味な金持ちは法の目をかいくぐって女子供を集め、女衒は一向に絶滅しない。裕福な子供たちが学校で転入生の色恋話に花を咲かせているその瞬間も、世界の裏側では貧しい子供達が金と引き替えに春を散らす。物心ついた時にはこの世の浅ましさを知り尽くしてしまった少年少女は、見目こそそうでありこそすれ、内面は、既にその埒外にある。彼らは子供から一足飛びに大人になってしまう。それも恋を知らぬまま、愛さえ理解出来ぬうちに。
 カイは聖戦時にありがちな親を知らぬ子供だったが、大抵の子供達がその後辿った道とは違い、幸福と幸運、そして前途の開けた道を堂々と歩いていた。彼はその性質故に人々に愛され、そしてまた人々に守られた。彼は愛を知る少年だった。そして人々に正しさを知らしめる存在だった。少なくない子供達の未来を踏みにじった薬にはじめて触れたのは警官として調査に当たるようになってからであったし、インモラルな悪徳の数々には強い義憤を示した。そしてそれらに誠意を持って対処しようとした。
 彼は美しく、その少年性がそれを更に高めていたことは疑う余地もない。
 しかし、とソルは思う。彼が美しかったのは少年だったからではなく、彼が「カイ=キスク」であったからなのでは、なかろうか?
「後悔しても……もう遅いぞ……」
 心臓の上にキスマークを落として囁く。処女を失っても純真さを保ち続けたこの男は、童貞を喪失した今となってもやはり初々しく瑞々しいままだった。変わったことといえば、少女のような恥じらいがなりを潜め始めていたことだ。彼は昔よりも堂々とソルに抱かれるようになった。毅然とした顔のまま、淫欲をソルにねだった。
 そのくせ、どんなに行為に溺れていたとしても、ソルを見る眼差しがはっきりとしていて、いつだって彼を釘付けにしてしまうことは変わる兆しも見せない。焦点の定まらぬ瞳で狂ったように自分を犯す男の名を呼び続けていたとしても、彼の眼差しはソルを捉えて離そうとしない。そして犯されている最中だというのに、逆に自らを犯す男を抱擁する。彼は行為の最中、常に、慈しみを持ってソルを愛そうとする。
「私は、おまえとこうすることで、後悔をしたことは一度もないよ」
 耳をくすぐるカイの声音からは昔よく聞かされていた子供っぽさが色あせて失われ、いつの間にか、成熟した男のそれにすっかりと成り代わってしまっていた。
「はじめての時も。そりゃ、驚いたけど。……そういえば、聞いていなかったな。何故あの時お前が私を抱いたのか。あれだけ、今もまだ理由がわからないんだ……」
 呟き、己の指で割り開いた後腔にソルのはちきれそうな雄を迎え入れ、カイが小さく息を詰める。馬乗りになる体勢で自ら腰を進め、奥へ奥へと咥え込んでいくその姿にはどこかまだ余裕が現れており、それが一層ソルの熱を煽る。
 のろのろとした進みに耐えかね、腰を掴んでずぶりと差し込んでやると嬌声を上げて肢体が跳ねた。昔と違ってきちんと筋肉が付き、腹も割れてすっかり逞しくなっていたが、そうして甲高く声を上げて跳ねる仕草もやはり子供の頃のままだった。
「理由なんざ、ガキが蟻を踏みつぶそうとしたり花をむしろうとするのと大して変わらねえよ。或いは降り積もった新雪を踏みつぶそうとすることに例えてもいい。そのぐらい最低の理由だった」
「ふふ、っ、ぅ、うそ、だな。おまえは……ぁ、うぅん、むかしから……そういううそが、へたくそだ……」
「……悪かったな」
 きまりわるくなって掴んだままの腰を強引に揺すり、角度を変えてやると、前立腺を掠めたのか女のような声を恥ずかしげもなく漏らす。上気した頬は愛欲にまみれ、挿入に至る前にさんざ奉仕をしてくれた唇はてらてらとぬめって物欲しげに次を誘う。声なき声に請われるまま、ソルはカイの唇にものを与えた。ふわふわした唇が追い縋って繰り出してくるキスの技術はとてもじゃないが拙いとは言えぬものだ。交わりのありとあらゆる所作が大人びていた。それなのに性器をぎゅうぎゅうと締め付けてくる強さは昔のままで。
