]] JUDGMENT:そして月に焦がれたこどもたち


「それが――それがお前の答えか、有里湊!!」
 アルカナ《ユニバース》のカードが光り慎の手のひらの中から消滅する。同時に湊の肉体もそばに侍る綾時――デス諸共淡い粒子の渦になって影時間の夜闇に溶けていく。
 デスは湊と運命共同体だ。湊が消えれば望月綾時も消える。そういうシステムなのだ。ニャルラトホテプの弁舌を信じれば、そういうことになるのだった。
「死に魅入られし哀れなユニバースの操り人形よ。お前はやはり因果からは逃れられないのだ。私がお前を看取ってやろう。哀れみと憐憫をもって!! その選択に敬意を表しお前という存在を、歴史から消し去ってすらやろう!! 選択は常に代償で贖われるのだ。さあ……喜べ有里湊。お前は本当に、よくやってくれたよ」
「まずい。あいつは世界を書き換える気だ。俺の時にフィレモンがそうしたように……湊が自己犠牲を選択したから、その報いとして……!」
「それは……まずいよな?」
「最初にまずいと言った。それで……あいつらは何をしている?」
 高笑いをするニャルラトホテプには周囲の状態は上手く確認出来ていないというか、視界に入ってすらいないようで、達哉と尚也の遣り取りは勿論神郷兄弟とそのそばに立っている真田・桐条が何をしているのかさえまったく気に留めていないようだった。「ここにいたんじゃ俺達にはわからないと思う」尚也が疑問にそう返す。「何か企んでるってのはわかるけど」。
 美鶴のペルソナ《アルテミシア》に触れた洵と結祈の《セト》が何かチャネリングのようなことを行っていて、その様は宗教儀式にも似ていた。戦闘中のナビゲートとバックアップサポートを洵はこなしてくれていたが、そうえいばセトの本来の能力はもっと特殊なものだったと真田が言っていたはずだ。洵自身は「繋ぐもの」だと言う。
「……二人とも!!」
 視線に気付き、慎がこちらへ駆け寄ってくる。「説明してくれ」達哉の淡々とした口調に頷くと慎は口を開いた。
「あの。あんま、時間ないんで。二人に手伝ってほしいことがあるんです……この通りだから……」
「協力するのは吝かではないが、事情がわからないままそう簡単に手を貸すのも気が引ける。教えてくれ、あれは何をしている?」
「回線繋いでるって、結祈が」
「……回線?」
「ていうかあれ洵だろ」
「その辺は長くなるから後で! ――桐条さんのペルソナは、なんか伝播拡散型? の能力があるらしくて。それで今湊とコンタクト取ってる……らしいっていうか……」
 説明がしどろもどろになるのは恐らく慎自身が正確に事態を飲み込めていないからだろう。それでもこんなに必死なのは、発案者である「結祈」というらしい誰かに全幅の信頼を置いているからで、そして何より強く湊を取り戻すことを願っているからだ。
 現状、湊の存在はこの世界から消えていることになっているのだと思う。湊はユニバース能力、奇跡の体現者そのものだ。湊が予め用意していた保険としてのトリガー・カードを慎は使用した。それで、奇跡の引き換えに湊は消える。
「でもまだ奇跡なんて起こってないよな」
「それは多分……湊が使ってほしかった奇跡と、俺が願ったことが食い違ってるのと、まだ湊が完全に消えてないからだと思う。湊は自分が消えることでニャルラトホテプを退けられればそれが最善だと思ってたんだ。でも俺にそれは選べなかった。俺が選んだのは『全員でニャルラトホテプに打ち勝つこと』」
「……なるほどね」
 ニャルラトホテプは未だ一人悦に入って哄笑の真っ最中だ。湊の願いが叶っているのならあいつはもう既にどうにかなっていなければいけないのだろう。だが慎が取った選択肢、その「皆」には湊も含まれているから今のままではその奇跡は叶うことはない。
 まずは湊を取り戻さねば、ユニバースの意味がない。
「で、俺らへの頼みってなんだ?」
