夏がぼくらの息の根をとめるよりはやく |
※2013年〜2014年に発行した零遊・ベク遊本の再録です。 ※フルカラーカバー、巻頭カラー6ページ。カラーページは大元の本の表紙や口絵からの再録になります。 ※各本の内容は下記のリンクから。 「レミューリアの忘却の庭」 「水曜日には猫の話」 「コキュトス」 「THE NEVERENDING STORY」 「イン・ザ・サマー」 ※書き下ろし9ページ。書き下ろしは再録した本の内容からふんわり繋がって、更に五月に出した「スターダスト・クワイアの遺言」へと繋がっていく橋渡しみたいな内容になっています。これだけでも一応読める……はず。サンプル未掲載部分に黒咲隼を若干含みますがCPはベク遊だけです。 ※カバー及びカバー下の線画は波吉さんから! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「かみさまって、ほんとに、いると思いますか?」 ある時、真月零は声を低くして、ややためらいがちに尋ねた。 「かみさま……そう、かみさま、です。世界の全てを創りたもうた創造神。七日でこの世を生み出した万能の造物主……」 真月の声はとても密やかで、恥ずべき秘め事を開帳しているかのような調子でさえあり、遊馬を軽く困惑させる。 彼の語る「神」というのが日本土着の信仰を受けている存在でないことは、そのあたりに疎い遊馬でもすぐにわかる。だったら、彼が尋ねていているのは、いわゆる聖書に書かれている存在のことなのだろうか? そういう意味では遊馬はきっと神様を信じてはいなかったけれど――何しろクリスマスケーキとおせちは遊馬にとってほとんど同等の意味を持つ存在なのだ――もし真月が基督教の熱心な信徒だったら申し訳ないなあと思い、喉まで出かかった言葉を引っ込める。 代わりに、それとなく質問を投げ返した。 「それって、シューキョー、的な話? それなら、うちはばあちゃんが浄土真宗だって、前に言ってた気がするけど」 「いえ、そういう意味ではないんです。そういう意味では。たとえが、少し悪かったかもしれません。かみさま……世界の全てを識っていて、この世のあまねく万物を司る超常的な存在――を信じているのかどうか、それがふと気になったんです」 すると真月が弱り顔で首を振る。彼の捕捉は「どうやら宗教の話題ではないらしい」ということを理解するのには十分だったが、説明がむつかしいままで、遊馬はううんと首を傾げて唸り込んでしまった。世界の全てを操る神様。……それはつまり、生まれた時から、人の生き死にや運命を決めているとかいう……そういうあれだろうか? 遊馬は首を捻る。わからない。そんなことを訊かれたって、いままでいちども、考えたこともなかったのに。 「……ごめん。おれには、わかんないよ」 だから素直にそう答えると、それに真月はほっとしたような、しかしどこか悲しそうな表情をしてみせる。 「でしたら……遊馬くんは、それを知らない方がいいのかもしれませんね。一生……」 真月が言った。 その時の彼の横顔に、遊馬は名前も声も知らない「かみさま」の影を見たような気がした。 |