 その様にソルがふっと笑むと、カイもとろりとして微笑んだ。
「なあ……ソル。わたしは、おとなに……なっただろう?」
「どうやらそのようだな。変わらないものがあれば、変わるものもある。やっとだ。やっと……。ああ、そうだ。俺が何故、テメェを抱いたかだったな、カイ。簡単なことだ。…………坊やだったからさ」
「……え?」
「手折られたらすぐに死んでしまいそうな坊やを、砂の城のように危うい土壌の上をぼんやり浮かんでいる坊やを、どうしても放ってはおけなかった。この世のあらゆるうつくしいものと敬虔な祈りで満たされた少年を、薄汚い欲でどろどろに穢してやったら一体どうなるのか、知りたかった。手垢のついた天使が天上界へ戻れなくなってしまうように、坊やも最早少年ではいられなくなるのか、そうしてさえしまえば、死に急いでどこかでぱたりと事切れてしまわなくなるのか、そう思った。だが全ては無駄な試みだった」
 結局、カイはそんなことで少年を棄てられはしなかった。薄汚い大人の欲望を顔いっぱいにぶちまけられたあとになっても、彼は今までと何ら変わりなく敬虔な祈りと正義心でその身を紡ぎ上げ、うつくしいもので中身を満たされて神聖さを保ち続けた。彼は非処女だったが、その一方で恒久的に純潔の花を抱いたままだった。天使は堕つる時に自ら堕天する。決して人の手によっては貶められない。
 ピストン運動が加速し、その激しい動きにがくがくと上に乗った身体が揺り動く。整えられた金髪がざっくばらんに飛び跳ねて絡まる。それにまるで構いもせずソルに腕を押しつけ、身を委ね、いつの間にかカイが自ら腰を揺らめかせていた。その上時折緩急を付けて不随意に締め上げてくる。具合の良い肉に引き絞られる感触にぐっと息を呑んで耐え、ソルは落とし込むように耳元で囁きかける。
「結局、坊やは俺のためには大人にならず、自分のために少年をやめた。そういうことだ。……中に欲しいか?」
 返事は今までより一層強い締め付けと、消え入りそうな「ちょうだい」、という言葉によってもたらされた。
 抑えていたものを全て解き放ち、狭い直腸内にどろりとした濃い粘液を塗り込むように放つ。待ちかねた刺激にカイの喉からは言葉にならない声が響き渡り、彼の体中が歓喜に色めきだつのがわかった。欲しいままにソルの精液を搾り取り、カイが甘えたな声で舌っ足らずにソルの名を呼ぶ。ソル、そる、そる、わたしの……。夢見る少女と同じ声で、昔愛を知る少年だったものが、恋を歌う。
 その有様の美しさにソルは息を張り詰めさせ、しとどに吐き出したものを奥へ押し込めながらカイを両腕に掻き抱いた。
 一歩間違えば浅ましさと欲深さ、そして堕落しか残らないようなそんな瞬間であると言うのにも関わらず、絶頂を迎えて快楽に打ち震えるカイの姿は神聖そのものだった。少年のミューズと謳われたものがその中に息づき、今なお尊さを声高に叫んでいる。彼はとうに少年ではないのに。少年の殻を脱ぎ捨ててなお、真綿と雪の美しさを保持している。
 ソルは今、彼についてはっきりとそう理解していた。彼は最早少年ではない。一人の少女が彼に掛けられていた少年の呪いを解き、永久凍土から目覚めた彼は、時計の針を前へ進めて毎日を生きている。それなのにこんなにも美しい。彼が少年だった頃と、そこだけは、何一つ変わることなく……。
 たとえ今この瞬間性交に耽っていたとしても、犯された少年が穢れることのなかった過去と同じように、それでもカイ=キスクは、永遠に変わることなく、カイ=キスクであり続けるのだ。
「大した 偶像 シンボル だよ、テメェは……」
「どういう……ことだ?」