「俺のアベルの剣の能力については、知ってますよね。それで、斬ります。ニャルラトホテプと……それから、湊の因果。だけど俺一人じゃ成功すると思えないから……」
「……囮が欲しいってことだな?」
「……はい」
 慎は窺うように二人の、異なる時空からやってきたペルソナ使いを見た。二人ともペルソナ使いとして圧倒的な実力と経験があることはわかっている。慎はその意味ではまだ力不足だし、戦闘能力では遠く及ばない。だけどアベルの剣は慎だけが両親から引き継いだもので、湊もこれがキーポイントになるだろうと散々言っていた。賭けるならここだ。
 信頼もろくにないかもしれないし、しばらく共闘していた尚也はまだしも達哉など完全に巻き込まれた形になるのだ。だけど彼らは力を貸してくれると言った。だから。
 尚也が指をパチンと鳴らす。こんな時だと言うのに、瞳の中がキラキラしてわくわくしているっていうのが伝わってきた。達哉も。口にこそ出さないけれど、結構やる気だ。
「よし任せろ。俺が直々に大学生はひと味違うってことを見せてやるぜ、浪人生」
「……それ今言うことじゃないだろ?!」
「ジョークジョーク。あんま気ィ張り詰めすぎんな。お前が背負ってるのは確かに大役だが、そんなに気負いすぎると空回って失敗しちまうぜ」
 そして彼はからからと笑った。慎の堆積した不安や恐怖を見透かされているみたいだった。「深呼吸しとけ。湊の好きな曲の名前、覚えてるか」、そんなふうに慎の肩を叩くと彼は拳を握り締め、新たなペルソナを召喚し直す。《皇帝》アメン・ラー。
「成功させてやるとも。達哉も、俺もだが、ここらで一発決めとかないと格好つかないだろ?」
 アメン・ラーとアポロが並び立って一瞬濃い影を映し出した。その時慎は、ああきっとこの人達は敵に回してはいけない人達なのだと悟った。


「洵……いや、結祈、か。美鶴のこれは一体どうなってる」
「あ……今は洵。《アルテミシア》の周波数を増幅拡大して、各地にチャネリングしてます。結祈はくじらの海に」
「チャネリング? 幽霊との交信でもしているというのか」
「ええと……確かに湊は幽霊に似たものだけど、何て言うか、《アルテミシア》って索敵能力とか、そういう伝播能力も少しあるんですよね?」
「ああ」
「それを僕達の《セト》で手伝って、湊と、アルテミシアの持ち主であった桐条さんと縁の深い人達と繋げました。結祈がきっとそれが湊の最大の未練だったはずだって言うから」
「……つまりなんだ?」
「今、湊は十年前の仲間と会って話をしているはず」
 そこで真田の動きが止まった。十年前の仲間達というと、それは勿論、ここに揃っている真田と美鶴、それから亡くなっている荒垣とコロマルを除いた元特別課外活動部のメンバーのことだろう。
「国外とか、あんまり遠くにいると繋がらないけど……。それでも、そうすることが一番湊の……奇跡のための手助けになるって。たぶん一番有効的な手段だって」
「……アイギスと伊織が今国外だ。そうすると……あの三人と話したことになる、のか」
「どんな人達なんですか?」
「有里に対するスタンスとしては、中立と穏健派と過激派って感じだな。ばらばらだ。だが根底は同じだろう……皆有里のことが好きだった。それは勿論、俺達も」
 俺は何をすればいい? 真田がアルテミシアの制御に集中している美鶴に手を重ねながら尋ねる。カエサルはアルテミシア他ここにいる三人とそのペルソナを守るように立ち回っており、中央から来る戦闘の余波を一手に引き受けている状態だ。
「……今のままで」
 洵は手短に言う。
「真田さんが今やってくれていることが最善策、だと思います。結祈が向こうに行って、元々僕達のセトは戦闘向きじゃないし……桐条さんはリンクに集中して貰ってるから、何かあったら戦えないです。湊が帰って来るまでにどれだけかかるかわからない」