「テメェが大人になろうが、そのうちしわがれてよぼよぼの爺さんになろうが、テメェは自分の信じる正義のために生きるんだろうな。ああ、そうだ。それでいいんだ。とても結実しそうにもない青臭い理想論を語り続けようとも、人心はカイ=キスクという偶像について回る。人々は正しい政治ではなく、あらゆる暴力に屈することなく抗い続ける生き様にこそ王の旗を持たせる。かつて少年があらゆるギアの暴力に抗戦し、未来を勝ち取った姿を重ね、信仰されて……。テメェはそう望まれて王になった。だからそれでいいんだ」
「……褒め言葉として受け取っておくよ」
 身体をひとつに繋げた体勢のまま、出るものを出してふにゃりとしたそれを引き抜く素振りも見せずにカイが自らソルに口づける。そういえば、ジャスティスを次元牢へ葬り去ったあの第二次聖騎士団員選抜武道大会のあとで、カイは自分からは決してキスをしようとはしなかった。ではこれも彼の成長の一途なのだろうか。舌を絡めて息を奪い合うキスに興じながらソルは思う。
 やがて唇を離し、二人を繋いでいた涎が切れたかと思えば熱っぽい瞳でカイがソルを見上げる。その挑むような眼差しにぞくりと背を震わせ、ソルは今度はカイをソファに押し倒し、彼の肩口に歯形を付けた。


◇◆◇◆◇


 ぶつり、と大音量で世界に鳴り響いたその音は、寿命を迎えたブラウン管テレビが最後に鳴らす、機械としての終わりを指し示すステレオ・サウンドによく似ていた。
 ぶちぶちと鳴り続いていた耳障りな音が、一際巨大なそれを合図にして一斉に掻き消える。世界から騒音が消え、いっそ気が狂いそうになるほどの静寂だけがそこにあふれかえる。彼は起き上がり、頭をもたげ、あたりを見た。無数の試験管と見たこともないコンソール類。規則性のない本が形作る山、散らばった幼児用のおもちゃ……。
 まったくもって覚えのない見知らぬ空間。それなのに胸の内に言葉に出来ぬほどの郷愁が去来し、彼はその気持ち悪さに端正な顔をしかめた。
 それからいくらかはあたりの観察に行動を留めていたものの、いつまでもこんなところで座り込んでいても仕方ないと考え、彼は立ち上がると前方へ向けて歩き始めた。向かい壁が見えない細長い部屋の両脇を埋め尽くすように立ち並んだコンソールと、何も入っていない試験管をなぞって辿る。試験管はパイプオルガンのように奥へ進むほど太く巨大になり、ついには、身の丈一メートル五十センチほどの大きさまでになり、その途端ぱたりと壁際の行進をやめてしまう。
 それを不審に思って手を伸ばした時、不意に背後から声がした。
「本当は、まだ君はここへ戻って来るべきではなかったんだ」
 よく通る声だ。低く、老成し、かと思えば無邪気ゆえの残酷さを垣間見せるかのような、男の声。
「……先、生……?」
 反射的に彼は振り返った。
 先ほどまで彼しかいなかったはずの空間に、今は一人の長身矮躯の男が立っている。黒いフードを目深に被り、顔色はようとしてうかがい知れない。知らない男だった。知らないはずだったが、唇は自然とその男のことを「先生」と呼んでいた。
「先生……? どうして。私は……あなたのことを知らないのに……」
「無論君は私のことを知らない。それが正しい反応だ。早すぎる帰還を除けば、おおよその機構は正しく動き続けているということを確認出来たのは素直に喜ばしい。だが……だが、残念だよ、とても」
 彼が戸惑いを隠しきれずに言えば、男は苦渋を表す声音でそう答える。失敗作の天使を審判に掛ける唯一神の如き傲慢がその中には見え隠れしている。
 気持ちが悪い。彼は心からそう感じ取り、男から一歩距離を退く。
「……何者ですか、あなたは」
「それを私に問うより先に、君は自らの記号を取り戻すべきだ。思い出しなさい。君が何者であるのか」
「わ……わたし、は……」
 そう問われて初めて、彼は自分が何者であるのかを自覚出来ていないことに気がついた。
 つま先からを見返し、まず自分の形状を確かめる。足が二本。腕も二本。髪の毛は長めの金色、それがばらばらに解けて腰にまで絡んでいる。衣服は白と青を基調にしたもので、このデザインは、法衣を意識して騎士服へリファインしたもの。私は聖職者か。はたまた騎士か。わからない。頭が痛い。考えれば考えるほど脳味噌ががんがんに揺さぶられて、うまく記憶を読み取れない。私は誰だ。ここはどこだ。私の記憶にないこの世界は、一体……。
 そうして頭を抱えて呻き苦しみ初めてしまった彼を見て、男が肩を落とす。
「思い出せないのか。ユノの天秤との直接接触がよもやこれほど深い損傷をもたらすとは……困ったものだ。それでは私が代わりに教えよう。君はギリシアの二十二番、救世主の頭文字、そしてここは君の生まれ育った場所。ニルヴァーナ——少年の寝床だ。そう、無垢で美しい少年、神聖たるその象徴、君は、ここへ戻って来られるはずがなかった。君が大人にさえなっていなければ」
 警鐘を鳴らし続ける思考をなんとか回し、彼は男が先に述べたヒントだけをひとまず拾い上げて思索した。名前を取り戻せば、この酷い頭痛もなんとか治まる気がしていたのだ。ギリシア文字の二十二番目はΧ。これは救世主クリストスの頭文字を指し示し、また時に十字架の隠喩として用いられる。数価は六〇〇。そして発音は、キー、或いは……。
「カイ……」
 その言葉を口にすると、男は口元で笑んだ。これでまず彼という存在は、この空間において名前を得て再確立される。名はとても重要だ。それも彼という存在の性質を拘束し肯定するために特別にあつらえたものなれば。
「そうとも。では直前までのバックログは?」
 「カイ」になった彼は首を振り、それから、辿々しく己のログを振り返って男に提示した。
「直前……そう、だ。私は……二一八七年十一月二十五日、イリュリア連王国首都イリュリアにある王城内第一連王のテリトリーにて、妻の元を訪れ、眠り続ける義母に触れました。義母……アリアさんはそれまでこんこんと眠り続けていたのにも関わらず私が手を触れた瞬間目を醒まし、そして私と目を合わせ、誰かと間違えて『飛鳥』と呼んだ。それからでした。左目に痛みが急激に走り、私は意識を失った。……そして……ずっと、今まで、長い夢を見ていました。私があの男と出会ってからの十六年間を。けれど奇妙で……夢の中には私ではない誰かの視点が入り交じり、まるで映画を見ているかのようだった」
「それには、何らおかしな点はない。何故ならここはバックヤードだからだ。バックヤードは人の夢と接続する全ての可能性の集積場。夢の形式を取り、君はバックヤードに記録されたログを多角的な角度から再現し、眺めていた。傷付いたソーマを修復するために、さながら……それまでの生を追体験するようにして……」
 男が口にした人生の追体験、という言葉に思うところがあり彼がはっと息を呑む。知っている概念だ。それは、俗に東洋で言うところの走馬燈というものではないだろうか? ならば、もしかして……私は……。彼はあまりよくない予感を覚えて、自らの口を覆い、しかしすぐに払って口を開く。
「人生の追体験……それでは私は、死んだというのですか」
 振り絞るように尋ねると男は悲しそうに首を振った。
「ああ、そうだ。死んでしまったよ。君の中の少年といういきものがとうとう、全て死んだのだ。私にとっては最も大きな誤算だ」
「どういう意味です」
 男の言うことがうまく理解出来ず、彼は質問を繰り返した。否、本当は、理解出来ないのではなく、理解することを「カイ」が拒んでいるのに過ぎなかった。「カイ」になる前の彼の本質、たった今修復を遂げたばかりの彼のソーマ……即ち魂はそれを知っていた。
 目の前の男がどういう存在なのか。
 そして自分が何者であるのかを。
「私は君を 永劫に少年たれ かくあれかし 、として創り上げた。君は少年として生まれ、少年として生き、少年として朽ちねばいけなかった。……まだ思い出せないかね? 君がここでどのように育まれていたのか」
 男が腕を振ると、二人を挟んだ間の空間にフィルムが流れ始める。
 その中に映り込んでいるのは、紛れもない——満十歳にも満たない、カイ=キスクの姿だった。