「了解した。一応大人だからな。女・子供を守り抜く程度の甲斐性はあるさ」
「……かっこいいですよ」
「そうか?」
 真田の顔には動揺も焦りもない。ごくふつうに、当たり前に、誰かを守るために立っている。
 そうです、ともう一度肯定すると真田はちょっと嬉しそうにまなじりを下げ、召喚銃を額に当ててトリガーを引き抜いた。
「それは光栄だ」



 神郷慎が両親より継承した特異能力《アベル》の剣、その本質は因果の否定にある。
 保有者をまったく傷つけることなくペルソナを――パーソナルを引き剥がすことを可能にしているのは、そのパーソナルを関連付けている保有者との因果そのものを否定するからではないか、というのが湊と綾時の示した見解だった。しかし実のところは、本当にそうなのかという確証はどこにもないし、正確なことはわかっていないブラックボックスなのだ。元々アベルの剣を持っていたらしい神郷夫妻は既に鬼籍に入っており、何故その剣が生まれたのか、どうして、何のためにその能力を与えられたのか、それは誰にもわからない。
 だけどそれでも今慎達の手にある一番の切り札がアベルの剣であることには変わりなく、また、それこそが千載一遇の逆転のチャンスを作り出す大きな可能性を秘めている最後の抵抗の拠り所であるのは確かだ。慎は拳を強く握りしめた。緑色に光る慎のペルソナ《アベル》は、その剣をしかと握っている。
「陽動はきっちりこなす。持ちかけてきた以上、成果は出せ。成功させるというビジョンだけ持つんだ。負の意識は奴に力を与えるが、正の意識は逆に奴の力を削ぐことに繋がる」
「わかってる」
「うまくいったら、ご褒美やってもいいぜ。な、達哉」
「……何故俺に振る」
「なんとなくだよ」
 お前ってあんまり甘やかされてなさそうだから。兄貴風を吹かせて尚也は慎の頭を撫でた。そうしてそのまま、達哉と足並みを揃えて飛び出していく。
 皇帝アメン・ラーは藤堂尚也の最強のペルソナにして、強力な敵であればあるほど効力を発揮する《ヒエロスグリュペイン》を所持している。そのアメン・ラーを引き連れ、翻し、まず尚也が一番にニャルラトホテプの喉元へ切り込んだ。
「――一発喰らえ!!」
「無駄なことを。そんなもので私を倒せると思うのか。頼みの綱の奇跡はこの通りだ……お前達は、再び私の手の中に戻る。いいや……一度たりとも我が手のひらから抜け出せたわけではない!」
「知るかよ。俺に出来るのは、お前なんかに負けるわけねえって信じることだけだぜ」
 直撃を免れたせいか、あまり効き目はないようだ。そもそもとんでもなく頑丈なのだろうが、しかしそれにしても本当に蚊に刺されたぐらいの顔である。そこに間髪入れず《太陽》アポロが殴り込む。《ギガンフィスト》から《ノヴァサイザー》。不意打ちでギガンフィストは入ったものの、ノヴァサイザーは回避されてしまった。
「どうした? 急にやる気になったところで、全て手遅れだということがまだわからないか。周防達哉、お前が私に勝利し得たのはまぐれでしかない。一生に一度の幸運が味方していたと考えるべきだったな。神に仇成す者にはそれ相応の報いを与えねばならない――」
「神だと? 笑わせる。神など存在しない……あるのは俺達の心と意思だけだ」
「偶像を否定するか。お前達の操るペルソナに力を与えているのは、普遍的無意識で多数に支持されている偶像の影響もあるのだということ、自覚した方が良いのではないかね」
 ニャルラトホテプが口を歪めると、足下から漆黒が這い出て達哉と尚也を捉えようとする。《不滅の黒》。喰らえば大きく態勢を崩されかねない。
 いち早く危機を察した達哉が効果範囲内から離脱し、尚也もそれに続こうとする。しかしそれを確認したニャルラトホテプは、更に大きく表情を歪ませると愉悦に浸ったような声音で嗤い出した。
「つくづく単調だな人間! 弄ぶのにこれほど容易なものもあるまいよ。……《不滅の黒》はお前達二人共が目にしたことがある技だ。読まれる可能性が高いものを本命には持って来るまい?」
「っくそ……!」
「大方お前達は時間稼ぎなのだろう。あそこでなにやら怪しげな真似をしている神郷洵……或いはアベルの剣を保持する神郷慎のための。愚かな。ばかげてさえいる。まんまと引っかかったな」
 不滅の黒、と思われたニャルラトホテプの足下の影は術者である尚也と達哉を素通りしてその操るペルソナへ向かって急速に動きを早め、名状し難い感触と奇怪な動きでもってその姿を捉える。拘束されたペルソナは身動きがままならなくなり、苦しそうに身悶えた。
 その頂点から光る輪が降り影の触手に固められたままのペルソナの周囲をたゆたう。それを見て反射的に達哉が拳を握り込んでアポロを引っ込めようとするが、やはりアポロは捉えられて呻き苦しむばかりだった。
 物理的に拘束された上でペルソナのチェンジを封じられているのだ。達哉はこの技に見覚えがある。《運命の車輪》だ。
「……本命はペルソナの拘束か!」
 達哉が叫んだ。
「その通り。確かにお前達のペルソナは強い。万が一、脅威と成り得ることもあるだろう。ならば対策を講じれば良いだけの話だ。これで藤堂尚也と周防達哉はもうペルソナを自在に動かせない」
「ああ、まったくその通りだ。やられたぜ……これじゃ皇帝は使えない。チェンジも出来そうにない。してやられたよ。八方塞がりだ……ニャルラトホテプ、お前は当然勝ち誇ったような気分なんだろうな?」
「……何が言いたい?」
「だからお前は詰めが甘いんだよ。それって滅茶苦茶人間っぽいけど。――《リリム》ッ!!」
「何――?!」
「《メギドラオン》!!」
 アポロと同じように囚われていたはずのアメン・ラーの姿が一瞬で掻き消え、その代わりに《月》アルカナを持つ女悪魔が降臨し今度こそ不意打ちを成功させる。万能の超攻撃をもろに喰らってニャルラトホテプが僅かにたじろいだ。
 その僅かで全てが事足りる。
「やれ! 慎!!」
「わかってる!!」
 ニャルラトホテプの死角、達哉と尚也……いや、今は和也か、を拘束していた故におざなりになっていた背後から、オーソドックスにしかし確実にアベルと慎はその刃を倒すべきもの目掛けて振り下ろした。思い切り、情けも容赦も躊躇も一切なくそれはニャルラトホテプの身体を頭蓋から真っ二つに一刀両断する。断末魔。黒い飛沫が飛び散り、ニャルラトホテプは生々しい雄叫びを上げる。
 二つに分断された塊がもぞもぞとより合わさって一つの形を作るのにそう時間はかからなかった。再生したニャルラトホテプには、既に望月綾時の姿を取り繕い直す余裕もそもそも人間に化けて相手を挑発しようと考える余地も残されていなかったらしい。名状し難く、おぞましく蠢く異形の暗黒を晒し出してニャルラトホテプは呻いた。
「よくも……よくも……!! 認めん、このような矛盾は、私の計画にないもの、試算にあるまじきもの、再びお前達に敗北することなど……私は認めんぞ。絶対に……!!」
「それがお前の稚拙さで詰めの甘さで、人間に敗北する由縁だ。俺達に……兄さんや舞耶姉達に一度敗北したことからお前は学ぶべきだった。人間は強い。お前が思っている以上に、遙かに、ニャルラトホテプ」
「許さん……許さんぞ……クッククク……ハーッハッハッハッハ!! 今一度これを私の運命として受け入れろと言うのか周防達哉!! まるで神気取りだな……反吐が出るぞ!!」
「神なんざいねえよ。何度でも繰り返すがな。お前が俺達人間の影そのものなんだってことなら、俺はもう散々教えられてきた。今更お前に……達哉にも……湊にも、説教受ける謂われはないな。それが『尚也と和也』の共通見解だ」
「藤堂尚也。周防達哉……ならばもう一度だけお前達に教えてやろう。宇宙で蠢く白痴の塊とは即ちお前達自身。お前達ある限り私は永久に力を得るのだ……!!」
 異形の、コールタールのようにどろどろとして下ぶくれのようにぶくぶくと膨らんだ漆黒の塊が四方から触手を伸ばして襲いかかってくる。慎はそれを間一髪で避け、拘束されたままの達哉とアポロを庇いリリムと和也が倒れ混んだ。そのままニャルラトホテプの魔手は未だ交信中の洵達の方へと伸びていく。
 長さの制限などなく、どこまでも、無限に、縦横無尽にその最後の依り代を破壊しようとする。「洵! 結祈!!」慎が叫んで身体を、ペルソナを駆るが間に合わない。真田がカエサルを応戦させるが、それもそう長くは保たず、洵の身体を正に貫かんとする。洵は微動だにしなかった。避ける術も、身を守る術も、戦闘タイプのペルソナを持たない洵にはない。

 ――そしてひかりが走った。

 ひかりだ。光があった。月光館学園の制服を着て、邪神の指先から神郷洵を、桐条美鶴を、真田明彦を守って顕現した光がそこにあった。八つの棺桶を背負った死の宣告者がその人影の背後にあり、強烈なフラッシュを伴ってニャルラトホテプをはじき飛ばす。
『――おめでとう、奇跡は果たされた』
 死神が翻って言った。泣きぼくろのある奇妙な死神だ。ペルソナ《デス》。湊の最強のパーソナル。それは単独で激昂し往生際悪く惨めに暴れるニャルラトホテプを圧倒する。
 は、と和也は溜め息を吐いた。まったく、こいつは、いつも美味しいところを持って行ってしまう。
「湊。本当にお前は……いや……」
 そこで首を振る。今回は、それでいいのだ。これが望まれた最善の形。慎がトリガーを引いた奇跡は果たされ、湊はユニバースとしてその効力をあらん限りにニャルラトホテプにぶつける。時間稼ぎは上手く結果を出すことに成功した。
 それでいい。
「さっさとやっちまえよ、ヒーロー」
「わかった」
「今回はお前に譲ってやる。落とし前付けてこい」
「うん」
 切り刻まれて飛び散ったニャルラトホテプの残骸がまた群を成し、一個体へと戻ろうとする。湊はそれを許さない。確かにニャルラトホテプは人がある限り完全に消滅はしないだろう。しかし既に因果は消滅した。ニャルラトホテプから歪に伸び続いていた因果は最早解き放たれ、どこへも繋がってはいない。
 藤堂尚也はそれに縛られない。
 周防達哉はそれに罰せられない。
 有里湊はそれに弄ばれない。
 神郷慎がそれを全て断ち切った。

「さあ……始まるよ」

 左手に銀色の死、右手に剣。死神が飛び上がって湊もそれに続く。慎の手のひらの中に今一度アルカナ・カードが現れ、瞬き、すぐに消えた。最初に慎が使ったユニバースのカードよりも眩しく輝いて縁は黄金に彩られていた。
 まるで奇跡の体現者みたいに。
 死神がふっと掻き消え、次々と湊はペルソナをチェンジし最大火力でニャルラトホテプに戻ろうとする肉塊に攻撃を叩き込んでいく。0、《愚者》オルフェウス・改。T、《魔術師》スルト。U、《女教皇》スカアハ。V、《女帝》アリラト。W、《皇帝》オーディン。X、《法王》コウリュウ。Y、《恋愛》キュベレ。Z、《戦車》トール。[、《正義》メルキセデク。\、《隠者》アラハバキ。]、《運命》ノルン。]T、《剛毅》ジークフリード。]U、《刑死者》アティス。]W、《節制》ユルング。]X、《悪魔》ベルゼブブ。]Y、《塔》シュウ。]Z、《星》ルシフェル。][、《月》サンダルフォン。]\、《太陽》アスラおう。]]、《審判》メサイア。]]T、《永劫》メタトロン。
 そして]V、《死神》デス。
 最後のペルソナチェンジを知らせる召喚銃の引鉄の音から解き放たれたようにデスの咆吼が轟き、最後の一撃がニャルラトホテプにもたらされる。湊は清らかに、高らかに、祈るようにその拳を振り上げた。握られた剣が鈍い煌めきを放ち、ニャルラトホテプに深々と突き刺さる。

 断末魔があたりに響き渡った。